
手探りで覚えた一本背負い

広島市に住む中学3年生の川空礼将君は視覚と聴覚の両方に障害がある盲ろうです。1歳のとき、視覚に障害が現れ、ものがかすかに見えるだけになりました。小学校に入る頃には耳も聞こえなくなりました。周囲とコミュニケーションが取れなくなってしまったのです。家に閉じこもり、心を閉ざす日々が続きました。
そんな彼に転機が訪れたのは小学5年生のときです。手話のできる三浦憲一先生が学校に赴任してきて触手話(直接手を触って伝える手話のこと)を教えました。さらに、三浦先生が川空君にすすめたのが、柔道でした。「柔道は『組む』ことによって、相手が自分と触れ合っている実感を得られる。人と関わることを柔道を通して育んで欲しかったのです」(三浦先生)
もう一つの出会いは、三木一英先生です。三木先生は30年以上柔道を指導してきたベテラン。障害のある生徒にも柔道の楽しさを教えたいと、この学校にやってきました。現在、川空君は中学生になって、盲学校の柔道クラブで部長を務めています。技を見たり聞いたりして覚えることのできない川空君に、三木先生は足の動きなどを手で触らせながら、技を教えます。二人の間には決められた合図があります。間違いの時には額を、合っているときには胸をたたく。
「彼の場合は見えない、聞こえない。だから触らせてどうするのかを感じさせる。アニメのコマ送りのように動作を一つ一つ追って、それを理解力で補ってもらう。彼は補う力があるので、時間はかかってもこちらの言っていることが理解できる」(三木先生)
健常者も参加する大会で自分の力を試したい。それを目標に、川空君が今熱心に練習しているのは一本背負いです。相手の姿がぼんやりとしか分からない川空君にとって、足技は苦手。しかしこの技なら相手の体重を体全体で感じながら投げられます。三木先生と共に、繰り返し練習する日々が続きます。
◆2006年2月19日
1回戦。目の不自由な川空君が不利にならないように、組み合った状態から試合開始。川空君、一本背負いを仕掛けます。技を返されます。初戦は攻めきれず敗れました。
続く2回戦。開始早々の一本背負い。決まりません。しかし、すぐに押さえ込みに入り、初勝利!
3回戦も果敢に一本背負いを仕掛ける川空君。しかし開始わずか20秒、相手の技が決まって、負けてしまいました。予選敗退。「一本背負いで勝ちたい」。残念ながら、今回はその思いを果たすことができませんでした。
◆2006年4月
新学期が始まりました。帰宅時間を気にせず練習に打ち込めるとの理由から、親元を離れ盲学校の寄宿舎で新しい生活を始めました。それまで身の回りのことは母親に頼りきりでしたが、今、仲間の助けを借りながら寄宿舎生活の仕方を一つ一つ学んでいる毎日です。
さらに、嬉しい知らせが届きました。東京で行われるパラリンピック候補者の合宿、その練習に特別に参加させてもらえることになったのです。三木先生は言います。世界トップクラスの選手の胸を借り、新たな刺激を受けて欲しい。
「東京に行っても一緒に練習頑張りましょう!」(川空君)
「一緒に行って頑張ろうな」(三木先生)
自分の可能性を信じて柔道に打ち込む、川空君のチャレンジはまだまだ続いていきます。
「福祉ネットワーク」(月曜?木曜 午後8:00?8:29)では、全国の障害を持つ人、それを支える人たちの、ともに生きるストーリーをお届けしています。
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