クローズアップ現代

毎週月曜から木曜 総合 午後10:00

Menu
No.26

“奨学金破産”の連鎖で一家破産!?

奨学金を借りている大学生は今や2人に1人。しかし、奨学金を借りても返せない人が増加、自己破産にまで追い込まれるケースが累計1万件以上にのぼっている。
親に頼れず、あるいは親に迷惑をかけずに学びたいと借りたはずの奨学金。なぜ、社会のスタートラインに立ったばかりの若者たちが「自己破産」という重い十字架を背負うことになってしまうのか。
当事者たちの声を聞いた。

photo

「学校に通うには、奨学金に頼るしかなかったんです」

仙台で保育士をしている美香さん(仮名・29歳)。今年、奨学金600万円(高校・大学)を返す目処が立たなくなり、破産申告を行った。
「まさか奨学金で破産するなんて思いもしませんでした。」
美香さんはため息をつく。
子どもが大好きで、保育士になることを夢見てきた美香さん。しかし、高校時代に父親の事業が失敗し、大学進学どころか、日々の生活さえ困窮していった。将来の夢を諦め、自分が働いて家計を支えるしかないと考えていた美香さんに、高校の教師がさとした。
「奨学金を借りれば進学も可能だよ」
美香さんは、夢をあきらめなくてもいいんだ、と知って、奨学金を借りて保育士の資格をとれる大学に進学することを決めた。
美香さんは、家計を支えるため、昼は働いて、夜に大学に通うという生活を送った。少しでもお金を節約しようと、成人式の時、友達が綺麗な振袖で着飾っていても、美香さんだけは一人普段着だった。

「奨学金を返したくても、返せない…非正規の仕事しかないんです」

無事に保育士の資格をとり卒業できた美香さん。しかし、公立の保育園に就職できたが、非正規の枠で雇われたため、月給はおよそ14万円。家賃や光熱費などを支払うと、ほとんど手元には残らない。そこに待ち構えていたのが、月々5万円という奨学金の返済だった。美香さんは奨学金の支払が猶予される制度を使って、支払いを延期していたが、非正規の仕事を続けても年収は一向に上がらず。
「奨学金を返せる目処が立たない。返したくても、返せない。」
美香さんは追いつめられていった。当時、美香さんには結婚を約束した恋人がいた。しかし、このままでは多額の奨学金によって相手にまで迷惑をかけてしまうことを怖れ、婚約も破棄する決断をした。卒業してから7年目のことだった。
自己破産をするしかないのか…。しかし破産をすれば、クレジットカードを作ったり、家や車のローンを組んだりすることができなくなる。美香さんは、悩み抜いた末、破産という道を選ぶことにした。29歳の春のことだった。
「借りたものは返すのが当たり前だというのはわかっています。私もずっと悩み続け、家族と何度も話しあいました。でも、これしか私には道がなかったのです。」

photo

本人の破産で終わらない 破産連鎖の衝撃

しかし、不幸はこれで終わりではなかった。美香さんが破産をすると、奨学金の連帯保証人となっている父親に、奨学金の支払いを求める請求が移るのだ。奨学金制度では、本人が破産をすると、連帯保証人や保証人になっている親や親戚に返済が求められる仕組みとなっている。家族に破産が連鎖することを防ぐには、機関保証の仕組みで、一定の保険料の納付を続ければ、本人が破産すればいったん、肩代わりしてもらえる仕組みもある。
しかし、奨学金の給付額が実質、減ることになることや、制度をそもそも知らない学生も多く、利用している人は少ない。
そもそも、奨学金は親の経済力に頼れないから借りるものだ。美香さんの親も失業していた。その親に返済が移れば、破産は避けられない。
「父親を巻き込むことになるなんて…。」
美香さんは言葉を失っていた。しかし、それでも終わりにはならない―。父親が破産すれば、いずれ、保証人をしている親戚の叔父へ、請求が届くことになるのだ。

なぜ増える?奨学金破産

奨学金を借りても返せないという人が今、増えている。奨学金を滞納している人は32万人に上り、増加の一途をたどっている。奨学金の問題に取り組んできた、労働者福祉中央協議会の事務局長花井圭子さんは、その背景には、大学授業料高騰と非正規社員の増加があると指摘する。
「大学の授業料が高騰する一方、親の平均年収が減少し、仕送り額も減少している。そのため、奨学金を借りなければ授業料や生活費を工面できない若者が増えている。その一方で、卒業後、非正規に仕事に就く割合が4割に上り、奨学金を返還する余裕がなくなっている。結果的に、自己破産に追い込まれてしまう人が増えているのでしょう。」
さらに深刻なのは、奨学金を借りても、卒業さえできないまま中退する人が急増していることだ。奨学金だけでは授業料や生活費がまかなえず、アルバイトで無理を重ねた結果、卒業単位をそろえることができない人― 勉強する時間を増やそうとアルバイトを減らした途端、授業料の未納で退学を迫られる人― こうした人たちは、中退した後、さらに厳しい状況に追い込まれていく。中退すると、就職が難しくなる反面、奨学金の返済は残ってしまうためだ。こうした中退者の続出は、奨学金破産の予備軍ともいえる人たちを生み続けているともいえる。
親の仕送り額から家賃を引いた『大学生の1日あたりの生活費』(私大教連調査)は、10年余り前まで、2000円を超えていたのが、去年は、わずか850円。奨学金を借りても足りずに、アルバイトをしているのは、お小遣い稼ぎのためではなく、生活費をまかなうためになっている。
全国の大学生を対象にインターネットで行った調査(神奈川大学調査)によると「授業料や生活費を稼ぐためのアルバイトによって学業に支障をきたした」と答えた学生は、およそ6割。そして、「金銭的な事情で中退も考えたことがある」と答えた学生は、5人に1人にのぼっている。

奨学金を借りてもホームレスになった学生

都内の国立大学に通う、大学4年生の雄也さん(仮名)。奨学金は4年間で480万円借り、それだけでは生活ができず、アルバイトをして学生生活を送っている。
大学進学のため、実家のある熊本から上京してきた雄也さんは、アパートで一人暮らしを始めた。3人兄弟の長男で、父親の年収はおよそ300万円。父親からの仕送りはなく、大学の授業料や生活費のすべてを自らまかないしかなかった。
国立大学の授業料は、年間およそ50万円、年度末に払うためには毎月4万円貯金しなくてはならない。さらに、アパート代や生活費、教科書代などを含めると、1か月あたり、18万円ほど必要となる。これを奨学金8万円とアルバイト代10万円でまかなおうと考えた。
さらに、大学に通うためには様々な費用がかかる。ゼミ合宿、テキスト代、さらに、レポートを提出するためにパソコンやプリンター、インターネットの通信料など、出費はかさむばかりだった。大学3年生の時、ついにアパートの更新料が払えなくなり、ホームレス学生になってしまったのだ。
「1年間、学校の校内や公園、友達の家を転々としていました。」
雄也さんは淡々と振り返る。
そうした生活が続いた結果、大学4年生になっても卒業に必要な単位がそろわず、すでに2年間、留年している。お金を稼ぐことを優先すれば、授業に出られず、授業に出ようと思えばホームレス化してしまう― 雄也さんは、それでも「食べるためにアルバイトを辞められない」というギリギリの状況に立たされていた。

大学中退すれば「莫大な借金」しか残らない

大学を何とか卒業するために、時給の高いアルバイトを探し、泊まり勤務の仕事をすることにした。大学の授業を終えた後、午後6時半から、翌朝9時まで働くという勤務を毎日行っていた。収入は14万円ほどに増え、生活費は工面できるようになったが、授業に大きな支障が出るようになった。その結果、卒業に必要な単位がそろっていないのだ。
雄也さんは、すでに留年して、奨学金が止められていた。奨学金8万円の支給が止まり、さらにアルバイトを増やさなくてはならなくなった。そして、さらに学業に影響が生じるという悪循環に陥っていたのだ。アルバイトで無理を重ねていたある日、雄也さんは、ゼミの教官から「大丈夫か」と声をかけられた。事情を打ち明けると、返ってきた言葉に雄也さんは愕然とした。
「学生の本分は勉強なんだから、勉強しなさいと言われたんです。そんなことは、言われなくてもわかっている。でも、アルバイトをしないと飯も食えないし、授業料が払えない。抜け出せない負のスパイラルにはまっているからこそ相談したのに…。」
留年して2年。卒業するために必要な単位は、まだそろっていない雄也さん。中退をすれば、残されるのは480万円という多額の奨学金の返済だけだ。
「中退をしてしまうと、奨学金を借りて、ここまで苦労してきた大学生活がなんだったのか― 今までの人生の意味も分からなくなってしまう。しかも、中退後に、これだけの奨学金を返せる仕事に就けるという保証はない。もう、いっそ、死んでしまおうかと思ったこともある。」

photo

奨学金破産予備軍の急増

奨学金を借りていた人が、大学を中退してしまうと、どのような現実が待ち受けているのか。
今年の夏、発表された「大学中退者調査」によると、“奨学金を借りた大学中退者”のうち、半数が年収200万円以下だという分析結果が出た。(調査・東京大学大学院の小林雅之教授他)大学を中退すると、さらに奨学金破産のリスクが高まることが分かったのだ。

奨学金破産のリスクに直面しているひとり、2年前、大学4年生の時、中退した中退智彦さん(仮名・24歳)を取材した。今の年収は200万円ほどだ。高校3年生の時、大学進学を目前に控えた時期に父親がリストラされ、智彦さんは、家計を支えなくてはならなくなった。大学進学後は、奨学金を500万円ほど借りていたが、全く足りず、アルバイトをいくつも掛け持ちして、家計を支え続けた。試験期間もアルバイトを休まず働いたが、それでも授業料が払えなくなり、大学4年の秋、中退せざるを得なくなった。
中退後、毎月の手取りは18万円でボーナスはない。そこから毎月10万円を親に生活費として渡しているため、奨学金を返済する余裕がないのだ。
しかし、奨学金の返還を求める通知は繰り返し届く。当面、支払い猶予しているが、その期限も10年間。その間に返せなければ自己破産しかない。
「なんで自分だけがこういう目にあうのかと、親を恨んだこともあります。でも、もう人のせいにするのはやめようと思いました。結局自分で自分の尻をふくしかないんです。誰も助けてくれない。」
そういった後、友彦さんは達観したように言葉を継いだ。
「奨学金の返済も大きな人生の勉強代だと思うようにしました。」
夢をかなえようと奨学金を借りて進学した大学を中退― 結局、就職のハンディと、さらに奨学金の返済という重い荷物を背負わされた、再出発― その過酷さを「人生勉強」と語った智彦さんは、もはや夢を語る気力も失われていた。
国は、来年度以降、一定の成績などを納めた低所得世帯の学生に対して、ひとり当たり、月額3万円前後の範囲で、返済不要の給付型奨学金の支給に踏み切る方針だ。しかし、成績や年収での線引きがあり、困っている学生たちをどこまで救うことができるのか実効性は不透明だと専門家は指摘している。