ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

専門家に聞く、場面緘黙(かんもく)について知っておきたいこと

記事公開日:2018年09月07日

場面緘黙(かんもく)について、「かんもくネット」代表の角田圭子さんにインタビューしました。「かんもくネット」は、場面緘黙の当事者や経験者、保護者、支援者の情報交換ネットワーク団体です。また角田さんは、臨床心理士として場面緘黙の子どもたちの支援の現場にも関わっています。

場面緘黙(かんもく)とは?

―場面緘黙とは、一般的にどのようなものですか。人によって症状に違いはあるのでしょうか。

場面緘黙(かんもく)とは、家などではごく普通に話すことができるのに、例えば幼稚園や保育園、学校のような「特定の状況」では、1か月以上声を出して話すことができないことが続く状態をいいます。典型的には、「家ではおしゃべりで、家族とのコミュニケーションは全く問題ないのに、家族以外や学校で全く話せないことが続く」状態です。この症状のために、本来持っている様々な能力を、人前で十分に発揮することができにくくなります。

子どもが自分の意思で「わざと話さない」と誤解されることがありますが、そういう状態とは全く異なります。また、人見知りや恥ずかしがりとの違いは、「そこで話せない症状が何か月、何年と長く続くこと」「リラックスできる場面でも話せないことが続くこと」です。

人によって症状(話せない場面・程度)にかなり差異がありますが、話せない場面のパターンはその人ごとに一定しています。

―どうしてこのような症状を発症するのでしょうか。

近年、場面緘黙は、「不安症や恐怖症の一種」と捉えられるようになってきました。 「話すのが怖い」のではなく「自分が話すのを人から聞かれたり見られたりすることに怖れを感じる」ととらえて支援を行なう考えが主流となっています。

原因や発症メカニズムはまだ研究段階です。
発症要因(原因)は、『不安になりやすい気質』などの生物学的要因がベースとしてあり、そこに心理学的要因、社会・文化的要因など複合的な要因が影響しているのではないかと考えられています。(子どもによって発症要因や症状に影響する要因が異なることがわかってきました)。
多くの子どもが、脳が新しい刺激に敏感に反応する「行動抑制的な気質(※1)」を元々もつという仮説が現在は有力です。不安が高まりやすく、行動が慎重となるため、環境に慣れるのに時間がかかります。

(※1)ケイガン(Kagan 1989)は、乳児の気質に関する研究の中で、見知らぬ人や慣れない状況に適応するのに時間がかかる乳児を“行動抑制的”としています。全体の10~15%の子どもがこの気質を持つグループに属しており、近年の研究結果によれば、“その傾向は生涯続く”ということが示されています。

―発症しやすい状況などはあるのでしょうか。

入園や入学、転居や転校時などの環境の変化により、不安が高まって発症することが多いようです。クラスでの先生からの叱責やいじめがきっかけとなることもあります。一旦話せないことが続くと、「自分が話し出すとみんながなんていうだろう」など、注目されるような気がして勇気が要ります。話さないでいる方が不安レベルが下がるため、この症状が定着するのではないかと考えられています。

―遺伝や、親のしつけなどは関係あるのでしょうか。

場面緘黙を「家庭環境のせい」と考えるのは誤解です。
過去の海外研究でも「虐待」や「トラウマ」に関連付けられてきましたたが、ほとんどの子どもに関連しないことがわかり、海外メディアでも啓発が盛んにおこなわれています。

学校の先生は「親の過保護のせい」と考えがちです。
子どもが人前で話せなければ親が心配そうにするのは当たり前です。親も不安になりやすい繊細な気質をもつ場合が多いです。周囲から親が「過保護」「心配し過ぎ」と言われて傷つき、親も孤立しがちです。子どもの一番の理解者になれるのは親と先生です。親と先生が協力しあうことで、子どもへの必要な支援が始められます。「必要な支援」を行ったうえで「子どもの成長の伸びしろへの手出し(過保護)」も控えることが大切だと思います。症状改善や二次的問題予防には、親や先生、友だちなど、周りの人たちの「場面緘黙への理解」が大きく影響します。

早期発見と対応が必要

画像(場面緘黙イメージ 窓の外をみつめる子どもイラスト)

―場面緘黙は、お医者さんや学校の先生から「大人になったら自然と治る」と言われてしまうことが多いそうですが、どうなのでしょうか。

場面緘黙には、早期発見と対応が大切です。
場面緘黙の子どもは、おとなしい子どもが多く、園や学校で先生が困るような目立つ問題行動がないため、支援が受けにくく、そして、見過ごされがちです。自然に改善したように見える事例でも、しっかり検証すると、偶然、環境が治療的に設定でき、本人のものすごい努力でスモールステップにチャレンジしてきたケースが多いと思います。支援を受けずに成長すると、症状改善が遅れるだけでなく、うつや他の不安症状、不登校や人間不信などの二次的な問題が生じやすくなります。

―支援を受けられないと、二次的な問題が生じやすいのは何故でしょうか。

場面緘黙の子どもは、自分でも自分がなぜ話せなくなるのかわかりません。
それなのに、人から「なぜ話さないのか?」と問われます。
周囲の理解やサポートがない幼稚園や学校生活は、緊張の連続です。
腹痛や頭痛などの身体への影響、誤解や理不尽な扱いに、悲しみ、無力感、自責感、孤立感、自分への怒りが生じます。先生のサポートがなければ、いじめを受けるリスクも高くなります。
話せないことから、社交スキルやコミュニケーション力の練習機会も狭まります。
そのため、うつや他の不安症状、不登校や人間不信などの二次的な問題が生じやすくなります。

―症状の改善が難しい時期などはあるのでしょうか。

10歳を過ぎて中学卒業までの時期は、症状の改善が困難な時期と言われています。この時期の小さな症状改善は、本人の勇気あるチャレンジによるものです。10歳以降は症状改善のためのスモールステップは、本人に相談しながら、本人主導で行うことが大切です。学習への支援、発話できる範囲の維持、楽しめる場所や活動の確保を心がけ、症状改善よりも、二次的な問題への予防に焦点を置く方がよいことも多いです。

治療法と支援について

―どのような治療法が有効なのでしょうか。

場面緘黙は、「専門家だけで治せる症状」ではありません。
家庭と学校が協力して、まず「安心できる環境」を調整することが最も大切です。
研究では、不安が低い場面からスモールステップでチャレンジを進め、活動参加、動作、発話ができる場面を増やしていく行動療法的アップローチが最も効果的とされています。「家庭での会話」を「学校での会話」へと段階的に広げていく取り組みです。人との楽しい交流体験や、何かができるようになった経験をたくさん積んで、自信をつけていくことが大切です。

この方法は、「自転車の練習」に例えられます。自転車に乗るのを避けていては、自転車はうまくなりません。逆に、いきなりロードレースに参加しても怖い思いをするだけです。補助輪をつけたり、人に支えてもらったりしながら、少しずつ怖くなくなるようにチャレンジします。周囲ができることは、周りの環境を整えること、その子が楽しんでチャレンジできる練習方法を提案してあげることだと思います。米国では、極微量のSSRI(抗うつ薬)で不安をさげて、このようなスモールステップとくみあわせる方法がもっとも有効と言われています。

―学校では、どのような支援が求められていますか。

家庭と学校が密に情報交換することが必要です。特に行事は、前もって絵や写真、映像をしめして説明してあげたり、実際に足を運んでおいたり、スケジュールや対処法を家庭と打ち合わせしておきましょう。子どもと先生の交換日記やメール交換もお勧めです。信頼感が増して先生との筆談へと発展させられることもあります。

場面緘黙の子どもには、「目立たない支援」が大切です。
カードによる支援やホワイトボードは、目立つためにうまく活用できない場合が多いようです。他の子どもにも同じようにすると、上手くいくことが多いようです。たとえば出欠時は返事するとき手を挙げる、紙に書かせてから発表する(場面緘黙の子は友だちと一緒に読む)、全員が黒板に貼りにいく、伝達事項を付箋に書いてわたすなどの方法が有効なこともあります。自分から動作するよりも、応答する方がやりやすい場合が多いです。モデルを示したり、スタートを促してあげたりすると、うまく動作できることもあります。

画像(場面緘黙イメージ 教室の中で喉元を)

―「もしかして…」となった時、どんな機関に相談するのが良いのでしょうか。

子どもの場合はまず、園や学校の先生、スクールカウンセラーに相談しましょう。それから不安症や発達障害に詳しい医師や心理士、言語聴覚士がいる発達センターや教育センター、クリニックにも相談するとよいと思います。

場面緘黙は専門家の間でもあまり知られていないので、うまくいかないこともあるかもしれません。
でも親は一人ずつ、場面緘黙や子どもの状態の理解者を周りに増やしていきましょう。親の会や親子の交流会、当事者の会で情報交換したり、交流したりする動きがここ数年で活発になってきました。そんな親子と当事者や経験者とのつながりはお互いの力や成長になると感じています。

―家族や身近な人に場面緘黙の人がいたら、私たちはどうやって接したりコミュニケーションをとったり、支えてあげることができるでしょうか。

話さないことを責めないでください。特に、不安が高すぎる場面で発話を強要しないでください。
答えが返ってこなくても、あたたかく話しかけてあげてください。さりげなく仲間に入れてあげて下さい。返事は返せなくても、とてもうれしいと感じているはずです。

言葉を用いなくてもできる、いろんな遊びをいっしょにしましょう。筆談が出来る場合は、書くコミュニケーションを促してあげて下さい。最初は「イエス・ノー・わからない」や単語で答えられるような事柄がよいかもしれません。

場面緘黙の見分け方、チェックシート

場面緘黙かどうかの判断の基準は次の2つ(A・B)です。
※正確な診断は、不安症や発達障害に詳しい医師や心理士、言語聴覚士がいる発達センターや教育センター、クリニックに相談しましょう。

画像(場面緘黙かどうかの判断の基準)

※補足1
Bについて場面緘黙と区別が必要な状態は下記です。

●家庭を含むすべての生活場面で話せなくなる状態を全緘黙といいます。ショックな出来事の後に急激に全緘黙となった場合は、「トラウマ性緘黙」といって急性のストレス障害であり、場面緘黙とは異なります。
●「失声症」は、ある日突然声が出なくなる症状ですが、思春期や更年期の女性に発症が多く、場面緘黙とは異なります。
●「けいれん性発声障害」は、声帯の過緊張と声門の過剰閉鎖のために、声がとぎれとぎれとなる発声障害で、場面緘黙とは異なります。
●うつ症状のために全般的に会話意欲が失われている場合は、場面緘黙とは異なる対応が必要です。
●家庭で身体的虐待や精神的虐待がある場合、場面緘黙や場面緘黙に似た状態を示すことがあります。この場合は、家庭への福祉的支援等が必要です。
●場面緘黙への対応や支援が十分でなく、緘黙の範囲が広がって全緘黙の状態となることがまれにあります。

※補足2
場面緘黙の症状の子どもがあわせもつことが多い状態は下記です。
診断の有無にかかわらず、苦手なことへの支援や対応が望まれます。

●吃音や言葉の理解、言語表現について、ことばに苦手がある場合は、言語面への支援が必要です。
●ASD やLD、ADHDをあわせもつ場合は、それらへの理解や支援が必要です。
●子ども自身が、自分と周囲の違いに気づく時期から、うつや社交不安症などの不安症のリスクが高まります。家庭と学校など周囲の理解が必要です。

※この記事はハートネットTV 2015年5月28日(木)放送「WEB連動企画“チエノバ”-話したいのに、話せない…“場面緘黙“を知っていますか?-」に関連したインタビューです。情報は放送時点でのものです。

場面緘黙に関する体験談やご意見を読むことができます。
“話したいのに、声に出せない”場面緘黙(かんもく)の悩み(カキコミ板)

あわせて読みたい

新着記事