
アメリカの病院チャプレン
「病院チャプレン」。
耳慣れない言葉かもしれないが、宗教的な支えを必要とする患者や家族への精神的サポートをおこなう牧師に準じた職で、日本でもキリスト教系の病院ではおなじみだ。アメリカの病院では、ケアチームの一員と位置づけられている。それはベッドサイドで患者の話を傾聴することであったり、病院で亡くなった人の家族に付き添うことであったり、痛みや不安に苦しむ人のために祈ることであったり、さまざまだ。396床を持つイリノイ州ロックフォードの基幹病院ロックフォード記念病院には、20人のチャプレンが交代で24時間常駐。全員がボランティアである。
74歳のアネットはこの病院のチャプレンになって8年。元々敬虔なクリスチャンだったが、1994年に夫をガンで失った後、何か同じように病に苦しむ人たちに奉仕する仕事ができないだろうかと思うようになった。そこで100時間に及ぶトレーニングを受け、病院チャプレンの資格を取ったのだった。
年とともにだんだん体がきつくなり、昨年からは日勤になったが、それまでは夕方5時から翌朝8時までの夜勤を週1回こなしていた。ギャング同士の抗争で撃たれ、警察官の立ち会いで運び込まれる者がいたり、バイク事故で亡くなった青年たちの家族に付き添ったり、夜のERは、まるでテレビドラマの「ER」さながらだったそうだ。
幸い、私が訪問した日は比較的静かだった。朝到着すると、机の上にはチャプレンを希望する人々のリストがある。まずは病院の端から端までくまなく巡回、途中でそれらの人々の部屋を訪れる。また、一人で寂しそうにしている患者はいないか、ERで不安そうにしている人はいないか見てまわり、声をかける。途中で休憩はするものの、1日の大半は立ちっぱなしだ。
高齢にもかかわらず、彼女のこのエネルギーは、いったいどこから来るのだろうか。
「この仕事をしているおかげで、私は誰の部屋にでも入ることを許され、普通ならふれることのできないその人の物語を知ることができる。それがどれだけ私自身の人生を豊かにしてくれることか」と、アネットは話す。
肺炎で入院していたある高齢の男性は、彼女の手を握ったままいつまでも離そうとしなかった。一人で不安だった彼にとって、アネットが来てくれたことがよほど嬉しかったのだろう。男性の部屋を出たあと、彼女は言った。「必要とされる喜び、人に喜びを与えられる喜び、どれも私にはかけがえのないものなの」
それが、どんなに体がきつくてもボランティアを続ける理由だ。リタイアして悠々自適なんて、アネットの考える豊かな人生とはほど遠い。
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