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No.3401
2013年9月12日(木)放送
謎のミツバチ大量死 
EU農薬規制の波紋

先月(8月)、北海道で異常な事態が起きていました。

養蜂家
「こんな感じで大量に死んでいます。」

数千匹に上る、ハチの死骸。
ミツバチの大量死が、ここ数年、日本各地で起きています。

養蜂家
「地獄絵図ですよ。」

「ハチがいない。」

アメリカでは、ミツバチが大量失踪。
ヨーロッパでも被害が広がっています。
ダニ、ストレス、異常気象など、これまで、さまざまな要因がミツバチの異常の原因として疑われてきました。
しかし、今年(2013年)5月、その主な原因ではないかとして、EU=ヨーロッパ連合が、ある農薬の使用を規制すると決定しました。
それは、ネオニコチノイド系農薬。
僅かな量でも効果が高く、長もちすると、近年、世界中で夢の農薬として、広く普及しているものです。

「ハチを救え!」

このEUの決断は、日本をはじめ、世界中で大きな波紋を呼んでいます。
ミツバチと農薬の因果関係が、まだ科学的に不確かだとの声があるからです。

農薬規制 反対派 大手農薬メーカー
「信頼できるデータが十分に得られていない。
不適切な結論ではなかったかなと。」

EUは、なぜ思い切った決断をしたのか。
そして私たちは、この農薬と、どうつきあっていけばいいのか。
今夜は、ミツバチと農薬の間に巻き起こった大議論をもとに、食や農業の今後の在り方を考えます。

謎のミツバチ大量死 農薬との関係は?

ぶどう栽培が盛んな、フランス・ロワール地方。
ぶどう畑に隣接した養蜂場では、ここ数年、ミツバチの異常の原因として、ある疑いが取り沙汰されていました。

「これが巣箱の近くで見つけた、ハチの死がいです。
ぶどう畑にまかれた農薬が原因ではないかと思います。」




フランス与党議員 ソフィー・エラントさん
「このままでは10年後、20年後、ミツバチはいなくなってしまいます。」



異常事態が各地に広がる中、去年(2012年)4月、ある研究論文が世界的に権威のある科学雑誌に発表され、大きな波紋を呼びました。
ある農薬が、ミツバチの失踪や大量死の原因の可能性が高いと、科学的に実証したというのです。
その研究では、ハチにICチップを付け、致死量に満たないとされる微量の農薬を混ぜた餌を与えて、その後の行動を調べました。
すると、農薬を与えたハチは、そうでないハチの倍近く、最大3割ほどが巣に帰れず、死亡率も高くなることが分かりました。

フランス国立農学研究所 ミッシェル・アンリ博士
「今回の研究でわかったのは、これまで影響がないとされてきた微量の農薬でも、ハチが方向感覚を失ってしまい、死んでしまうということです。」

この論文に続き、やはり同じ農薬がハチに影響を及ぼすという研究結果が、次々と発表されました。

その農薬の名は、ネオニコチノイド系農薬。
それまでの農薬に比べて、人体への毒性が弱いとされる一方、植物の内部に深く浸透する特性があります。
そのため、少ない量で効果が長続きするとして、農家の手間やコストを軽減する夢の農薬と言われ、世界中に広く普及しているものです。
しかし、この農薬とミツバチの異常を結び付ける研究に対し、農薬メーカーなどからは異論が出されました。


農薬がミツバチに悪影響を与えるとする、毒性評価書です。
科学的に実証できた観点はR、実証できていないものはXと表されています。
影響を実証できたのは一部で、まだ多くがX、実証ができていないとなっていました。



バイエル・クロップサイエンス社 クリスチャン・マウス博士
「ほ場での調査では、この農薬とミツバチの異常の相関関係は見つかっていません。
ミツバチの減少が農薬のせいだというのは、科学的根拠がほとんどありません。」

謎のミツバチ大量死 農薬規制に揺れる欧州

それでもEUは、今年5月、ネオニコチノイド系農薬3種について、使用の規制に踏み切ると発表しました。
決断のよりどころとなったのが、EUが基本理念とする予防原則という考え方です。




予防原則とは、環境に対して甚大な影響を及ぼすおそれがある場合、因果関係が十分証明されない状況でも、予防的な措置を取るというものです。
これまで、オゾン層の破壊や地球温暖化という問題に対しても、予防原則にのっとった規制がなされてきました。
今回も、農薬とミツバチの因果関係のデータが、すべてそろうのを待つことなく、農薬の規制を決断したのです。



EU委員会 フレデリック・ヴァンサン広報官
「私たちは、更なる調査が必要であるという事実は認めています。
しかし、判断のもとになったのは、『われわれは今、何をすべきか』ということです。」

しかし、その決定が農業などに及ぼす影響は、計り知れないものになると言われています。
ハンガリーで2,700ヘクタールの農場を経営する、ジェオルジ・ラシュコさんです。

生産しているのは、家畜の飼料やバイオエタノールの原料となる、ヒマワリ、トウモロコシといった農産物です。
それらの栽培には、ほぼ100%、ネオニコチノイド系農薬が使われています。




普及しているのが、この種。
ネオニコチノイド系農薬が、表面にコーティングされている種子です。
農薬成分が種から成長する植物に浸透するので、あとは何もしなくても害虫を寄せつけません。
農薬散布などの手間がいらず、低価格での農産物の大量生産が可能となりました。
ラシュコさんは、ほかの農薬に切り替えると、今までにないコストがかかり、ばく大な赤字で農業経営は難しくなるといいます。

農場経営者 ジェオルジ・ラシュコさん
「来年から、どう作物を育てればいいのか心配です。
62人の従業員を、どうすればいいのか。」



農薬の規制は、農業経営や食料の安定生産を揺るがし、EU全体の経済状況の悪化にもつながるのでは、という声も高まっています。


植物保護産業組合 ジャン シャルル・ボケさん
「私たちの試算では、この農薬の規制によって、年間40億ユーロ(およそ5千億円)以上の損失があるとみています。」



「EUありがとう!」



賛否両論が渦巻く中での、EUの決定。
EUは、今年12月から、この農薬規制を実施するとしています。
ただし、2年以内に見直しを行うという、暫定的な規制です。
2年の間に、農薬メーカーなどと共に実証研究を続け、ミツバチの死と農薬の因果関係について、より確かな事実を見極める方針です。
EUの農薬規制の今後に、世界中が注目しています。

謎のミツバチ大量死 農薬規制に揺れる欧州
ゲスト小出五郎さん(科学ジャーナリスト)

●農薬規制に踏み切ったEU どう見る?

やはり、これはEUそのものの設立の理念の中に、こういった問題に、環境の中で、わけの分からない問題については、やはり予防原則を適用するという、これ、理念ですからね。
やっぱり原則、まさに予防原則に沿って決めたということになると思うんですね。
その2年間の中で、何をやるかということなんですけれども、これはやっぱりキーワードとしては、不確実だということだと思うんですよ。
ネオニコチノイド系の農薬の影響を、いろんな不確実な点が、要するに、分かっていること、分かってないこと、それから、いったいどこが分かりにくいのか、そのへんのことがあまり全体がよく分かってないと。
実際、分かってないことはいっぱいあるわけですけれども、例えば浸透性が非常に強いということで、植物の中に、いろんなところにあるわけですね。
花粉なんかにも入っているわけで、例えば、その花粉を巣に持ち帰ったら、そして、幼虫を育てるのに与えたら、幼虫もおかしくなるんじゃないか、次の世代がおかしくなるんじゃないかということもあるし、長期毒性、よく分からないところがある。
今までの農薬というのは、やっぱり急性毒性といいますか、それを中心に考えていったものですから、そのへんのことはよく分からないわけですね。
さらにそのほか、例えば病害虫の影響があるんじゃないか、ほかにあるんじゃないか、寄生虫の問題もあるんじゃないか、環境変化が影響を及ぼしているんじゃないんだろうかとか、それから、人間が長いこと見過ごした、遺伝的に少し変わってきちゃってるんじゃないかとか、いろんなことがあるわけですけれども、その中でやはり、農薬の疑いが捨てきれないということで、予防原則を適用したということなんですね。
その2年間の中には、さらに科学的に不確実な点を明らかにするのみならず、ほかに代わるべき手段があるのかとか、あるいはコスト、もしそれを使わなかったら、どうなっちゃうんだろうかと、そういったことも含めて研究をしていこうかと。
決して2年間で、なかなか結論が出るとは思えませんけれども、とにかく、そのへんを迫っていこうということなんですね。
(今までのメーカーなどの検査は、急性毒性中心で、因果関係の調査と?)
ただ、もっとほかに分からない点が、いっぱいあるということですね。

ミツバチと農薬規制 日本の対応は

日本では、稲作に適したネオニコチノイド系農薬が普及しています。
稲の害虫である、カメムシの防除に特に威力を発揮し、散布回数も少なく済むとして、多くの農家に使われています。
今や、日本の稲作にとって、なくてはならない存在になっています。

稲作農家
「わが子のように大事なお米なので、よく効き、虫を寄せ付けない農薬を使いたいというのは、誰でも皆さん同じですよね。」




「こんな感じで死んでいます。」





一方で、日本国内でのミツバチの大量死も相次いでいます。
しかし、国はEUの決定後も、この農薬を規制するつもりはないとしています。
あくまで現状のまま、水田地帯でのミツバチの被害実態と農薬による影響を調べ、農薬の使用方法を変えるなどの対応を検討したいとしています。


農林水産省 農薬対策室 瀬川雅裕さん
「日本は水田地帯です。
農薬の使い方、あるいは害虫の出る頻度も(EUとは)当然、違ってきます。
現在の情報、あるいは科学的なデータで、直ちに使用制限することは適切でないと考えています。」

そうした中、国の対策を待つ前に、独自にミツバチを守っていく仕組みを作った地域があります。
長崎県です。
ハウス農業が盛んで、イチゴやメロンは全国有数の生産量です。

年間6,000以上のハウスで、養蜂家から貸し出されたミツバチが受粉を行い、地域農業を支えています。





そこで2010年4月、養蜂家側と農家側が直接話し合う、長崎県みつばち連絡協議会が作られました。
それまで養蜂家と稲作農家には、あまり接点がなく、しばしばミツバチに構わず農薬が散布され、それによってミツバチが減ったのでは、という懸念が出ていました。
そして、ミツバチが減ると、野菜や果樹の生産に影響が出るおそれがありました。


そこで協議会を作り、巣箱の位置、農薬をまく時期や場所、ほかの農薬への切り替えなど、互いの要望や情報を共有。
地域ぐるみで、ミツバチを守っていく体制がスタートしたのです。
養蜂家の代表として、協議会の立ち上げに尽力した、清水美作さんです。
清水さんは、協議会という、この取り組みの効果を実感しています。
7月中旬に開かれた、みつばち連絡協議会。
清水さんは、さらなる理解と協力を求めました。

養蜂家 清水美作さん
「水稲だけではなくて、全ての作物に使われていますよね。
よろしくお願い致します。」

それに対し、農家側の代表として、農協担当者が答えました。


農協担当者
「極力、ネオニコチノイド系農薬については自粛ということで、ミカン等においても(自粛する)…。」



稲をはじめ、ほかの作物へのネオニコチノイド系農薬の使用を極力控えるよう、地域の農家に促し始めたといいます。
顔を合わせて話し合ってきたことで、地域で協力し合う関係が、次第にできつつあると感じています。


養蜂家 清水美作さん
「ひとりでも多くの農家の方々が、ミツバチに対する理解を深めていただければ、被害はなくなるのではないかと思います。」




この日、養蜂家の清水さんが訪ねたのは、稲作農家。
この農薬の散布を自粛した農家に、あるお礼を渡すようにしています。




養蜂家 清水美作さん
「レンゲの種です。」




レンゲは、水田にとって良質な肥料になるとされています。
加えて、レンゲの根につく菌が病害虫を寄せつけにくくするとも言われています。
この農家では、清水さんからもらったレンゲを植えたところ、これまで虫の被害はほとんど出ていないといいます。
ミツバチの異常死をきっかけに始まった、地域の新たな連携。
手探りの取り組みが続いています。

養蜂家 清水美作さん
「おいしいお米がとれる、しかも減農薬になる。
ミツバチのためにも、すばらしい蜜源になりますから、広めていきたいと思っています。」

ミツバチと農薬規制 日本の対応は

●地域で協力し合う長崎県の取り組みについて

1つは信頼関係が話し合いの中でできたということ、これはすごく大きいことだと思うんですね。
それから、もう1つは、日本ということを考えましても、北海道から沖縄と大変広い、国土は狭いですけど、非常に複雑な環境の国で、農業の形態も広いところもあれば、中山間地もあるということで、本当に多様性に富んでるわけですね。
そうすると、一律にものを決めていくということは難しいわけで、広いところは広いところなりに、狭いところは狭いところなりに、何を作るかということにもよりますが、そういう地域でもって、ものを決めていく。
長崎県というような単位で、これを決めていったと、信頼関係を築けたということと、地域社会がまずリードして、事を進んで決めていこうとした、この2つの点で非常に注目できるんじゃないかと思いますね。
(すごく開かれたプロセスですよね。)
これはEUなんかもそうなんですけれども、こういった不確実なことを、どうやって考えていくかということになりますとね、これは非常に誰が見ても明らかに公正だと、非常に透明性に富んでいるということの中で、物事を決めていかなきゃいけない。
その関係者がみんな集まって、とにかく議論をする、クローズドの小さな私的会合というのがありますと、そのたびに不信感が増していく。
その遅れる、非常に物事を、とにかく早くから、そういう議論をしていくことが必要で、遅れるごとに誤解がだんだん増えていくということで、とにかく早く始める。
そして、公明正大にやっていくというようなことが必要だということを、EUでも言っているわけですね。
やっぱり、これは近代社会といいますか、今の社会に必要なことで、そういう意味で、やはり関係者が、消費者も含めて、この問題を議論していくと、そして全体のコンセンサスを、その中で信頼関係をもとに作っていくということが、やっぱり欠かせないことだと思いますね。

●謎のミツバチ大量死問題が問いかけるものとは?

そうですね、因果関係が分からないと、なかなか動けないということがあるんだけれども、やはり、この予防的にものを考えるという精神は、やはり、わけ分からないと言いますか、人間が全部分かってるわけじゃないと、非常に謙虚な気持ちって言いますかね、それが今の時代には特に必要なんじゃないかと。
いろんな技術があるわけですけれども、そういった謙虚な気持ちっていうのは、やっぱり必要なんだろうということが、前提にあるわけですね。
しかし、その必要なものは必要だと。
そうすると、全部それを、じゃあ、やめちゃおうというわけにもいかないってことになると、それはリスクとして、みんなが暮らしていくうえで、受け入れられるリスクというのは、いったいどこらへんにあるのかと。
これが、本当にほかの問題も含めて、非常に重要な問題ですね。
やっぱりそれをやるには、やり方というのがあるわけで、まずその不確実な点っていうのは、いったい何なのかって、明らかにしないといけない。
これは科学の役割ですよね。
だけど、事は科学だけでは決まらない。
そうすると、じゃ、代わりのものはなんだろうかとか、あるいはコストはどうなんだろうか、そのほか、いろんな利害っていうのが複雑に絡み合ってくるわけですけれども、それを解きほぐしていかなきゃいけない。
そういったことを繰り返し繰り返しやっていくということが、実は時間がかかるように思っても、実は、それが非常にかえって効率がよく結論に到達することができるんだと。
それを決めていく主役は地域社会であって、政府や企業じゃないんだという、このへんもやっぱり、重要なことだと思うんですね。
特に農業というのは、地域社会がきちんと決めていくことによって生きていくところだし、私たち消費者がそこに絡んでいくということも、また重要だと思いますね。

●食の生産体制 危ういバランスに立っている印象も受けますね

そうですね。
それであるがゆえに、より一層、みんなが関心を持つことが重要だと思います。

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