
双方向性 ―福祉のネットワークを地域でつくる
福祉ネットワークの新シリーズ「地域からの提言」から、新しいピープルが生まれました。積極的な地域の福祉について事例や考え方をシェアし、行政も住民も互いに支える仕組みをもっとつくっていけるようにしたい。そんな沼尾さんからの発信です。
この番組のお手伝いをするにあたり、あらためて「福祉ネットワーク」という言葉の意味について考えてみた。日ごろ福祉の現場に関わっている方々からすると、ネットワークを作ってみんなで支えあうということは、いわば当たり前のことなのかもしれない。だが、日ごろ私が関わっている行政の世界はちょっと違う。
福祉行政は長い間、措置制度のもとで運営されてきた。「措置」とは簡単に言えば、社会的弱者とみなした者に対して、政府が一定の対応をするという考え方である。そこにあるのは「行政から住民」という一方向的な対処の発想であり、福祉を「ネットワーク」という双方向性をもった関係として、必ずしも描いてはこなかったのではないかと思う。それは国と自治体との関係においても同様で、国が決めた措置制度を忠実に実施することが自治体の役割とされてきた。措置の対象や方法は、国の法制度に基づいて決められてきた。
もちろん、国家として社会的弱者に対する一定の措置が必要な場面は多々あるし、それを全国共通の基準で進めることも大切なことだ。だが、地域の現場に目を落とすと、もう一方で、日々その地域で暮らす人たちの日常のケアを、地域で互いに支える仕組みが必要となっていることに気づかされる。
三世代家族から核家族、そして単身者の増加と、家族のあり方も変わりつつある。子育て支援であれば、行政の役割は「保育に欠ける子ども」に対する措置とされてきた。だが、家で子育てに追われ、疲れきった母親が子どもを前にして疲労を感じ、子どものケアができなくなってしまうかもしれない。あるいは、突発的に身内に病人が出たとき、一時的に子どもを預かってくれる場所がほしいかもしれない。不測の事態に対するきめ細かな対応を行えるようなネットワークが大切だ。
そのためには、行政も、これまでのやり方を見直して、地域における福祉ネットワークの構築を考えることが必要だ。また住民も、ただ要求をするのではなく、ネットワークの一員として何ができるかを考えることが大切なのではないかと思う。
実際、現場ではいろいろな工夫により、さまざまなニーズに対処しようという取組みが広がっているようだ。第1回で放映された上越市の子育て支援の取組みは、その好例である。
地方分権の時代と言われるようになって久しい。福祉のネットワーク構築について、行政と住民が一体となって、それぞれに地域で考えてみることが大切だ。
では、どんなときにどんな風に支えあえる仕組みを構築すればよいのか。またそれに必要な財源をどうやって確保すれば良いのか。どこまでが自分や家族の役割で、どこまでを地域で支えるのか。その場合、行政と住民とがどのように連携や協力を図ればよいか。
番組では、さまざまな福祉施策が取り上げられるだろう。それらが自分の地域の取組みを考える際のヒントになることを期待したい。このコラムでは、番組では取り上げられなかったことを含めて、地域福祉の取組みについて感じていること、考えたことを紹介していきたい。
ネットワークについて、上越市の子育て支援施策の例を手がかりに、もう少し考えてみる。上越では、行政が、一方的に決められたサービスを提供するという世界から脱却すべく、住民の声を聞こうという姿勢と意欲を持った。一方、NPOのお母さん達は、子育てに関わる多くの人たちから様々な要望を聞き、それらをとりまとめて行政に情報提供を行った。また必要なサービスを確保するために地域の担い手がいろいろな形で協力をしていった。
そこにあるのは、サービスの提供者、サービスの利用者という固定的な役割ではない。ある人が、時にはサービスを利用する立場になったり、時にはサービス提供の方法についてアイディアを出したり、また時には近所の子どもを預かるなどのサービス提供者になるなど、多面的な役割を担っているということである。
こうした柔軟な関係性に驚きながら、かつて、富山のNPO法人デイサービス「このゆびとーまれ(別ウィンドウ ※クリックするとNHKのサイトを離れます)」を立ち上げた惣万佳代子さんが「持ちつ持たれつの関係」と話していたことを思い出した。「このゆびとーまれ」のウェブサイトにある案内には、「子供もお年よりも、中年の人も障害者の人も、『誰でも必要なときに必要なだけ利用』でき、施設らしさは全く感じられないところ」、「見学者から『このゆびとーまれはなごやかな空気に包まれていて、まるで昔の大家族のよう』とよく言われます。」とある。高齢者も障害者も健常者もない。そのときの状況でケアしたりされたり、役割がくるくる変わる。「見ていて、一体、誰が誰を介護しているのか分からなくなってくる」という関係性がそこにあるという話を伺ったことがある。ケアは相手を思いやるところから始まる。こうした視点に立って双方向性の福祉ネットワークを構築しようとすれば、そこに関わる人たちの役割を、もう少し柔軟に考えてみることが大切なのだと思う。
行政は役割として措置する。住民は行政に依存する。そうではないのだ。
上越では、市役所が国の措置制度だけをみるのではなく、市民のニーズは何か? というところを見た。住民は、ただやみくもに要求を出すのではなく、行政が取り組んでもらえそうな計画を具体的に提起した。互いに一歩踏み出したところの関係を、じわじわと深めている。
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