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家電が突然発火する!? 知られざる“サイレントチェンジ”の実態

家電が突然発火する!? 知られざる“サイレントチェンジ”の実態

2017年11月1日

メーカーが気づかぬうちに、下請け企業が部品の材料や仕様を勝手に変えてしまう「サイレントチェンジ」による事故が多発している。映画を楽しむために購入した家庭用プロジェクターの電源コードが発火したり、こたつのヒーターが突然落下して火災の火元になったり…。私たちの身の回りで起きている新たな危険。「サイレントチェンジ」の知られざる実態に迫る。

“静かなる時限爆弾” サイレントチェンジの脅威

事故を起こした製品が次々と持ち込まれる場所がある。独立行政法人・製品評価技術基盤機構、通称「nite(ナイト)」。消費者庁などから依頼を受け、事故の原因を調べている。例えば火災を起こしたこたつの調査。電源が入った状態で突然、ヒーターが落下したという。調査の結果、原因はヒーターを留めるプラスチック部品の「サイレントチェンジ」によるもの。このこたつは、日本のメーカーが東南アジアの工場に製造を委託していた。ナイトは、下請け企業が勝手に部品の材料や仕様を変えたとみている。

「本来の仕様より耐熱温度が低い部品に変えられてしまい、使用時の熱に耐えきれずに溶けて、ヒーターが重さで落下した。見た目には全く分からないので、メーカーは仕様通りの物だと信じてしまう」(ナイト 片岡孝浩さん)

サイレントチェンジによる事故は、製品がつくられてから数年後に起こることが多いため、“静かなる時限爆弾”とも呼ばれている。事故が起こるまで、誰もサイレントチェンジに気づかずに、商品は販売され続ける。その間に部品は、徐々に劣化。ある日、突然事故が起こる。実際、このこたつも製造開始から5年後に事故が多発。その他にも通信機器のプラグが溶けたり、除湿機の基盤から出火したりする事故が起きたが、いずれも、製造開始から5年以上たってからだった。サイレントチェンジが原因と思われる事故は電化製品だけでなく、折り畳み椅子や革靴など多岐にわたる。

日本のメーカーは、正しく使えば一定期間(例えば10~15年)は壊れない、少なくとも「火が出る」といった大きな被害がでない安全基準をもとに製品設計を行っている。しかし、材料や仕様をいつの間にか変えられてしまうと、製品の耐久性が下がり、事故の原因となるリスクが高まってしまう。

「たちが悪いですね、本当に。サイレントチェンジの場合は、経年劣化を伴った形で出てくる。相当な数をつくった後、市場で問題が出てしまう。被害額もすごく大きい、規模も大きいので、対応することすごく大変になる」(電機メーカー 品質管理担当者)

“すり替え”はなぜ起きた? グローバル化とコスト競争

なぜ、下請け企業は材料を変えてしまうのか。背景にあるのは、ものづくりのグローバル化だ。1つの製品には、多くの下請け・孫請けの部品メーカーが関わるため、部品の供給網であるサプライチェーンはピラミッド状に広がっていく。この中で、どこか1つでも材料を変更してしまうと、本来の品質は保てない。

37万台を無償交換することになった通信機器のプラグ。使用中の金属部分がショートし、焼け焦げるトラブルが多発した。事故原因は「サイレントチェンジ」。ショートを防ぐための絶縁樹脂が、メーカーが指定した材料と異なる材料「赤リン」に変えられていたのだ。赤リンはプラスチックなどに添加すると、そのものを燃えにくくする性質がある。値段が安いため、パソコンのフレームやキーボードなど、幅広い部品に使われている。しかし、赤リンを、プラグなど直接電気に触れる場所で使用すると、化学変化を起こして電気を通すようになり、ショートする危険がある。使用する場合には、赤リンの表面に別の物質をコーティングする必要があるが、事故を起こしたプラグは、そうした加工が不十分なままだった。材料の変更を行ったのは、中国にある孫請け会社の樹脂メーカーではないかと見られている。

中国の化学業界に詳しい北京理工大学の周政懋教授は、中国企業が材料を“すり替える”理由をこう話す。

「やはりコストです。(発注)価格があまりに低く抑えられると、不正が起きてしまうのです。中国側も管理を強化し、モラルの向上に努めると当時に、日本のメーカーにも部品の管理を強化してほしいと思います。」

大手メーカーの品質管理者として、実際に中国でサイレントチェンジを経験したことがある根本隆吉さんは、中国の製造業の歴史は浅く、ものづくり本来の考え方が醸成されていないと指摘する。

「ものづくりには、4M(Man(人)、Machine(機械)、Material(材料)、Method(方法))の管理が重要。その4Mに変更があると品質に影響がでる。特に材料はその影響度が非常に大きい。中国企業は4Mの管理認識が非常に甘い。ちゃんとした確認もせずに材料を変更して、こうした事故が起きていると思う」

サイレントチェンジをどう防ぐ ニトリの模索

サイレントチェンジを防ぐにはどうすればいいのか。家具や日用品を販売する大手チェーン「ニトリ」。1万点を超す自社ブランドの90%以上を海外で製造、海外の下請け企業は600社を超える。サイレントチェンジ対策として、独自の模索が始まっている。そのひとつが、定期的に部品を細かく分解し、耐久性や設計通りにつくられているかなどを調べる、通称「全バラ検査」だ。調べる対象は家電製品だけでなく、家具、台所用品など多岐にわたる。社内に、部品にどんな材料が使われているかを調べる調査機器などを1億円かけて導入。スタッフも100人にのぼる。

しかし、全バラ検査で全ての製品をチェックできるわけではない。そこで月に2回は、海外の下請け企業を訪問し、日本での厳しい検査態勢をアピールすることで、サイレントチェンジを未然に防ごうとしている。さらに、社外秘だった品質保証のマニュアルを一次下請け企業に公開。ニトリが直接訪問しきれない孫請け企業に対して、一次下請け企業が品質チェックを徹底するよう働きかけている。

「全方位的にやらない限り、漏れが出てくる。モノづくりのグローバリゼーションをやるときには、必ずうちだけでなく、うちの考え方を理解してくれるような取引先、従業員の育成、上から下まで同じ考え方を持ちながら進んでもらうということをやらざるを得ない」(ニトリの品質管理統括責任者の杉山清さん)

同じ問題をはらむ神戸製鋼のデータ改ざん問題

サイレントチェンジは、海外の下請け企業だけの問題ではない。神戸製鋼によるアルミ製品などの検査データ改ざん問題。納入先が知らない間に、仕様に満たない製品を出荷していた。今のところ、これらによる事故は確認されていないが、取引先が知らないという意味では、サイレントチェンジと同じ問題をはらんでいる。

製品事故の調査員を務め、製品の安全基準などの策定に関わってきた明治大学の向殿政男名誉教授は、「安全にはお金がかかる」という理解を日本社会に浸透させる必要があると提言する。

「安全は価値なのです。ですから、価値はちゃんと価値に対するお金を払おうと。危ないけど、安くていいだろう、そういう発想自体が、実は企業をだめにするし、われわれも文化を劣化させているということだと思います」

私たち消費者の意識も問われるサイレントチェンジの問題。一方で、製品の安全に責任を負うのは、あくまでメーカーだ。グローバル化するサプライチェーンの隅々にまで安全意識を浸透させる地道な努力が求められている。

この記事は2017年10月24日に放送した「家電が突然発火する!? ~知られざる“サイレントチェンジ”~」を元に制作しています。

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