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ハート ネット ピープル

すべきことをする人たちのすばらしさ

緑を植える人。今回の話のイメージとして。(撮影=大塚敦子) 
[写真] 緑を植える人。今回の話のイメージとして。(撮影=大塚敦子)

今年いただいた年賀状で、「2008年の収穫」として、カズオ・イシグロのNever Let Me Go (邦題「わたしを離さないで」)を挙げていた人がいて、思わず強く頷いてしまった。私も去年読んだなかで、この本にいちばん心を揺さぶられたから。

カズオ・イシグロは長崎で生まれ、5歳のときに両親と英国に移住して英国人となった作家。この本では、ある目的のために生まれてきた子どもたちが、多感な子ども時代を経て大人になっていく過程を、いかにも英国らしいボーディングスクールを舞台に丹念に描く。後半でその「目的」が明かされるのだが、種明かしをしてしまうわけにはいかないので、ここまでにしておく。

この本を読んだ人たちの感想はさまざまだと思うが、私が何より深い印象を受けたのは、子どもたちが自分たちの置かれた状況を受け入れたところだ。カズオ・イシグロ自身もインタビューのなかで、「人はたとえ苦痛であったり、悲惨であったり、あるいは自由でなくても、小さな狭い運命の中に生まれてきて、それを受け入れます。みんな奮闘し、頑張り、夢や希望をこの小さくて狭いところに、絞り込もうとするのです。そういうことが、システムを破壊して反乱する人よりも、私の興味をずっとそそってきました」(文学界2006年8月号)と語っている。「(人は)自分たちの小さな仕事をうまくやり遂げたり、小さな役割を非常にうまく果たしたりすることで、尊厳を得ようとします。」とも。

私もイシグロの言葉に共感を覚える。いや、覚えるようになった。若いころは、システムを破壊して革命を起こす人に憧れたものだ。だがいまは、どんな小さな役割であったとしても、誇りを持って自分のすべきことをする、そんな人たちにより魅かれるようになった。

アメリカのオバマ新大統領の就任式の演説にも、そんな人たちに期待する言葉があふれていた。心を浮き立たせるような熱さはなかったけれど、一人一人の人間が市民としてすべきことを、ていねいに語りかけていた。ちょっと長くなるが、そのハイライト部分を引用する。

"But those values upon which our success depends ? honesty and hard work, courage and fair play, tolerance and curiosity, loyalty and patriotism ? these things are old. These things are true.   (中略)
What is required of us now is a new era of responsibility ? a recognition, on the part of every American, that we have duties to ourselves, our nation and the world, duties that we do not grudgingly accept but rather seize gladly, firm in the knowledge that there is nothing so satisfying to the spirit, so defining of our character, than giving our all to a difficult task.
This is the price and the promise of citizenship."

オバマ大統領就任演説 抜粋部分翻訳;
「だが、私たちの成功は、正直さや勤勉さ、勇気や公正さ、寛容と好奇心、忠誠と愛国心などの価値観にかかっている。これらは昔から変わらない、本物の価値観である。 (中略)
いま私たちに求められているのは、新たな責任の時代だ。それは、一人ひとりすべての米国人が、自分たち自身、祖国、そして世界に対する責務を持っていると認識することだ。またその責務は、嫌々引き受けるのではない。困難な仕事にすべてを捧げることほど、精神を満たし、私たち米国人を特徴づけるものはないという確信をもって、喜んで引き受けるべきものなのだ。
これが市民であることの代償と約束である。」

どんなにひどい状況であっても、それを運命と思ってただ耐える人が美しい、というのではない。困難のなかで自分にできるベストを尽くし、ポジティブなものを引き出していける人が美しい、と思うのである。カンボジアの地雷の話のなかでも書いたが、いま自分にできること、すべきことをする。そんな人たちの尊さに感動する。

(文中の訳文も著者によるものです)

コメント

自分の存在価値がよくわからなくなってしまいます。
たいしたことが出来る訳でもなく、負い目を感じます。
でも、自分がポジティブに自分の出来る範囲内でしようという気持ちがすごく胸にきました。

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