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2023年2月22日(水)

さようなら シャンシャン・エイメイ “パンダ返還ラッシュ”のその先に

さようなら シャンシャン・エイメイ “パンダ返還ラッシュ”のその先に

今月、上野と和歌山の“アイドルパンダ”、シャンシャン・エイメイを始め4頭のパンダが中国に帰ります。日中国交正常化を機にパンダが来日して51年。日本と中国の友好を象徴する存在として親しまれてきました。その一方で、日中関係が冷え込んだ時にはパンダが新たに貸与されないなど政治の影響を受けてきた側面もあります。かつて友好の象徴だったパンダは今、日本人にとってどんな存在なのか。パンダ返還を惜しむ人々を通して探りました。

出演者

  • はなさん (モデル/日本パンダ保護協会 パンダ大使)
  • 家永 真幸さん (東京女子大学 准教授)
  • 高井 正智 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

パンダ返還ラッシュ 4頭が中国へ

高井 正智キャスター:

愛くるしい姿で人々の心をわしづかみにするジャイアントパンダ。

国内では昨日まで合わせて13頭飼育されていましたが、今回の返還ラッシュで9頭になりました。2023年の12月には、兵庫のタンタンも返還される予定です。

国内にいるパンダは、すべて中国から貸し出しされています。絶滅のおそれがあるため、研究目的などでの貸し出しのみが認められているからです。また、日本で生まれたパンダも所有権は中国にあるので、シャンシャンのように繁殖期を迎えたり、国内最高齢30歳の永明のように高齢になったりすると、今回のように返還されることになります。

パンダは日中友好の象徴とも言われますが、中国は外交の重要な局面でパンダを贈るなど、戦略的に利用してきたという指摘もあります。

返還ラッシュで注目されるパンダ。思いを寄せる人たちを取材しました。

パンダへの熱い想い 日本への影響

2月5日。上野の動物園にひときわ大きなカメラを持つ人がいました。

取材班
「すごく大きいカメラ」
高氏貴博さん
「パンダ専用です」
取材班
「2つ付いてるのは?」
高氏貴博さん
「あの時動画にすればよかった、と後悔することもあるので同時に記録しています」

高氏貴博さんです。上野動物園に通いパンダを撮り続けて12年。1日も休んだことはないといいます。

高氏貴博さん
「日によって見せる表情も違いますし、しぐさも違ったりとか全然飽きない」

高氏さんがパンダを好きになったのは30歳を過ぎたころ。仕事の合間に偶然立ち寄った動物園で、お尻を向けたパンダの愛らしさに一目ぼれ。その日のうちに年間パスポートを購入しました。

高氏貴博さん
「全部かわいい。この舌の出し具合、大好きです」

高氏さんは、撮影した写真を毎日ブログに投稿しています。すると、そこから思わぬ交流が生まれました。

高氏貴博さん
「パンダの本場の中国の方から『見たよ』ってコメントをもらえるとすごくうれしい。『自分の国の国宝みたいな存在のパンダを愛してくれてありがとう』って。(中国とは)政治的にギクシャクしちゃうこともありますけど、人としてはとても、きっと温かい素敵な人たちなんだろうと思っています」

パンダは地域経済にも欠かせない存在になっています。上野動物園に近いアメ横商店街で、お店に声をかけて回るのは観光連盟の二木(ふたつぎ)忠男さんです。

動物園に来る観光客の多くが立ち寄るというこの商店街。二木さんがパンダの存在の重みを強く感じた出来事がありました。

上野観光連盟 二木忠男さん
「2008年にリンリンが亡くなりまして。パンダがいないことが非常に上野にとってダメージが大きいので」

動物園で1頭だけになっていたパンダが死に、上野からパンダがいなくなった時期があったのです。

ピーク時に700万人を超えていた動物園の来園者数が、この年300万人を割り、商店街もその影響を大きく受けたといいます。二木さんは新たなパンダを呼びたいと考えていましたが、2頭で1億円とされる高額のレンタル料に世間では反発の声もあがりました。

そこで二木さんは、地元の子どもたちが描いた絵や寄せ書きを集めるなど、世論に訴えました。

地道な活動が実を結び、2011年にリーリーとシンシンの来園が実現。来園者数は回復し200億円ともいわれる経済効果を生み出しました。

その後、中国人観光客も増え、中国料理の店も目立つようになります。

アメ横で働く中国人
「パンダが大好きで、上野だし、私もここで働けてすごく幸せ」

価値観の違いはあっても、地域の発展のためには中国人の存在が欠かせなくなっているといいます。

二木忠男さん
「これはパンダのおかげなんですよ。(中国人と)一緒に街づくりを相談しなきゃいけない」

人々の心をつかんで離さないパンダ。その一方で日本と中国の関係によって、パンダの保護活動を中断せざるをえなかった人がいます。

矢野美恵さん
「ここはパンダ幼稚園って言って、子どもばかり集まって…」

地元の小学校にぬいぐるみや本を寄贈し、パンダの魅力を伝えている矢野美恵さんです。

「9匹もいる」
「中国にパンダがいるから」
矢野美恵さん
「四川省というところ。北海道と同じ。雪が降るの。寒い所でもパンダは育つんですよ」
「えー、そうなんだ」

幼少期を中国で過ごした矢野さん。第二のふるさとへの恩返しとして、22年前からパンダ保護のための募金活動を始めました。中国の繁殖施設を訪れ、直接お金を届けてきたのです。

しかしそんな矢野さんも、中国国内の反日感情が高まった時期は不安に思い、訪問を取りやめました。

矢野美恵さん
「当時は、これは政治だからパンダには関係ないけど、国と国をまたぐっていうことに対しては恐怖心はありますよね、何かあったら」

“友好の象徴”その一方で パンダと日中関係

この半世紀、パンダは日本と中国の関係を映す鏡でした。日中の国交が正常化した1972年、パンダは友好の象徴として初めて来日。中国から贈られたランランとカンカンによって、空前のパンダブームが巻き起こります。

このころの国の世論調査では「中国に親しみを感じる」という人が7割前後。
新たなパンダが中国から次々にやって来ていました。

ところが1989年、学生たちの民主化運動が武力で鎮圧された天安門事件をきっかけに、中国に親しみを感じる人の割合は5割に急落。それでも2000年ごろまではパンダの行き来が続いていました。

しかし、2001年以降は歴史認識を巡って日中間の緊張が高まり、中国ではデモが相次ぎます。日本でも、中国に親しみを感じる人の割合は減少。そして、2003年以降しばらくの間パンダの来日は途絶えました。

2011年に上野に2頭来たものの、当時、尖閣諸島を巡る問題で日中関係は悪化。その後も溝は埋まらず現在、日本人の8割が「中国に親しみを感じない」と答えています。

パンダの募金活動を続けてきた矢野さんが、中国への訪問を断念したのは、尖閣諸島を巡る対立が激しかった2013年。しかし、活動を諦めることができなかった矢野さん。翌年、思い切って訪問を再開しました。

すると、現地の人たちは予想とはまったく違う反応を見せました。

矢野美恵さん
「迎えに来てくれて手をつないでくれて、もう本当に笑顔で接してくれる。行ったら行ったで、政治には関係ないいろんなことを、市民の生活の様子が聞ける。それが一番いいこと」

歓迎された矢野さんは中国側からの依頼で、生まれたばかりのパンダの名付け親にもなりました。

矢野美恵さん
「パンダのことで行く。国のためじゃない。パンダのために行くことで(中国人が)認めてくれる。それで大丈夫」

パンダと日中関係

<スタジオトーク>

高井 正智キャスター:
きょうのゲストは、日本パンダ保護協会でパンダ大使を務めているモデルのはなさん、そして中国の外交の歴史に詳しい東京女子大学准教授の家永真幸さんを迎えています。

スタジオゲスト
はなさん(モデル・日本パンダ保護協会パンダ大使)
日中両国にルーツがある

はなさんは空港にもお別れに行ってきたとのことですが、率直に今回の返還をどのように感じていますか。

はなさん:
本当に寂しいですね。シャンシャンに関しては、上野動物園がうちからそれほど遠くないこともあって毎週のように通っていたので、ちょっと“シャンロス”です。

でもアドベンチャーワールドには先週行ってきて、桜浜は見れなかったのですが、永明・桃浜の2頭には「ありがとう。いってらっしゃい」というあいさつができました。

はなさん:
永明は16頭の“レジェンド・パパパンダ”です。中国に行ったら大好きなタケノコに囲まれて、悠々と暮らしてほしいですね。あとシャンシャン、桃浜、桜浜にはすてきなパートナーに出会ってほしいな、と今は応援しています。

高井:
パンダの幸せが大事ということですね。

こちらは、中国から来たり日本で生まれたりしたパンダの一覧なのですが、中国はパンダを贈ることで外交などに利用してきたという指摘もあります。家永さん、外交について研究されてきたわけですが、実際どうなのでしょうか。

スタジオゲスト
家永真幸さん(東京女子大学 准教授)
中国の外交の歴史に詳しい

家永さん:
中国は古くは戦前、中華民国の時代から、外交の重要局面でパンダを外国に贈るということをやってきていて、そういった活動は“パンダ外交”などと呼ばれてきました。

日本との関係では、1972年の日中国交正常化のときに日本に初めてパンダがやって来て、1980年にはホァンホァンというパンダが来ましたが、これは日本がその前の年に中国に対するODAを始めた、その翌年というタイミングです。

それから、中国にとっては海外でパンダの人気があるという状況を利用して、パンダをあえて贈らないことで相手国への抗議の意思を表示する、といった戦術を使ったケースもあります。

高井:
世界に目を向けると、中国はアジアやヨーロッパなど、関係を深めたい国にパンダを積極的に貸し出している。

一方で、日本の状況を見ると2011年を最後に10年以上新たなパンダというのは来ていないという状況です。

家永さん:
パンダは希少な動物とは言っても、2000年代以降のグラフを見るとやはり“来てなさ”というのが際立ってますね。これはやはり日中関係の悪化というものを如実に反映してる、と言えるのではないかと思います。

中国からしてみれば、日本で歓迎されないかもしれないというふうに考えると、贈ることをちゅうちょするという判断があったのではないかと考えられます。

高井:
2011年もパンダの来日があったのですが、対中感情というのは大きく変化していない。そうすると、今の日中関係の中でパンダの役割というのは何なのでしょうか。

家永さん:
パンダが来たからといって、対中感情が劇的によくなることはないわけですが、そうは言っても政府間がきちんと交渉ができていないとパンダは来ませんので、パンダがいるかいないか、来るか来ないかというのは、日中関係の友好を計るバロメーターのような意味は果たしているのではないかと思います。

高井:
はなさんは、こうした状況をどうご覧になりますか。

はなさん:
地図を見ると、パンダが結構移動させられているなと思ってしまいました。パンダは移動が苦手な生き物だと聞いているので、こういった政治的なことに巻き込まれてしまうのは、パンダ好きとしてはすごく複雑な気持ちになります。パンダファンは政治とパンダは切り離して考えていると思います。いきなり日本にパンダが来たからといって、中国に関心を持つかはまた別問題かなと思います。

高井:
家永さん、外交や国家の関係を結果的にパンダに背負わせてしまっている、と言えますね。

家永さん:
そうですね。19世紀の後半にヨーロッパ人が中国でパンダを発見して以来、パンダはずっと、人間にとってどう役に立つかという視点から見られ続けている面があって、それで政治や外交問題にも巻き込まれてきた、という側面があります。でも近年では、パンダに過剰な政治を背負わせすぎではないか、と私も感じています。

高井:
そうした中で、パンダがきっかけとなって、日中の新たな関係を模索する動きも出ています。

きっかけはパンダ 生まれた両国の交流

今回3頭のパンダが返還される和歌山県。県内の高校では2年前からパンダのふるさとである、中国四川省の高校とオンラインで交流を行っています。この日も、パンダについての情報交換から始まりました。

山本遼さん
「今回帰るのが、お父さんの永明と双子のパンダの桃浜と桜浜です」

放課後に行われるこの会に毎回参加している山本遼さん。国際交流には関心がありましたが、中国には複雑な気持ちを持っていました。

山本遼さん
「中国の印象は最初、近い国ですけどあんまりよくないニュースとかが結構流れてくるから、完全にいい印象だったわけじゃないんです」

それでも交流を重ねるうちに、趣味や学校ではやっていることの話題で盛り上がるようになりました。

中国の生徒
「日本の歌手で誰が一番好きですか。私は米津玄師が大好きです」
山本遼さん
「めっちゃ聴きます。私もすごい好きで。ちょうどコンサート行くんですよ、ライブ?」
中国の生徒
「うらやましい」

山本さんは、パンダ以外にもたくさんの共通点があることに気付き、相手に親しみを持てるようになったといいます。

山本遼さん
「やっぱり交流しているうちに、国が違って食とか文化とかも違うけど、同じ漫画が好きとかアニメが好きとかそういう話を聞いていたら、なんか親しみを感じるようになって、前より近いものになった感じがします」

パンダをきっかけに、日本人と中国人が直接触れ合える場を作っている人もいます。東京、高田馬場で中国茶専門店を営む向井直也さんです。

仕事で訪れた中国でパンダに触れ、大のパンダ好きに。そこから中国の文化や食にも興味を持つようになったといいます。

中国茶専門店オーナー 向井直也さん
「中国について興味をもつきっかけづくりをできたらいい」

店では10人ほどの中国人留学生を、アルバイトとして雇っています。彼らと日本人が気軽に話せる場があれば、日中の溝も自然と埋まっていくのではないか。そう考えた向井さんは、中国人留学生が生まれ故郷の魅力を紹介する、お国自慢コンテストを企画しました。現地の生の情報が聞けると、イベントは日本人でいっぱいになりました。

イベントに参加した常連客
「記憶に残っているのは食べ物の話。単なる中国ということではなく、中国のここの地域とか、ここに行ってみたいとか、具体的な希望が芽生えてくる」

この店で働いていた中国人留学生は、帰国後も日中の懸け橋として活躍しています。四川省にいる女性も、1月に上野で行われた中国料理のイベントの運営にリモートで関わりました。

アルバイトをしていた元留学生
「日本のグルメフェスのルールが厳しいので、(出店する)中国店舗にちゃんと伝えないと」
向井直也さん
「結構重要な仕事ですね」

身近なところで互いに関わり合うきっかけを作り、それを社会全体に広げていくことが必要だと向井さんは考えています。

向井直也さん
「人と人が交流することは、マイナスは全くないと思います。パンダを見に行ったことがきっかけになってもいいし、中国料理とか食べることがきっかけでもいいので、いろんな交流が始まるといいですね」

パンダ返還 その先に 新たな交流を模索

<スタジオトーク>

高井 正智キャスター:
これまでパンダのような日中の接点を、さらにどうやって作っていくのかという動きを見ました。はなさんは日中両国にルーツがあるということですが、どのように考えていますか。

はなさん:
先ほど女子高生も話してましたが、アニメだったり音楽だったり食べ物だったり、パンダ以外でも共通点をちゃんと探しているんだなと思いました。やっぱり好きを追求するという点については日本人はとても得意だと思いますが、どんな国籍でも「好きという共通点を見つける」ことが、交流をさらに深めるきっかけになると思います。

高井:
パンダが外交のカードとされてしまっているという指摘も踏まえると、パンダ以外の交流が生まれることについて、家永さんはどういう意味があると考えていますか。

家永さん:
日本と中国の間には軍事的な対立もあり政治体制も違うので、両国の間の溝は非常に深いです。そうはいってもお互い引っ越しのできない隣人なので、必要なときにきちんと協力できる関係、というのを築いていくこともとても大事です。VTRにあったような若い人たちが一緒に何かイベントを楽しんだり、あるいは同じものを好きになったりというのは、そういう経験を重ねていることが非常に大事なことだし、歓迎すべきことだ、と感じました。

高井:
パンダだけに頼らない交流の在り方が問われていますが、それでもパンダが日本にいることの意味をはなさんはどう考えますか。

はなさん:
私に限らずパンダファンみんなそうだと思いますが、どんなにつらくても悲しくてもパンダを見ると笑顔になるんですよね。そういった力を持つ存在ということは、これからも変わらないと思います。今回の返還をきっかけに、私も絶対パンダたちを追いかけたいと思いますし、パンダたちが今、中国でどんな景色を見ているのか、自分の目で確かめたいです。

高井:
パンダが好きな人の間でも情報交換とかされたり…

はなさん:
してますね。皆さんすごく熱心に、例えば中国のウェブサイトなどを見て、それをちゃんと日本語に訳してその情報をみんなで共有したり、パンダファンの間で私もいろんな交流が生まれたので、これからもそれは大事にしていきたいと思います。

高井:
パンダをきっかけにさまざまな交流、そして広がりが生まれているということなのですね。はなさん、家永さん、ありがとうございました。

返還ラッシュを機に、さまざまな見方が出ているジャイアントパンダ。しかし、希少で貴重な生き物であることに変わりはありません。飼育員などの現場のレベルでは、協力して保護をしていこうという取り組みが続いています。

四川省の繁殖施設 日本人飼育員の奮闘

中国、四川省にあるパンダの繁殖施設です。和歌山県から返還されるパンダは、ここで237頭の仲間と共に過ごします。

その中には、永明の最初の子どももいます。

日本で生まれ19年前に返還された雄浜です。

中国人来園客
「パンダは平和の象徴だと思う」

そしてこの施設では、日本人の飼育員も働いています。

阿部展子さん。かつて上野動物園で飼育員をしていましたが、飼育技術のさらなる向上を求め、6年前に中国へ渡りました。

成都大熊猫繁育研究基地 阿部展子さん
「日本から帰ってくるパンダもここで暮らしているパンダも、私にとっては一頭一頭大事なパンダなので、(返還されるパンダの)担当になった場合は喜んでお世話させていただきます」
見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

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