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これまでの放送

No.3223
2012年7月3日(火)放送
“夢の医療”は実現するか
~iPS細胞 実用化前夜~

目の網膜に異変が起き、視力をほとんど失った男性。
有効な治療法のないこの病気を治す、世界初の医療が始まろうとしています。
あらゆる組織になる可能性を秘めたiPS細胞を使って、網膜組織を再生する。
これまでは考えられなかった夢の医療です。

医師
「何百年もできなかったことが、できようとしてきていますので、大きな一歩ではあると思います」

京都大学の山中伸弥教授が生み出したiPS細胞。
実用化の障害となっていたのは、がんを引き起こすことでした。
しかし、山中教授のもと研究者たちが結集し、がん化のおそれを克服。
医療への応用が急速に進み始めています。

研究者
「最高のiPS細胞を作る、安全なiPS細胞を作る」

さらにiPS細胞は筋肉が骨に変わってしまう病気など、難病の治療薬の開発にも使われようとしています。

研究者
「非常に加速度的に研究が進展する」

網膜の再生から、新たな薬の開発まで。
今夜はiPS細胞を巡る医療の最前線を追います。

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iPS細胞で 世界初の再生医療を

京都市に住む富永昇さん。
6年ほど前から視力が急激に悪化し、両目がほとんど見えなくなりました。

「これなんや?」

「これはかぼちゃ」

病名は加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)。
目の奥にある網膜が傷つき、進行すると失明する病気です。
およそ40万人の患者がいます。
この病気には今、視力を回復させる治療法はありません。

富永さんは、この3年間、目に注射を打つ治療を続けてきましたが、視力の悪化を止めることはできませんでした。

「おじいちゃん、おじいちゃん」

「あきと」

3か月前にひ孫が生まれましたが、目を近づけても、どんな顔かさえ分かりません。

「目はこっちやろ?
口はこっちか?」

「笑ってるってわからへん?」

「わからん」

富永さん
「世の中すべてが嫌になる。
もう自分の身を投げ出したくなる」




この病気の画期的な治療法が今、開発されています。
先週、富永さんはある医師を訪ねました。

「iPSっていうのはお聞きになった、言葉は聞いたことありますかね」

眼科医の高橋政代さんです。
iPS細胞を使った再生医療に取り組んでいます。
高橋さんは、患者本人の皮膚からiPS細胞を作り、網膜の組織へと変え、移植することで視力を回復させようとしています。

「iPS細胞ができたから皮膚を取るだけで、眼球の外で網膜の細胞が作れるようになった。
これは本当に新しいことで、世界で最先端の話ですね」

網膜は外からの光を電気信号に変え、脳に伝える組織です。
これによって私たちは物の形や色を見ることができます。


 

加齢黄斑変性では網膜の中で出血が起こり、網膜色素上皮と呼ばれる部分が機能を失います。
このことで視力が失われるのです。
高橋さんは傷んだ色素上皮の代わりに、iPS細胞から作った新たな色素上皮を移植することで、網膜の機能を回復させようとしています。
高橋さんは2年前、世界で初めて、iPS細胞から移植用の色素上皮のシートを作り出しました。

「これが、私たちの目の中にあるものと同じ?」

「そうですね、全く同じ機能を持ってますし、形態も同じですね」




しかし、実際の治療に使うには大きな課題がありました。
がんが出来る危険性です。

京都大学の山中伸弥教授が作り出したiPS細胞。
当初、動物の体内に入れると、頻繁にがんを引き起こしました。
山中教授のもと、研究者たちはがん化を防ぐ研究に、最優先で取り組んできました。
そして去年(2011年)iPS細胞が出来てから、5年をかけ、がん化を防ぐ新たな技術を完成させたのです。

当初のiPS細胞の作り方です。
皮膚の細胞のDNAに山中教授が見つけ出した4つの遺伝子を直接、組み込んでいました。
この遺伝子が働き、皮膚の細胞がiPS細胞に生まれ変わります。
この方法では組み込んだ遺伝子が異常を引き起こし、がんが出来るおそれがありました。

新たな方法では遺伝子を細胞の中に入れますが、DNAには組み込みません。
DNAを変えないため、がん化を抑えることができるのです。
当初、頻繁に起きていたがんは新たな方法を使うことによって見られなくなりました。
 

網膜の再生医療に取り組む高橋医師です。
安全性の高いiPS細胞が開発されたことで、世界初となるヒトへの治療に踏み出しました。

「検証は何回も繰り返して行っています。
その上で、もう腫瘍を作ることはないだろうと、確証をいまのところ得ております」

高橋さんはこの治療の許可を国から得るため、近く病院に治療計画を申請します。
認められれば患者5人を選んで、来年にも移植手術を行い治療の安全性と効果を確認したいとしています。

「今、視力が0.06ぐらい。
手術で0.1から0.15になれば上出来かなっていう感じです」

病気で悩む富永さんも、この治療を受けたいと願っています。

富永昇さん
「このままでも結果的には見えなくなると思いますよ。
勝負かけてみようかという気になりますわ」

理化学研究所 網膜再生医療研究開発プロジェクト 高橋政代リーダー
「10年20年たつと非常によい治療になって、一般の方にも恩恵がもたらされる。
いままで何百年もできなかったことが、できようとしてきていますので、大きな一歩ではあると思います」

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実現間近 “夢”の再生医療
ゲスト山中伸弥さん(京都大学教授)

高橋先生の行われようとしている網膜の治療に関しては、ほぼ大丈夫と言っていいと思います。
ただ、リスクはゼロとはいえません。
どんな科学技術でもリスクはゼロというのは、まずないと思います。
しかし高橋先生、また私たちは、この技術、高橋先生の治療に伴うリスクより、この治療を行うことによって患者さんが得るであろうベネフィットのほうがはるかに高くなっているというふうに判断しています。
また万が一、リスク、例えばがんが出来てしまったときに、高橋先生の行う治療の場合は対応ができます。
網膜ですので、常に外からチェックして、万が一、変なことが起こったら、その細胞だけをレーザー等で焼いて殺してしまうということもできますので、リスクが非常に小さくなったということと、万が一、リスクが発生したときも対応できると。
この2つの理由から、まもなく臨床研究を始めることができるというふうに考えています。

●ここに来るまで 必要な研究の進歩とは

5年前にiPS細胞出来たわけですけれども、そのときはいつ、実際、人間の患者さんの治療に使えるかというのは、なかなか見通しが私たちも立っていませんでした。
それが僅か5年という時間で、ここまで来たっていうのは、ある意味、いい意味で予想外でありました。
この過程では、iPSの研究も進みましたし、iPS細胞から目的の細胞、移植する網膜の細胞を作るという研究もものすごい進みました。
また細胞を作るだけではなくて、それをシート状にして、移植できる形にするという技術も進みましたので、いろんな技術開発が進んで、ここまで来たというのが現状です。

高橋先生はiPS細胞が出来る前から、iPS細胞と同じような能力のあるES細胞という細胞から、網膜を作る研究をされていました。
その延長線上として、iPS細胞から網膜の細胞を作ることに成功されています。
ですから、今までのES細胞での研究があったので、ここまで来れたというふうに思います。

●iPS細胞 実用化への課題

先ほどのビデオでもありましたが、まず5名程度の非常に少ない患者さんに網膜細胞を移植して、効果とそれから安全性の検討を行います。
ただ効果といいましても、ビデオにもあったように、0.06くらいの視力が、0.15になったら御の字だとおっしゃっていましたが、まずはその程度の効果を期待しています。
それで効果と安全性が期待できたら、そのあとは治験というステップで、より多くの何十人という方の患者さんに移植して、さらに効果と安全性を見ると。
そのステップを経て、最終的には実際のいろんな医療現場で、より多くの、何千人という方の治療になる。

その中でこの治療の対象になるのが全員というわけではないと思いますが、やはり何万人という可能性はあります。
そこまで一般的な治療になるのは、やはり10年、20年という時間はまだこれからかかると思います。

(必要な体制として)先ほど言いました研究開発を進めるというのも非常に大切ですが、よく私はジクソーパズルと同じだと感じます。
パズルの完成には全部のピースがそろわないとだめです。
研究開発というのは、その1つのピースにすぎません。
それ以外に厚労省であったり、PMDAから許可を得るという、許認可というピースが必要です。
倫理的なピースも必要です。
特許のピースも必要です。
いろんなピースが全部そろって、初めて一般的な治療になります。
そして、より大切なのは、そのピースを全部組み立てる役割の人もいます。
経営的な感覚を持った人もいますので、そういった体制が取れて初めて一般的な治療になっていくと思います。

高橋先生も、着々とその体制作りも進めています。
研究者に加えて、企業出身者の方もたくさん入っておられて今、チーム作りがどんどん出来ている段階です。

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iPS細胞で 難病の治療薬を

兵庫県に住む中学3年生の山本育海君。
200万人に1人という難病FOP(進行性骨化性線維異形成症)の患者です。
FOPは遺伝子の異常で筋肉が次第に骨に変わっていく進行性の病気です。

医者
「(腕を)上げられる?
そこらへんまで」


 

山本君の骨の立体画像です。
脇腹に20センチほどの骨が出来ています。
このまま病気が進めば歩くことや呼吸をすることも難しくなります。



山本君

「1日でも早く、薬を作ってほしい」

治療薬を開発するには筋肉から病気のもとになる細胞を取り出し、研究することが必要です。
しかし、細胞を取るために針を刺すと、筋肉が刺激され、病気が進行してしまいます。
このため病気のもとになる細胞は手に入らず、治療薬の開発は進みませんでした。

「(写真を見ながら)これは初めてお会いしたときかもしれません」

山本君が今、希望を託しているのが京都大学の戸口田淳也教授です。
iPS細胞が作られたことで、治療薬の開発に取り組みました。
戸口田教授は筋肉を刺激しないように患者の皮膚から細胞を取り、iPS細胞を作りました。

このiPS細胞には病気の遺伝子が入っているため、FOPの原因となる骨を作る細胞へと変わります。
患者の体内で骨が出来る現象が、体の外で再現できるようになったのです。

健康な人の場合、骨の細胞があることを示す赤い部分は僅かです。



 

しかし、FOPの患者ではほとんどが赤く染まり、骨に変化することが分かります。





戸口田教授は、この変化を抑える物質を見つければ、治療薬の候補になると考えています。
実用化には時間がかかりますが、実験室の中では変化を抑える物質を見つけています。

京都大学再生医科学研究所 戸口田淳也教授
「いつかゴールに行けるんだよというのが、見えたことは非常に大きい。
加速度的に研究が進展するという可能性も十分あると思います」

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がんにも応用 iPS細胞

iPS細胞は日本人の2人に1人がかかる、がんの治療にも応用されようとしています。

抗がん剤の研究を続けてきた岡山大学の妹尾昌治教授です。
妹尾教授はがんの原因とされるがん幹細胞をiPS細胞から作り出したことで注目されています。

がん幹細胞は、次々とがん細胞を生み出します。
がん細胞とは違って、抗がん剤はほとんど効かず再発や転移の原因とされています。


 

妹尾教授
「がん幹細胞というのは一番“たち”が悪くて、なかなか治らないと。
がん幹細胞自身に対する攻め方ですね、それがいままで分からなかったと」

30年にわたって血液のがん、白血病の患者の治療に当たってきた金子安比古医師です。
金子医師は、がん幹細胞に悩まされ続けてきました。


 

金子医師
「ここに見えるのは全部、白血病細胞(がん細胞)です」

白血病では抗がん剤を使うと多くの場合、がん細胞が消え、正常な白血球だけになります。
しかし数年後、その半数の患者で再び、がん細胞が増え始めます。
がん幹細胞が残っているため、再発するのです。

「現在持っている技術とかをフルに発揮しても、治らないがんが、やっぱり出てきてしまう。
突破口としてがん幹細胞の研究があるんだと思います」


 

がん幹細胞はヒトの体から取り出すのは容易ではなく、研究もなかなか進みませんでした。

しかし、妹尾教授はiPS細胞にがん細胞を培養した溶液を加えることで、がん幹細胞を作ることに成功しました。
実験室の中で作り出せるようになったことで、がん幹細胞の正体を探る研究も進むと期待されています。
がん幹細胞を直接攻撃する物質が見つかれば、がんの再発を防ぐ画期的な抗がん剤が出来る可能性もあります。

岡山大学 妹尾昌治教授
「がん幹細胞を効率よく殺す方法が見つかれば、10年20年先まで寿命を延ばす、再発を遅らせるようなことができる」

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がんや難病 治療薬は作れるか

iPS細胞というと、再生医療をすぐ思い浮かべるんですが、もう一つの大切な使い方は、iPS細胞を道具として使って、iPS細胞で病気を再現して、病気の原因を解明する、そしてさらには、薬を探すと。
こちらの使い方も非常に大きく期待されています。
5年前にiPS細胞が出来たときは、病気のモデルを作るという使い方に関しては、FOPのような遺伝性疾患、1つの遺伝子の異常で起こる病気がいいターゲットであろうというふうに考えられて、実際、FOPのような、どんどん研究が進んでいるわけですけれども、その後の研究で、これも予想外の、いい意味で予想外のことだったんですが、遺伝性疾患に加えてより一般的な病気、例えば統合失調病ですとか、アルツハイマー病、自閉症とか、そういう精神疾患、また今、ビデオにあった、がんを含めて、いろんな病気のモデルに使えるんじゃないか、また、それによって薬の開発に使えるんじゃないかということが、世界中で今、期待されています。

●急速に進む研究 そのわけは

病気を研究された研究者、たくさんおられて、なかなかいい病気のモデルがないと、患者さんから病気の部分の細胞を取りたくても、なかなか取れない、取ってこれないという限界があったんですが、iPS細胞というのは皮膚の細胞とか、血液の細胞を少し頂くと、iPS細胞に替えて、そこから病気の部分の細胞を作り出すことができますので、簡単さといいますか、技術としての気軽さ、これが非常に大きな要因だと思います。

●本当にいい薬を作るには

薬1つを作るためには、大体5万から10万くらいの候補を探す必要があるといわれています。
それが大変な作業なんですが、iPS細胞を使うことによって、薬を絞り込む、10万を1000にするというステップが今、どんどん進んでいます。
ただ、まだ1000ですから、それをさらに1つ、最終の薬に絞り込む必要があって、ここが従来の薬と同じ研究をする必要がありますから、もう少し時間がかかるかなと。
ただ今、どんどん候補は絞り込まれていますので、なんとか数年以内に、FOPをはじめとするいろんな薬が出来ると。
本当の意味で患者さんの役に立つ、そういう時代が1日も早く来るように。 

製薬会社が(体制作りに)入ってきていただけたら、一気に開発進むと思いますので、今後もそういう活動を続けていきたいと思います。

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