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ひとりメーカー

津曲(有田哲平)恵子(小西真奈美)との出会いによって、モノづくりに目覚めた鈴愛(永野芽郁)が選んだ新たな道、「ひとりメーカー」。
製品作りにあたって必要となる企画、デザイン、製造、流通などの一連の流れを、たった一人で行う「ひとりメーカー」とは? 考証を担当する八木啓太さんにお話を伺いました。

「ひとりメーカー」という言葉は、八木さんをきっかけにして広まったようですね。

2012年ごろにNHKの情報番組で、私のことを「元祖ひとりメーカー」と呼んでいただきました。それから徐々に、「ひとりメーカー」という言葉が浸透したように思います。

元々、私は大学で電子工学を学び、就職した精密化学メーカーで医療機器の設計をしていました。ですが、帰宅後や週末に趣味で家電を設計するうちに、自分の「ものづくりの哲学」を世に問うてみたくなり、2011年に起業したんです。
資金が少なく、うまくいく保証もありませんでしたが、大組織の論理ではなく、自分自身が良いと信じる価値観を貫いたものづくりに挑戦したいという気持ちから、ひとりメーカーという形をとりました。

最初に作ったのは、自然光に近くて目にも優しい、シンプルなLEDデスクライトです。おかげさまで売上を伸ばすことができ、2013年には第二弾の製品を発売。そこで初めてスタッフを採用したので、約2年、ひとりメーカーをしていたことになりますね。

3Dプリンターの登場などもあり、ものづくりのハードルは低くなってきました。家電に関しても、大手メーカーだけが作るものでなく、ひとりメーカーでも活躍できる社会になったと思います。

ひとりメーカーの製品企画は、大手メーカーと比べてどんな違いがあるのでしょうか?

ひとりメーカーには古い組織ルールも、通すべき稟議(りんぎ:会社の中でやりたいことについて、申請し承認を得ること)もないので、大手メーカーでは淘汰されるようなアイデアも積極的に採用することができます。最大公約数的なものづくりにならず、際立った特徴を発揮できるのも強みの一つかもしれません。

人間は環境に順応する生き物なので、何かを不便に感じても、自然と我慢できるようになるもの。しかし、それではイノベーションの芽を摘むことになるんですよね。私たちがワイヤレス充電器を作ったときも、「ケーブルは向きが逆だと刺せない」という些細(ささい)な不便に向き合うことから企画がスタートしています。アイデア勝負の小規模メーカーであれば、些細な不便や不満をきちんと解決しようとする姿勢は、なおのこと大切だと思います。

その点、鈴愛(永野芽郁)の開発した製品は、荒削りではありますがツボが押さえられています。例えば、蛇口の水を低い位置から出せる「カメレオン蛇口」などは、全ての子どもに共通する生活課題に向き合っていて、才能の原石を感じます。
鈴愛は、周りの批判を恐れずに自分を信じることができて、さまざまな常識に対して「本当はこうあるべきでは?」と疑う直感力を持っている。ものづくりに向いているパーソナリティーだと感じます。

ひとりメーカーは、どんなことが特に大変なのでしょう?

ものづくりは会社の大小を問わず大変ですが、それを一人で担う忍耐力が必要となります。どんなに優れたアイデアを持っていても、イメージ通りすぐに実現出来るわけではなく、修正を何度も重ね、さらに、検証や耐久試験でボツになる。修正、修正の繰り返し。そのプロセスを一人で長いあいだ繰り返す覚悟が必要です。私がひとりメーカーとして作ったLEDデスクライトも、1本のパイプを折り曲げたシンプルな構造ではありますが、数百回もの試作を重ねました。

ものをつくるトライ&エラーの試練に加えて、それに伴う資金も問題です。ひとりメーカーにとって、製品開発にかけられる時間とお金はごくわずか。私の場合、勤めていたメーカーの退職金と、これまでの貯金を合わせた全財産・1000万円がリミットでした。残高がゼロになるまでに完成させなければ終わる、という恐怖をよく覚えています。

また、部品の調達先や協力してくれる工場を探すのも大変です。相手からすれば、ひとりメーカーを信用するのはリスクですし、大企業の大きな注文を取ったほうが利益にかないますからね。私の場合、ちょうど東日本大震災の直後だったので、なおさらでした。でも、「ひとりでメーカーをやっている、よくわからん若造を助けてやろう」と思ってくれる方々に出会うことができ、なんとか生産にこぎ着けることができた。「ひとりメーカー」であろうと、ものづくりには人の輪が欠かせないんです。

ドラマを通じて「ひとりメーカー」を知った人や、ものづくりに興味を持った人に、どんなことを伝えたいですか?

モノがあふれる消費社会では、モノのありがたみが薄れているように感じています。ドラマを通じて、「あらゆるモノには誰かが心を込めて作った背景がある」ということが、少しでも伝わればいいなと思っています。

また、ひとりメーカーになりたいという人が少しでも現れたらうれしいですね。大変なので、決しておすすめはしませんが(笑)。ひとりメーカーから始まった弊社も今ではスタッフが増えて、現在、IoT(身の回りのモノがインターネットにつながる仕組み)とAI(コンピューターで人間の知能を実現すること)を活用したAIみまもりロボットを提供しています。身近な生活課題の解決から、より広範囲な社会課題の解決へと、会社としてのミッションも成長してきました。

ただ、「ものづくりの哲学」は変わりません。ドラマの中で恵子(小西真奈美)が言ったように、自分がいいと思うものをいいと思ってくれる人に届ける、ひとりメーカーのままですね。「この製品はこういう人たちに必要なんだ!」という、作りたい気持ちの原点を忘れなければ、きっと良い製品がつくれると思います。

■八木 啓太(やぎ けいた)
ビーサイズ株式会社 代表取締役/デザインエンジニア

1983年生まれ、山口県出身。大阪大学大学院で電子工学を専攻しつつ、独学でデザインを習得。2007年、大手精密化学メーカーに入社し、医療機器の筐体設計(外装部分の設計)に従事。11年に同社を退社し、Bsize(ビーサイズ株式会社)を設立。

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