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ハート ネット ピープル

社会貢献の喜びを知る -盲導犬パピーを育てて-

[写真] 訓練生の腕のなかでまどろむパピー(撮影=大塚敦子)
[写真] 訓練生の腕のなかでまどろむパピー(撮影=大塚敦子)

罪を犯して刑務所で服役している人たちが、盲導犬候補のパピー (子犬) を育てる―。アメリカの刑務所では受刑者が介助犬を訓練したり、盲導犬パピーを育てるといった更生プログラムがあちこちでおこなわれているが、日本ではこれまでひとつもなかった。それが、2009年4月から、官民が共同で運営する島根あさひ社会復帰促進センター (島根県浜田市) という刑務所で日本初の試みが始まり、先月第一期の修了式を迎えた。

訓練生たちは、日本盲導犬協会から生後約2ヶ月のパピーを委託され、協会のトレーナーの指導のもとに、だいたい1歳になるまで育てる。初年度は11人の訓練生が3頭のパピーを育てた。刑務所の中だけではパピーの社会化が不足するため、月曜日から金曜日までは訓練生が、週末は地域の一般家庭 (ウィークエンド・パピーウォーカーと呼ばれるボランティア) が預かり、あちこちに連れ出すというシステムを取った。

これは訓練生の心の修復をめざす更生プログラムというだけではなく、不足している盲導犬を一頭でも多く育てるための大切な社会貢献事業でもある。たっぷりの愛情を注がれ、元気いっぱいに育った3頭は、まもなく盲導犬になるための本格的な訓練に入る。

私は日本盲導犬協会のアドバイザーとしてこのプログラムにかかわっていて、日本にいるときは毎月浜田に出かけている。毎回ウィークエンド・パピーウォーカーさんたちのお宅を訪問し、訓練生の人たちとも長時間いろんな話をして、かかわる人々それぞれがどんな思いでパピーを育てているのか、間近に見聞きしてきた。まだプログラムが始まって10ヶ月。試行錯誤はいろいろあるものの、何はともあれ第一期目が終わって感じた手応えについては、ぜひ伝えておきたいと思う。

皆さんは、刑務所に入っているのはどんな人たちだと思われるだろうか? 過ちを犯した普通の人? それとも、自分の欲望のために社会のルールを踏みにじる悪い人たち? 両方存在するけれど、大多数は前者である。とくに、島根あさひ社会復帰促進センターのような初犯の人たちを収容する刑務所はそうだ。社会のセーフティネットがきちんと機能していたら、刑務所に入らずにすんだかもしれないのに・・・というような人も少なくない。

それらの人々にとって、盲導犬パピーを育てることにはどんな意味があったのだろう。犬がいてくれることで、安らぎをもらった―これは全員に共通して言えることだ。犬の存在が人間どうしの潤滑油になり、人とのコミュニケーションがむずかしかった人が、犬を介在することによって会話ができるようになったり、少しずつ自分の意見を言えるようになったりするポジティブな変化があった。

だが、とくに大切だったのは、自分のペットではなく、盲導犬になるという社会的使命を持った犬を育てることをとおして、一人一人の意識が変わり、世界が大きく広がったことではないかと思う。パピープログラムに参加している訓練生は全員、職業訓練として点字点訳を学んでいる。この点訳作業との相乗効果で、彼らはこれまで知らなかった視覚障害者の世界に目を開かれた。実際に盲導犬と暮らしている人に来てもらったり、アイマスクを付けて盲導犬との歩行を体験したりもした。その結果、多くの訓練生が、点訳ボランティアなどで 「障害のある人の役に立ちたい」 と考えるようになった。カッとなりやすいのが問題だったある人が、パピーに対しては自分を抑えることができるようになったのも、「盲導犬になる犬を育てている」 という社会的責任感が醸成されたからこそ、と言えるだろう。

修了式の翌日、ある訓練生と交わした会話で、今回の文章を締めくくりたい。

「パピーはあなたにとって、どんな存在だったんでしょうか」
「宝でした。こんなところにいるのに、与えられた宝」
「そんな大切なものを手放したんですね」
「ここを出てからも、あの子が盲導犬になるためにがんばっている、と思うことで、自分が支えられます。あの子に恥じない生き方をしたいです」

見事な別れだった、と思う。

 

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