いま、子どもを授かる選択肢の一つとして「子宮移植」が新たに加わろうとしています。世界ではすでに40人の子どもが生まれていて、日本でも臨床への準備が始まろうとしています。生まれつき子宮がなかったり、病気などで子宮を摘出した女性たちの出産が可能となる一方、移植手術によるリスクや倫理の問題などの課題も残されています。
日本では、年間45万件を超える不妊治療が行われています。不妊治療への理解が進んできたとはいえ、治療を受けていることをオープンにしづらい、悩みを周りに相談しづらいという人は少なくないのではないでしょうか。
世界で初めて子宮移植による出産に成功したスウェーデンを取材してみると、不妊治療を支える制度があるばかりではなく、日本と比べると、不妊についてオープンに話す風土が根付いていると感じました。
2018年5月7日(月)放送「ここまできた!?不妊治療 “子宮移植”で子どもを…」の放送内容はこちらから。
不妊治療の知識
不妊とは?
妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないものをいいます。日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年というのが一般的である」と定義しています。
不妊の原因
男性側、女性側、あるいはその両方にある場合がありますが、何も原因がない場合もあります。
原因が分かっている場合は、それぞれの原因に応じた治療を行います。原因が分からない場合は、排卵や受精を補助する治療を行っていきます。
スウェーデン取材記(前編)
3月のストックホルム。公園にはスケートやアイスホッケーをするためのリンクがあり、小高い丘にはまだ雪が残っていて小さな子ども達を連れた親子の姿がたくさんありました。まず日本と違って驚くのはベビーカーを押す男性の姿の多さです。男女関係なく子どもと遊ぶ姿はとても素敵な光景でした。
ディレクター制作後記 ~不妊と向き合う方々の声を聞いて~
今回、番組で、子宮移植について取材した情報を番組ホームページに公開したところ、不妊に悩む人たちからの切実な声が数多く寄せられました。意見を寄せてくれた皆様、ありがとうございました。
メッセージ
不妊治療をしている(していた)方からのご意見
また、治療費の補助は、自治体で定めた所得制限により受けられませんでした。全額自費での治療は、とても負担です。保険適応にするべきだと思います。
不妊治療を続けながらフルタイムで働くことの難しさ、体外受精だけでなく不妊治療全般に保険が使えるようになるべきなど、治療に対する理解を社会で高めていく必要があると思います。
多くの子どもたちが、親になってくれる人を待っている中で、多くの夫婦が不妊治療にお金と時間と心をつぎ込んでいます。たくさんのご夫婦に、特別養子縁組や養親里親という道があるということを知ってほしいです。
その後里子を迎え入れましたが、里子の養育は言葉に尽くせない辛さでした。
結局子育ては夫婦の信頼関係がなければ成り立ちません。 子どもがいれば何とかなるは幻想です。
子宮移植は選択肢としては賛成ですが、保険の利かない今の不妊治療制度では、お金がないと踏み込めませんよね。
難しい倫理的なことは分かりませんが、お金と時間があって、何より家族の支えがあれば、どんな方法でも自分の子供を腕に抱きたかったです。 私の様な思いをする人が1人でも少なくなるよう、そして社会全体が一緒になって見守り考えて欲しいです。
卵巣の働きが悪かったせいか、毎日注射して排卵を促しても、1個しか排卵しない事があり、そんな時の激しい落ち込みが思い出されます。不妊治療はホルモン投与を伴うので、気力も大きく損なわれます。気力、体力、そして金銭面でのダメージも大きく本当に苦しかったです。
当事者にならなければなかなか理解が得られないのが不妊治療だと思います。同じような苦しみを味わう人が少しでも減るのであれば、命を生み出すための医療の研究と世間の理解が進むことを私は切に願います。
医療関係の仕事をしているため不妊の定義や治療の内容もだいたい知ってはいましたが、まさか自分がそうなるとは全く思っていませんでした。もっと早く取り組んでいたらとか、考えてしまいます。
年齢や金銭面、精神的にも追い詰められ、今は、もうあきらめる時が来ているのだと現実を突きつけられています。
不妊治療が世間で認知され、保険適用になり、少しでも負担が軽く治療しやすい世の中になると良いです。
治療経験をオープンに話していますが、子供を持たないという選択肢を尊重するのも忘れないようにしなければと思います。
また、負担が長期化することを知ってほしい。ホルモン投与期間中には身体的な負担があり、妊娠判定までには精神的な負担がある。
ありがたいことに結婚8年目にして我が家は子宝を授かりましたが、子どもが欲しいと願う夫婦、家族からしてみれば、手段や方法は選ばないと思います。経済的、時間的に許されるものなら、あらゆる方法、手段にすがりたいと。そして、子宮移植もその方法の1つとして加わるのならば、選択肢が増えていいじゃないですか?
それを選択するか否かは、ご夫婦の問題なのですから。
そのほかのご意見
不妊治療への援助や不妊の原因の一部となりかねない社会的な課題にも注目しつつ、子宮移植の今後を見守り、関わっている方々を応援したいです。
なぜ、子育てをしたいのではなく、自分の子を産みたいだけなのか、私は実のところ、よく理解できません。
現在の法律では、戸籍の性別を女から男に変えるために子宮卵巣摘出が必須条件となっています。
課題は沢山ありますが、必要とする人たちに有効活用していただけるのであれば、摘出する子宮を喜んで提供したいと思います。
少しでも早く日本で子宮移植が実現することを願っています。
不妊は女性の社会進出のための晩婚による卵子の老化、他は原因不明です。
患者の多くは治療すればできると勘違いしており、晩婚に危機感がありません。
専門家からの回答(※この回答は2018年5月時点のものです。)

京都大学 名誉教授
日本子宮移植研究会 理事長
子宮移植は興味がありますが、卵管障害でも対象になるのでしょうか?
反対に子宮に問題がなければ子宮移植の対象とはなりません。
他の疾患と同じように不妊症にはいろいろな原因があり、その各々に対し適切な治療を行っていく、すなわち原因治療が原則です。
不妊治療ではよくステップ・アップという言葉が使われますが、これはあくまでも不妊原因が明らかではない場合、あるいは本来の治療でなかなか成功しなかった場合であり、担当の先生にご自身の不妊の原因と、それに対する治療法の選択肢など、詳しくお聞きいただけるといいと思います。
臓器移植全般からみても死体の方が生体と比べてドナーへの負担は無い訳ですが、特に日本においては死体ドナーの移植件数が非常に少ないのが現状です。
まして子宮となるとほとんど提供者がいないと考えてもいいかもしれません。世界においてもこれまで行われた子宮移植38例のうち、29例(約4分の3)が生体ドナーで、そのほとんどが母親とか姉妹とかの肉親です。
この場合、母親などは高齢の場合も多く、手術を受ける負担も大きくなります。
今回のお問い合わせのように、性同一性障害の方で性別適合手術、すなわち身体的には女性ですが男性の体に近づくため子宮摘出を希望される方(FTM)において、その子宮を子宮移植に使えるようになれば、有効な方法だと考えられます。
現に我々が組織する日本子宮移植研究会のホームページからのお問い合わせにも、FTMの方から今回のようなご希望を数多くいただいています。
ただ、わが国の臓器移植においては、生体ドナーは肉親に限られており、そのルールの改訂や新しい指針作りも必要になってくると思います。
生まれつき子宮をもたない、病気などで子宮を摘出したという方からのご意見
スウェーデンでは不妊を病気として扱っているのですね。日本では偏見や好奇の目がまだまだ多いように感じます。私も病気のことは隠して生活しています。子どものことよりも、病気を隠して生きていくのがつらいです。
悩まれている方がたくさんおられることを投稿を読んで改めて感じています。
私はまだ10代ですが、いずれは子供が欲しいと思っていました。ガンなどの手術で子宮がない人や私たちのような生まれつきの病気の人のためにも、ぜひ子宮移植を不妊治療の選択肢の一つにいれてください。
周りに相談しても、生理がないなら楽だねって言われるのが辛くて泣いてばかりです。そんな人が番組を見て、少しでも意見が変わってくれたら嬉しいと思っています。