
トンチンカンはまだ継続中。
今回から作業療法士 上村真紀さんによる、"太田さんレポート"が始まります。太田さんが日々通っているデイケアでの2人のやりとり、まるで長年組んでいる漫才コンビかのごとくに、息がぴったりなんです。また上村さんは、太田さんが続けている講演会「認知症と明るく生きる」でも、サポート役をつとめています。

文/上村真紀(作業療法士)
「トンチンカンはまだけい続中
急にフッと消える すごくつらい」
太田さんの日記からです。
認知症の告知はされておらず、わたしと1対1での作業療法を始めた頃でしょうか。
この後、次のように続きます。
「迷惑をかけているという思いはあるが、これだけは仕方がない。
☆もっと前向きに考えていくこと。
気にしない」
それから、3年以上経った、2006年9月18日。
長崎のハウステンボスで「在宅ケアを支える診療所ネットワーク全国大会2006」が開催され、私たちは100分間の講演をしました。台風一過のすがすがしい秋晴れの日でした。

そこに、太田さんの「追っかけ第一号(自称)」の友人も駆けつけてくれて、講演の後、近くのホテルで楽しいお茶の時間を過ごしていました。
その時、その友人がつぶやきました。
「ひとにとって、憶えておくってことはどれくらい大事なことなのかしら?」
太田さんは黙っていました。
わたしは「忘れられる事の方が大事」と答えました。
菅崎先生は「忘れるのはつらいよね。でも、その時誰かが側にいて、傍らでポンッと肩を叩いてくれると楽ですよね」と太田さんに話しかけました。
すると、太田さんは、大きく 「そお?です。」 と頷きました。そして
「私は、こんなふうに皆さんと一緒にして頂いて、とても嬉しい、有難い」
と言うのです。わたしは言いました。
「太田さん、逆ですよ。わたしたちのほうが、太田さんと活動できるの楽しいんですから。GIVE and TAKEよ」
講演中、太田さんは、聴衆に向かって
「できないことは仕方がない。無理をせず、もう、いいじゃない。忘れたっていいじゃない」
と、さらっと言います。でも、忘れてしまう事をわかっていて、ただ何もせず、じっと待っているのは本当につらいことなのだと思います。決して、諦めて言っている言葉ではないのです。
近頃は、デイケアの時に、「最近、言葉がスムースに出ない」と言って、言葉に関するトレーニング用の課題を積極的にこなそうとします。今日は、「つ」で始まる三文字の言葉を16個も考えていました。
なかなか言葉を思いつかない様子をみて「無理しなくていいさ」と言うわたしに、「そんなこと言わないで」と応戦してくる事があります。見かねた仲間が、ヒントを言ったり、答えを見せようとするのを無視します。
何かを、今、このときにできる何かを、必死に取り込もうとしているのが太田さんなのだと思います。
頑固なところが太田さんの生きるエネルギーです。
困ったり、迷ったり、あたふたしても、「自分でできる」ことが太田さんの望みです。
トンチンカンはまだまだ継続中です。
太田さんが望みのまま生きるためには、トンチンカンに付き合っていくことが支えになるのかなあ。
つづく




太田さんは、とっても前向きに生きてゆくことを知っている人だなぁ・・・と、感心します。
前にできていたことが、少しづつできなくなったりすること・・・それはおそらく誰にとっても歯がゆく、つらい経験ではないかなぁ?と、思います。そんな気がするのです。
でも、そのことを受け入れてゆくこと、それは勇気がいると思いますし・・・忘れてしまうことは仕方のないことだ・・と、自分の問題を自分のこととして受け入れられることに・・どこかでつながっているのだろうか?と、想像いたします。でも、それはそんなに簡単な作業ではないと思うのですね。
太田さんは、児童指導員のお仕事をされていたらしいことを耳にしたのですが、多分太田さんに出会った子どもたちは、マイウェイを謳っている姿を拝見すると、歌う大田さんの姿に、きっと励まされたり、勇気をもらったりすることが、あったのじゃないかなぁ・・と、思うのです。
誰もが毎日年を取り、やがて死を迎えるということには、変わりが無いと思います。けれど、それまでにどんなことが起きるか分からない・・認知症という症状により記憶が失われてゆくということは・・・そのような不安と共に暮らしてゆくということなのかもしれませんね。心細い気持ちになられるときもあるかもしれませんが、・・・大田さんの笑顔は素敵だなぁ・・・と、思います。
これからも、マイペースで、太田さんペースで、がんばってください。私も見習いたいと、思います。