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2021年10月22日大学生が不登校支援 オンラインで“つながる”




3,432人



3432人。

令和2年度、岐阜県内の小中学校で年間30日以上欠席して不登校だった児童生徒の数です。前年より約13%増え、不登校の子どもは5年連続で増加しました。

県教育委員会は、新型コロナウイルスの感染拡大で学校や家庭生活が変化し、不安を感じた子どもが増えたのではないかと分析しています。

そんな中、新型コロナウイルスをきっかけに、県内の大学生たちが
不登校の子どもたちとオンラインでつながって、支援しようという取り組みを続けています。

(岐阜放送局 記者 岡本綾)







【大学生による不登校支援とは】




パソコンの画面越しに話しかける大学生



「これやってみようか」
「キャラクターの最初の1文字を 教えてください」

パソコンの画面越しに話しかける大学生。

不登校の子どもや、学校に行きづらいと感じている子どもを対象にしたオンライン支援です。大学生と、自宅にいる子どもがつながって、話をしたり時には勉強もしたりします。







【きっかけはコロナ禍での一斉休校】




田中ゆうきさん




オンライン支援を始めた、岐阜聖徳学園大学教育学部4年の田中悠貴さんです。

活動のきっかけは、去年春、新型コロナウイルスの影響で学校が一斉休校になった時に参加したオンラインの学習支援ボランティアでした。

学校再開でボランティアは終わりましたが、教員を目指していた田中さんは、その後も子どもの支援を続けたいと考え、大学のゼミの教授に相談。去年7月、不登校の子どもたちを支援するサークルを立ち上げました。



不登校の子どもたちを支援する学生たち



いま、岐阜大学、中部学院大学など5つの大学から、教員を目指す大学生などおよそ20人が参加しています。


田中さん
「オンラインだからこそできる工夫というのもたくさんあって、そういう活動、自分自身の経験をもっともっといろんな学生にも体験してほしかった。僕たちはまだ先生じゃないし、教育実習生でもないという立場だったので、友達というかすごい気さくな関係になれるというのが、大学生として子どもと関わるメリットなのかなと思っています」







【不登校の子と“つながる”ための工夫】




パソコンの前で話をする田中さん



田中さんがはじめに担当したのは、小学校高学年の男の子で、去年、学校に行くことができない子どもの話し相手になってくれたらと保護者から申し出があり、交流が始まりました。

当初、男の子はとても緊張していて笑顔はあまりなく、楽しくおしゃべりという感じではなかったそうです。

男の子が近い将来を想像でき、笑顔になれるような話題を選び、自身の高校時代の思い出話などを話しました。また、画面越しでも感情が伝わるように、表情にも気をつけました。

「まず笑ってもらおうと思って、楽しい話をふったりだとか。少しずつ関係を作っていけたらなと思って」







【親でも先生でもない“第3の存在”に】




ゲーム画面をみる田中さん



田中さんは、男の子に一緒に何をしたいか聞き取り、ゲームや会話を通して少しずつ関係を深めました。

自分が、男の子にとって、親でも学校の先生でもない“第3の存在”として、わずかでも社会とのつながりを築けたのではないかと感じています。



空の写真



支援を始めて約1年。少しずつ学校に足が向くようになった男の子は、「もう大丈夫」と言って支援を卒業し、田中さんのもとを離れました。


男の子の母親
「息子は、オンラインの終わった後はいつも楽しそうでした。誰とも話していなかった息子にお話しする相手ができて、違う日常になり、よかったです。感謝しております」


田中さん
「男の子は、圧倒的に笑う回数が増えたなというのは、まずいちばん最初に感じたことで、あとは、自分から話しかけてくれるようなことも増えたというのが僕としてもすごくうれしい。大きな変化かなと思います」


篠原教授
(岐阜聖徳学園大学 教育学部 篠原清昭教授)



田中さんのゼミの担当教授、岐阜聖徳学園大学教育学部の篠原清昭教授は、学生たちの取り組みの意義についてこう指摘します。

「不登校の子どもたちは家にいるので、社会関係上閉塞された中にずっといるということになる。わずかでも外の社会とのチャンネルがわずか1本でもあるといい。その1本に学生のオンライン支援が位置づいたと思う」







【今後も向き合い続ける】




卒業論文について語る田中さん



田中さんは“不登校の子どもの社会的自立”をテーマに卒業論文の執筆を進めています。

就職は、不登校経験者も多く進学する通信制高校に内定していて、これからも不登校の子どもたちに向き合いたいと考えています。

「既存の学校に息苦しさとか居づらさを感じる子どもが、もっともっと通いやすい学校という形が増えていったらいいのかなっていうのは思っています。ちゃんと自分らしく生きていけるような、社会的に働いて学んでいくという成長過程をサポートできるような仕事をしていきたいと思っています」







【オンライン環境を活用した支援を】




支援について説明する岡本記者



取材する前は、オンラインだと直接会うよりも心の距離が縮まりにくいのではないかと思っていましたが、不登校の子どもたちの中には、まずはオンラインの方が気軽に話せるという子どもも多いことがわかりました。

また、大学生は、子どもにとって先生や親よりも年の近い“第3の存在”なので、ゲームやアニメ、音楽など共通の話題が多いというメリットも大きいと感じました。

一方の、将来教員を目指す大学生にとっても、不登校の子どもと交流することが、実践的な学びになっていました。



支援について説明する岡本記者



新型コロナウイルスの影響で、学校現場ではタブレット端末の配備が進み、オンライン授業の導入が一気に進みました。感染リスクを避けるため、本人や保護者の意思で学校に登校しない児童生徒に対しては、オンライン授業などの対応をしている学校は増えてきています。

しかし、不登校の子どもたちに対しては、同じように行われていないのが現状です。

ことし4月に岐阜市に開校した東海初の公立の不登校特例校「草潤中学校」では、すべての授業をオンラインでも配信していて、教室でも自宅でも学べるようにしています。

オンライン授業の実施にあたり、「感染対策」が理由の場合と「不登校」が理由の場合で、対応を変える必要があるでしょうか?希望する不登校の生徒たちにも、実施できるのではないかと思います。

学校や教育委員会には、不登校の子どもたちのことを考えて、学校に来なくてもつながりを持ったり、学びの機会を作ったりしようという姿勢が求められていると思います。







岡本記者の写真

NHK岐阜放送局 記者
岡本綾
2005年入局
小学生と園児の子育て中

2021年10月13日校則違反で“カード指導”とは?




様々なカード



「イエローカード」「レベルアップカード」「スタンプラリー」・・・。

一体何に使われているものかわかりますか?

岐阜県内の県立高校で、身だしなみなどの校則に違反した際に、生徒指導に使われているカードなんです。

高校では、カードを使って生徒指導を行うことから“カード指導”とも呼ばれています。

どれくらいの高校で、どのように使われているのか?また、その目的は?実態を調べてみました。







【私、身だしなみ直ってますか? 教員にはんこをもらう“カード指導”】




カード指導を受けた女性
(カード指導を受けた女性)



県立高校に通っていた23歳の女性です。

高校1年生の時に“カード指導”を受けました。

高校に入学して間もない頃、廊下で友人と話していた時、突然、女性教員に、ブレザーをめくり上げられました。

「あなたスカート短いね」

教員は、女性の同意なしに、服装チェックを行い、こう告げました。

「これは校則違反。イエローカードです」

校則の規定よりも数センチだけスカートを短くしていた女性は、「突然のことで、何も言い出せなかったし、黙って受け取るしかありませんでした。ダメな理由を説明されることもなく、説教を受けました」と振り返ります。

渡されたカードには、複数の教員がはんこを押す枠が設けられていました。身だしなみを正した上で、6人の教員のもとを回り、身だしなみのチェックをしてもらって、はんこをもらうのです。

部活動の顧問には厳しい指導を受けました。

「『2年生にも3年生にもイエローカードをもらった人がいないのに、1年生のあなたが何しているの!』って。周囲からは冷ややかな目でみられていましたね」

当時は、何も言い出せませんでしたが、卒業後、各地で校則の見直しが進んでいることを知り、この“カード指導”はおかしいという思いが強くなりました。

「なんで、ここまで徹底した生徒指導を受けなければいけなかったのか。もう少し自分の考えを聞いてほしかったです。生徒のことを思っているようには思えませんでした」






【実際にあった“カード指導”】




指導記録(イエローカード)



私は、実態を調べようと、岐阜県教育委員会に情報公開請求を行いました。

「イエローカード」のほか、「スタンプラリー」「レベルアップカード」・・・呼び方はさまざまですが、同様の生徒指導が、県立高校63校のうち20校で行われていました。

カードの押印欄


多くの高校で、生徒自身が5人以上の教員を回って、身だしなみのチェックを受け、はんこをもらうための枠が設けられていました。

中には、1週間続けて授業のたびに指導を受けるという高校や反省文を書かせる高校もありました。






【指導の統一をはかる 社会で困らないように】




取材をする吉川記者



高校ではなぜ、“カード指導”を行っているのか。20校すべてに取材しました。

取材の中で、複数の教員が関わることで指導の偏りを無くしたいという意識に加え、地域の住民や企業などからの目が気になるといった意見に多く接しました。




カード指導についての教員の考え1



カード指導についての教員の考え2



“カード指導”はいつごろから行われるようになったのかを聞くと、平成20年以降に広まっていったという回答が多くを占めました。

学校での体罰が問題視される中、生徒たちに校則を守ってもらう有効な手段として、広まったのではないかという意見も多くありました。






【モラルやマナーに“カード指導”はやりすぎでは?】




“カード指導”について生徒指導に詳しい関西外国語大学の新井肇教授に話を聞きました。


新井肇教授
(関西外国語大学 新井肇 教授)


「身だしなみの指導は、社会一般ではモラルやマナーにあたるもので、それに“カード指導”という罰則とも受け止められる指導は、やりすぎだと思う。生徒指導は、ひとりひとりの人格を尊重して、個性を伸ばしながら社会で活躍するための能力を養うもの。画一的な指導で本当にその能力が身につけられるのか」

モラルやマナーは、人によって価値観が異なります。だからこそ、そこに教育の機会があると言います。

「画一的な指導をすると、モラルやマナーに対して、考える機会を生徒や教員ともに失ってしまいかねない。教員は忙しいので、画一的に指導したいという気持ちもわかるが、生徒に本質的な理解を促すのであれば、個別に向き合って話し合うことが必要だ。生徒から納得がいかないという声が上がっているのであれば、生徒や保護者と、この指導が本当に必要なのか話し合うべきだ」

カード指導を実施していない高校にも話を聞きました。

その結果、令和2年度から、“カード指導”を廃止したという高校が、少なくとも3校あることがわかりました。

廃止の理由がこちら。新井教授の指摘がうかがえます。

カード指導を廃止した高校の考え


“カード指導”は本当に必要なのか。もっといい方法はないのか。校則そのものの見直しを進める一方で、生徒指導のあり方についても、一度立ち止まって考えてみませんか?

皆さんのご意見をお聞かせください。









吉川記者の写真

NHK岐阜放送局 記者
吉川裕基
2015年入局
盛岡局を経て岐阜局へ

2021年10月4日“自宅療養者を支えたい”地域医療の取り組み





これまでにないペースで感染者が増えた新型コロナウイルスの第5波。


感染者の増加は岐阜県の想定をはるかに上回り、岐阜県が維持してきた「自宅療養者ゼロ」は崩れました。
自宅で療養せざるを得ない人は、一時、900人以上にのぼり、不安を抱えながら自宅で療養する人の中には入院が必要なほど体調が悪化したケースもありました。
そうした人たちをきめ細かく支えていたのは地域医療の担い手でした。






【一時900人超えの自宅療養】




自宅療養者数のグラフ



岐阜県で初めて自宅療養者が出たのは8月21日。新型コロナの第5波で300人を超える感染確認が相次ぐなど感染急拡大の真っただ中でした。
自宅で療養せざるを得ない人の数は増え続け、1週間後の8月28日には最多の932人に。
その後は感染者が減ったことや病床に余裕ができたこともあって9月19日になんとか“自宅療養者ゼロ”を回復することができました。






【急変の危険と隣り合わせ】




救急車



自宅療養になった人は比較的若い世代で基礎疾患がないなど重症化リスクの低い人たちでした。
しかし、中には家で症状が悪化してしまった人もいて、自宅療養から医療機関に入院した人は24人。そのうち8人が救急車での搬送でした。


医師や看護師がいない自宅では体調悪化の判断や悪化した場合の対応に不安を感じます。
そうした自宅療養者には電話で体調を聞き取り、場合によっては家を訪れて直接ようすを確認したのが地域医療の担い手たちでした。






【支え手@ 医療機関】




オンラインで自宅療養者を診察



県の依頼を受けてはじめに自宅療養者の体調を確認するのが医師です。
岐阜市の「なかうずらクリニック」では通常の診察の合間にオンラインなどで自宅療養者を診察します。
症状を聞き取り、薬の処方が必要かや直接体調を確認したほうがいいかなどを判断します。




後藤院長
(なかうずらクリニック 後藤芳章院長)


「医者として医療のプロとしてちょっとした異常を察知して適宜往診し、これはという人は入院につなげていきたい。軽症の方にも医療の質を落とさないように頑張っていかないといけない。」






【支え手A 薬局】




症状に合わせて薬を用意する薬剤師



薬が必要と判断された人の情報は医療機関から薬局に伝えられます。
症状に合わせて解熱剤やせき止め、吐き気止めなどをそろえます。費用は無料です。
家から出られない人の代わりに、薬を玄関前まで配達します。さらに電話での薬の説明だけでなく、飲み合わせの相談にも応じています。




棚瀬薬剤師
(たなせ調剤薬局 棚瀬友啓 薬剤師)


「薬を届けただけで終わりではなくて、それが効いているのか、よけい悪くなっていないか、その確認も大事なこと。薬に関して不安だったら薬剤師に電話1本いただければ。」






【支え手B 訪問看護】




防護服を着る看護師



手当てが必要と判断された場合は訪問看護ステーションにも連絡が入ります。
医師の指示のもと看護師が家を訪れて直接体調を確認し、点滴や酸素の吸入などを行います。
感染対策を徹底して直接状態をみることで、電話の聞き取りや計測された数字では分からない変化に気づけるといいます。




花村看護師
(元気な訪問看護ステーション 花村美佳 看護師)


「体調の悪さが目に見えてわかる。顔色見ながらそろそろ入院が必要なのではないかという判断も主治医と一緒にでき、早めの対処につなげられる。」






【訪問看護を受けた男性は】




訪問看護を受けた男性



自宅療養を経験した20代の男性です。8月下旬に感染が確認され、約2週間自宅で過ごすことになりました。


感染がわかったあと高熱が1週間ほど続いたうえ、血液中の酸素の値も一時入院が必要とされる93%ほどまで低下し、訪問看護が駆けつけました。


(男性) 「自宅療養で本当に大丈夫なのかと心配もありました。訪問看護の点滴などのおかげでなかなか下がらなかった熱が一気に平熱近くまで下がり、ありがたかった。」


この男性の手当にも携わった看護師はつらさを訴える人の力に少しでもなりたいと話します。


(花村看護師ON) 「見てる側としては本人のつらさがよくわかる。自宅療養で不安を抱えている方々のために私たちができる限りのことをして差し上げたいと思っています。」






【自宅療養者を出さないために】




再び感染が拡大した場合に自宅療養者を出さないためにはホテルなどを県が借り上げて設置する宿泊療養施設の確保が重要です。




宿泊料用施設の部屋



しかし、宿泊療養施設にする時はホテルの通常の営業をやめなければいけません。そのための調整や業務に当たる看護師などの確保も必要で、設置には時間がかかります。
また、感染が収まるといったん宿泊療養施設は閉じられるため、新たな感染拡大の兆候が見られたときの素早い立ち上げも課題です。




保健医療班







【知事会見】






知事会見



自宅療養者がゼロとなった翌日の9月20日の記者会見で、古田知事は人材の確保を速やかに行う体制づくりなど自宅療養のリスクと対応の課題に触れました。


古田知事「自宅療養中に亡くなったりした人はいなかったが、途中で病状が悪化して救急搬送された人や入院された人もいる。自宅療養を実際に経験して改めてリスクを強く感じた。感染状況の急激な変化に対してどのように人材を確保したかについてはいろいろと反省と言いますか、考えたいと思う。」


しかし、人材に限りがある中で医療関係者の努力に頼るだけでは、感染の急拡大に対応できない事態が発生しかねません。 『自宅療養者ゼロ』を続けるために、なによりも、私たち一人ひとりが基本的な感染防止対策の徹底を続けることが重要です。







森本記者の写真

NHK岐阜放送局 記者
森本賢史
2016年入局
金沢局を経て岐阜局へ
県政担当

2021年8月10日不登校の君へ 〜“不登校の子のための”学校〜(前編)







タイトル 学校らしくない学校





皆さん、「不登校特例校」という学校があるのを知っていますか?


不登校の子どもたちの状況に応じて特別な教育課程を編成できる、文部科学大臣が指定する学校で、まだ全国に17校(令和3年7月現在)しかない珍しい学校です。


どんな学校なのだろうか?
先生は子どもたちにどう接しているのだろうか?
そもそも、不登校の子どもたちは学校に来ているのだろうか?


この春、岐阜市に開校した公立の「岐阜市立草潤中学校」に、開校前から密着させてもらうと、私が25年ほど前に通っていた中学校とは何もかも違うばかりではなく、過去に文部科学省担当としてさまざまな学校を見てきた私にとっても、驚くことばかりでした。


そして、校則問題、いじめ、不登校と、さまざまな課題を抱える今の学校に足りないものは何なのかが、少しずつ見えてきました。






【授業中どこにいてもいい!】




教室の様子



草潤中学校に在籍しているのは不登校に悩む生徒たちで、1学年は十数人、全校あわせても40人と少人数制です。


授業内容は通常の中学校とほぼ同じですが、最初に目についたのは、空席が目立つことです。欠席しているのかと思ったら、そうではありませんでした。




保健室でオンライン授業を受ける生徒



生徒の姿を探すと、ある生徒は保健室にいて、タブレット端末を使ってオンライン授業を受けていました。声をかけてみると、人の多いところが苦手で、保健室だと落ち着いて授業を受けられるということでした。




今ここボード



草潤中学校では、「いま、どこにいるか」さえ伝えていれば、たとえ授業中であっても、好きな場所にいていいんです。
生徒たちは、廊下に張り出された「イマここボード」で、自分の名前が書かれたマグネットを動かして、居場所を伝えておくようにしています。




テントのある図書館



授業を、教室で受けても、保健室で受けても、テントやクッションが並ぶ図書室で受けてもOK。図書室では漫画を読んでいる生徒もいました。


まずは、生徒にとって居心地がいい環境を整えようというねらいで、図書室の司書に尋ねてみると、 「生徒たちにとって安らげる場所であるならそれでいいです。生徒が来たら『いらっしゃいませ』、授業に戻るときは『いってらっしゃい』と声をかけます」と返ってきて驚きました。






【ちゃんと7時半に起きられる!】




ピアノをひく生徒



こうした居心地の良さから、学校に通いやすくなったという生徒に会いました。


2年生の、りこさんは、小学校高学年のころ、うわさやいじめ、人間関係に悩んで小学校を休むようになり、中学入学後も登校できない日々が続きました。


草潤中学校に入ってからは、ほぼ毎日登校するようになりました。教室に居づらいときは、音楽室で好きなピアノを弾いたり、体育館でスポーツをしたりして過ごしています。




りこさん



「最初の方は授業受けていなかったけど、最近はちゃんと授業受けているから、自分でも変わったなって。お昼休憩の時に遊べるのが楽しいから行けています」
「ちゃんと7時半に起きるんですよ、毎日。びっくり!」
満面の笑顔で応えてくれたのが印象的でした。






【ちょっと変わった時間割り】




荒木雅教諭の画像



こちらは草潤中学校の時間割り。


まず、始業は9時半とゆっくりめ。朝が苦手だという生徒が多いのと、登校の時に地元の学校の生徒たちに会いたくないという声を受けてだそうです。下校の時間も少し早くしています。


1日の授業数は、一般的な学校より少ない4時間。すべてオンラインでも配信しているので、校内はもちろん、自宅でも授業を受けられます。


もうひとつ、目を引くのが「セルフデザイン」という授業。音楽、美術、家庭科などの実技科目の中から自分の好きな科目を選んで、何をどのようなペースで進めるか、生徒ひとりひとりが自分に合ったカリキュラムを組めるんです。






【1人1人の特別授業も!】




荒木雅教諭の画像



「セルフデザイン」の時間に、刺しゅう作品を作っているのは、3年生のあやねさんです。


裁縫が得意で、洋服を一から作ってみたいという、あやねさんのために、学校が地域のオーダーメード洋品店を招いて、特別授業を行ったこともあるそうです。




荒木雅教諭の画像
(あやねさんの刺しゅう作品)



あやねさんは「前の中学校では、決められたことをやることが多かったので、自分の好きなことができるのはいいなって思います。気にかけてもらえているなって感じるし、あんまり人と話す機会ってそんなに多くないから、うれしいなって思います」と、てれながら笑顔を見せていました。






【ありのままの君を受け入れる】




荒木雅教諭の画像



草潤中学校の校長、井上博詞さんに、現状の受け止めや今後について話を聞きました。


記者
まだ数か月ですが、学校は順調に進んでいますか?


井上校長
生徒40人は、昨年度まで全員が不登校の生徒です。中には1日も学校に登校していない生徒もいました。その子たちが、今、少ない日で全体の6割、多い日で8割が登校してくれています。決して、登校することを求めているわけではありませんが、今まで学校に足を向けることが苦手だった生徒が、学校に行ってもいいかなと思うようになっていると考えると、この学校の向いている方向は間違っていないのかなと感じています。ただ、今も学校に来ていない生徒もいます。1人も取り残さないで受け入れるためには、課題もたくさんあります。


記者
草潤中学校のような、文部科学省が指定する「不登校特例校」は全国に17校あって、どこも個性的です。その中でも、草潤中学校の特徴は何ですか?


井上校長
『ありのままの君を受け入れる、新たな形』をキャッチフレーズにしています。これまでの学校は、子どもたちが、学校のルールに合わせていました。草潤中学校は“学校らしくない学校”をコンセプトに、学校が、ひとりひとりの子どもたちに寄り添って合わせていくことを意識しています。






【義務教育の本当の意味とは?】




荒木雅教諭の画像



草潤中学校の開校にあたって、アドバイザーを務めた、京都大学の塩瀬隆之准教授にも話を聞きました。


記者
開校にあたって大切にしたことを教えて下さい。


塩瀬准教授
不登校特例校の制度を利用することによって、通常1015時間と定められている年間の授業時間数を、4分の3の770時間に抑えられます。そこで生まれる時間的・精神的な余裕で、先生も生徒も、自分自身で授業時間をデザインしてほしいと考えました。


記者
授業をどこで受けてもいいというのは驚きました。その狙いは何ですか?


塩瀬准教授
本来、義務教育というのは、子どもが学びたいと思ったときに、大人が支えることが義務であって、「学校に行きなさい」というものではありません。学校に通えなくなった子どもたちが授業を受けられないというのは、実は間違ったことです。図書室でも音楽室でも、そして家であっても、学ぶための選択肢を作ることを一番重視しました。



(後編は、試行錯誤する先生たちの姿をお伝えします)







岡本記者の写真

NHK岐阜放送局 記者
岡本綾
2005年入局
福井局・社会部を経て岐阜局
社会部では文部科学省担当
2児の母
主に学校・教員への取材を担当



池口ディレクターの写真

NHK岐阜放送局 ディレクター
池口梨乃
2019年入局
おはよう日本を経て岐阜局
主に生徒への取材を担当

2021年8月10日不登校の君へ 〜“不登校の子のための”学校〜(後編)




岐阜市に開校した不登校特例校「岐阜市立草潤中学校」。前編では、生徒たちの姿を通じて、学校のルールや工夫を紹介しました。後編では、先生たちに注目して、新しい学校のかたちを模索する現場をお伝えします。






【何もしない方がいい?戸惑う先生たち】




荒木雅教諭の画像



草潤中学校に着任した先生は26人。校長以下、みな、不登校の子どもたちの支援に関心があり、志願して赴任してきました。


開校を翌日に控えた4月6日。先生たちは、不登校の子どもたちから相談を受け、草潤中学校の「こころの校医」を務める岐阜大学付属病院の加藤善一郎医師から、意外な心構えを投げかけられました。


「先生たちは『こうやろう、ああやろう』といっぱい考えていると思います。そこに水を差すようで申し訳ありませんが、何かやろうと思わないほうがいいです。きのうも、草潤中学校に通うことになる生徒が外来に来ましたが、『あんまりガンガン来てほしくない』と言っていましたし、お母さんもそれを一番心配していました」




荒木雅教諭の画像



意気込んでいた先生たちからは、質問が相次ぎました。不登校の子どもたちの笑顔を見たい、学校に来てほしいという強く思っていた中今純一先生も、その1人です。


「『何に困っているの?』と聞いても話せない、『文字に書いていいよ』と言っても書けないという場面がたくさんあると思います。そういった子どもたちにどう関わっていけばいいのですか?」





荒木雅教諭の画像
草潤中学校の「こころの校医」
岐阜大学付属病院 加藤善一郎医師



「子どもだから、聞いたってわからないのは当たり前です。もしわかっていたら、不登校の問題は8割は解決しているんです。ですから、言えないのが当たり前です」


子どもたちのために何でもしてあげたい。そう思っていた先生たちは、不安やとまどいを持ったまま、開校を迎えました。






【正解がない草潤中学校】


先生たちは、どのように生徒に向き合い、授業を進めているのでしょうか。開校からしばらくたった6月、教室にカメラを入れさせてもらいました。




荒木雅教諭の画像



国語の授業中、生徒が突然、立ち上がりました。

生徒
「先生、スマホ持ってきていいですか?」

先生
「いいよ、LINEも使っていいよ」

隣りの生徒
「ちょっと待っとって!」

生徒2人がいなくなり、教室には先生が1人残されました。生徒は2分後に戻ってきましたが、先生は何事もなかったかのように授業を再開しました。




職員室で話をする先生



授業後に先生に話を聞くと。

先生
「怒ることはないですね。あのときは調べたいことがあるからって言ってました。だからやっておいでって」。


加藤医師に疑問をぶつけた中今先生も、日々悩みながら、生徒たちに向き合っていました。

「これまでの学校とは、かなり違いますね。これまでは、授業中に離席したり、私語が多い時は『おい!』って声をかけるし、何回もやったら『いいかげんにせえよ』って言いますけど、草潤中学校では、絶対に正解っていう対応がありませんよね」






【どんどん変わる!校内ルール】



どうすれば正解なのか。いや、正解に近づけるのか。校内のルールは、生徒に合わせて、どんどん変えています。




荒木雅教諭の画像



前編で紹介した、生徒たちが居場所を知らせる「イマここボード」は、運用開始からわずかなのに、改良を重ねていました。


例えば、先生からの声かけがプレッシャーになってしまうという声が寄せられたことから、1人になりたい、声をかけてほしくないという生徒は、自分のネームプレートの上に、赤いマグネットをはることにしました。


中今先生
「よかれと思って声をかけたものの、その子は声をかけてほしくなくて、しまったなということがありました。これで、少しは避けられるのではないかと思います」






【生徒とどうつながり保つ?】




荒木雅教諭の画像



今も登校していない生徒には、どうつながりを持てばいいのか。


草潤中学校は、こうした生徒とは、放課後、オンラインで面談する時間を設けています。中今先生は、この日、タブレット端末の前で生徒を待ちましたが、つながることはできませんでした。


中今先生
「あとで自宅に電話をして、お母さんと話します。今、生徒を刺激しても、負担になっちゃうだけだと思いますが、放っておく訳にはいきませんので」






【これまでの学校の“当たり前”を変えたい】




荒木雅教諭の画像



草潤中学校の先生たちは、不登校特例校というフィールドで、これまでの学校の“当たり前”を次々と変えようと、試行錯誤を繰り返し、挑戦を続けていました。


「ルールも指導も、これをやったら、絶対続けなくてはいけないということではなくて、どんどんチェンジしていけばいいと思っています。まだ正解はわからないので、生徒たちにとっていいな、いいだろうなって思ったことは、どんどんやっていきます」






【試験はある?生徒の評価は?】


草潤中学校に密着して、疑問や感じたことを、井上博詞校長と、開校にあたってアドバイザーを務めた京都大学の塩瀬隆之准教授に聞きました。




荒木雅教諭の画像



記者
高校進学を考えている生徒もいると思いますが、テストはあるのですか?どのように生徒を評価するのですか?


井上校長
高校への進学を希望する生徒もいますし、進学も可能です。ただ、今のところ草潤中学校には定期テストはなく、どのように評価していくか、現在進行形で考えているところです。
5段階評価をしてほしいという生徒もいますし、頑張ったことを記述式で書いてほしいという生徒もいます。1人1人、生徒や保護者の希望を聞きながら、検討していきます。40人の生徒がいるので、40通りの通知表ができると思います。






【不登校特例校は“甘え”ではない】



記者
草潤中学校では、自由に授業を受けることができると思いますが、将来、社会に出ることを考えると、大丈夫なのかなとも感じてしまいました。


塩瀬准教授
世間から“甘やかしている”と言われることも想定されますが、それは間違いです。
大人は、自分の今の居場所が苦しければ、違う場所を選べばいいし、そのための方法を知っています。しかし、子どもたちは、小学校や中学校が、世界のすべてだと思っています。そこでうまくいかなかった時に、自分を責める以外に方法がないのです。草潤中学校のような、自分を認めてくれる場所、そのままで大丈夫だという場所があるということを知ることが大切で、それがすでに、子どもたちの力になっていると思います。
大人になって社会を進んでいくときにも、場所さえ選べば、自分を守ってくれたり、自分を見てくれたりする人がいることに気づいてほしいです。


記者
不登校特例校である草潤中学校が、今後、どんな存在になってほしいですか?抱負はありますか?


塩瀬准教授
「不登校特例校」という名前が無くなればいいと思っています。このような学校が、全体の51%を占めれば、これが“当たり前”になるんです。すべての学校が、草潤中学校みたいだと言われるのが理想ですね。


井上校長
草潤中学校では、たった40人の生徒しか受け入れられません。培ったノウハウを、他の学校に示して、不登校に悩む子どもたちに生かすことも私たちの責務だと思っています。



先生も生徒も忙しい今の学校。
学校の常識をイチから見直し、生徒1人1人に向き合うことに全力を注ぐ草潤中学校の先生たちの姿に、学びの原点があると感じました。
草潤中学校の挑戦を今後も見守っていきたいと思います。







岡本記者の写真

NHK岐阜放送局 記者
岡本綾
2005年入局
福井局・社会部を経て岐阜局
社会部では文部科学省担当
2児の母
主に学校・教員への取材を担当



池口ディレクターの写真

NHK岐阜放送局 ディレクター
池口梨乃
2019年入局
おはよう日本を経て岐阜局
主に生徒への取材を担当

2021年8月2日“子どもにライフジャケットを!”川の水難事故から命を守るために




岐阜県で記者をしていると、このシーズン、警察から頻繁に入ってくるようになる悲しい報道発表があります。

川での水難事故です。

ことしも子どもたちが夏休みに入りました。川に出かける前に、改めて、川の怖さや必要な対策について考えませんか。






【息子を亡くした母親の訴え】


「事故は予防できる。子どもを守ってほしい。川で遊ぶ時はとにかくライフジャケットを着てほしいです」

ことし6月、岐阜市の岐阜聖徳学園大学で、教員を目指す学生たちに、特別講師として招かれた吉川優子さんが訴えました。




椅子座る笑顔の吉川慎之介くん
吉川慎之介くん (画像提供:吉川優子さん)



吉川慎之介くん。(当時5歳)

心優しい一人息子でしたが、9年前の平成24年の夏、愛媛県西条市で行われた幼稚園の宿泊行事の際、川に流されて亡くなりました。

慎之介くんにとって、はじめて親元を離れて泊まる日でした。吉川さんは、慎之介くんが1人で寝られるのか心配で、毎日、「一人で寝られる?大丈夫?」と話しかけていました。

出発の日は、夫は出張で不在。慎之介くんは、自宅で1人でいることになる吉川さんに「1人で大丈夫?」と声をかけたそうです。

吉川さん
「気を遣ってくれたのは慎之介の方でした。優しい子でした」

そして、慎之介くんは、お父さんのまねをして「しゅっちょう、いってきます」と言って、吉川さんと別れました。

それが、最後のことばとなりました。




吉川さんの写真



吉川さん
「幼稚園を信頼して、安全は当たり前にあるものだと思っていました。慎之介も周囲の大人を信頼して遊んでいたと思います。なんで慎之介が死んでしまったのか。なぜ安全対策がとられなかったのか。とにかく再発防止に動かないといけないと思いました」






【ライフジャケットは“川のシートベルト”】


慎之介くんを含む子どもたちは、ライフジャケットを身につけずに川で遊んでいました。

吉川さんは、同じように子どもを失った遺族や専門家などと連携して、ライフジャケットの着用徹底を呼びかけ続けてきました。




ライフジャケットを整備した西条市
(画像提供:西条市)



事故が起きた西条市は、その後、市が無料でライフジャケットを貸し出す取り組みを始め、水辺で行われる学校行事では、子どものライフジャケット着用を義務づけました。

慎之介くんを失ってから9年。当時に比べて、ライフジャケットをつける人は多くなりましたが、今も全国各地で行われる講演などで、訴え続けています。

吉川さん
「ライフジャケットを着るのは面倒だと思うかもしれませんが、着ることで自然を思いきり楽しむことができるんです。“川のシートベルト”と思って、ライフジャケットを着てほしいです」






【子どもの水難事故死 「河川」が最多】


川よりも海の方が、亡くなる人が多いのでは?そう思う人もいると思います。


川での水難事故などを研究する河川財団が、平成15年から去年までの18年間で、亡くなったり行方不明になったりしている中学生以下の1020人について分析したところ、「河川」が47.8%と半数近くを占めていました。2番目に多い「海」の22.9%の2倍以上です。ちなみに、湖や沼が13.2%、用水路が9.3%、プールが5%と続いています。




真水で浮き方
(画像提供:河川財団)



なぜ、川は危ないのか。

「流れがある」というのが大きな理由ですが、海と違って「真水である」というのも大きな要因です。

河川財団によりますと、人が真水に入って何もしなかった場合、体のわずか2%程度しか水面より上に出ない計算になるということです。

常に流れがある川で、鼻と口を出すのは至難の業です。助けを求めて大声を出すと、肺の空気が抜けて、さらに浮力を失い、浮きにくくなるということです。




ライフジャケットを使用した時の浮き方
(画像提供:河川財団)



そんな危機的な状況を救ってくれるのがライフジャケットです。正しく着用すれば、頭部を水面より上に出すことができるということです。






【川のリスクを知って欲しい】


ライフジャケットはもちろん、川や海についての安全教育を強化すべきだと訴える専門家が、岐阜県にいます。




稲垣良介教授の画像



川で慎之介くんを失った吉川さんと、水難事故防止の研究を続けている岐阜聖徳学園大学の稲垣良介教授です。稲垣教授も、中学校の教諭時代に、生徒が水難事故にあった経験があります。




ライフジャケットに対する理解
(画像提供:吉川慎之介記念基金)



ことし5月、全国の小中学生の保護者560人余りを対象に、ライフジャケットについて尋ねたところ、効果について、子どもに「教えられる」「やや教えられる」と答えた保護者は63.2%でした。一方で、正しい着用方法については27%、正しい救助の待ち方については20.3%にとどまりました。




河原でライフジャケットをつける生徒



稲垣教授が授業づくりに携わる岐阜県中津川市の付知中学校では、毎年、夏を前に、目の前を流れる川で授業が行われています。


まず教わるのは、ライフジャケットの付け方。

  チェック@破れはないか。
  チェックA緩みはないか。
  チェックB股下のベルトは必ず着用。




ライフジャケットをつけて川に入る生徒たち



次は、消防隊員と川に入ってリスクを知ります。

  リスク@速い水の流れ。
  リスクA低い水温。
  リスクB滑りやすい川底。
  リスクC急にある深み。


子どもたちが、川のリスクを体感しながら、ライフジャケットの大切さを学ぶのです。


稲垣教授
「学校では、泳ぎ方を詳しく教える傾向にありますが、川や海のリスクについて丁寧に教える授業は少ないのが現状です。リスクやライフジャケットの装着方法など、子どもの命を守る知識をつける指導をすることが大切です」


もうすぐお盆。大人も夏休みを迎えて、家族で川に足を運ぶ人が増える時期です。川の恐ろしさをきちんと知り、必ずライフジャケットを着用して、川遊びを堪能してください。


ことしの夏は、水難事故の報道発表がないことを心から願っています。







吉川記者の写真

NHK岐阜放送局 記者
吉川裕基
2015年入局
盛岡局を経て岐阜局へ

2021年7月26日コロナ禍でも工夫して救命講習会




高田さんの画像



ことし1月、多治見市のコンビニエンスストアで買い物をしていた高田昇さんが突然,意識を失って倒れました。

高田さんを見つけた2人の店員が心臓マッサージやAEDを使用したことで高田さんは一命を取り留めました。




岡田さんの画像



店員の岡田遼真さんは「同僚が防犯カメラの映像で高田さんを見つけ、これは動かなければやばいと思った」と振り返りました。

岡田さんは中学、高校、さらには1か月前の自動車学校でも救命講習を受けていました。

「講習で心臓マッサージの強さや人と協力する方法が頭に入っていた。ただでさえ焦ってしまうので繰り返し学ぶことが大切だと思います」と救命講習の大切さを訴えます。







【感染拡大で大幅減 コロナ禍での活動に課題も・・・】


これまで心肺蘇生やAEDの使い方の講習会の多くを担ってきたのが消防です。

しかし、新型コロナの感染防止のため、講習会の中止が相次いでいます。

NHKが岐阜県内20の消防本部に去年1年間の講習の実施状況を取材した結果、おととしと比べると受講者は2万3422人から4748人に減少していました。




講習会中止一覧の一部



ことしに入ってからも影響が続いています。

多治見市消防本部では、4月から6月にかけて学校や企業などからあわせて1000人以上が講習を受ける予定でした。

しかし、県独自の非常事態宣言やまん延防止等重点措置でイベントが開けなくなりほとんどが中止に。

多治見市消防本部の担当者は「救命講習の受講自体をためらわれる状況は肌で感じている。繰り返し受講することが大事だが、それすら困難になっている」と話しています。






【コロナで救命措置に影響が】




心肺蘇生講習の様子



講習だけでなく、実際の救命処置にも影響が出ているという研究も出ています。

京都大学などのグループが大阪市で、病院の外などで心臓が止まった人のそばに居合わせた人の行動を分析。

その結果、去年はおととしと比べて心肺蘇生を実施した人は41.3%から33.0%に、AEDを実施した人は6.1%から2.9%にそれぞれ減少しました。




京都大学健康科学センターの石見教授の画像



京都大学健康科学センターの石見拓教授は

「コロナウイルス感染症が広がって他人に触ることのためらいだとか、非常に重要な心停止の人に対する救命処置、AEDの利用が減ってしまっていることを示唆している」

「マスクをそのまま付けておくとか、ハンカチで覆うということで、リスクはかなり減らせる。感染のリスクが非常に低いということを知っていただく必要がある」と訴えます。






【自宅で一緒に!オンライン講習会も】




自宅でのオンライン講習会の様子



各地で救命講習が中止となる中、日本AED財団が去年4月からオンライン講習会を始めました。

座布団など身近なものを使い、受講者からの質問にもオンラインで救命医が答えます。

これまで対面での講習に参加が難しかった小さな子どもがいる家庭などから参加も増えていて、オンラインならではの手応えを感じています。




日本AED財団減らせ突然死プロジェクト実行委員会の本間医師の画像



日本AED財団減らせ突然死プロジェクト実行委員会の本間洋輔医師は

「いままで制約があって参加できなかった人たちに参加をする機会をつくることができた。学ぶ場が減っているというところをいかに僕たちがカバーできるのかがすごく大事になってくるかと思っています」と話していました。






【命を守る方法を伝え続けたい】




学校の授業で救命講習を行う荒木雅教諭






コロナ禍の中でも、救命処置の方法を伝え続けている教員がいます。

岐阜市立長良東小学校の荒木雅教諭は心肺蘇生の方法などを教えられる「応急手当普及員」の認定を消防から受けていて、学校の授業で救命講習を開いています。

取材をした6月には6年生が体の仕組みを学ぶ理科の授業で救命処置の方法を交えて教えました。

6年生はことし3月にも救命講習を受講しています。荒木さんは、繰り返し教えることでいざという時に命を救える技術を身につけてもらいたいと考えています。




荒木雅教諭の画像



岐阜市立長良東小学校の荒木雅教諭は

「研修を繰り返し受けることが、いざという時に人がパニックにならず、冷静な判断をしていける唯一の方法かなと思います」と話していました。

人との接触に慎重になりがちな今、命をつなぐための知識や技術を学ぶ機会が減っています。

各地の消防本部への取材では、オンラインを活用した講習会もノウハウがないため、実施するのが難しいといった声も多く聞かれました。

感染の収束が見通せない中で、救命の技術を多くの人に伝えていくための機会を確保することが求められています。







吉川記者の写真

NHK岐阜放送局 記者
吉川裕基
2015年入局
盛岡局を経て岐阜局へ

2021年7月15日生活を脅かす床下浸水




全壊、半壊、床上浸水、床下浸水…。水害による住宅の被害には、さまざまな程度があります。全壊や半壊は、住民が犠牲になるケースも少なくなく、よくニュースで見聞きすると思います。

一方、「床下浸水」には、どのようなイメージを持っていますか?庭の泥かきが大変そうだな、くらいでしょうか。

いいえ、違います。床下浸水を侮らないでください。

去年7月、岐阜県内に大きな被害をもたらした豪雨では、およそ300棟の住宅が床下浸水の被害を受けました。あれから1年、床下浸水は、住民たちの生活を脅かしていたことがわかりました。






【1年前の悲劇】



昨年の豪雨の様子



去年7月8日、下呂市に大雨の特別警報が出され、豪雨に見舞われました。

松田輝和さん(73)と妻の和子さん(69)の住宅は、床下浸水の被害に遭い、敷地から雨水が滝のように流れ落ちるほどでした。

近くの山で土砂崩れが発生して、土砂が住宅に面する水路にたまり、あふれ出た大量の雨水が松田さんの住宅に押し寄せたのです。


松田輝和さんと和子さんの写真



和子さん「浸水するなんて想像していませんでした。こんなことは初めてです」


輝和さん「自分のところに限って、まず来ないだろうと思っていたのに、来てしまったのがショックでした」






【復旧にかかった手間と費用】



床下まで水につかった写真



水かさは床下でとどまり、床上の家具などが水につかることはなく、ひとまずは胸をなで下ろしました。

親戚や近所の人たちの力も借りて、庭などは掃除できましたが、床の下をのぞいた輝和さんは、がく然としました。

泥が入り込んだ床下



床下まで泥が入り込んで、全体が泥に覆われていたのです。掃除したくても、狭くて作業できず、業者に依頼。床に3つの点検口を開け、泥を出してもらいました。こうした復旧工事に、およそ30万円かかりました。


庭に置いてあったボイラーも水につかって故障。新品に買い替えざるを得ず、60万円以上かかりました。


さらに、再び水害が起きた時に少しでも被害を抑えられるよう、敷地のまわりに塀を作り始めています。およそ250万円かかる見込みで、床下浸水の復旧や対策工事にあわせて300万円以上かかる計算です。


床下浸水で保険金が支払われるケースは少なく、高齢の松田さん夫婦には、市から10万円の支援金が支払われたのみでした。


輝和さんの写真



輝和さん「いくらかかるんだろうと不安でした。本当に痛い出費でしたけど、しかたないことだと割り切るしかありませんでした」






【床下浸水で失ったお金より大事なもの】



水につかった輝和さんの家庭菜園



収穫を間近に控えていた輝和さんの家庭菜園は、10年ほど前、今は亡き義理の父親のすすめで耕したものでした。

その後も、親戚から農業を教えてもらいながら、家族のために無農薬栽培にこだわって、トマトやナスなどを作ってきました。

その思い出の家庭菜園がすべて根こそぎ流されてしまい、再び耕せずにいます。

輝和さん「いろんな人たちに教えてもらいながら育てて、けっこうノウハウが身についてきたところでした。床下浸水でいろんなものを失って、ショックは大きかったです」

和子さんが育てた花の写真



和子さんは、25年ほど前から手入れしていた花壇を失いました。

ガーデニング仲間と交流する中で、もらった花を植えて、充実させていきました。

毎年、色とりどりの花を咲かせる花壇は、仲間たちからも評判で、和子さんの自慢でした。

和子さん「いろんな花が毎年咲くように手入れしていました。ことしもきれいに咲いたと思ったら全滅。床下浸水でひどいことになって、もう諦めました」

花をみる和子さん



一度はガーデニングを諦めましたが、ことし春、花壇のあった場所から、かつて育てていた花が芽を出しているのを見つけました。

種が残っていたとみられ、今、大切に育てています。

和子さん「普通、泥かきまでしたら無くなっちゃうのに、強いですよね。被害を受けても、この花のように強く生きたいと感じさせられました」






【床下浸水を防ぐには】



浸水が予想されるときの行動



自宅に床下浸水のリスクがあるかどうかは、市町村のハザードマップを見ればわかります。まずは、あらかじめ自宅の浸水リスクを把握してください。


大雨が降って、水が入ってきそうな場所には、土のうや水のうなどを置いて、水の侵入を防ぐのが有効です。できるだけ、雨が降る前に準備して下さい。


屋外や半地下にあるものは、被害を受けやすいです。避難に必要なもののほか、貴重品や大切なものは、高いところに場所を移しておきましょう。


車も浸水すると故障します。高い場所にある駐車場などに、避難させることも検討して下さい。






【床下浸水した際の注意点】



床下浸水したときの行動



床下浸水してしまった場合の注意点です。


被災者の支援団体によりますと、床上に被害がないからと放っておくと、湿気やカビで基礎が劣化するほか、カビで健康被害が出るおそれもあるということです。早めに対応して下さい。


片づける前に、被害の状況を写真などで残しておくことも大切です。り災証明などの手続きをスムーズに行えるようになるということです。


被害に遭っているかどうかわからなかったり、対応に困ったりしたら、まずは自治体に相談するようにして下さい。







吉田記者の写真

NHK岐阜放送局 記者
吉田紘生
2020年入局
岐阜局が初任地
警察・司法を担当

2021年7月7日シートベルトが救った命 事故から身を守るには




「本当に生きた心地がしなかったです。シートベルトをしてなかったら今話せてないかもしれないし足がなくなったかもしれないと思うと怖いなと思いますね。」


ことし5月、岐阜市内で車が横転する事故にあった男性の言葉です。男性の命を救ったのは交通安全の基本の基、シートベルトでした。





【県内で交通死亡事故急増 事故の内訳は】


車の性能向上などで、年々減ってきている交通死亡事故。6月27日時点のデータで、去年の同じ時期と比べて全国では13%、愛知県では34%、死亡事故が減少しました。
しかし、岐阜県では29人が死亡と去年より7人、32%増えました。7人の増加は全国でもワースト2位です。(岐阜県警察本部のまとめ)
29人のうち55%の16人は車に乗っている時の事故で、去年よりも5ポイント増えていました。
中でもシートベルトをしていないケースが目立ちます。

交通死亡事故での死者数の円グラフ



死亡した16人のうち8人はシートベルトをしていませんでした。警察の分析ではこのうち7人はシートベルトをしていれば被害が軽減され、命を落とさずにすんだとみられています。
特に体が車外に投げ出されてしまった事故ではシートベルトに大きな効果があったとみられています。






【シートベルトに救われた命】


「生きた心地がしなかった」と語ってくれたのは岐阜市の奥村恭生さんです。

奥村さんの顔写真



ことし5月、仕事から帰宅する途中、岐阜市の道路で車が横転する事故にあいました。
「左車線を走行していて、駐車場から車が1台「止まれ」っていうのを止まらずに出てきたので、回避するためにハンドルを右に切ったら中央分離帯を越えて反対車線で横転しました。」

事故当時の車



車は横転し廃車になるほど壊れましたが、シートベルトをしていた奥村さんは右腕をすりむいただけでした。
「現場検証した警察の方も “こういう事故でこれだけ無傷なのは奇跡的ですよ” って。面倒くさくてもシートベルトはしたほうがいいっていうのを皆さんに言いたい。」


事故を担当した警察官によると、シートベルトをしていなければ体ごと車外に投げ出されていた可能性が高く、最悪の場合死亡していた可能性もあったといいます。






【シートベルトの着用率は?】


ことし、乗車中の交通事故で亡くなった16人のシートベルトの着用率は運転手が60%、同乗者は45%でした。(6月27日時点)
一方、JAF・日本自動車連盟が去年行った調査によりますと、県内の一般道では運転手は98%、同乗者では73%が着用していました。死亡事故のケースでは平均と比べて着用率が低いことがわかります。
また、JAFの調査によりますと
平成20年に着用が義務化された後部座席では50%しか着用していませんでした。






【事故の衝撃を体験! 必ず着用を】


なんとかシートベルトを着用してほしい。警察は多くの人が訪れる日曜日のサービスエリアで交通安全を呼びかけるイベントを開きました。

衝撃を体験できる装置



登場したのは時速5キロで衝突した際の衝撃を体験できる装置。多くの人たちが衝撃の大きさを体験しました。



衝撃を体験する斎藤記者



記者も体験。ゆっくりとした動き出しに油断していると、衝突の瞬間、首や肩に想像以上の大きな衝撃が。シートベルトをしていなければ体が投げ出されていたかもしれないと感じました。早歩き程度の時速5キロでこの衝撃。実際の事故の衝撃を想像すると恐ろしいほどでした。





今尾課長補佐



岐阜県警察本部交通企画課
今尾和浩 課長補佐
「事故はいつ起こるかわからない。こういった体験でシートベルトの大切さ知って、常に着用してほしい。」






【“交通安全はじめの一歩” 着用のポイントは】


事故から命を守るシートベルト。正しく着用することでより効果が期待できます。肩や腰を押さえるように着用し、ベルトを緩めすぎたり、リクライニングを倒しすぎたりしないようにしてください。




たったの数秒の手間で命を守るシートベルト。少しの距離でも、後部座席でも、面倒だと思わずに必ず着用してください。







斎藤記者の写真

NHK岐阜放送局 記者
齋藤恵実 
2019年入局
岐阜局が初任地
警察・司法を担当

2021年6月21日岐阜大学馬術部 失った愛馬を胸に




「朝来て、元気な馬を見て、おはようってあいさつして、けがも病気もなく、運動もできる。その日常が続けばいいな」

70年以上の歴史がある岐阜大学馬術部から、突如、平和な“日常”を奪ったのは、去年6月にきゅう舎で起きた火事でした。





【すべてを奪った火災】

きゅう舎の様子



去年6月23日の未明、馬術部で、当時3年生だった紙野瑞希さんは、友人からの連絡で目を覚ましました。

「きゅう舎が燃えてる!」

何かの冗談では?と思いつつ、自転車を走らせました。現場で目にしたのは、炎を上げて激しく燃えるきゅう舎。愛馬を助けようときゅう舎に駆け寄りますが、規制線が張られ、近づくことは許されませんでした。

「馬を外に出さなきゃって思ったんですけど、消防の人に止められてしまって。その後は、燃えてる音と暗い中できゅう舎だけが明るく浮かび上がってる状況だけを覚えています。」

飼育していた4頭が犠牲になり、馬術部から、ひづめの音が消えました。老朽化した設備の漏電が原因とみられています。





【失った愛馬】

紙野さんが担当していた馬ラプルーズの写真



紙野さんが、世話や練習の担当をしていた7歳の雄、「ラプルーズ」も犠牲になりました。

大学入学後に馬術を始めた紙野さんにとって、初めての相棒だったラプルーズ。競走馬を引退したばかりで、初心者の紙野さんとは“新人ペア”で毎日練習に励み、心を通わせていきました。

甘えん坊な性格。真面目に練習に取り組む姿。地面に鼻をうずめる個性的な寝相。すべてを愛しく感じていました。

「かまってかまってっていう感じで、ずっと人の後ろついてきて、すごく甘えん坊なところがかわいかった。」

入賞メダルと馬の写真



大会では、息の合った競技で入賞したことも。もっともっと、きずなを深めて、上位を目指したい。そんなさなかの火災でした。

「本当に何をしていけばいいんだろうっていう気持ちでいっぱいでした。完全に無というか、何もない状況でした。」

突然奪われた日常。部員を支援しようという乗馬クラブに誘われて、馬に乗ることはありましたが、なかなか前を向く気持ちになれず、部活の将来も見通せませんでした。





【新たな相棒との出会い】


そんな馬術部と紙野さんに転機が訪れたのは、ことし1月。交流のあった乗馬クラブなどから譲り受けた馬2頭を、大学に迎え入れることができたのです。

馬の顔の写真



紙野さんの新しい相棒になったのは、「ゼンノトライブ」。ラプルーズと同じ若い雄ですが、ラプルーズと打って変わって、気まぐれな性格。うまく乗ることが出来なくてつらい時は、ラプルーズを待ち受け画面にしているスマートフォン眺めました。

「ラプルーズとの練習も、最初は全然うまくいきませんでした。ゼンノトライブとの練習がうまくいかなくて、どうしたらいいんだろうっていう時、“君の時もそうだったよね”って。頑張らなきゃっていう時にラプルーズに応援してもらっていた。」





【遺品はあの日のまま】

ラプルーズのてい鉄の画像



紙野さんは、ラプルーズが火事の時に履いていたてい鉄とはみを、大切に保管しています。火事のあと、部員たちでなきがらを運び、分け合いました。

火事のことは忘れたいけど、忘れてはいけない。あえて磨き上げずに、灰やすすがついた当時のまま、保管しています。

「明日も頑張ろうねって声をかけて帰ったのが最後でした。馬に触れられて乗れる環境が、当たり前じゃないということに、失ってから気づいて、今ある時間をすごく大切にしようって思うようになりました。」

馬術部の活動は主に朝ですが、ラプルーズ以上にゼンノトライブと顔を合わせようと、帰りが遅くなっても、きゅう舎に立ち寄っています。新しい相棒には、事故や病気なく、できる限り長生きしてほしい。毎晩毎晩、体調に異変がないか、気にかけています。





【2頭の馬とともに】

馬に乗った紙野さんの写真



あれから1年。

紙野さんは、インタビューの終盤に、冒頭のことばをつぶやきました。

「朝来て、元気な馬を見て、おはようってあいさつして、けがも病気もなく、運動もできる。その日常が続けばいいな。」

失った愛馬と、巡り会った相棒。

紙野さんは、2頭の馬とともに、前を向いて歩き始めています。







斎藤記者の写真

NHK岐阜放送局 記者
齋藤恵実 
2019年入局
岐阜局が初任地
警察・司法を担当

2021年6月10日水害と感染“ダブルリスク”にどう備えるか




橋の画像と畳の部屋の画像



避難指示が出されたので、急いで近くの避難所に行こう。でも、避難所が満員で入れない!−−−去年の大雨の際、県内で実際に起きたことです。新型コロナウイルスの感染対策で、避難所の定員を大幅に制限していたことが主な原因でした。

NHK岐阜放送局では、5月末時点の全自治体の避難所の定員を調査。 その結果、6割の自治体で、定員が半数以下になっていたことがわかりました。 新型コロナウイルスの収束が見通せない中でことしも大雨のシーズンを迎え、水害のリスクと感染リスクの“ダブルリスク”からどう命を守ればいいのか、取材しました。





【雨降る真夜中の“再避難”】

和室の画像



去年7月8日の午前2時半、下呂市は全域に避難指示を発表。 市中心部の「下呂市民会館」には、周辺に住む多くの人が避難し、満員になりました。 それでも避難しようと多くの人がやってきて、およそ100人が、強い雨が打ち付ける中、1キロ以上離れた「交流会館」への“再避難”を余儀なくされました。


「下呂市民会館」は、新型コロナウイルスの感染対策として、避難者どうしの間隔を確保するなどした結果、避難所の定員がおよそ4分の1の110人に削減されていました。
市の担当者は、当時の取材に対して「想定していなかった。本来ならこんなことはないが、コロナ禍でやむをえなかった」と話していました。





【各地の避難所の定員は? 全市町村取材】


コロナ禍での避難の課題を突きつけた、去年7月の豪雨災害。

感染の収束が見通せない中で、ことしも大雨のシーズンを迎えました。去年の下呂市のようなケースは、どこでも起こりえるのではないか。NHK岐阜放送局は、5月末に県内すべての42市町村に、避難所の定員について取材しました。

国内で感染が確認される前の令和元年と比較したところ、6割の自治体で50%以上定員を削減、つまり定員が半分以下になっていたことがわかりました。

感染対策後の避難所の定員



中でも、養老町、羽島市、飛騨市は、定員を75%以上削減していました。避難所での感染を防ぐため、避難した人どうしの距離を十分に確保したためでした。

従来の避難所の定員が制限される中で、各自治体では、地元の大学や企業などと協定を結び、新たな避難先を確保しようという動きも活発になっています。

その一方で、そうした施設が地元になく、「確保には限界がある」という声も多く聞かれました。





【新たな避難のかたち 分散避難とは】

避難所の定員が大幅に削減される中で、私たちは、どう準備をして避難すればいいのでしょうか。

水害からも感染からも身を守る「分散避難」という、コロナ禍の避難の考え方があります。「避難=避難所に行く」ではなく、安全が確保されたさまざまな場所に避難するという考え方です。

避難所運営などに詳しい、東京大学大学院の松尾一郎客員教授に聞きました。

分散避難の説明画像






【ハザードマップを確認】

洪水のリスクを知るためには、まず、ハザードマップの確認が必要です。「自治体名 ハザードマップ」などと検索して、自治体のサイトなどで確認しましょう。





【家族や親戚などと日頃から連絡を】

感染が収束していない中で、とっさに避難するのには抵抗もあるかと思います。
分散避難のフローも参考にして、日頃から避難できる場所を確認しておきましょう。

自宅が安全ならば、自宅にとどまり、備蓄はしっかりと。
安全なところにある親戚や知人の住宅なら、あらかじめ話し合っておく必要があります。





【車中泊はエコノミークラス症候群に注意】

安全な場所での車中泊も選択肢として考えられます。
ただ、長時間同じ姿勢でいるとエコノミークラス症候群になり、体調を崩す恐れがあるので、定期的な運動や水分補給、換気などを心がけてください。





【危険迫る場合は ためらわず避難!】

判断に不安がある場合、危険が差し迫っている場合には、ためらわずに、安全な場所や避難所に避難してください。



松尾一郎客員教授



東京大学大学院 松尾一郎 客員教授



「避難とは、危険なところから安全なところへ一時的に逃げることなので、避難所に行くことだけが避難ではない」

「災害のリスクとコロナ感染のリスクという“ダブルリスク”から逃れるために、行政は市民に対して、どこが感染対策をした避難所で、定員をどれだけ減らしているのか、別の場所に避難する“分散避難”の考え方について周知しておく必要がある」

「市民は、ハザードマップで、自分たちのいるところの浸水や土砂災害のリスクを確認した上で、自宅にとどまったり、親戚や知人の家に避難したりすることも含めて、いつ、どこに避難するのか、家族で話し合っておくことが命を守る行動につながる」

ことしは、例年より早く梅雨入りして、すでに県内でも警報級の雨が降り、一時、避難指示が出された地域もあります。

新型コロナウイルスの感染の収束も見通せない状況で、洪水からも感染からも身を守るために、「分散避難」を理解して、自分にとって最適な避難行動とはなにか、落ち着いた時間に考えて、備えてください。







吉川記者の写真

NHK岐阜放送局 記者
吉川裕基 
2015年入局
盛岡局を経て岐阜局へ
盛岡局では、東日本大震災後の
被災地の課題を幅広く取材
去年7月の豪雨災害では下呂市で取材
わが家は在宅避難の予定

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