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ハート ネット ピープル

ゆっくり前へ-再起をかけた富士登山-

セルフチャレンジキャンプ
富士山を望む静岡県御殿場市。秋、ここで、セルフチャレンジキャンプと呼ばれる合宿が行われていました。合宿にはひきこもりやニートといった男女10人が参加しました。

合宿を企画した北見靖直さん。これまで20年に渡って生きづらさを抱える若者たちを支援する活動を行って来ました。

北見
「人の手を借りてもいい、人に助けてもらってもいい。自分ひとりで頑張らなくてもいいんだよ。自分のできること、できないことがある。そのできないところを支え合う。そのことをね、大切にして欲しい」

[写真] セルフチャレンジキャンプ参加者のひとり、いずやん。
[写真] セルフチャレンジキャンプ参加者のひとり、いずやん。

自分を変えたくて
27歳でニートのいずやん。いずやんはささいなことでも怒りを表に出してしまう自分を変えたいと、この合宿にやって来ました。子どもの頃から強いストレスを抱えると、気持ちのコントロールが効かなくなるといういずやん。そのことが原因でせっかく親しくなった友人も自分のもとを去って行きました。今年、生産加工会社に念願の就職を果たしたものの、わずか3ヶ月で辞職。再びニートの生活に戻りました。

「この10年間、いくら直そうと思っても、何度も同じことを繰り返して切れている。分からない。自分がなんで切れているのか。感情的になると、気持ちもみんなぐちゃぐちゃになる」
「いつも傷つけられるんじゃないのか。いつかは嫌われるんじゃないのか。いつかは距離を置かれるんじゃないのか、ずっとそう思ってた。怖かった」

参加者最年長のメンバー、うじやんがいずやんに声をかけました。
「僕はね、これまでずっと怒りによってしか生きてこられなかった。それでずっと人生を失敗してきた。なんで40にもなったおっさんが、ここに来なきゃいけないのか、自分でも分からない。僕は秋葉原の殺傷事件の気持ちも分かった。なんでああいう行動になるかも分かった。でも、行動を起こしてしまったらおしまいなんだ。ほんとは友達作りたいでしょ?」

いずやん
「欲しい」

北見
「今、うじやんが自分のことを話してくれたよね。そのことを、しっかりと胸に刻むんだよ。そうすれば、きっといずやんは出来る」

いずやん
「変われる?」

北見
「変われる。必ず変われる。仲間がいるから。絶対変われる」

[写真] 「今年は2回目だし、自分の苦手から逃げちゃいけないなと思って」と、くみちゃん。
[写真] 「今年は2回目だし、自分の苦手から逃げちゃいけないなと思って」 と、くみちゃん。

去年に引き続き2回目の参加となるくみちゃん(25)。くみちゃんは2年前まで老人ホームで介護福祉士をしていました。忙しい職場で生活のリズムが掴めず、希望の仕事だったものの、辞めざるを得ませんでした。

くみちゃん
「親に職場まで送り迎えしてもらっていて仕事場の駐車場まで来るんだけど、駐車場の車の中から降りられなかったりとか。頼まれた仕事っていうか、そういうことから逃げていることもあったかな」

再び介護の仕事につきたい思いはあるものの、また中途半端で終わるのではないか、そんな不安から一歩を踏み出せずにいたのです。再就職のきっかけにしようと臨んだ去年の合宿。しかし、富士登山で足を痛め、8合目でリタイヤしました。今年登りきることができれば、自分の殻を打ち破ることができるのではないか。そんな思いで合宿に参加していました。

励ましのメッセージを背に
富士登山を前に、お互いに励ましのメッセージを送り合うことにしました。

北見
メッセージが書かれたポストイットを仲間の背中にペタッと貼ってあげてくれますか? これね、サロンパス以上にじゅわーっと効いて来るんだ。

[写真] メッセージを仲間の背中に貼っていく。
[写真] メッセージを仲間の背中に貼っていく。

 

[写真] いずやんの背中にも。
[写真] いずやんの背中にも。

自分の気持ちを素直に表現することが苦手だったメンバーたち。共同生活を通して、互いを思いやる気持ちが芽生えていました。
「ケンさんへ。いつも頼りにしてばかりでスイマセン。自分もこれからケンさんの力になれるようにがんばります。ポンタ」「まこっちゃん。もっと自分を主張すればいいと思う。まこっちゃんおもしろいし」「気にしすぎはよくないよ。いずやんは大切な仲間よ」

自分のために登り切る
1ヶ月にわたる合宿を締めくくる富士登山。登山は想像以上に厳しいものになります。かつて修験者が行き来した過酷なルートを4日間かけて歩き通します。普段家に引きこもりがちで運動することが少ないメンバーたち。1日8時間足場の悪い道を歩き続けることは容易ではありません。
登山を始めて3日目、いずやん、ついに立ち止まってしまいました。
他のメンバーが自分のことを足手まといだと思っているのではないか。不安に思ったいずやんは感情をコントロールできなくなります。

いずやん
信じられるか。

北見
信じられるよ。

いずやん
なんでなんだよ。

北見
仲間だから信じられるよ。

いずやん
やめます、もう俺は。
やってられないですよ。

俺、なんかすごくかっこ悪いじゃないですか。
さんざんわめくは騒ぐわ、あげくの果てにこんな。

北見
誰が言った。いずやんのことかっこ悪いだなんて。俺ずっとそばにいたけど、いずやんのことかっこ悪いだなんて全然思ってないぞ。いずやん、よく戦っていると思うぞ。そう思ってるぞ。よく今、軍手はめたと思ってるぞ。やるか。

いずやん
...分かりました、やります。

北見
よし、やるしかないな。やるんだったら立とう。もう一回戻るんだ。もう一回戻るんだ。

[写真] 仲間と共に登る。
[写真] 仲間と共に登る。

くみちゃんは7合目にきて、足を痛めてしまいました。去年と同じ場所、そして同じ怪我です。前回は8合目でリタイヤしました。仲間の励ましを受けて、足を引きずりながらも、懸命に頂上を目指します。くみちゃん、1歩も動けなくなりました。

[写真] 仲間に励まされながら懸命に頂上を目指すくみちゃん。
[写真] 仲間に励まされながら懸命に頂上を目指すくみちゃん。

山頂まで、残り1キロをきっていました。先頭グループが到着しました。一度登山を諦めかけたいずやんも仲間に支えられて登りきることができました。
突然、いずやんが登山道を下り始めました。ゴール目前で立ち止まったくみちゃんのために、何か自分にできることはないのか、いてもたってもいられなくなったのです。
くみちゃんのリュックを背負い、共に歩むいずやんの姿がありました。

他の仲間からも自然にかけ声がわき起こります。

「いっぽー、いっぽ」(かけ声)

「ゆっくりー、ゆっくり」(かけ声)

「いっぽー、いっぽ」(かけ声)

と、くみちゃんが到着。一同拍手で迎える。

「ナイスファイトー。よくがんばった!」(かけ声)

[写真] 山頂で記念撮影。みんな達成感に満ちたいい笑顔。
[写真] 山頂で記念撮影。みんな達成感に満ちたいい笑顔。

くみちゃん
みんなが上から声をかけてくれて、みんなが待っているから、登らないとって思って。山頂に立ったことによって、今後のこととか、考えることができたらいいな。

いずやん
正直に言えば、ここまで仲間を意識したことはないし、自分や仲間を信じることを大切だと、大事だと思ったことのは、今回が始めてです。今までにない一番いい思い出だったと思います、今が。それを、この合宿が終わっても持ち続けたいと思っています。

共に支えあいながら、全員が富士山を登り切ることができました。

「せーの!」

「みんながいるから」

「頑張れる!」


(2009年11月18日放送・福祉ネットワーク「ゆっくり前へ ?再起をかけた富士登山?」より再構成)

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