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新たな子ども支援「おうち食堂」~見えない貧困にもアウトリーチ~

記事公開日:2018年12月10日

江戸川区で2017年に始まった子どもへの食の支援「おうち食堂」は、家庭に有償のボランティアが訪問し、食材の準備から、調理、片付けまで無料で行うというもの。その成果は、子どもの栄養面だけでなく、親の病気や貧困、虐待など見えにくい問題を発見し、孤立しがちだった子どもたちに、人とのつながりを生むようになっています。実際に支援を受けて、将来の夢を持てるようになった子どもの様子を取り上げます。

「おうち食堂」で子どもが夢を持つように

日曜日のお昼時。東京・江戸川区の一角に、子ども連れの家族が続々と訪れている場所があります。月に一度、子どもに無料で食事を提供する「子ども食堂」です。ここはお金を払えば大人でも利用できます。子ども食堂は、貧困など家庭に事情のある子どもに食事や居場所を提供しようと、全国で6年ほど前から広がり始め、今では2,200か所を超えています。開催頻度やスタイル、料金などはさまざまです。

数が増える一方で、現場からは、支援が必要なのに来ていない子どもがいるのではないか、という声があがっていました。江戸川区が2年前に行った調査では、そもそも情報が届いていなかったり、「貧困家庭と思われたくない」など周りの目を気にしたりして、来ていない子どもがいることが判明。

そうした子どもたちに効果的な食の支援ができないか検討し、2017年の8月から「おうち食堂」を始めることにしました。おうち食堂は、区から委託を受けた子ども支援のNPOが有償ボランティアを派遣。1人、年に48回まで利用できます。

中学2年生の花さんは、おうち食堂の支援を受けているひとりです。
今年6月、民生委員から区に相談があり、おうち食堂が始まりました。

花さんは小学生のときに両親を病気で亡くし、脳性マヒによる障害がある兄のたくやさんと2人暮らし。たくやさんの福祉作業所での収入と、障害年金などで家計をまかなっています。

画像(家事をする花さん)

食事は花さんが作っていますが、これまではずっと麺類などの簡単に調理できるものが中心で、栄養バランスは偏りがちでした。小学校の高学年から学校を休むことが増え、1日1食しか食べない日もあった花さん。体調も悪化し、ひきこもるようになったといいます。

「小学校とか中1のときは、ずっと部屋にこもっていました。いつも、お腹が痛かった。お腹減りすぎてお腹が痛かったり、食べなさすぎて頭が痛かったときもあります。」(花さん)

この日はおうち食堂のボランティア、松田希美子さんが訪問。
花さんと一緒にスーパーへ買い出しに行きました。栄養バランスを考えながら、花さんや兄のたくやさんの好みを聞いて食材を選んでいきます。おうち食堂の食材費は区が負担し、その額は1人1回500円まで。予算をオーバーしたため、高いモモ肉をあきらめてムネ肉にしました。

自宅に戻って料理を開始。最初は料理ができるのを待つだけだった花さんですが、今では松田さんに教えてもらいながら一緒に挑戦しています。

画像(松田さんと料理を作る花さん)

松田さん「こんな感じでどうでしょうか?」
花さん「先生みたいにうまくいかないよ。」
松田さん「大丈夫。大丈夫。焼いちゃうから。」
花さん「ハハハ、焼いちゃうから!」

会話も自然と弾み、野菜がたっぷりのミネストローネとタンパク質が豊富なアジフライなど、栄養満点の晩御飯が出来上がりました。おうち食堂が始まって4か月。花さんは体調がよくなり、気持ちも明るくなったと感じています。

「一緒にやる方が楽しいので。楽しいし新しいこと学べるしみたいな。そんな感じです。」(花さん)

花さんの変化はたくやさんも感じています。

「僕のヘルパーが来てもスッて逃げちゃうのが多かったんですけど、最近はどんな人が来てもとりあえず1回は顔を出すかな。本人の気持ち的にも前向きになってきてるのかなと思いますね。」(たくやさん)

新たな支援にもつなげる

江戸川区ではおうち食堂をきっかけに、さらなる支援につなげようとしています。ボランティアは区に、どんな料理を作ったか報告。そこには家庭での様子も細かく記されています。

この日、花さんの暮らしぶりについて、区とNPOで話し合いが行われました。
その結果、新たな支援が決まります。花さんの勉強が遅れていることが分かり、区が委託している学習支援施設に通うことになったのです。

画像(施設で勉強をする花さん)

施設で勉強を教えてもらう花さん。その学習意欲にスタッフも驚きます。

「来たときから元々すごい勉強のやる気がある子だったので、とても頑張ってます本当に。ここまでやる気のある生徒もなかなかいないです。」(施設のスタッフ)

以前は先のことも考えられなかった花さん。今は将来の夢があります。

「海外とかに行っても活躍できるような、普通に通じる英語が話したい。あと、将来は麻薬取締官になりたいという夢があります。医学系の薬とか、そういう関連の仕事に就きたくて。警察官もすごくかっこいいなと思っていて。その2つができる仕事がないかなと思って探していたら、麻薬の取り締まりができる警察官という存在を知りました。かっこいいなと思って、なりたいという思いができました。」(花さん)

家庭を見守る

おうち食堂は子どもだけでなく、親を含めた支援も行います。

軽度の知的障害がある美奈さんは、1年前からおうち食堂を利用。
夫も障害があり、1歳の娘と暮らしています。この日はボランティアの塩澤和子さんが美奈さんの家を訪問。塩澤さんは、NPOから事前に「電気が止まっているらしい」と聞いて準備をしてきました。持参した携帯型電気ランプを設置し、状況を確認します。

画像(ボランティアの塩澤和子さん)

電気が止まった原因は支払票の紛失。
このままでは衛生上問題があるため、状況を知った区の職員が夫に連絡を入れます。このように問題があるとボランティア、NPO、区が連携して動きます。このときは、夫に電話で確認している間に、美奈さんが支払票を見つけて電気の問題は解決しました。

美奈さんは料理を作るのも苦手です。

「子どもが食べなさすぎて体重が減る一方で大変でした。最初はミルクだけだったんで、そのあとはちょっと作ってあとは離乳食買って。自分で作ったけど失敗しちゃった。作るのは早々切り上げました。」(美奈さん)

そこで、管理栄養士の資格を持つ塩澤さんが作り始めたのは離乳食。栄養面を重視したメニューを教えることにします。

メインは肉団子です。小さい子どもが食べやすいように豆腐を入れて柔らかくするのがポイント。子どもの料理を作るときの注意点も丁寧に教えます。

画像(離乳食を食べる美奈さんの子ども)

「お母さんも意欲はあるので、これからも一緒に作っていけたらいいなと思っています。子どもが1人で遊べるようになったら、一緒にお料理をできるかなと思ってますが。」(塩澤さん)

おうち食堂で見えてきたさまざまな家庭の問題。解決には予算や人材が足りません。江戸川区 児童女性課の野口千佳子さんが現状を説明します。

画像(江戸川区 児童女性課 野口千佳子課長)

「少しずつ支援してほしい家庭が増えてきていますが、まだまだボランティアが足りない状況です。どこかとつながることが孤立化を防いで家庭の力をアップさせることになるので、関心を高めてつながりをもっと濃くするということが課題だと思っています。」(野口さん)

高まるアウトリーチ型支援のニーズ

食事を届けるだけではなく、子どもの成長にもつながる「おうち食堂」の取り組み。
江戸川区ではおうち食堂だけではなく、ほかにも子どもに対する食の支援を行っています。企業やNPOが主体となる「フードバンク」と「子ども食堂」、行政が直接行う「KODOMOごはん便」です。

画像(江戸川区が取り組む食の支援)

●フードバンク…賞味期限が迫っているなどの理由で食べられるのに市場に流れない食品を提供
●子ども食堂…食堂で無料や安い金額で食事を提供
●KODOMOごはん便…区内の仕出し弁当組合の手作り弁当を1食100円で提供

子どもの成長に欠かせない「食」。
これまで支援を受けるためには自分で役所まで行く必要がありましたが、今後は支援側が入っていくアウトリーチ型のニーズが高まっていくと跡見学園女子大学 教授の鳫咲子さんは考えています。

画像(跡見学園女子大学 教授 鳫咲子さん)

「本当に困ってる方は子ども食堂に行けなかったり、自分が困っていることを言えなかったりとか、そういう困難な状況にあることも多いと思います。あるいはどこに助けを求めたらいいのかも分からない、どこに行ったらどんな支援があるのかということも分からない状況にある。こういった『食』をきっかけに楽しい時間を過ごして、人間関係も作っていくという形の支援というのは非常に意義が大きいと思っています。」(鳫さん)

食を通して家庭のさまざまな問題が見えてくる一方、ボランティアに関する課題など、役所が担うべき役割もあります。

「まだまだ現場のマンパワーが足りないなかで、今後ボランティアさんをどう確保していくのか、またスキルアップをどうしていくのか、あるいはボランティアさんが困ったときにどうしていくのか。そういったことが課題になると思います。支援先のなかには困難な事情を抱えるご家庭も多いと思います。その解決には、いろいろな専門知識が必要なケースもあります。役所のなかにはそういったことに対応する資源があるので、役所の資源と結び付ける役割、あるいは役所のなかでひとつのセクションだけでなく、いろいろなセクションが持っている支援を結び付けるようなコーディネートも、今後必要性が高まると思います。」(鳫さん)

食から広がる新しい支援の形。ハートネットTVでは、引き続きこの取り組みを見つめていきます。

※この記事はハートネットTV 2018年10月9日放送「“おうち食堂”で温かいごはんを」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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