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2023年1月17日(火)

実は危ない!ニッポンの“寒すぎる”住まい

実は危ない!ニッポンの“寒すぎる”住まい

家が寒いことで血圧の上昇を招き命を縮める恐れがあることが、最近の研究やデータから明らかに。原因は住まいの断熱性能の低さ。日本の住宅の約9割が20年前の断熱基準すら満たしておらず、部屋を暖めても窓などから熱が逃げてしまうのです。自分でできる窓の断熱方法や足元を効果的に暖めるコツなど、“今すぐできる対策”を報告。厳しい寒さが続くこの季節、命を守るためにどうすれば良いのか、専門家とともに徹底検証しました。

出演者

  • 苅尾 七臣さん (自治医科大学教授)
  • 岩前 篤さん (近畿大学教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

実は危ない!寒い家 命を守る対策は

桑子 真帆キャスター:
今、皆さんの部屋の温度は何度でしょうか。

冬の室内の温度について、WHO=世界保健機関は最低でも"冬の室内の温度を18度以上に"することを強く勧告しています。血圧の上昇やヒートショック、さらには呼吸器系の病などを招きかねないからです。

ところが日本では、冬の室内の温度を色分けしますと18度の基準を満たしているのはオレンジ色の4つの道県のみ。全国のほとんどの地域では水色や青。基準を下回っています。

家の寒さが健康にどんな影響を与えるのか。その実態をご覧いただきます。

命に関わるリスクとは

栃木県北部の基幹病院では、自宅にいながら体調を崩す人が相次いでいるといいます。

73歳の男性は、1週間前に急性心筋梗塞で病院に搬送されました。自宅で眠りにつこうとした際、心臓に強い痛みを感じたといいます。

国際医療福祉大学病院 副院長 柴信行医師
「お部屋は十分暖かくしてるんですか?」
70代 男性
「うーん、まあ、そんなに暖かくはないね。まあ、なるべく暖かくしてはしているつもりではいるんだけど」

循環器内科が専門の柴信行さんたちの調査によると、自宅で心肺が停止し、搬送された人が多いのは1月や2月などの冬の期間。平均気温が10度を下回る寒さの厳しい時期でした。

柴信行医師
「われわれにとって、大変ショッキングなデータ。印象的にはこういったことがあるだろうと思っていたが、実際にデータを解析してやはりそうだったんだと」

暖かい場所にいる時、血管は弛緩した状態で血圧は安定しています。そこから寒い場所に移ると、体内からの放熱を防ぐために血管が収縮し、血圧は急激に上昇。喫煙や飲酒、ストレスなどの要因も重なることで、心臓や脳に大きな負担がかかるのです。

柴信行医師
「冬季の場合、非常に家の中が寒い。場合によっては部屋の中に寒さの差、温度の差がある。そういった状況、冬季においては気温が関連した心筋梗塞の発症がとても多い」

家の寒さが引き金となり、家族を亡くした人もいます。

地元で工務店を営んでいる槇秀高さんの父・勝雄さんは78歳の時、自宅で突然意識を失いました。

槇秀高さん
「倒れたのは寒い時期、1月です。ここに座っていたときに、食べながらダラっと垂れて、ろれつが回らなくなって」

すぐに病院に運ばれたもののその後、寝たきりの状態が続き、2年後に息を引き取りました。亡くなった勝雄さんは塗装看板業を営み、74歳まで現場に立ち続けていました。血圧は少し高かったものの、持病は持ち合わせていませんでした。

槇秀高さん
「現場作業をするので、体力的には自信があったほうだと思う」

勝雄さんは、冬の寒い日も節約のためにリビング以外の暖房は使わず過ごしていました。

槇秀高さん
「ここから先、このドアの向こうが寒いんです。エアコンと蓄熱暖房を併用で使って、それでも20度いかない。足元は冷たい。風はこういう隙間から、ぴったり収まっているようでも手をかざすとひんやり入ってくる」

工務店を営んでいる息子の秀高さんにとって、父の暮らす家も徐々に改修したいと思っていたやさきのことでした。

槇秀高さん
「父親も年金暮らしだったので、優先順位は毎日使うものを優先に直して、暑さ寒さは一時的なものなので次にやろうと。やはり人間誰しもが年をとっていく。そうなると血管や心臓が弱っていく。寒さが死に直結するといことをお伝えしたい」

日本の家は寒すぎる? 全国調査の結果は

最新の研究から、家の寒さは全国的な問題になっていることが分かってきました。

慶應義塾大学の伊香賀俊治教授は、都道府県別にリビングの平均室温を調査しました。

慶應義塾大学 理工学部 伊香賀俊治教授
「日本で一番(室外が)寒いのは北海道で、調査対象宅の平均のリビングの室温19.8度。逆に温暖地、四国の香川県は13.1度。温暖と言われている県が、軒並み低温」

伊香賀さんたちが2,000戸以上の住宅を調査したところ、北海道や新潟などをのぞき、およそ9割の地域でリビングの平均室温が18度を下回っていました。

背景には、日本特有の家に対する固定観念があるといいます。

伊香賀俊治教授
「おじいちゃん、おばあちゃん、親、本人自身も子どもの時から寒い家で生活してきて、家の寒さに疑問をもっていない人がほとんど。一般の人の意識を変えていかないといけない」

さらに、日本の家特有の寒さのリスクも分かってきました。

東京大学 工学部 前真之准教授
「(家の)あちこちに寒さのわなが仕掛けられている」

東京大学の前真之准教授が"寒さのわな"と指摘するのが、冬場、家の中のさまざまな場所で生まれる温度差です。

この写真は、廊下から暖房で暖めたリビングを写したものです。リビングに対して、扉1枚挟んだ廊下の温度は10度以上違っていました。

前真之准教授
「扉1枚隔てて廊下に出ると、これだけ温度差がある。ほんのちょっと移動したら、10度の温度差、ざらなんです」

前さんは、上下の温度差も大きいといいます。

エアコンをつけても、床の近くは暖まっていません。温度差を生む大きな原因が、"窓"だといいます。

これは、一般的に販売されている1枚ガラスで、アルミ製サッシの窓です。およそ5,000万戸ある日本の住宅の7割で、同じ程度の断熱性能の窓が使われています。

外気温1度の時に室内のエアコンを22度に設定し、窓の表面温度を測ってみると…

前真之准教授
「9.1度」

さらに、窓のサッシの部分は6度でした。

1枚ガラスの窓と寒冷地などで使われる2枚ガラスの窓では、表面温度に大きな差があります。

前真之准教授
「無断熱の窓で室内を暖房した時、半分ぐらいの熱が窓だけから出ていく。窓の面積は建物の表面積全体の1割とかそんなに大きいわけではない。日本は家全体を温める発想が全くない。スポットで採暖設備を置いて、なんとか寒さをしのぐ。こういう中で何十年も暮らしていく。冬が来るたびにこういう環境。いつかは体に限界が来てしまう」

家の中の適切な温度は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、循環器内科が専門で自治医科大学教授の苅尾七臣(かずおみ)さんです。

これまでは冬の寒さのリスクといいますと「ヒートショック」というのがまず思い浮かぶのですが、それ以外にもリスクがあるということでしょうか。

スタジオゲスト
苅尾 七臣さん (自治医科大学教授)
専門は循環器内科

苅尾さん:
そうです。ヒートショックは特に寒さによって引き起こされます。重要な点は、ヒートショックによる循環器の重篤な疾患ですね。脳卒中だったり心筋梗塞、心不全、または大動脈の解離などが引き起こされます。その引き金としては、血管が収縮し、血圧が(急激に)上昇するような「サージ」であるとか、血管のれん縮などが引き金となり、心筋梗塞を起こしたりします。

上の血圧が10上昇するとリスクが非常に上がると言われているのですが、10度の気温の低下で(血圧が)10上がるということが分かってきています。

桑子:
10度で10上がってしまう。そこが1つの指標、リスクの指標になると。(ヒートショックは)浴室で起こりやすいというイメージがありますが、その他には。

苅尾さん:
浴室だけではなくて、温度差があるところですね。部屋間の温度差。10度の温度差があるところはリスクが上がると思います。

桑子:
例えば。

苅尾さん:
暖かい寝室で布団の中で寝ていても、ちょっと外へ出るとすごく(温度が)低いわけです。栃木とかですと3度とか。それぐらい(の温度)になっているわけです。電気毛布で暖かくしても、ちょっと出るとそれぐらいの温度になって、特にトイレだとものすごい寒いことが多いわけです。そういう温度差で引き起こるというのは、これも大きいヒートショックということになると思います。あと外へ出た時ですね。

桑子:
そして、注目してほしいデータがあります。


冬に死亡率がどれだけ増えたか都道府県ごとに比べたグラフですが、いちばん死亡増加率が高かったのが栃木でした。最も死亡増加率が低かったのが、北海道です。先ほどご紹介したリビングの室温の平均を比べたデータでも、最も高かったのが北海道でしたよね。

苅尾さん、これを見ると命のリスクと室温にはかなり関係がありそうですね。

苅尾さん:
外の温度よりも部屋の中の「住環境」ということになるんですね。したがって、こういう循環器の疾患、生活習慣に関わるということは今までも注目されてきたのですが「生活環境病」という捉え方も必要なのではないかなと考えられてきているところです。

桑子:
住空間を快適に保つために、具体的に何度ぐらいに設定したらいいのでしょうか。

苅尾さん:
WHOは最低の温度は18度と言ってるのですが、それは最低の温度になります。もう少し高く、24度ぐらいにした方が特に高齢者はより循環器系が安定すると。血圧も上がりにくいということになります。

桑子:
24度というのがポイントですか。

苅尾さん:
そうですね。22度以上、大体その辺りがいいのではないかなと考えているところです。

桑子:
22度から24度ぐらい。家の寒さから命を守るために何ができるのか。地域の取り組みからヒントも見えてきています。

断熱改修で暖かく 動き出した自治体

家の寒さをなくすため、独自の取り組みを始めた自治体があります。

山口県の長門市(ながとし)では、地元の施工会社に断熱改修を依頼する住民に対して補助制度を設けています。

工務店社長 石本治さん
「床、壁、天井の断熱を入れてリフォームをした」

窓ガラスや断熱材の厚さ、浴室やトイレへの暖房設置など、一定の基準をクリアするリフォームをすれば、市から費用の2割が商品券として交付されます。

およそ300万円をかけてリフォームした、こちらの家。

石本治さん
「複層ガラスの入った内窓サッシをつけております」

内窓を設けることで部屋の気密性が高くなり、熱が逃げにくくなりました。さらに、寝室との温度差をなくすためにトイレを近くに備え付けました。この4年で、160軒余りの家がリフォームを行っています。

住宅のリフォームについては高断熱の窓を設置した場合に、上限200万円の補助が受けられるなど国の補助制度もあります。自治体の制度とも併用することができます。

制度を利用した 岸田弘稔さん
「なかなか年をとると新築というわけにはいかないから、いわゆるリフォームしてですね、一部分を補助金でいただけたらありがたいかなと思っています。」

命を守る工夫を 在宅医たちの呼びかけ

板橋区では、ある取り組みによって家の室温と多くの住民の血圧の状況が改善したというケースがあります。

2021年から、訪問診療に携わる医師や、大学教授らが始めた取り組み。家の中を手軽に暖かくする方法を伝えていきます。

今村聡医師
「障子の向こうが窓ガラスじゃないですか。結構ここ温度下がるんですよ。これ、カーテンつけるだけで全然違って」
大内泉美さん
「雨戸があるんですけど」
今村聡医師
「雨戸閉めれば全然違う」

他にも、窓に断熱シートを貼る、パネルヒーターを設置するなど、具体的なアドバイスもします。医師たちの呼びかけにより、4割近くの住宅で室温が改善され、半数以上の患者の血圧が抑制されました。

大内泉美さん
「自分も寒いなと思うと、そういうの(体調不良)が起こると感じていますので、母はもっとかなと思うので暖かくしたほうがいいと思います」
今村聡医師
「住まい(の寒さ)をどうするのか、住まい方に対する取り組みが少し弱い気がして、われわれも在宅医療をしているのであれば、住民の方もそれを常識というか、こういうことをやるのが大事だと知ってもらうことも大事」

今すぐできる対策は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
ここからは、住宅の断熱について長年研究している近畿大学教授の岩前篤さんに加わっていただきます。

家の断熱改修によって電気代が安くなるというメリットを一緒に見ていきたいと思います。

こちら、試算です。断熱対策がされていない2階建ての家をモデルに、2020年に試算したものです。1階の窓に内窓を施しますと、工事費用に50万円かかりますが、電気代は1年で1万7,000円節約できます。

また、1階と2階に内窓をつけ、さらに床と天井も断熱工事をした場合、工事費用はおよそ150万円かかりますが、電気代は2万8,000円、年間で節約できると。

岩前さん、この時と比べて今はもちろん工事費用も電気代も上がっているとは思いますが、ここから読み取れることはどういうことでしょうか。

スタジオゲスト
岩前 篤さん (近畿大学教授)
住宅の断熱について研究

岩前さん:
あくまでこれは目安ですが、工事にかかった費用を電気代が安くなった分の金額で割ると、大体15年ぐらいと言われています。つまり、15年間で元が取れると。16年目からはお金が増える方向に行くと言われています。

ただ、15年はあまり短くないと思われる方も多いと思うのですが、これはあくまで暖房に関する電気代だけを考えた場合で、最近ですと健康維持、つまり医療費の軽減ですね。そういうことも算定しますと、大体回収期間が7~8年まで短縮するという研究報告もあります。

工事はちょっと(負担が)重いという方にはぜひ、内窓だけでも付けるということをお勧めしたいです。

桑子:
内窓というのがかなり効果的ですか。

岩前さん:
非常に効果がありまして、窓というのはそもそもたくさん熱が逃げるわけですが、内窓というのは小さい窓ですとおよそ3万から5万円ぐらいでつけれる場合もあります。工事というと、すごく大層なイメージがあると思いますが。

桑子:
大がかりな。

岩前さん:
内窓の取り付けというのは、専門の方が来られて30分から1時間ぐらいで簡単につけられますので、ぜひ気軽にお試しいただければと思います。

桑子:
とはいっても、なかなかリフォームに手が出ないという方もいらっしゃると思います。より手軽な対策について、ここからご紹介していこうと思います。

まず、最も熱が逃げる窓を断熱する方法です。

こん包に使うぷちぷちとした資材を窓に貼る。これが断熱効果があります。

さらに、このように空気の層を含んだボードを窓にはめ込む。これも断熱効果があります。

そして、ハニカムシェードというブラインドですが、空気の層が中にできています。

岩前さん、いずれも空気の層を作るということがポイントですか。

岩前さん:
そうです。空気というのは動くとたくさん熱を伝えるのですが、止まっていると非常に高い断熱性能を持つんです。いずれも、それをねらったものとなっています。

桑子:
この他にできる対策は何でしょうか。

岩前さん:
例えば、サッシについては特にアルミは冷えるので、そういったところに対策を打つのは非常に重要かと思います。

桑子:
ここからは100円ショップやホームセンターに売っている寒さ対策のグッズもご紹介していこうと思います。まず、サッシの対策。

サッシに貼る断熱シートというものがあると。これもかなり効果的なんですね。

岩前さん:
そうですね。お手軽ですし、ふだん見落としがちなガラスだけはという方も多いと思いますので、ぜひお試しいただければと。

桑子:
水分を吸収してくれるという。

岩前さん:
そうです。結露も起こりにくくなります。

桑子:
他に、例えばこちらに3本並んでいるものはドアなどの隙間を埋めるものです。

一番上にあるものは、ぽんと置くだけで冷たい空気を遮断してくれます。他に、ドアに直接貼り付けるものなどもあります。

岩前さん、他に効果的な方法はどういうものがありますか。

岩前さん:
玄関は日本の住宅の冷えの大きなもとになっています。ですから、玄関と廊下の間に厚手のカーテンをつける。できるだけ床に沿うようにつける。昼間は開けておけばいいのですが、気温の下がった夜とかはカーテンを閉めておきますと、例えばトイレに行かれるときに冷えがかなり軽減されると思います。これはあまりやられてないので、お勧めの1つかと思います。

桑子:
とにかく冷たい空気をいかに中に入れ込まないかということですね。

岩前さん:
とにかくわれわれの生活の中に入れ込まないという考えが大事かと思います。

桑子:
苅尾さんにも伺いますが、この時期、命を守るために、どんなことが大切でしょうか。

苅尾さん:
血圧に加えて、実際に温度を測ってみるということですね。室温を測っておくというのが大事だと思います。エアコンとかでセッティングするだけではなく、実際の温度はどれぐらいなのか。

それと、足元から暖めるということが大事です。実際にきちっと患者さんに指導しますと、血圧が150、160まで上がっていた人が120ぐらいになった患者さんがいました。非常に楽になったと。心不全のマーカーも改善したと。実際に改善します。きちっと対処をするとリスクが下がる。生活の習慣だけではなくて、生活の環境。これを整えてほしいなと思います。

桑子:
「生活環境病」という大事なキーワードもいただきました。ありがとうございました。

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