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ハート ネット ピープル

そこまでしてくれなくて、結構。

久しぶりに長崎へ行って、太田さん、上村さんにお会いしてきました。相変わらず息のあったお二人。ダジャレ合戦を堪能させてもらいました。(ハートネット編集部・記)
[写真] 久しぶりに長崎へ行って、太田さん、上村さんにお会いしてきました。相変わらず息のあったお二人。ダジャレ合戦を堪能させてもらいました。(ハートネット編集部・記)


文/上村真紀(作業療法士)
リルートの道を何度か一緒に帰った、ある日のことです。
この道は最短です。快速電車にも遅れずに乗ることができます。
もう少ししたら、一人で帰れるようになれそうですね。
「大丈夫ですよ、おぼえています!」
周りの景色も確認してね。
「大丈夫!きっと。」
景色を見渡す太田さんの目はちょっと泳いでいます。
「あの?、私はそこまでしていただかなくても、私は出来ると思うんですけど。」
そう言う太田さんは、ちょっと迷惑そうな顔をしています。
そして、わたしの前を駅とは反対の方向にズンズン歩いていきます。
「お?い。太田さん、駅はこっち。」
頭をかきながら、戻ってきます。
赤信号で止まると、方向を見失うみたいです。

デイケアを出る前、
「そこまでしていただかなくても、私は出来ると思うんですけど。」
控えめだけれど、きっぱり言い切ります。
そうですか。では、今日から新しい道は一人で歩きますか?
「そうします。」不安げな顔をしているのに、強気の口調です。

できると思っていることと、できないことの境目は太田さんには見えません。
わたしたちに迷惑をかけると悪いと思っているのかもしれません。

仕方ない。
失敗しないようにのサポートは、太田さんにとって「不要」とはねつけられます。
『それいゆ』の一番若手スタッフが名乗りをあげました。
太田さんの後ろを離れてついていきます。
長崎駅までゆっくり歩いて15分の道のりを
行ったり来たり、ぐるっと回って、元にもどり、また行ったり来たり。
人に尋ねて、クネクネ歩いてようやく駅に着いたのは、1時間後でした。
途中、スタッフから電話が入ります。「まだ、見守りますか?」
太田さんが、自分で駅にたどり着くまで、見守って。
また、電話が入ります。「改札を通れなくて、困っているようです。」
疲労困憊しているために、いつも出来ていることが出来ないようです。
「声をかけて。」

声をかけたスタッフに最初にでた太田さんの言葉は、
「私また何か迷惑かけたんでしょうか!?」
状況がうまくつかめない中でも、
いつも太田さんの心にある他者に対する気遣い。

そして、『できないこと』を認めるつらさ。

太田さんがデイケアのプログラムで作成中の革のブックカバー。間もなく完成です。 
[写真] 太田さんがデイケアのプログラムで作成中の革のブックカバー。間もなく完成です。

こんな朝がありました。
それまでは、長崎駅から『それいゆ』までクネクネルートを歩いて通えていたのに、
その日、GPSには、『それいゆ』と反対側、長崎駅よりもはるか北の方に、太田さんの居場所を示す★マークが光っていました。
GPSをたよりに、捜索に出た奥さんが追いつけず、迷ってしまうほど、
太田さんはどんどん歩きます。
『それいゆ』を目指して、一心に。
「絶対に、自分でできる!」
探すのを手伝ってくれた、派出所のおまわりさんに声をかけられたとたん、
太田さんの心は、しゅんとしぼんでしまいました。
また、太田さんの前に大きな山がたちはだかります。
『できないこと』を認めるつらさ。

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