クローズアップ現代

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No.24

「卵子凍結」知られざる実態

「いつかは産みたい」。

「でも、いまは、仕事に打ち込みたい」。

「まだ、パートナーがいない」。

女性の社会進出が進む中、卵子の老化におびえる女性たちがいま、期待をよせているのが「卵子の凍結」です。卵子の時を止めて、“いつか”の出産に備えたいと考えているからです。
健康な女性の卵子の凍結について、日本産科婦人科学会はリスクが高いなどとして「推奨しない」としています。しかし、産み時に悩む女性たちの間でひそかに広がっています。
(クローズアップ現代+取材班)

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凍結用タンク 数百個の卵子を保存できる

卵子凍結に託す思い

私たちは、卵子を凍結する独身女性に密着しました。
女性は、大手金融会社で総合職として働いています。20代、30代と転勤や昇進が次々と訪れ、周囲の期待に応えようと仕事に邁進してきた女性。交際した人はいましたが、結婚には至りませんでした。

卵子が老化することを知ったのは30代後半。
関西のクリニックで健康な女性の卵子を凍結保存してくれることを知り、すぐに申し込んだといいます。
女性は、「年齢が45歳になったとき、『45歳の卵子じゃなくって40歳の卵子があるんです』と言えるかな。凍結した卵子は保険か隠し球です」と語っていました。

凍結はどのように

女性は凍結までの8日間、仕事の合間を縫って、クリニックに通いました。毎日、ホルモン注射を打たなければならないからです。
通常、排卵のために卵巣の中で育つ卵子は、月に一つだけです。しかし、一度の手術でできるだけ多くの卵子をとりたいと、薬を使って本来は育たないはずの卵子を成長させるのです。

注射は体に大きな負担をかけていました。
手術前日の夜に女性の自宅を訪ねると、卵巣が通常の倍以上の大きさに腫れた状態で、女性は、「おなか全体が重い。立ってるのがつらいです」とおなかをさすりながら話していました。

そして、卵子を凍結する手術当日。
私たちは、女性の了解のもと、立ち会わせてもらいました。手術台に乗った女性は全身麻酔がかけられ、眠っています。
医師が手にしていたのは、ストロー状の特殊な針。女性の膣から貫通させて、卵巣まで刺し込み、卵子を一つずつ吸い出していきました。全身麻酔をしていても、針が刺さる度に体が硬直し、手を握りしめているのが分かりました。
手術時間はおよそ30分。19個の卵子が取り出され凍結されました。

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採卵手術ではストロー状の特殊な針で卵子を一つずつ吸い出す

女性が最初に払った費用は、採卵や凍結の技術などでおよそ35万円。
その後、保存料などが追加され、あわせておよそ100万円の費用がかかりました。

女性は、「とりあえず卵子の時を止められてよかった。ただ解凍して終わりではありません。出産やその後の子育てなどを考えると、早く相手を見つけて出産したいと思います」と話し、凍結しても、なお積み上がる複雑な思いを打ち明けてくれました。

卵子は“老化”する

卵子の老化。
それは30代半ばを過ぎた頃から加速します。
形が崩れた卵子や、酸化が進み赤く変色した卵子の割合が増えてくるのです。さらに、精子と受精した後に細胞分裂の途中で成長が止まる割合も増えていきます。

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“健康な“卵子(左)と“老化した“卵子(右)
30代半ば過ぎから老化が加速する

卵子の老化の影響で年を重ねると不妊になる人が増え、日本産科婦人科学会のまとめでは、体外受精で子どもを出産した割合は、35歳で18.1%、40歳になると8.1%、45歳では、0.8%まで下がってしまいます(2014年統計)。

日本では晩婚化が進んでいて、「少しでも若い時の卵子をとっておきたい」と願う女性たちが、「卵子の凍結」に期待を寄せているのです。

卵子の凍結って?

もともと卵子の凍結は、ガン患者が放射線治療の影響で不妊になるのを避けるためなどに限って実施されてきました。卵子を採取する時、卵巣が傷つき、将来の不妊につながる可能性があり、産まれた子どもへの影響も分かっていません。

こうしたリスクに加えて、凍結した卵子で妊娠できる可能性はいまだ低く、出産を保証できないとして、日本産科婦人科学会では推奨しないという見解を打ち出しています。
ところが取材を進めると健康な女性の卵子の凍結がさまざまな医療機関で行われ、出産した女性も複数いることがわかってきました。

卵子凍結に関するセミナーを開いているクリニックもあり、参加する女性の平均年齢は38歳。毎回、すぐに定員が埋まるほど関心が高いということです。
医師は「妊娠・出産は20代がいいとわかっていても誰でもできるわけではない。それを技術的に解決してあげようというのが卵子凍結だと思います」と話していました。

卵子凍結について大学が行った意識調査でも、特に独身女性の間では、卵子凍結を肯定的に考えるケースが多くなっていました。

卵子凍結 議論の時

リスクは高く、出産にいたる可能性は低いとされる「卵子の凍結」。
しかし、その“可能性”にかけたいという女性が増えているのです。

ただ水面下で広がり続けている今のままでは、女性たちにきちんとリスクの説明がされているのか、女性や産まれた子どもに影響はないのかなど大事なことが検証されないままとなっています。
技術があり、ニーズもある中、社会として卵子凍結の議論を始めることが急務ではないでしょうか。

そしてこれは、女性だけの問題ではありません。
数年前までは日本でほとんど行われていなかった「健康な女性の卵子の凍結」が、さまざまな医療機関で行われ、女性が集まる背景には、女性が妊娠に適した時期に産みやすい社会風土がまだ整っていないことがあると思います。

卵子の凍結の広がりは医療界だけでなく、社会全体に突きつけられた課題だと強く感じています。