
新しい家族を迎えて
昨年秋、5年ぶりに猫を迎えた。出会いは、吉祥寺で毎月1回開かれる 「むさしの地域猫の会」 の譲渡会。その日、何段にも積み上げられたケージの中には、15匹の猫たちがいた。どの子もみんなかわいくて、迷いに迷う。と、ケージの列の後ろから、「アオー」 とひときわ大きな声が響いてくるのに気がついた。「あれ、後ろにも誰かいるのかな?」 と裏にまわったところ、目が合ったのがカリンだった。小さな体に似合わない野太い声。「わたしをもらって!」 と叫んでいるように聞こえた。
地域猫の会のボランティアによると、カリンはやせ細ってよれよれの姿で、ある事務所の窓をいっしょうけんめい引っ掻いていたところを助けられたそうだ。飼い主の老夫婦が亡くなってホームレスになった猫ではないか、ということだった。かつては人間とともに暮らし、かわいがられてきた猫。後ろ足が悪く、年齢も高そうで、外で生きていくのはとても無理そうだった。
と、それまで私といっしょに迷っていた連れ合いが言った。「一番引き取り手がなさそうだから、この子にしよう」。これこそ真の猫好き、感動した。
そういうわけで、カリンがうちに来て2ヶ月足らず。ぼさぼさだった毛はふわふわに、やせ細っていた体も丸くなってきたが、慢性腎不全と膀胱炎を抱えていることもわかり、治療を始めた。抗生物質の錠剤を好物のささみに仕込んだりしていると、アメリカでの思い出がよみがえってくる。
15年前、ワシントンで、私たちは初めていっしょに暮らした2匹の猫を看取った。猫たちは、じつは猫白血病ウイルスに感染していて、1年も経たないうちに次々と発病し、短い生涯を終えてしまったのだ。猫たちを亡くしたショックも大きかったが、自分自身が死を受け入れられなかったために、猫たちの命が尽きてしまうまで高度医療を続けたことへの後悔はもっと大きかった。「愛するものを手放す」 というむずかしいテストに、私は見事に落第したのだった。(※)
でも、私たちにとって、初めて猫と暮らし、むずかしい病気に向き合ったのがアメリカだったというのはとても幸運なことだったと思う。猫たちが発病したあと、私たちは3つの動物病院にお世話になった。ひとつは、家の近くでいつでも相談に乗ってくれる家庭医。もうひとつは高度医療をおこなう病院。そして、もうひとつは24時間体制の救急病院だ。この3つの病院が互いに連携してサポートしてくれたおかげで、どれほど安心できたか。
動物をあたりまえのように 「家族」 として受け入れてくれる社会にも、助けられた。たとえば、猫たちが突然発病したとき、私たちはアラスカでのカヌーツアーに参加する予定で、すでに費用を払い込んでいた。ツアー直前のことだったので、本来は100パーセントのキャンセル料がかかるはずだったが、アラスカの旅行会社は 「ご家族の急病ですから」 と、全額返金してくれた。
アメリカでは、犬や猫と暮らそうと思う人は、まずアニマル・シェルターに行くのがふつうだ。日本のように、ペットショップで買うということはない。中にはどうしても純血種の動物がほしいという人もいるが、そういう人は直接ブリーダーのところに行く。
これまで私たちがいっしょに暮らした5匹の猫たちは、どれも家を失い、保護された子たちだ。どの猫もみな愛情深く、ほんとうにすばらしい家族だった。だから、初めて日本で探すことになったときも、家を必要としている猫を引き取る以外の選択肢は考えられなかった。
いま、私の膝のうえで丸くなってゴロゴロ言っているカリンを撫でながら、しみじみとこの子がうちに来てくれた幸せに浸る。カリンの飼い主だった人たちは、この子にたくさんの愛情を注いだのだろう。その愛情の輪に連なり、絆を受け継いでいけることがほんとうに嬉しい。
むさしの地域猫の会(別ウインドウ ※クリックするとNHKのサイトを離れます)
※大塚さんの自著 『別れのレッスン さようなら、私の猫たち』 (講談社) で詳しく綴られています。




はじめまして
カリンちゃんを家族に迎えてくださったこと 本当に心から感謝です
お膝に乗っているカリンちゃんはとってもしあわせそう。。
アメリカってすばらしい国ですよね
日本もこんなに家族として迎えいれている人が多いのに どうして「商品」なんでしょう・・
病気を抱えているカリンちゃんですが おだやかにしあわせに今後のにゃん生を送れるように祈らせていただきたいと思います
ありがとうございます!!
心温まるお話にうるうる。。。涙が止まりません。
私も3匹の子と暮らしております。
そのうちの2にゃんは捨て猫ちゃんでした。
さらにその1にゃんは腎不全&糖尿病で、目も見えません。
日本のペット状況はペット先進国のアメリカや他の国に比べて水準が低すぎます。
悲しい現実ですよね。
動物医療に関しても、特に地方では夜間診療もままならないのが現実で、実際に夜中に発作を起こしたとき、見てくれる病院は1件もありませんでした。
仕方なく、朝まで体をさすったりして発作が治まるのを見てるしか無くてとても不安な思いをしたことがあります。
自分事でスミマセン。
カリンちゃん、本当に良かった。
カリンちゃんをひきとってくださってありがとうございます。
はじめまして。
ピープルでも時々書かせていただいております、咲 セリと申します。
実は、大塚 敦子さんの記事は、はじめて拝見した時からずっとずっと好きで(その時は合気道のお話でした)、それ以来、いつも更新を楽しみにさせていただいていたのですが…
今回のカリンちゃんや、今までそばにいてくれた猫さんたちのお話、読み始めたとたん、涙があふれてとまらなくなりました。
私は、昨年のイブに、わが子(猫です)を癌で見送り、いまなお、心は浮いたり沈んだり…いろんな人に支えられながら、この世のはしっこに片手でしがみついているような状態です。
そんななか、大塚 敦子さんのかつての白血病猫ちゃんの治療のこと、旅行会社さんのあたたかなご対応、そして、いま、しあわせを手にしたカリンちゃん、いっぱいいっぱいの愛をいただきました。
カリンちゃん、腎不全を抱えているのですね。結構ご高齢の猫ちゃんだったのでしょうか…それならなおさら、これからまだまだいっぱいしあわせになれること、本当にうれしいです。
長くなってしまいましたが、これからも、記事、とてもたのしみにしています。
私もいつか、「おねんね」した大切な子のことを書けるくらい、ゆっくり、ゆっくり、光のある方をむければいいな…。
aiさん、Kymさん、咲セリさん、
熱い思いのこもったコメントをありがとうございます。
実は初めてかりんを置いての出張に出ていたのですが、今日戻ったら、2週間も留守にしていたのに、嬉しそうに膝に飛び乗ってくれました。あらためて、「なんていい子をもらったんだろう」と感激しているところです。
aiさん、
犬や猫を「商品」として売り買いすることに、私も憤りを感じます。動物を家族として大切にする人の輪を広げ、こんな状況を変えていきたいですね。
Kymさん、
病気の猫ちゃんたちを抱えて、どんなに大変でしょう。私たちもアメリカであれだけ多くの病院に支えられていなかったら、不安でたまらなかったと思います。うちのかりんちゃんもまだまだ他に病気を抱えていそうなので、この先いろんなことがありそうですが、猫は「いま」を全身で生きる動物。たとえ命は長くなくても、いま、ともに過ごす時間を大切にすることで、その生を豊かにしてあげられるのではないかと思っています。
咲セリさん、
コメントをいただいて嬉しいです。私も咲さんのページ、いつも読んでいますよ。猫ちゃんたちの愛情に支えられながら、ご自分を癒していくプロセスを、心を打つ見事な文章で表現してらっしゃって、いつも感動しています。これからも楽しみにしています!