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2023年5月15日(月)

“反撃能力”の波紋~安保政策の大転換・浜田防衛相に問う~

“反撃能力”の波紋~安保政策の大転換・浜田防衛相に問う~

戦後一貫して専守防衛を掲げている日本。政府が閣議決定した「反撃能力」の保有によって安全保障政策は大きく転換することになります。配備が取り沙汰される石垣島では「反撃能力の保有は専守防衛を逸脱するのではないか」「攻撃の対象となり危険に晒されるのではないか」など、自衛隊駐屯地に対する賛否を問わず住民の間では懸念の声も上がっています。浮かび上がった課題や疑問、安全保障のあり方を桑子キャスターが防衛大臣に問いました。

出演者

  • 浜田 靖一さん (防衛大臣)
  • 桑子真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

“反撃能力”の波紋 安保政策の大転換なぜ

桑子 真帆キャスター:

安全保障に関する3文書改定
◆防衛費(関連含む)GDP比2%へ
◆反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有

2022年12月、安全保障に関する3文書が改定されました。防衛費増額の財源を巡る議論は今週、国会で山場を迎えます。“反撃能力”、敵基地攻撃能力ともいわれますが、こちらも焦点となっています。

保有を決めた背景にあるのが、日本を取り巻く安全保障環境の変化です。日本全土が、こうした国からのミサイルの射程に入っており、政府はこれまでの方法では対応が難しいとしています。

反撃能力の配備先について、政府は現時点では決まっていないとしていますが、中国の沿岸部などを射程におさめることができる南西諸島への配備が有力視されています。

その南西諸島、防衛上の空白を埋めるとして、この7年で与那国島、奄美大島、宮古島、そして石垣島の4つの島に自衛隊の駐屯地を開設してきました。当初、想定されていなかった“反撃能力”。配備の可能性が出てきたことで今、波紋が広がっています。

配備の可能性 揺れる住民

日本の西の国境近くに位置する石垣島。3月、駐屯地が新たに開設され、有事の対応にあたる警備部隊やミサイル部隊が配備されました。

駐屯地のトップ・井上雄一朗隊長は、およそ570人が所属する南西地域の防衛の要を任されました。

石垣駐屯地司令 井上雄一朗隊長
「石垣駐屯地のエンブレム。島を守るカンムリワシをコンセプトに隊員一丸となって頑張っていく。われわれが島を守るという気持ちと石垣という素晴らしいところを凝縮した形にできたと思う」

石垣島に駐屯地を置く計画が伝えられたのは8年前。島は賛否で二分されましたが、石垣市は1年後に受け入れを表明しました。政府が駐屯地を置く主な理由としたのが、離島の防衛力の強化と、災害対応でした。

市街地を通って駐屯地へと向かう自衛隊の車列。手を振って歓迎する住民がいました。上地和浩さんです。国境近くの離島、石垣島で安心して暮らしていくために自衛隊は必要だと考え、誘致活動の中心となってきました。

上地和浩さん
「自衛隊が施設であることによって、中国が手を出しづらくなるんじゃないか。専守防衛を表にしながら災害にも対応していただけるということは、これまでとは違った大きな期待感があると思う」

自衛隊を誘致してきたもう一つの理由は、地元出身の隊員たちが島に戻ってくるきっかけになると考えたことです。息子、和成さんもその一人。今回、石垣駐屯地に配属となり、島に戻ってきました。

上地和浩さん
「忙しかった?」
息子 和成さん
「忙しい。開設に向けて行事」
上地和浩さん
「子どもが成人しても一緒にご飯が食べられることを、どの親だって望んでいるはずだからね。こんなにうれしいことはないよね」

しかし、政府が新たに保有することを決めた“反撃能力”を巡って、島は揺れていました。

駐屯地開設の直後に運び込まれたのは「12式(ひとにしき)地対艦ミサイル」。今後能力を向上させて射程を伸ばせば、反撃能力として使うことができるとされるミサイルです。現在の射程は百数十キロですが、4年後をめどにおよそ1,000kmまで伸ばす計画です。

政府は弾道ミサイルが大量に撃ち込まれた場合、迎撃による対応だけでは限界があるとしています。そこで、敵の基地を直接攻撃できる能力を持つことで相手の攻撃を抑止。それでもミサイルが発射された場合は反撃能力を行使して、さらなる攻撃を防ごうというのです。その配備先について政府は、「検討中であり、まだ決まっていない」と説明しています。

政府が反撃能力の保有を決めた3日後、石垣市議会は政府に対する意見書を全会一致で可決しました(2022年12月)。

あくまでも専守防衛のための自衛隊配備という説明がなされてきた経緯がある
長射程ミサイル配備の案件含め、住民への十分な説明を強く求める

3月、駐屯地開設後に防衛省と市が開いた住民説明会。配備に関する質問も出ました。

住民
「相手の基地まで飛ぶよう長距離のミサイルを配備するんだったら、自衛隊に賛成する人でも反対する人でも、このことについて容認できないんじゃないか」
防衛省担当者
「スタンド・オフ・ミサイル(長射程ミサイル)の具体的な配備先は決まっていません」

防衛省の説明に納得できないという住民がいました。

住民
「長距離ミサイル(の配備先)、まだ決まっていないとか、もう本当に脅威なんですよ。どうしてもう少し外交に努力をしてもらえないんですか」

説明会に参加していた、具志堅正さん。駐屯地のすぐそばで生まれ育ちました。

具志堅正さん
「全くあの(駐屯地が計画された)時点では、長距離を置く話はなかったので話が違うと」

もし石垣島が反撃能力の拠点になれば他国の標的になり、住民が巻き込まれることにならないか。具志堅さんの考えの根底にあるのは、90歳の母、ヨシさんの戦争体験です。

具志堅正さん
「20か所ぐらい(背中に)穴が開いてますかね。ひどいもんですよ、もう消えない傷ですから」

ヨシさんは沖縄本島で生まれ育ち、12歳の時に沖縄戦を体験。住民を巻き込んだ激しい地上戦で家族を失い、自らも大きな傷を負いました。「軍隊が置かれていたことで沖縄は戦場になった」と繰り返し語ってきたといいます。

具志堅正さん
「うちの母はもう最近外には出ないので、まだ(自衛隊の)迷彩服は見てないんですよね。それを見るとなおさらがっかりするんじゃないですかね、長距離を置くことは。相手からも確実に脅威に感じられる。有事になればこの島、住民も全部巻き添えをくう可能性がある」

そもそも敵の基地を攻撃する“反撃能力”の保有は認められるのか。政府は憲法解釈上は「可能」だとしてきました。

鳩山首相(当時) 1956年衆院内閣委 答弁
「わが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうにはどうしても考えられない」

ただ政府は、戦後一貫して政策判断として保有しないという立場を維持。この10年の間、集団的自衛権の行使を一部容認するなど安全保障政策を転換してきた中でも“反撃能力”は保有してきませんでした。

安倍首相(当時) 2017年参院本会議
「『敵基地攻撃能力』は米国に依存し、今後とも日米間の基本的な役割分担の変更は考えていない」

転機の一つとなったのが3年前。イージス・アショアの配備が断念されたことでした。弾道ミサイルを迎撃する新たなシステムとして導入が検討されていましたが、安全性や予算の問題が表面化し、計画は打ち切られました。

それに代わる手段として浮上したのが“反撃能力”です。当初は「敵基地攻撃能力」と呼ばれてきました。政府は自民党内からの「先制攻撃をするような誤解を招き、適切ではない」という指摘を踏まえ、“反撃能力”と名称を変更し、保有を決めました。

2023年3月、ミサイル部隊などが配備された石垣駐屯地。一部の住民に内部が公開されました。自衛隊員の家族を代表して挨拶したのは、誘致を中心になって進めてきた上地和浩さんです。

上地和浩さん
「八重山、国のために頑張っていくことを強く望み、ともに歩むことをお知らせしまして歓迎のことばといたします」
「八重山出身隊員を紹介させていただきます」
上地和成隊員
「皆さん、こんにちは。八重山警備隊 隊本部 二等陸尉 上地和成といいます。石垣に帰ってきました。よろしくお願いします」
隊員
「15年ぶりに帰ってきました。頑張ります。よろしくお願いします」

地元の若い世代が帰ってきたことを喜ぶ上地さん。その一方で、もし反撃能力が石垣島に配備されたら駐屯地が置かれた意味合いが変わっていくのではないかと戸惑っていました。

上地和浩さん
「えっ、もしかして(反撃能力が)駐屯地に来るのかなと。最終的には国が決定したものに従わざるを得ないとは思うんですけれども、そこまで至ってほしくないというのが実感です」

この日、上地さんは隊員の家族と積極的に交流したいという駐屯地のトップ・井上隊長の訪問を受けました。

井上雄一朗隊長
「どうですか。幹部になって帰ってきた息子さん、また違うんじゃないですか?」
上地和浩さん
「いやぁ、まだ…」
井上雄一朗隊長
「第一線といわれる石垣島で国の抑止、防衛に携われるのは隊員の1人ひとりは誇りに思うべきですし、やりがい以外の何ものでもないと思います」

仕事のやりがいを強調する井上隊長に、上地さんは胸の奥にあった心境を打ち明けました。

上地和浩さん
「崇高な任務ということでやってはいるんですけれども、私もそう思っているんですけれども、でも(自衛隊は)ひとつの仕事の選択肢。なかなか簡単に『平和 平和』とは言わないですけどね。でも心の中ではいつでも叫んではいるんですよね」
上地和浩さん
「いまの反撃(能力)というものは、相手国にこちらから撃つことも可能なので、それが大きな紛争になる可能性もある。そこだけは私としては絶対にやってほしくない。なぜかというと、私たちの子息である自衛官が先に行く。それはもう絶対に起こってほしくない」

“反撃能力”の波紋 防衛大臣に問う

桑子 真帆キャスター:

“反撃能力”の保有について、2022年12月のNHKの世論調査では、賛成が55%、反対が31%となっています。また、4月に反撃能力の保有と憲法9条との関係を聞いたところ「憲法9条に抵触すると思う」が25%「しないと思う」が20%、「どちらともいえない」と答えた人は49%で最も多くなりました。
国民の理解が十分とはいえない中、なぜ安全保障政策の転換が必要なのか。浜田防衛大臣に問いました。

反撃能力はなぜ必要か

桑子:
防衛力を強化する手段として、なぜ反撃能力の保有なんでしょうか?

浜田靖一防衛相:
今回の3文書の中で、常に最初にあたるのは「外交」。安心して暮らせる社会を維持するために外交を中心に今までやってきたわけだから。

桑子:
外交は最重要だと?

浜田防衛相:
これはもうわれわれの大前提であって、もしもそうでない状況が起きたとき備えなければならないものは何なのか。ミサイルがいっぱい開発され、日本にも飛んでくる状況の中、「そういうことをしてもだめ」「逆にマイナスになってしまいますよ」と示すための反撃能力。

桑子:
歴代の内閣を振り返ると、一貫して反撃能力を保有しないとしてきましたよね。一転して保有するとなったのはどうしてでしょうか。

浜田防衛相:
抑止力を高める方針はまったく変わっていない。先制攻撃に関わるようなことにはならないと自然に受けて止めて対応させていただく。

桑子:
相手から見たときに「攻撃能力を持った」と脅威にならないか、逆に緊張を高めることはないか懸念されるのですが。

浜田防衛相:
「攻撃をしてくるところがあれば排除しますよ」と言っているだけ。必要最小限のものと決めているわけだから。

住民の懸念は 配備先は

桑子:
改良すると反撃能力として使える「12式地対艦誘導弾」、これが配備されている地域が南西諸島ということを考えると、配備先は南西諸島が有力になるのでしょうか。

浜田防衛相:
場所については、これから検討する。今の時点で予断をもって話をすることはしない。

桑子:
現段階では、全国どこでもあり得る?

浜田防衛相:
そのときの検討次第になる。

桑子:
自分たちに説明がないまま配備が決まるのではないかという声が上がっている。知らなかった、不意打ちだというようなことにはなってほしくないなと。

浜田防衛相:
何がなんでもというやり方をするつもりはない。必要なものは必要だ、国の責任においてやらなければならない、理解いただきたい、できる限りのことをしたい。

日米の役割分担に変化は

反撃能力の行使が想定されるのは、日本が攻撃されたときだけではありません。政府は、同盟国・アメリカなどへの武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされる場面、「存立危機事態」でも行使が可能だとしています。9年前に「集団的自衛権」の行使が容認されて以降、日米の関係はさらに深まってきています。
2月から3月にかけて行われた、離島の奪還を想定した日米の共同訓練。日米の連携が強化される中で自衛隊の役割は大きくなっています。

桑子:
アメリカが「矛」で、日本が「盾」。この役割分担は変わらないということを一貫して言っていると思いますが、日本が「矛」の役割を担うことになるのではないかというふうにも見えます。

浜田防衛相:
それだけで「矛」と見なすのかは別の話。武力攻撃事態のとき、自分の国は自分で守らなければならない。補完するのがアメリカ。役割分担は変わらないが、わが国として持ったものもあると。

桑子:
アメリカの戦闘に日本が巻き込まれるようなリスクが高まるのではないでしょうか?

浜田防衛相:
政府だけでは決定できない部分がある。国会が関与する。だからチェックポイントが必ずそこにある。自分たちでいきなり政府が判断して、すぐに対処するということはない。

桑子:
日本から「ノーです」と言えることもある?

浜田防衛相:
憲法、また法律というものがある以上、これに沿ってやらなければならない。できること、できないことあると思う。

反撃能力の保有に懸念の声もある中、安全保障政策を今後どうかじ取りしていくのか。改めて問いました。

浜田防衛相:
戦後の経験の中で、厳しい状況の中から立ち直った国として責任がある。平和国家というものを目指し、話し合いにより法により統治される世界を作るのが目指す道。

安保政策の大転換 私たちはどう向き合う

桑子 真帆キャスター:
浜田大臣は、外交が最優先と繰り返し強調していました。その姿勢が今後、貫かれていくのか見ていく必要があります。
きょう(5月15日)、先の大戦で住民を巻き込んだ地上戦が行われた沖縄は、本土に復帰して51年となりました。今も基地が集中する状況は変わらず、日本の安全保障の最前線であり続けています。
安全保障環境が変化する中、防衛のあり方をどうすべきか。一人一人が考えていかなければならない問題です。

“反撃能力”に揺れる石垣島 住民たちの思い

沖縄県 石垣島。安全保障政策の大転換で、駐屯地のそばで暮らす住民たちは…

住民
「防衛のことだけは何というか、全部おおっぴらにできないんだよね。それも分からないでもないけど」
住民
「そう、分からなくはないんだよね」
住民
「日本国民が、どれだけの人間が果たしてそのことを知っているか。僕たちは分かる。自分のこととして肌に感じるけど、内地の人って感じないでしょ、見えないから。だけど中国のミサイルは本土を射程に置いている。だから有事になったらみんな同じだということを理解してほしい」
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