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2023年5月29日(月)

急増!“なんとなく空き家”どうなる税負担!強制撤去も!?

急増!“なんとなく空き家”どうなる税負担!強制撤去も!?

空き家数が市区町村では日本最多約5万戸の東京・世田谷区ではベンチャー企業がタッグを組み、相続からリフォーム・売却・解体まであらゆる悩みに寄り添うサービスを開始。一方、神戸市では危険な状態になる前の空き家に、固定資産税の増額や解体補助など積極的に介入し、地域の暮らしを守ろうとしています。国も法制化を検討中。空き家を相続したら何から手を付ければ良いのか?空き家を○○に生まれ変わらせた驚きの活用法とは?

出演者

  • 齊藤 広子さん (横浜市立大学 教授)
  • 桑子真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

“なんとなく空き家”20年で2倍に急増

桑子 真帆キャスター:

特に使用する目的がなく、そのままにしている“なんとなく空き家”が20年でおよそ2倍に増えています。この“なんとなく空き家”の中にはまだ十分に使える状態のものもあれば、今にも倒れそうな危険な状態のものなどさまざまあります。

この“なんとなく空き家”が増えると「不法投棄」「空き巣」「火災」「断水」などのリスクが高まり、「断水」でいいますと実際に2023年1月に石川県内で空き家の水道管が破裂し、漏水が発生。周辺のおよそ1万世帯で、断水や水が出にくい状態になりました。

そうなる前に手を打とうと、今国会では法改正の議論が大詰めを迎えています。その改正に先んじて独自の取り組みを行っている自治体があります。

空き家5万戸 東京世田谷“なんとなく空き家”対策

東京世田谷区内に空き家を持つ、高木功一さん(仮名・60代)。

高木功一さん(仮名)
「昭和50年だから、築50年弱ですね」

高木さんが生まれ育った場所に立つ空き家は、駅から徒歩10分の閑静な住宅街にあります。土地だけでも2,400万円の価値がありますが、4年間そのままになっていました。

“なんとなく空き家”になった最初のきっかけは「相続」です。高木さんは母が亡くなるまで、親族の間で、この家をどうするか話し合ったことがありませんでした。

高木功一さん
「兄弟3人いるんですけど、誰が相続するか決まっていないから静観するしかなかった。それが正しかったかどうか分かりませんけど、結局そうなっちゃっていた」

2022年、高木さんが相続することになったものの使い道を決められず、そのままに。離れた横浜に住みながら管理を続けるのが負担になっていました。そうした中、ある日、世田谷区から文書が届きました。

「空き家を将来どうするのか」などの質問とあわせ、「管理されていないと固定資産税が上がる」という指摘がありました。

高木功一さん
「ずっと放置しているとそれなりに責任だけかかってきちゃうので『固定資産税が高くなる』とか。どうしようかと。やればいいんだろうなと思っていて、なかなかきっかけが」

人気の住宅地も多い東京都世田谷区。しかし、空き家の数は全国最多5万戸を超えます(平成30年 住宅・土地統計調査の調査区による)。対応に追われるのが、区の「空き家対策専門チーム」です。この10年で空き家の数は1.4倍に。持ち主の高齢化が大きな理由だといいます。

世田谷区 空き家・老朽建築物対策担当 千葉妙子係長
「高齢者のご夫婦が亡くられたり入所されたりしたときには、すでに子ども世帯はご自身の家を持っていますので、どうしても実家が余ってしまうというのが、この数に現れているのかなと」

長年放置され、地域で問題になる空き家も増える中、区ではまだ使える状態の空き家にも対応を促すことにしました。しかし、自治体ができることは限られています。「相談先が分からない」などの悩みが来ても、特定の企業などを紹介することはできないのです。

そこで世田谷区は2022年、空き家の相談を受ける独自の窓口を作りました。「せたがたや空き家活用ナビ」です。世田谷に空き家を持つ人であれば誰でも無料で相談ができます。相談に乗るのは、民間の“空き家専門アドバイザー”です。
区から空き家への対応を求められた高木さんも、この窓口に相談をしました。

高木功一さん
「普通の人にとって(相続は)1回かぎりのことですよね。世田谷区と一緒にやっているから、信頼があるところを紹介してくれるんだということで、これにしたんです」

窓口を担うのは、空き家の活用が専門の企業です。不動産や法律などの専門知識を持つスタッフが、相続からリフォーム、管理のトラブルまで持ち主のあらゆる悩みをサポートします。

担当者は、持ち主の希望を細かく聞き取ります。相続に悩む人には弁護士を、売りたい人には不動産会社とつなぐなど、持ち主の希望に添った解決プランを作り上げます。相談は無料。会社は、修理や解体を担った企業から紹介料を受け取る仕組みです。

担当者は、高木さんへの聞き取りから“そのまま家を貸したい”という思いを把握。

担当者
「非常に古い物件ではあるんですけども、できれば貸したいという思いを強く持ってらっしゃった。貸し出すにあたって費用はかかるのかというのが非常に不安だと」

そこで、リフォームが得意な会社を3社紹介。

担当者
「どこがいいかというのは、なかなか私どものほうから『ここがいいですよ』と決めて話すものではないですし、納得して決断していただくためには所有者が持っている思いを尊重しつつ、少しずつ段階をふんで理解を深めてもらうことが必要なのかなと」

最終的に高木さんはリフォームの考えを変え、建て替えをして貸し出すという決断に至りました。

高木功一さん
「信頼ができるところですね。こちらの気持ちをくんで業者さんと話してくれるし、的確にやっていただいたと思っています」

“なんとなく空き家”活用を自治体が後押し

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、住宅政策を話し合う国の委員を務めている齊藤広子さんです。
まさに齊藤さんが“なんとなく空き家”を命名されたということで、まず一緒に見ていきたい調査があります。

国が空き家を持っている方に聞いたもので、空き家にしておく理由で最も多いのが「物置として必要だから」「解体費用をかけたくないから」「さら地にしても使い道がないから」などさまざまあるのですが、齊藤さん、今どういう問題意識を持っていますか。

スタジオゲスト
齊藤 広子さん (横浜市立大学 教授)
国交省 住宅宅地分科会 会長

齊藤さん:
世田谷の事例でもありましたように、空き家所有者の半分ぐらいは「相続」で空き家所有者になったと。ですから「貸したい」とか「売りたい」ではなく「なんとなく」空き家なんですね。その理由は「物が残っているから」「倉庫になっている」「お金をかけたくない」、なかなか「意思決定をしない」と。でも、ひどくなる前に「なんとなく」の状態から意思決定をしてほしいという思いで“なんとなく空き家”をなくそうという思いです。

桑子:
“なんとなく空き家”というものが増えていく、進行してしまうと、やはりこれは見過ごせないですよね。

齊藤さん:
そうです。大変ひどい状態になりますと行政の仕事も多くなりますし、地域も困りますよね。

桑子:
空き家をなんとかしないといけないということで、国会では今、空き家対策に関する「特別措置法」の改正が審議されています。
その改正案のポイントの1つが、まさに今見た「民間の活用」なんです。

1.民間の活用
支援法人(NPO・社団法人)の創設
持ち主からの相談対応・管理
持ち主の探索・特定

具体的には、自治体がNPOや社団法人などを「支援法人」として指定して、具体的に持ち主から「相談」に応じたり、空き家を「管理」したり、さらには持ち主が分からない場合には「探索」、誰が持ち主なのかを「特定」していくというようなことをすると。齊藤さん、どんなことが期待できるでしょうか。

齊藤さん:
今まで空き家のことを行政に相談に行っても、行政はなかなか踏み込んで言えないですよね。一方で「売りたい」「貸したい」と決まっていたら不動産に行けばいいですが、そこまで意思決定していない。この距離がすごくあって、この間をどうすればいいんだろう、何を考えればいいんだろう、どういうことをすればいいんだろうという相談に応じて、それぞれの民間企業さんとある意味、独立性がありながらも専門的で総合的に相談できる。ですから、行政と民間の不動産会社の距離があったものを埋めていく、そんな役割があると思います。

桑子:
まだ改正案の段階ですが、実際に法律として定義されたときに考えられる課題、懸念されることは何かありますか。

齊藤さん:
支援法人にどれだけの人が手を挙げてくださるかということですね、「やりますよ」と。そして、例えば都市部では手を挙げてくださる人は多いかもしれないですが、地方都市に行ったらいるでしょうかということですので、こういった支援法人を育成していくというのも今後の課題になると思います。

桑子:
民間との連携が期待される中で、例えば倒壊の危険などがある空き家は、解体するしかない状態のものも多くあります。これまでそういった空き家には自治体が指導したり、最悪の場合解体するなど対応してきたのですが、その一歩手前の段階からなんとかしようと対策を進めてきた自治体もあります。

“なんとなく空き家”税負担増・強制撤去も!?

兵庫県神戸市。特に空き家が増えているのが、中心市街地から電車で30分、市の西側に位置する垂水区です。今、住民から「安心した暮らしができなくなる」という心配の声が次々と上がっています。

垂水区 住民 小原貴代子さん
「この辺も結構空き家が多いですね、子どものためにもよくないよね。車が入る道路もないですし、ここも袋小路になっているから火事とかになった場合それこそもっと大変」

こうした市役所に寄せられる通報は年間800件。市では、そのひとつひとつに個別に対応しています。

「『空き家の外壁やベランダが老朽化して危険です』とか『瓦がいまにも落下しそうで危険です』とか」

危険な空き家が急増する中、住民の安全を守るため神戸市は独自の対策を行うことにしました。これまで、危険な空き家のみに出していた警告を「窓ガラスが割れている」「屋根がはがれている」など、一歩手前の予備軍の段階から開始。応じない場合は「固定資産税の優遇」も解除。最大6倍に上がるケースもあります。

さらに神戸市では“なんとなく空き家”の自主的な解体も促しています。平均170万円かかる家の解体費のうち、最大100万円を補助(※条件あり)。2023年度だけで1,000戸の解体につなげる計画です。

空き家の持ち主
「(母が貸していた)建物の解体をするんで、その補助金の申請の相談で来させてもらいました。もう10年近く(入居者は)入っていないです。解体のお金も相当かかりますし、なんとか少しでも」

それでも持ち主が対応をしない場合、市が最終的な処理をします。2023年2月、垂水区でも危険な空き家の解体作業が行われました。

「代執行による除却を開始いたします」

所有者も見つからないため、市は補助金の上限を超える130万円を投入し、解体したのです。

近所に住む人
「子どもたちも学校に行ったりするときに(この道を)使ったりします。ほっとしています」
神戸市 建築住宅局 建築指導部 東和恵部長
「われわれが空き家対策しているのは、1つは市民の生命とか身体・財産を守る。とにかく早い段階から働きかけて早期の解決を目指していきたいと考えています」

法改正で新たな定義「管理不全空き家」

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
今回の法改正でもこの「予備軍」が注目されていまして、改正案では「予備軍」に当たるものを「管理不全空き家」として新たに定義づけます。

2.危険な空き家予備軍の対策
管理不全空き家の新設
自治体が指導・勧告
固定資産税 優遇措置解除(最大6倍になる可能性も)

例えば、「管理不全空き家」をまず新設する。具体的には、地域の迷惑になるおそれのある空き家に対しても「自治体が指導・勧告」できるようにする。そして、これまでは居住用という理由で減額されていた「固定資産税の優遇措置が解除され、最大6倍になる可能性もある」という改正案ですが、厳しいかなという印象があるのですがどう見ていますか。

齊藤さん:
でも、大変危険な状態になったら困りますよね。この状態にならないと、やはり個人の私有財産があるからと行政がなかなか踏み込めないと周りの地域が大変ですから、やはり一歩手前の管理不全のときに「皆さんちゃんと管理してくださいね」ということを促すという意味で本来の特例を外したということですね。

桑子:
今回、改正される法律は2023年内に施行される予定ですが、住民みずからが動き始めている町もあります。

ニュータウンで空き家増 大切な実家を活用

東京の中心部から電車とバスを乗り継いで1時間半、埼玉県鳩山町(はとやままち)にある鳩山ニュータウンです。高齢化率は56%、家を相続した若い世代が町に戻らず、年々空き家が増えています。

この巨大ニュータウンの開発が始まったのは50年前。3,000戸の新築戸建てに1万人が暮らしてきました。しかし、空き家の中には価格が6分の1にまで落ち込んだ物件も。自治会ではこれ以上街の活気を失いたくないと、空き家を相続した子ども世代へ呼びかけをしてきました。

鳩山ニュータウン 町内会連合 荒木愼二郎さん
「連絡つく空き家さんには連絡して『木を切るよ』って切らしてもらってる。そのままにしておくと危ないし、変なことがあるとまずいんで」
鳩山ニュータウン町内会連合 会員
「オールドタウンはしょうがないけど、ゴーストタウンにはしたくない」

そうした中、子ども世代から新たな動きが出てきています。2年前に戸建ての実家を相続した杉田真由さん。当初は5LDKの家をどうするか悩んでいました。

実家を相続した 杉田真由さん
「やっぱり気持ち的にすぐに手放すというのも大変ですし、市場に出しても売れないんじゃないかという気持ちがありましたね」

そこに、ニュータウンの再生を手がける企業からある提案が届きます。「中古戸建てのシェアハウス」、近隣の大学に通う学生たちに貸し出すプランです。家賃はアパートの相場の半額(3万5,000円)。先に始めた空き家は学生に人気の物件になっていました。

杉田真由さん
「鳩山ニュータウンは自分が思っている以上に実は価値のあるところで、もし何か地域への貢献というのを考えたらシェアハウスという選択肢はいいんじゃないですかというお話をされていたので」

個室に鍵をつけるなど、リフォーム箇所はわずか。杉田さんはすぐにシェアハウスにする決断をしました。今、2人の学生が入居。両親との思い出が残る台所も再び使われるようになりました。

杉田真由さん
「当時と変わらずって感じです。エプロンが増えたかな」

一緒に食事をするなど、家族ぐるみの交流も始めています。余った部屋には両親の大切な遺品も保管。“この家を地域のために活用してほしい”という父の思いが叶えられていると感じています。

杉田真由さん
「扉や壁なんか見ても自分が過ごしていた頃のこととか、家族でどういうふうに暮らしていたかを思い出したりするので。長くこれから先も誰かが住んでくれて使っていってくれて、自分がまた戻ってきたいときに戻れる町であってほしいなと」

生まれ変わる空き家 お荷物ではなく宝に

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
他にも全国でさまざまな空き家活用の事例が増えていまして、持ち主の負担が軽い活用法として「DIY型賃貸借」というものは、持ち主の認めた範囲で借りるほうが改修するというものです。

この場合、借り主の要望で和室だったところを壁をなくし、大きな洋室にしたという例です。最近では鉄道系の不動産会社も事業として乗り出すなど広がりを見せているんです。

さらにこういったものもあります。これは秋田のNPOが取り組んでいるのですが、「そのまま賃貸」。写真にあるように、家具や食器など片づけずに、そのまま貸すというものなんです。実際に残った状態でいいので安く借りたいというニーズもあるそうです。

民間の協力によって空き家がどんどん生まれ変わり、新たな活用法が見つかるといいなと思うのですが齊藤さんは他にどんな例をご存じですか。

齊藤さん:
空き家になる前から「地域に開く」という。
例えば、大きなおうちに高齢者がお1人で住んでいると。昔でいう「下宿」ですね。そこに大学生の方が一緒に住む。今でいうと「異世代ホームシェア」とか「多世代ホームシェア」というのですが、こういった形で空き家予備軍の時からしっかり地域に開いていって、地域を魅力的にしていくという試みもあります。

桑子:
いろいろやりようはありますよね。とはいっても日本はまだ新築というのが主流になっている中で、空き家のマーケットを活性化するためにこういったものが参考になるのではないかと。アメリカの例ですね。

齊藤さん:
やはり空き家のような既存住宅・中古住宅で買おうという場合、性能が心配になりますよね。そこでアメリカでは住宅検査士、インスペクターという方が建物の性能をチェックする。そして取り引きの時には買い主、売り主にそれぞれに不動産業者が代理として関わる。こうして買い主が使われてた住宅、空き家のようなものでも安心して取り引きできる、そんな体制をしっかり作っていく必要があると思います。

桑子:
これから自分が空き家をどうにかしないといけないと思っている方も多いと思うのですが、どういうことを考えたらいいでしょうか。

齊藤さん:
やはり空き家になる前から「私たち この家をどうするか」という「住まいの終活」ですよね。最後どういうふうにしていくのかということを家族と話し合うとか、地域に使ってもらうというようなことをしっかりみんなで情報共有していくということも大事だと思います。

桑子:
いろんなやり方が実際にあるわけですよね。

齊藤さん:
あります。ですから期間を決めて貸す「定期借家」という方法もあります。「サブリース」もあります。さきほどの「DIY型賃貸借」も魅力的ですね。

桑子:
自分がどうすることができるか、本当に早め早めに考えることが大切です。世田谷区の相談窓口では、また一つ“なんとなく空き家”が解決しようとしています。

次の世代に渡すために

東京世田谷区の空き家相談を受け持つ企業。この日も、担当者がある空き家を訪ねていました。持ち主は2022年に実家を相続した女性。賃貸に出したいと相談を続けてきました。

担当者
「業者さんから提案されたリフォームの内容だと数百万の話になっていたと思うんですけど」
女性
「いや、1,500~1,600万くらいでした」

しかし、リフォームの見積もり額が予定の倍に。方針を変え、手放すことにしました。

女性
「もう両親の代が亡くなりましたので、次は子どもたちや孫の代ですから、ここを気に入っていただいて大切に住んでいくという方が使ってくださるならありがたいなって」

空き家を「なんとなく」にせず、次に渡していく。私たちができる第一歩です。

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