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統合失調症を知っていますか? 症状と回復への道のり

記事公開日:2018年12月05日

「統合失調症」は、およそ100人に1人はかかるという頻度の高い病気。しかし、周囲の無理解から偏見にさらされることも多い病気です。統合失調症の当事者でもある、お笑いコンビ「松本ハウス」のハウス加賀屋さんと良き理解者である相方の松本キックさんと一緒に、この病とどのように付き合えばよいのか考えます。

ハウス加賀谷さんが統合失調症を発症したきっかけ

「統合失調症」という病名を聞いたことはあるけれど、実際にどんな病気なのか知らないという人は多いのではないでしょうか。実は統合失調症は、およそ100人に1人がなる、とても身近な病気です。また、若い人が発症しやすく、発症する人の80%は、15歳から30歳の間に発症すると言われています。原因は、はっきりとはわかっていませんが、誰もが発症する可能性のある病気です。

お笑いコンビ「松本ハウス」のハウス加賀谷さんは、自身が統合失調症であることを公表している当事者です。中学生のときに発症しました。

画像(松本ハウスのハウス加賀谷さん)

「発症したのは、中学2年生の1学期の終わりごろ。僕は教室の一番前で授業を受けていたのです。すぐ後ろの女子生徒を先生が注意したんですよ。『なんでそんな不貞腐れた態度をとっているんだ』って言ったんですね。僕は何だろうと思って、くるっと振り返りましたら、彼女が下敷きであおいでいるんですよ。それを見て僕が認識したのは、前にいる僕がすごく臭いから下敷きで匂いを飛ばしているんだって、ビビッと思ってしまったのですよ。そうしたら、同じ授業中に後ろのほうから友達の声で『臭い、誰かが臭い』という声がどんどん聞こえてきて。僕もどんどん申し訳ないという気持ちになっちゃって…。」(加賀谷さん)

この日から様々な幻聴や幻覚に苦しむようになっていった加賀谷さんですが、現在は毎日、服薬することで寛解状態です。

加賀谷さんとコンビを組む松本キックさんは、加賀谷さんが統合失調症を患っていると知ったときも、そのまま受け入れたといいます。コンビを組んで20年以上になりますが、自然体の態度は最初からまったく変わりません。そのことが加賀谷さんを救ってきました。

画像(松本ハウスの松本キックさん)

「統合失調症をはじめ精神疾患の当事者を受け入れる世の中というのが、まだまだ足りていないですね。なぜかと言うと、やはり(統合失調症のことを)まだまだ知らないからというとこで、まずは知ってもらうという活動をしていかないといけないと思います。」(松本さん)

統合失調症の具体的な症状

統合失調症には、さまざまな症状があります。

画像(統合失調症の主な症状)

まずは「陽性症状」です。
実在にはしない声が聞こえる「幻聴」や、ありえないことを信じ込んでしまう「妄想」などの症状があります。

例えば、知らない人が自分をちらっと見たときに「私を監視している」といった意味付けをしたり、実際に悪口が声となって聞こえてきたりします。このほか、自分の考えが他人にコントロールされていると感じたり、自分の考えが周囲の人に伝わってしまうと感じたり、話していることに脈絡がなくなったりする場合もあります。陽性症状は、薬物療法で比較的治療しやすい症状といわれています。

陽性症状と反対に「陰性症状」と呼ばれるものがあります。
これは、「あるはずのものが低下する」状態です。意欲の減退や感情表現の欠如などが挙げられます。

喜怒哀楽の感情が弱くなり、実際に表情の変化も乏しくなります。また、勉強だけではなく、遊ぶことにも、それまで好きだったことにも関心が弱くなります。部屋の中をきれいにすることや身だしなみにも無頓着になります。外出することを避け、自分の部屋にひきこもる人もいます。

「陽性症状」「陰性症状」と並んで、主な症状として挙げられるのが「認知機能障害」です。
認知機能というのは、記憶したり、注意を適切に集中させたり、計画を立てたり、判断したりする能力のことです。そういった機能が低下します。

認知機能障害の低下は、勉強や就労をはじめ生活のさまざまな場面で大きく影響します。記憶する力が低下すると、新しい仕事のやりかたを覚えることが難しくなります。作業の途中で、どこまで終了したかわからなくなることもあります。注意を適切に集中させる力が低下すると、相手の話を聞かなければならない場面で、ほかのことに意識がいってしまったり、逆に必要のない情報まで入ってきて、処理しきれず混乱したりすることもあります。

ただし、これらの症状が統合失調症のすべての人に起こるわけではありません。個人差が非常に大きく、程度も症状の出方も人それぞれです。そのことで本人が孤立してしまうケースがあり、番組にも次のような声が届いています。

「人の勧めで精神科を受診し、病名がはっきりしました。でも当時、私は職をなくし家に引きこもっていたので、それまでの自分との違いに気づいていませんでした。おそらく私のように孤立して、病気だという自覚もなく生活している方々が、まだいらっしゃるのではないかと心配です。」(落合のひよこさん・30代)

加賀谷さんも自分が病気だと認識していなかった当時、周囲との関係に苦しんだ経験を語ります。

「『臭い』という声を、僕はもう現実としか受け止められないので、それを相談するじゃないですか。例えば、自分の親とかに。『臭いと言われているのだけど、どうしよう』と言ったら、『いや、あなた臭くないわよ』って言われても、『いや、僕は臭いんだ。友達もちゃんと言っているんだ』というふうに対立してしまいがちで、周りとうまく溶け込めないのですよね。」(加賀谷さん)

客観的受容と社会の居場所

およそ10年間の闘病の末、あることがきっかけで不安な状況と折り合いをつけつつある人もいます。23歳のともよさんは、中学2年の14歳で統合失調症を発症。さまざまな症状に苦しめられてきました。

画像(ともよさん)

「常に不安でした。部屋の角とかに目とかあるような気がして。なんか常に見られてる感じがしたり、町で人とすれ違ったりとかして、そのすれ違ってる間に笑われてるような気がしたりとか。」(ともよさん)

ともよさんは数年前まで、幻聴や幻覚、根拠のない不安感に襲われていました。そばで見守っていた母親のゆきこさんも、どう接すればいいのか分からず、不安が募る一方だったといいます。

「もう本当に毎日泣いていて。薬を飲んでも学校には全然行けないし、治っている感じは全然なかったので、どうなっちゃうんだろうと思って…。」(ゆきこさん)

ともよさんは、ふと目にした少年漫画がきっかけで、2年半ほど前から漫画を描き始めます。そして、自分が毎日感じたことを漫画にしては、家族や医師に見せるようになりました。その中には、人に接するときに感じる不安も描かれています。

画像(「ごめんなさい」の文字が羅列されている)

「家族に迷惑かけてはいけないとか、家族は私のことが面倒くさいんだ、という話ですね。ひたすらごめんなさいって書いてある。」(ゆきこさん)

ともよさんが抱えている不安や恐怖を、漫画を通して家族は初めて理解できました。更に、ともよさん自身も漫画を描くことで、自分の病気を客観的に捉えられるようになっていきます。

漫画を描き始めて半年後、転機が訪れます。
ともよさんの漫画が、通っているクリニックのサイトに掲載してもらえることになったのです。

画像(クリニックのサイトに掲載された ともよさんの漫画)

「『読んだよ』って言ってくれる人がいて。その人の中に存在したというか、自分が生きてるっていうのを誰かが知ってるんだっていうのがすごく嬉しくて。泣いたりしました。」(ともよさん)

それまでは家にひきこもっているだけの「何者でもない自分」が、社会に参加しているという自信や肯定感につながっていったと言います。症状も以前より落ち着いてきました。

「1人でいろいろなことにチャレンジするのはとっても大変です。でも私はこの病気とうまく付き合えるように、人としての経験を積んでいきたいです。」(ともよさん)

統合失調症と「リカバリー」

近年、統合失調症のご本人や支援者の間で、リカバリー(recovery)ということばが盛んに使われるようになりました。リカバリーとは、「精神障害のある人が、それぞれ、自分が求める生き方を主体的に追求すること」です。

リカバリーの目的は、症状をなくすことではありません。治療によって症状を和らげることはもちろん必要ですが、何より大切なのは、本人がこういう生活がしたいという夢や希望を持ち、それを周囲が支えることです。

最近では、このリカバリーを最大限にするように一貫して支援することを治療の基軸とし、その一環として精神科リハビリテーション(心理社会的治療)と薬物療法が位置づけられ、国際標準の治療指針となっています。

加賀谷さんにとっては、「お笑い芸人であること」がまさにリカバリーの軸になっています。

画像(松本ハウスの二人)

「自分が何者でもないことの“苦痛”や“つらさ”ってあると思うんです。具合が悪くなって入院してからも、お笑い芸人に戻りたいとずっと思っていたんですね。それはお笑い芸人でない僕というのは何者でもないと思ったので。主治医の先生に『加賀谷君はお笑い芸人には絶対向いていない』と言われたので、『じゃあ、やってやる!』ということで復帰しました。やっぱりプレッシャーというのもありますし、常に同じクオリティを出すことが求められるすごく難しい職業ではありますけど、“やってやる”という思いで頑張っています。」(加賀谷さん)

評論家の荻上チキさんは、社会で「受け皿」をつくることの重要性を強調します。

画像(荻上チキさん)

「他の精神疾患もそうですが、統合失調症も他の人からは見えないところで苦しむ“見えない障害”なんですね。病気そのものが本人を苦しめることも当然ありますが、病気に無理解な社会がさらに当事者を追い詰めることもあるわけです。具体的には、統合失調症は入院率が高いこともあって社会との接点が奪われやすいということ。それから学校及び就労の機会において差別や偏見にあったり、そもそも就労の機会を設けられなかったり、あるいは一度休暇を取ると復職することが難しかったりする。いろいろな意味で社会の側にハードルがあるのです。ですから、課題というのは病気そのものだけではなく、社会で“受け皿”をどれだけ作ることができるのかということも言えるのではないかと思いますね。」

働きたいという気持ち

統合失調症が回復してきたら、多くの人に「働きたい」という気持ちがわいてきます。番組には、そんな声がたくさん届いてきました。

「働きたくて仕方ありません。しかし、就活で合同説明会などに行くと、自分の考えがマイナスの方向に向かってしまい、ハキハキとしゃべることができません。数社に履歴書を送りましたが厳しい状態です。早く働いて自分の力で自活したいです。」(カランコロンさん・20代)

加賀谷さんはこの声に、焦ってはいけないと応援します。

画像(加賀谷さんと松本さん)

「僕も入院してからコンビを復活させるまで、10年間かかっているんですね。僕にとって思い返してみると、その10年は決して無駄ではなかったのです。自分の人生にとって必要だったとも思えているのですよ。この精神疾患は長く治療がかかる場合が多いのです。でも、自分のタイミングがあるので、焦ることはないと思います。絶対に諦めないで、いつか働きたいというのは、すごくいいことだと思います。」(加賀谷さん)

統合失調症であると周囲に公表せず、そのことで悩んでいるという声もあります。

「クローズドで仕事をしています。周囲の自分に対しての反応が気になります。気分屋の人に冷たい態度をとられるだけで、そういう人だと分かっているはずなのに動揺してしまったりします。やはり病気のことを正直に周囲に話せないのはつらいです。」(tamaさん・30代)

荻上さんは、統合失調症であることを公表しても差別されない社会を作る必要があると考えます。

「オープンにすると就職の段階で落とされるのではないかという不安があるから、クローズドのままにするという方もいるわけですね。だから、その入り口の段階で差別がない社会をまず作らないといけないと思いますね。」(荻上さん)

画像(スタジオの出演者)

どんな病気でも早期発見の大切さが指摘されていますが、統合失調症も例外ではありません。発症してから治療を開始するまでの時間が短いほど、よりよく回復すると言われています。

精神科医などの専門家に相談したほうがよいのは、「本人が耐えられないくらい強く、つらい、こわい、今後が心配などと感じている」、「気持ちが重く、作業が進まず、清潔さが保てないなど生活に著しく支障をきたしている」、「社会とのかかわりを持ちたくない、かかわりがほとんどない」などといった場合です。また、妄想や幻聴だと思われる場合には、一刻も早く、精神科を受診することをお勧めします。

※統合失調症については、「若者のこころの病 情報室」という特設サイトにも詳しい情報が載っています。ぜひ参考にしてみてください。

※この記事はハートネットTV 2014年5月29日放送「新WEB連動企画“チエノバ” ~今日は統合失調症を中心に~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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