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ハート ネット ピープル

馬から学ぶ信頼関係の築き方

馬に前脚を上げてもらおうとがんばるトリシャ(撮影=大塚敦子) 
[写真] 馬に前脚を上げてもらおうとがんばるトリシャ(撮影=大塚敦子)

他人との信頼関係がなかなか築けない。相手が何を考えているかわからず、自分の伝えたいこともうまく伝えられない。そんな悩みを抱える人には、馬がおすすめだ。といっても、乗馬をすればいいというのではない。馬の世話をし、馬から信頼されるよう努力することで、人間との信頼関係を築くためのヒントを学ぶのである。

馬は草食動物(狩られる者)で、肉食動物(捕食者)である私たち人間とはまったく違う行動パターンやコミュニケーションの方法を持っている。自分と異なる存在を理解し、受け入れられることは、私たち自身の姿を振り返る助けになる。また、犬は少しぐらい人間に嫌なことをされても我慢してしまいがちだが、馬は嫌なものは嫌とはっきり態度に表す動物だ。だからこそ、そんな馬に信頼されることが自分自身の行動を見直し、人との関係を築くのにも役立つのである。

アメリカのワシントン州にある「アニマルズ・アズ・ナチュラル・セラピー」(以下ANT)という非営利団体は、馬たちの力を借りて、さまざまな問題を抱える子どもや青少年のためのプログラムを実践している。彼らの最大の目標は、まさに「関係を築くこと」の一言に尽きる。

ANTの農場には、ドラッグのリハビリ施設に収容されている10代の少女たちが毎週通ってくる。少女たちの多くに共通するのは、セルフ・エスティーム(自己肯定感)が低く、よくないこととわかっていてもノーと言えないこと。親にかえりみられなかったり、虐待やネグレトを受けた経験から、人を信頼するのがむずかしいこと。

プログラムでは、乗馬の前にていねいに馬の体を手入れすることを教える。4本の脚の蹄の裏を掃除し、全身をブラッシングし、それからくつわや鞍を付けるのだが、じつは言うほど簡単ではない。狩られる立場にある馬は、よほど相手を信頼していないかぎり、逃げるのに必要な前脚を上げてはくれないのだ。

トリシャの馬は、最初どうしても前脚を上げてくれなかった。相手が自分の言うとおりにしてくれないフラストレーションでほとんど泣きそうになりながらも、彼女はがんばり続けた。そして、ボランティアのアドバイスでやさしく馬の肩をマッサージするうちに、突然馬が前脚を上げてくれたのだ。
「私の気持ちが通じた!」トリシャは嬉しさと誇らしさでいっぱいになった。

トリシャの経験は、ほんの小さな成功にすぎないかもしれない。だが、自分の努力によって異なる存在と心を通じ合わせることができた喜びは、その後もずっと彼女の支えになるだろう。このような体験を英語ではEmpowermentという。力づけ、勇気づけ、というような意味だ。

ANTのプログラムは、馬とのEmpowermentの体験を積み重ねることによって、うまく人との関係が築けない人たちが自己肯定感を高め、コミュニケーション・スキルを学ぶのを手助けする。このプログラムを見に行くよう勧めてくれたのは、じつは少年裁判所である。道を誤りそうになっている若い人たちを助ける馬の力に、裁判所も注目しているのだ。アメリカには動物や自然の力を借りた先進的なプログラムがたくさんある。できるかぎり日本に紹介していきたいと思う。

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