NHK語学番組

  • テレビ番組表
  • ラジオ番組表
  • お問い合わせ・ご感想
  • テレビ番組を探す
  • ラジオ番組を探す
  • ラジオ番組ストリーミング

トップ

アンコール まいにちドイツ語

講師からのメッセージ

相澤啓一(あいざわ けいいち)

「アンコール まいにちドイツ語 応用編」 講師からのメッセージ


講師:相澤啓一(あいざわ けいいち)
講師:ラインハルト・ツェルナー

「ドイツ語が見てきたNIPPON」は2011年に日独交流150周年を記念して作られました。日独関係を彩ってきた人たちが残した、あるいは彼らをめぐって書かれたオリジナル・テクストをドイツ語で読み、日独交流史を振り返ってみることで現在のドイツや日本についても考えてみようというシリーズです。

明治の日本ではドイツ語圏から来た「お雇い外国人」たちが、法律、医学、軍事、音楽、儀典、文学などの各分野で、その後の日本の歩みを決定づけるような大活躍をしました。彼らがいなければ、明治憲法に始まる国家体制から「君が代」、ひいては山手線の高架に至るまで、私たちの身の周りのさまざまな政治や文化の形は、今とはかなり違ったものになっていたことでしょう。他方、森鷗外や田中正平のような若くしてドイツに送り込まれた超エリート留学生たちは、早くもドイツ人に伍して最先端の学術議論に加わり、論争を挑んでいます。

こうしてせっかく培われてきたドイツへの親近感が大きく変わることになった転換点が、日清戦争でした。三国干渉のせいで日本国内の対独感情は一挙に険悪化し、ドイツでも対日警戒感や黄禍論が強まります。20年後に起きた第一次世界大戦は、日本にとっては、ドイツがアジアに作った模範的植民地青島を主戦場とした「日独戦争」だったのです。

第一次世界大戦後、日独関係は再び信頼と親密さを取り戻します。ドイツが敗戦とハイパーインフレで苦しんだ1920年代、私財を擲ってドイツ学術の困窮を救った星一のような日本人もいました。アインシュタインやフーバーといったノーベル賞受賞者やスキーのスターが日本を訪れてアイドル並みの大歓迎を受ける一方で、ドイツへの留学生も増加し、ドイツ文学や哲学、音楽が本格的に受容されて、日本におけるドイツのイメージも確立します。日独文化交流の中核となる文化センターが両国に整備されたのもこの時期です。

これほど生産的だったこの時期の日独交流ですが、今では顧みられることはあまりありません。この時代の日独交流の立役者たちを私たちはなぜ手放しで礼讃できないのでしょう? それはただ単に、1920~30年代の日独交流がそのまま、ナチスと手を結んだ日独防共協定や日独伊三国同盟に直結してしまったからだけではなさそうです。さらにはこの日独の同盟関係自体が、信頼関係とは到底呼べない打算や迷走や裏切りだらけだった様子も、また他方でそんな政治状況下でも心のこもった人間交流が続いていた様子も、テクストを通して見ていきたいと思います。
今回のシリーズでは、主として幕末から第二次世界大戦敗戦に至るまでの日独交流に関して、さまざまなオリジナル・テクストを時代順に読み解いていきます。古いテクストや外交文書の中には多少読みにくいものもありますが、そのすべてを文法的にわかろうとするより、まず当時の雰囲気を直接感じていただいて、「こんなこともあったんだ!」という面白さを味わっていただければ幸いです。

日独交流史にはすでに膨大な研究の蓄積があります。人物・テーマの選択や紹介の仕方に、 もっと別のご提案をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。たった48回の番組で扱えるのはごく一部の人物やテーマに限られますし、1回の放送で扱えるのは短いテクストだけです。そもそも歴史(Geschichte)というものは、どう記述しても記述者の視点や関心次第で大きく変わる物語(Geschichte)でしかありません。その意味で、番組でお伝えできるのは日独交流史のごく一面にしか過ぎません。ただ私たちは今回のシリーズで、いたずらに美化して物語ることは避け、なるべく冷静かつ批判的に観察することによって知的関心と対話の可能性を広げようと試みました。ですから、150年前の修好通商条約締結も、あるいは第一次世界大戦後の板東収容所での第九交響曲初演の話題も、よく耳にするような形に美化して語ることはしません。むしろ、どんな人たちが何を考えて日独の間で活躍し、どんな利害・関心をもって、時に相手を評価し、時に対立しながら今日に至ったのか、温かい目で、でもなるべく冷静かつ批判的に、振り返ってみたいと思います。それによって私たちの関心がさらに広がり、ひいては今後の成熟した日独間の対話にもつながるならば望外の喜びです。

「ドイツ語が見てきたNIPPON」の面白かったところや疑問点について、皆さんのご意見やご感想をぜひお聞かせください。