クローズアップ現代

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秘話 サブちゃんとキタサンブラック

秘話 サブちゃんとキタサンブラック

2017年12月6日

競馬のG1レースで過去6勝、「現役最強馬」として人気を集めるキタサンブラック。引退レースとなる12月の有馬記念にG1最多勝利タイ記録の期待がかかる。しかし当初はそれほど大きな注目を集める馬ではなかった。オーナーの北島三郎さんが「息子」と呼んで、目をかける中、厳しい調教に耐え、頂点へと上り詰めていったのだ。決してあきらめない泥臭い走りで多くの人を惹きつけるキタサンブラック。紆余曲折の道のりには、支えとなった人たちとの知られざる物語があった。

“俺を買った方がいいよ” 運命の出会い

去年大けがを負い、再起を目指すサブちゃんこと歌手の北島三郎さん。そのサブちゃんが「息子」とまで呼ぶ馬がキタサンブラックだ。実はキタサンブラックの買い手はなかなか見つからなかった。体の線が細く、注目されなかったのだ。そんな馬にただ1人目をつけ、買い付けたのが北島さんだった。

「僕は目が大好きなんですよ。特にブラックの目が好きでね。俺を買った方がいいよって目をしてた。こういう縁みたいなもの、絆みたいなものが、この馬にあった。」

たたき上げのキタサンブラックのこれまでは、北島さんの人生とも重なる。北海道の漁村で7人兄弟の長男として生まれた北島さん。歌手を夢みて上京したが、酒場の流しとして歌う日々が続いた。苦節9年、紅白に出場を果たしたのは27歳の時だった。

歌手として成功を収める中で、北島さんは200頭近くの馬のオーナーになったが、G1レースで勝つ馬に巡り合うことはなかった。しかしキタサンブラックは違った。徹底したハードトレーニングに耐え強くなっていったのだ。800メートルの急斜面を全力で駆け上る坂路(はんろ)調教では、多くの競走馬が1日1本にとどめるところ、キタサンブラックは時に3本もこなした。厳しい調教で心肺機能は飛躍的に向上。無名だった馬は、北島さんと共に頂点へと上り詰めていった。

興味深いデータがある。これまでにキタサンブラックが勝利した6つのG1 レースを見ると、ハナ差やクビ差などの僅差での粘り勝ちが多いのだ。歴代最強ともいわれたディープインパクトは、4馬身や5馬身差など圧倒的な強さが印象的だった。これに対してキタサンブラックは集団の前方を走り、最後まで僅差で粘りきるという勝ち方が多い。長年競馬実況を担当しているフリーアナウンサーの杉本清さんは、こう分析する。

「やっぱり心臓ですね。走る馬は、やっぱり心臓が強いんです。だから、ハードトレーニングをやっても、それに耐えられるというか。だから、だんだん鍛えれば鍛えるほど強くなっていくんですよね。最初はちょっと小さな、それほど期待されてなかったって言ったらおかしいんですけれども、それが鍛えに鍛えられて強くなってきたっていうか、そういうところに人生がダブるんじゃないかなと思いますね。」

ステージに立てない レースに勝てない

ところが、北島さんとキタサンブラックに大きな試練が立ちはだかる。去年夏、北島さんは転倒してけい椎を損傷。予定していたコンサートは中止となり、その後もステージに立てない日々が続いた。一方のキタサンブラック。G1勝利を重ね、圧倒的な人気で宝塚記念のレースに臨んだが、ゴール前で失速。まさかの9着に沈んだ。

北島さんは、今年いっぱいでキタサンブラックを引退させることを決意。その一方で、最高の花道を用意したいと願っていた。トレーニング・センターでは調子を取り戻させようと、疲労を取りながら慎重に負荷をかけるメニューが組まれた。北島さん自身も自分の歌で大勢のファンを喜ばせたいと、リハビリを続けた。

秋の天皇賞。激しい雨が続き、コースはぬかるんだ状態となった。さらにスタートでキタサンブラックに予想外のアクシデントが起きる。ゲートに頭をぶつけ、大きく出遅れてしまったのだ。先行して粘り勝つタイプのキタサンブラックにとって痛恨のレース展開だった。遅れを挽回するため、武豊騎手は勝負に出た。ほかの馬が避けていたぬかるんだ内側に進路を取ったのだ。最終コーナーを回った時、実況のアナウンサーはこう叫んでいた。「いつの間にか、いつの間にか、キタサンブラックと武豊!」。そのまま一気に先頭に立ち、僅差で逃げ切った。持ち前の粘り強さが復活。引退を間近に控え、再び輝きを取り戻したのである。そして北島さんも、テレビの歌番組に本格的に復帰を果たし、次のステージを見据えている。

ある騎手の決意 そしてラストランへ

キタサンブラックの姿に励まされ、人生の再起をかける青年がいる。騎手の黒岩悠さん(34)だ。みずからのレースのかたわら、キタサンブラックの調教を3年近く担当してきた。

黒岩さんがキタサンブラックと出会ったのは、人生の大きな挫折に直面していた時だった。騎手デビュー2年目には17勝をあげ、期待を集めた黒岩さん。しかし20歳の時、レース中に落馬。全治6か月の重傷を負った。その後、年に1勝もできないほどの不振に陥り、レースでの騎乗依頼が激減した。

騎手としての仕事がない中、黒岩さんは調教の手伝いをすることに。そこで出会ったのがキタサンブラックだった。スタートやコーナーの走り方など、競走馬に必要な技術を1から教え、今では僅かなしぐさから状態を感じとることができるまでになった。現役最強といわれるまでに成長したキタサンブラック。その姿を目の当たりにして、黒岩さんは、みずからも騎手としてもう一度高みを目指したいと考えるようになったという。

「ブラックにまたがっている時ですよ。その張りというか、いい意味での責任感、いい緊張感は得られていると思います。騎手として、なんとかしがみついてやろうと。もっと(自分が)勝たないといけない、もっと頑張らないといけないという気持ちになる方が強い。」

12月24日、中山競馬場で開催される有馬記念がキタサンブラックの引退レースとなる。その成長を見守り、その姿に励まされてきた多くの人たちの前で、最後にどんなドラマを見せてくれるのだろうか。

この記事は2017年11月27日に放送した「サブちゃんとキタサンブラック ~知られざる日本一への道~」を元に制作しています。

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