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2023年1月31日(火)

史上最年少の頂上決戦 囲碁界に新風!若手棋士たちの物語

史上最年少の頂上決戦 囲碁界に新風!若手棋士たちの物語

カメラは囲碁界の“頂上決戦”の舞台裏を記録しました!10歳でプロとなり、中学生でのタイトル獲得を目指す仲邑菫・三段。公式戦勝ち星ランキング1位、超攻撃的な碁が「ハンマーパンチ」と称される上野愛咲美・女流棋聖(21)。海外修業に挑む仲邑さんや、AIを活用し研究に打ち込む上野さんの姿を記録。互いに高めあう若手女性棋士たちの知られざる物語と、彼女たちの活躍の背景にある、存続をかけた日本囲碁界の戦略を伝えました。

出演者

  • 上野 愛咲美さん (囲碁棋士 女流棋聖)
  • 仲邑 菫さん (囲碁棋士 三段)
  • 井山 裕太さん (囲碁棋士 三冠)
  • 藤沢 里菜さん (囲碁棋士 女流二冠)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

史上最年少の頂上決戦 密着!囲碁界の"新風"

桑子 真帆キャスター:
小学生のプロ棋士が次々と誕生。10代でタイトルを獲得する例も珍しくありません。そうした中、1月から行われている女流棋聖戦でタイトルを争う2人が注目を集めています。

10歳でプロになった、仲邑菫三段。そして、21歳で公式戦最多勝利を挙げている、上野愛咲美女流二冠です。今回、独占取材が許されました。

そもそも囲碁とはどんなものなのか。黒と白の碁石を交互に打ち、陣地を取り合うゲームです。

陣地は1目、2目と数えます。この場合、白の陣地は10目、そして黒の陣地は11目。なので、より多くの陣地を取った黒が勝ちということになります。

また、このように相手を囲むと、その石を取って自分の陣地にすることができます。

プロ棋士の世界では一手を打つために、1,000の可能性を読み合うといわれる頭脳と頭脳のぶつかり合いです。

女流棋聖戦 第一局 舞台裏に迫る

1月19日。女流棋聖戦、三番勝負の第一局が始まりました。先に2勝した方がタイトルを勝ち取ります。

女流棋聖戦は、一手を打つ時間が30秒と短い早碁。僅かな時間で最善の手を繰り出す力が求められる過酷な戦いです。

開始早々、互いの闘志がみなぎる展開に。

白の上野さんが左上で攻撃をしかける一方、仲邑さんはあえて別の場所に。

小林覚九段
「仲邑さんは無視した。完全に無視します。あなたの手なんか、言う事きかない」

仲邑さんが囲碁を始めたのは、3歳のとき。5歳でアマチュアの大会で優勝。当時史上最年少の10歳でプロになり、世間は沸き立ちました。

これまでカメラ取材を遠ざけてきた仲邑さん。撮影が許可されたのは2か月前のこと。

「好きな歌手は?」
仲邑菫三段
「milet(ミレイ)さん。雰囲気が。歌声とかすばらしい。全部が好きです」

仲邑さんの碁の特徴は、相手の一瞬の隙も逃さない強気で正確無比な攻撃にあります。その真価が発揮されたのが、藤沢里菜女流二冠との対局でした。

大淵浩太郎五段
「中邑先生の鋭い機敏な手が、藤沢先生の一瞬の隙をついた」

藤沢さんに流れが傾く中、わずかな隙をついた一手で形勢を逆転させ、勝利をつかみます。

大淵浩太郎五段
「すごいです。一瞬の鋭さというか、すごいキレがあって、相手の隙を見つけたら一瞬でも逃さない」

仲邑さんの強さは、どのようにして培われたのか。

三村智保九段
「"詰碁"っていうんですけど、菫さんが答えを鉛筆で書いて」

仲邑さんを長年指導してきた三村智保さんは、その秘密が"詰碁"にあると考えています。ある局面で優位に立つための手順を考える、この特訓。仲邑さんは3歳から毎朝2時間続けてきました。

三村智保九段
「先を読む力。これが菫さんの一番得意なところ。これは囲碁に勝つためにすごく大事。一番大事と言ってもいい。直感的にパパっと先が瞬間的に分かるみたいなところも鍛えている。1年365日途切れずに毎朝2時間これをやると。こんな人もなかなかいない。すごい練習量」
取材班
「『きょうは疲れたから明日にしよう』と思ったことは1回もないですか?」
仲邑菫三段
「それはいつものことですね。いつも思いますけど、負けたらつらいので。現実から逃げたくなるんですけど、世界は変わらないので頑張るしかないなと」

一方の、上野愛咲美女流二冠です。

史上最年少で女流棋聖のタイトルを獲得した、囲碁界の若きエース。「ハンマーパンチ」と呼ばれる超攻撃的な碁が特徴です。チャンスと見るや強烈な一手を放ち、相手の石を大量に奪います。

小山空也五段
「上野さんは序盤からポンポンと見慣れない手を打ってくる。それでこちらが困って時間を使っている間に、こちらの時間がなくなって、その頃にパンチがくるので戦い方がうまい」
上野愛咲美女流二冠
「普通の人だったら無難に勝てる方を選んでいいと思うんですけど、私はいくらリスクがあっても、自分が正しいと思えば100目勝てる方を、3目勝てるより選んでしまいます」

大切にしているのが、対局前に必ず行う独自のルーティンです。精神を整えるため「好きな香りを嗅ぐ」。そして、女流棋聖戦の日にも行っていた「朝の縄跳び」。験担ぎの意味も込め、777回跳びます。

上野愛咲美女流二冠
「いろいろと自分で自分をコントロールしてやっています。私にとって無駄な感情がより無くなるような気がして」

序盤から互いの闘志みなぎる展開となった、女流棋聖戦。中盤、仲邑さんが動きました。

互いに陣地を確保する中、勝負の行方は左上から上辺にかけての攻防にかかっていました。

仲邑さんはそこに勝負をかけます。

対する白の上野さん。陣地を手堅いものにするなら上辺に守りの一手が必要です。

しかし、打ったのは盤の中央。ハンマーを振りかざし、上辺の黒石をすべて飲み込もうとします。

上野愛咲美女流二冠
「相手がちょっと寄ってきて、反発するか受けてもよさそうだったので迷ったんですけど、けっこうノリノリというか、勢いで取りに行きました」

黒の石をしとめて白の陣地を一気に広げた上野さん。第一局を制しました。

2人の強さを支える独自研究とは?

女流棋聖戦を前に、上野さんは実戦を想定した独自の研究に打ち込んできました。

上野愛咲美女流二冠
「ちょっとはレモン(仲邑)さんの考えていることが分かるような」

仲邑さんの過去の対局をひも解き、浮かんだアイデアをノートに書きためてきました。AIも使いながら、仲邑菫さんを想定し、最善の一手を練り続けていたのです。

上野愛咲美女流二冠
「菫ちゃんがプロになって、すごい連勝したり活躍して、それで私も負けたくないので頑張ろうという気持ちになって。頑張れば(どんなタイトルも)手が届かないところではない。菫ちゃんのおかげで、そう思えている気がします」

一方の仲邑さん。

女流棋聖戦を前に、1月1日、囲碁の強豪国・韓国に渡りました。かつて指導を受けた恩師、ハン・ジョンジンさんの元で対局を重ねるためです。

仲邑さんにはかつて、弱点があらわになった敗北がありました。2022年のあるタイトル戦の終盤。勝利を目前にした場面で逆転負け。精神面のもろさが露呈しました。

仲邑菫三段
「あの時は勝ちが見えてきていたので、ゆるんでしまったというか、タイトルというのが見えてしまって精神的におかしくなってしまったので、そこで自分の読みを信じられなかったのかな」

韓国で対局を重ねる仲邑さん。この日も、逆転負けを喫しました。

ハン・ジョンジンさん
「菫が打ちたい手を打つことが大事です。負けから学び、負けを価値あるものにすることが大事なのです」
仲邑菫三段
「自分がそれなりにやってきたと思えるためにも、できる限りの努力をしないといけない」

女流棋聖戦 第二局 高レベルの戦い

迎えた第二局。まず主導権を握ったのは上野さん。

中盤、黒の上野さんが白の仲邑さんに20目もの大差をつけていました。

囲碁担当記者
「上野さんが、かなり作戦を練ってきている感じ」

後がない仲邑さん。切り込める余地は、あるのか。

放ったのは、この一手。

上野さんは、すぐさま反撃をしかけて白石を飲み込みます。しかし、仲邑さんが真価を見せたのはここからでした。

先に取られた白石をおとりとし、粘り強く打ち続けた仲邑さん。黒の陣地を減らしながら自分の陣地を広げることに成功しました。

囲碁担当記者
「形勢はほほ五分という感じに。ヨセ(終盤)勝負に向かいます。高度な戦いです」

持てるすべてを注ぎ込み、最善の手を打ち合う13歳と21歳。高いレベルでの応酬に、他の棋士たちも固唾をのんで見入っていました。

「81だったら(仲邑さんの)半目勝ちじゃない?」
「半目か、すごいなこれ。すごい、驚きました」

上野さんの攻撃を僅差でしのぎきった、仲邑さん。勝利を引き寄せたのは弱点としていた終盤の粘りでした。

仲邑菫三段
「きょうは自分の力を信じて、自分の打ちたい手を打てるように。
自分らしい碁だったかなと」

藤沢里菜女流二冠が語る 上野・仲邑の強さ

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうはのゲストは、上野さん、仲邑さんと何度も対局経験がある女流二冠の藤沢里菜さんです。

この2人の強さ、それぞれどんなところだと思いますか。

スタジオゲスト
藤沢 里菜さん (囲碁棋士 女流二冠)
上野さん・仲邑さんと親交がある

藤沢さん:
2人ともとても勉強熱心で、負けた時の切り替えの早さというか、タフさがすごく優れているなと感じています。

桑子:
藤沢さんは負けたとき、どう切り替えますか。

藤沢さん:
とりあえずおいしいものをたくさん食べて、たくさん寝て切り替えるのですが、やはり次に勝たないとなかなか救われない部分があります。なので、その次の対局のためにたくさん勉強するという形ですね。

桑子:
2人の対局もそうですが、囲碁の勝敗を分けるポイント、どこで勝敗を分けると感じていますか。

藤沢さん:
もちろん実力はいちばんなのですが、2番目にとても重要なのは、メンタルの部分が非常に大事です。囲碁はマインドスポーツと言われているのですが、スポーツの世界と同じで精神力、メンタル面の強さがとても勝負に影響してきます。そこがトップの人、私の周りにいる人はすごく強いと感じています。

桑子:
藤沢さんもトップ中のトップですが、2人のメンタルの強さというのも感じますか。

藤沢さん:
2人とも本当に棋士の中でトップクラスにメンタルというか、切り替えが早くて、すごく私が見習っている部分ですね。

桑子:
今回のタイトル戦にかける思い、藤沢さんから見てどうご覧になっていますか。

藤沢さん:
先ほどの映像を見ても、2人が本当にこのタイトル戦に気合いを入れていると実感していて。上野さんとしても仲邑さんに負けたくないという気持ちが強いですし、仲邑さんとしても2022年にタイトル戦の決勝で負けてしまっているのもありますし、今回初タイトルを目指していると思うので、それがすごく盤上で伝わるというか、闘志があふれていると実感しています。

桑子:
第三局が2月6日になります。どんな展開になると予想していますか。

藤沢さん:
第一局も第二局も紙一重ぎりぎりの勝負だったので、第三局も2人とも気合いが入っていますし、すごい激闘になるのではないかと感じています。

桑子:
若い棋士たちの台頭の裏には、実は日本の囲碁界の戦略があります。囲碁は競技人口4,000万。国際大会も多く、世界で勝つということが目標とされてきました。ただ、いま日本は苦戦が続いています。

"世界と戦える棋士"を 日本囲碁界の戦略とは

日本は30年前まで世界戦で圧倒的な優勝回数を誇り、黄金時代を築いていました。しかしその後、韓国、中国が台頭。次々とタイトルを奪われます。

そこで、世界と互角に戦える棋士を育て囲碁をもっと普及させようと考えた「日本棋院」。従来の棋士採用試験に加え、推薦枠を設け、実力を認められた女性や小学生などを採用することにしました。

日本棋院 小林覚理事長
「強い子をプロにさせて、プロの中のレベルを上げたいというのがあった。次から次から大きな壁を越える状態というものが、世界チャンピオンのもとなんです」

その結果、仲邑菫さんなど15人のプロ棋士が誕生。大きな期待が寄せられています。

井山裕太三冠
「勝負の世界で本当に男性と対等に戦っている世界。そういうところがかなり近づいているのは間違いない。自分もそういうところで彼女たちと戦っていけるようにというのも、ひとつのモチベーションにもなっている」

期待される若手棋士

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
日本棋院が推薦枠を設けた4年前から、仲邑さんの他にも1月、プロになった栁原咲輝さんや、関西棋院でも31日にプロ棋士の最年少勝利記録を更新した藤田怜央さんなど、若きプロ棋士が次々と生まれています。

藤沢さんもデビューが早かったですが、これから若い棋士たちが追い上げてくる構図になると思います。どういうふうに感じていますか。

藤沢さん:
私が入段した時、周りは年上ばかりだったのですが、今は勉強会とかに行ってもみんな年下ばかりで、すごく不思議な気持ちがあります。今の10代の子たちはすごく努力家で勉強熱心なので、自分もすごくいい刺激をもらっています。

桑子:
ふだんの様子は和気あいあいとされている感じでしょうか。

藤沢さん:
そうですね。上野さんや仲邑さんとか、すごく仲よくさせてもらっていて、ふだんはずっと話していて、わちゃわちゃしてる感じですね。

桑子:
どんな話をされるんですか。

藤沢さん:
2日ぐらい前に勉強会で仲邑さんとも一緒だったのですが、好きな歌手の話、miletさんだったり、どんな歌を聞いているんですかとか、そういうのも結構話しています。

桑子:
囲碁界が新しい時代に来ていると思いますが、藤沢さんから見て囲碁の魅力はどういうところでしょうか。

藤沢さん:
ルールはとてもシンプルですが、非常に奥深いところがすごく魅力かなと思っています。また、9歳の方から95歳の方まで現役の棋士でいらっしゃるのですが、世代問わず、また国籍も問わず、どんな方とも交流できるのが本当に魅力だと思っています。

桑子:
これからもぜひ頑張ってください。

藤沢さん:
ありがとうございます。

桑子:
藤沢里菜さんにお話を伺いました。若手の台頭で活気づく囲碁界。伝統を守るバトンが世代から世代へと受け継がれていきます。

"新たな風"がまた次の棋士たちを生む

現役最年長のプロ棋士、杉内寿子(かずこ)さん、95歳。80年間、日本囲碁界の栄枯盛衰とともに歩み続けてきました。

杉内寿子八段
「(私は今もなお)毎日毎日、勉強をと、自然にそんな気持ちになっているんですね。ですから、非常に才能のある優れた女子はできれば碁一筋に進んでほしいと思います」

若き棋士たちの背中を追って、さらなる新たな風も生まれようとしています。

13歳
「自分も負けられないなって思います」
12歳
「(将来なりたいのは)プロ棋士です」
11歳
「世界一でしょ」
12歳
「まあね。まずは目指して、追いついたら越えたいな」
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