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体臭気にしすぎ? 「におい」トラブルを考える

体臭気にしすぎ? 「におい」トラブルを考える

2017年11月2日

強いにおいを嗅ぐと気絶して知らせる犬型ロボット。体臭の強さを数値化する機器。この夏、話題を呼んだユニークな新製品だ。においに敏感と言われる日本人だが、清潔志向の強まりなどで、体臭を気にする風潮はますます広がっている。一方、過度に体臭に悩んだり、商品の香りによって頭痛などの身体症状を訴えたりする人も。私たちはにおいとどう付き合ったらいいのか。

「におい」に悩む現代人 背景には家庭の”消臭化”

化粧品会社が開催する「においケアセミナー」が人気だ。首筋など、においが出やすい場所のケア方法を、自社商品を使って実践。「におい教育」を社員に徹底したいという企業からの要望が増えているという。

このセミナーに参加したメガネ販売会社では、客のクレームをきっかけに社員に体臭や口臭対策を義務づけた。においで他人に不快な思いをさせる「スメルハラスメント」になりかねないとの危機感からだ。特に注意を促しているのが40歳以上の社員。接客担当の矢倉諭さん(45)もその一人だ。家族に指摘されて以来、自身の体臭を気にするようになった。

「自分では分からない、においがかなり出ていると思うので、同僚の人にチェックしていただいたりというのはやっているつもりです。」(矢倉さん)

汗をこまめにシートで拭き、食事のあとは必ず歯磨き。こうしたケアを徹底するため、この会社では店長の昇進試験や人事評価にもにおいの項目を導入。努力の結果、矢倉さんは店長に抜擢された。

一方、若い世代の中には、体臭に敏感なあまり、恋や友人関係に悩む人も。日本大学非常勤講師・著述家の湯山玲子さんは、若者の行動や心理を調べるため定期的に話を聞いている。「許容できる範囲のにおいがすごく狭い」という女性。相手の体臭が気になり、恋が冷めてしまうという。ある男性は、他人のにおいでイライラしがちだ。「縄張りみたいなものが侵される感じ。においは音と違って防げないから。」と、気持ちをコントロールできないもどかしさを訴える。

「体臭がする人に関しては、自分の領域を侵犯するよくないものと思って排除する心理が自動的に働くような気がします。」(湯山さん)

体臭の悩み相談や治療を行うクリニックでは、患者が増え続けている。ところがその7割は、それほど体臭が強くない人たちだ。

においが原因で人づきあいに積極的になれないと受診した20代の男性。医師が診断したところ処置の必要はなく、必要以上に自分の体臭を気にしていたことが分かった。

「においって見えないものですから、不安なんですね。それで悩んでくる方も多いですね。スメルハラスメントで周囲を迷惑にしている害よりも、自分がにおっていると悩んで、それで消極的になって、人間関係を築けない、そういう人たちが増える害の方が大きいんじゃないかと思います。」(五味常明医師)

なぜ、体臭を気にする人が増えているのか。においが心理にどう影響するかを研究している東北大学教授の坂井信之さんは、消臭が進み、においのする家庭が少なくなったことが背景にあると指摘する。家の外に出て初めて汗などのにおいに出会うため、それを「くさい」と感じるのではないかという。

一方で、実はにおいは「あやふや」なものだとも指摘する。においだけでは判断が難しく、そのにおいを出す人や物のイメージが密接に結びついている。例えば、子供の頃に高齢者と一緒に住んでいた経験がある人は、加齢臭を「おばあちゃんのにおいだ」「懐かしい」とポジティブに受け取る場合も多い。人間関係が良ければにおいも良く感じたり、その逆になったりすると坂井教授はいう。

いい香りのはずが・・・。重篤な症状が出ることも

体臭に敏感な風潮の広がりと共に、その対策として香りを付ける商品の市場も拡大している。ところが、その香りが新たな問題となるケースも起きている。

埼玉県の熊谷市役所では、訪れた人に快適に過ごしてもらおうと、入り口に涼やかなミントの香りを漂わせる機器を設置した。ところが、香りが苦手だという市民からの批判的な意見が相次ぎ、撤去を余儀なくされた。

「香りの中に含まれる化学物質によって生活に支障を来す」という人もいる。「化学物質過敏症」と診断された高田ひろ子さん(仮名)は、香りの成分によって、頭痛や激しいどうきなど、重篤な症状に襲われるという。日常の買い物でも香りの強い商品を置く店には入れないことが多い。夫は妻の症状が出ないかを確認してから商品の支払いをする。

「体に大丈夫なにおいなのかどうなのかっていうのは、こちらではさっぱり分からない。こちらが考える以上の問題なので、本人じゃないと分からない部分があると思います。」(夫)

髙田さんの症状はここ数年で悪化し、薬の数も増えた。6月には10年勤めた会社を退職。香りに悩み、職を失うことになるとは思いもよらなかったという。

「初期のころは、その人から逃げるとか、その場所から逃げていたら30分もすれば体が元に戻っていたんですけど、ちょっと起き上がれなかったり、めまいがして、ずっと寝ていたりということがあるようになったので、本当に(香りが)怖いっていうのが本音です。」
「自分の努力だけでは、どうにもできない場面というのが、どうしても生きていく中である。まさか自分がこんなことで退職することになるなんて。すごくショックでした。」(高田さん)

においとの付き合い方 互いに配慮を

医師で東海大学教授の坂部貢さんによると、化学物質過敏症は、一般の人だと症状が出ないような空気中の化学物質に非常に感受性が高く、めまいや頭痛などが出現する状態と定義されている。その中の約8割の人が、においにも非常に過敏に反応してしまうことがあるという。しかし空気中の化学物質は無数にあり、なぜにおいに反応して症状が出るのか、そのメカニズムはまだ分かってない。
「香害」という言葉も使われ始めている。におい対策のための香りによって、かえって不快な思いをしたり、身体症状が出たりすることを指す。
特に数年前から、柔軟剤の香りで症状を訴える人が増えている。この点について、日本石鹸洗剤工業会は、番組の取材に対し、因果関係は不明としながらも「実態調査の結果、約2割の人が、目安の2倍の量の柔軟剤を使っていることが分かり、目安通りの使用と周囲への配慮を呼びかけています」としている。

においに対する感じ方は人それぞれ。それだけに難しい問題だが、私たちはにおいにどう付き合っていけばいいのか。最後に坂部さんのこんな提言を。
「自分にとってよいにおいが、必ずしも他人にとってよいにおいとは限らないということです。そういったにおいに対して非常に感受性が高くて、いろんな症状出る方もいるんだということを、やはりわれわれ、生活の中で配慮していかないといけないと考えます。」

この記事は2017年10月25日に放送した「体臭気にしすぎ!? 相次ぐにおいトラブル」を元に制作しています。

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