ディレクター制作後記 ~不妊と向き合う方々の声を聞いて~

今回、番組で、子宮移植について取材した情報を番組ホームページに公開したところ、不妊に悩む人たちからの切実な声が数多く寄せられました。意見を寄せてくれた皆様、ありがとうございました。

有賀ディレクターと番組にご意見を寄せてくれた女性

有賀ディレクターと番組にご意見を寄せてくれた女性

意見を寄せていただいた方々に連絡を取り、取材を続けてきたこの1ヶ月。見えてきたのは、ゴールがみえない不妊治療の苦しみです。どんなに治療を頑張っても妊娠・出産ができなければこれまでの努力が報われないという、精神的・肉体的・経済的な苦しみがあることを痛感しました。

取材させていただいた方のなかには不妊治療を理由に仕事を退職せざるを得なかった女性が多くいました。排卵誘発剤などの副作用で体調が悪かったり、通院のために仕事を休みたくても、なかなか職場の上司には理由を言えず、仕事を辞めて不妊治療に専念しても、高額な治療費を払い続けなければいけない。投稿を寄せていただいた人のなかには、これまでかかった治療費は1000万円という方もいました。

保険適用外の治療には1回数十万かかることも

今回、番組で取り上げた“子宮移植”は、子宮に何らかの病気があって妊娠が難しい女性たちを対象にした医療です。子宮頸がんの罹患率が近年高まっていることもあり、日本の20代から30代の女性にはこうした方が6~7万人いると言われています。

ロキタンスキー症候群という、生まれつき子宮がない病気の女性も取材させていただきました。ロキタンスキー症候群の多くの方々は周囲に病気のことを隠し、女性同士で生理の話になると、うそをついてはぐらかしていたそうです。病気のことを誰にも言えないなかで、将来どのような方法で子どもを授かるのか、多くの女性たちは悩み、これまで、海外に渡って代理出産をする人や養子縁組、夫婦2人の生活を選ぶなどそれぞれの選択をしてきました。

ロキタンスキー症候群の景子さん(仮名)

30代既婚の景子さん(仮名)は、当初は子宮移植を望んでいましたが、リスクなども考え、いまは養子縁組なども視野に入れ、子どもを授かる選択を模索しています。「自分には間に合わないとしても、毎年産まれてくるロキタンスキー症候群の女性たちが私のように苦しむことがないよう、子宮移植が日本でも一日でも早く進み、子どもを授かる選択肢が広がることを望みます」と話してくれました。

スタジオゲストにお越しいただいた京都大学名誉教授の菅沼先生は、不妊治療に携わり始めた40年前と比べると、日本でも不妊治療をオープンに受け入れる社会になってきていると話していました。「卵子老化」「卵子凍結」「男性不妊」など不妊治療に対する言葉はメディアでも多々扱われ、いまや多くの人が知る言葉になっています。

しかし、今回の取材で疑問に抱いたことは、「子どもを望む女性たちにとって理解を得られる社会になっているか?」ということです。

スウェーデンを取材して一番心に残っているのは、「誰にでも子どもを持ちたいと願う権利はある。そのなかで、不妊治療がもし必要ならば、それは誰もが受けられるべきものだ」と話していた街の人々の言葉です。国の制度や国民性が違うなかで、日本とスウェーデンを比較することは難しいですが、その意識には日本が学ぶべきところがあると感じさせられました。

不妊と向き合う女性たちは、不安と希望の両方の思いを抱えながらいまも治療に励んでいます。
寄せられた声には「不妊治療は自然の摂理に反するので私はしたくない」「なぜそこまでして子どもがほしいのか分からない」など、様々な意見もありました。子どもを産む選択、産まない選択、どれも尊重されなければならない考えです。どの選択を選ぶことになったとしても、その選択を寛容に認め合える社会になるためにはどうすればいいのか。今後もこの問いを考え続けていきたいと思います。

(番組ディレクター 有賀菜央)

皆様から寄せられたご意見はこちらから。