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2022年12月7日(水)

「入管」でなにが “ブラックボックス”の実態

「入管」でなにが “ブラックボックス”の実態

“ブラックボックス”の内側でいま何が?在留資格を失うなどした外国人を収容する入管施設でスリランカ人女性のウィシュマさんが亡くなってから、まもなく2年。妹は、ある「手紙」について語りました。入管を視察する委員会に届くはずの投書箱に入れられたが、開封は死後。「治療を受けたい」という声は届きませんでした。先月も東京の施設でイタリア人男性が死亡。収容されていた人たちや関係者の独自取材で浮かび上がった実態とは―。

出演者

  • 坂元 茂樹さん (神戸大学名誉教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

監視カメラ映像に何が 入管施設の実態

2021年、名古屋の入管施設で亡くなったスリランカ人の女性、ウィシュマ・サンダマリさん。遺族が国に賠償を求めている裁判で、ウィシュマさんの生前の様子を記録した映像が一部提出されることになりました。

5時間の映像に何がうつっているのか。今回私たちは、事前に映像を見た弁護士から聞き取り、映像の詳細やどんなやり取りがあったのか独自に再現。すると、新たな実態が浮かび上がってきました。

監視カメラ映像に何が ウィシュマさん 真相は

12月4日。ウイシュマさんの誕生日に合わせて法要が営まれていました。

ウイシュマさんの妹 ワヨミさん
「時間がたっているのに入管が真相を明らかにしないことに怒りを感じています」

2017年、日本語を学ぶため来日したウィシュマさん。留学生の在留資格を失った後も日本で働きたいととどまり続け、名古屋の入管施設に収容されました。

真相解明の鍵を握るのが、亡くなるまでの監視カメラの映像。弁護士の証言をもとに詳細に再現します。

最初の映像は亡くなる12日前。

遺族の代理人 駒井知会弁護士
「最初に見えた瞬間からぐったりしている。なんでこの状態の人をいつまでも収容施設の中に入れておくのだろう」

その翌日の映像には…

遺族の代理人 指宿昭一弁護士
「『点滴お願い、点滴お願い』と何度も頼んだのに、無視された。なんとか生きたいとう気持ちを一生懸命訴えていた」

亡くなる8日前。ウィシュマさんがベッドから落下した時の様子も記録されています。

駒井知会弁護士
「(職員が)『私たちも頑張るけど、自分も頑張れよ、オッケー?』と声をかけながらやるんです。その過程のなかでウィシュマさんが苦しそうなうめき声を上げている。その姿もとっても残酷なものでありました。ウィシュマさんも足腰立つ状態でもない。ベッドの上に上げられないと」
駒井知会弁護士
「『もうできない』、『毛布はかけておいてあげるから』と、いなくなってしまう。取り残されたウィシュマさんの様子というのが、とっても痛々しくて見ていられない」

国は2021年、この問題について最終報告書を公表しましたが、映像にはそこに書かれていなかった事実も。

報告書では、亡くなる前日にリハビリが行われたとされています。映像にはその時…

駒井知会弁護士
「ウィシュマさんはとっても苦しんでいるんですよね。悲鳴をあげているのに手をさすって左腕を伸ばしてマッサージ的なことをして、看護師さんが『睡眠をとってよくなりますよ』と声がけをウィシュマさんにしていると、その直後にまた『あー』という悲鳴がウィシュマから上がると」

そして亡くなる日の午後1時半ごろ。職員の呼びかけに全く応じなくなったウィシュマさん。救急搬送されたのは1時間たったあとでした。

駒井知会弁護士
「職員が声をかけても全然反応がないんです。手を握っていた職員が『冷たい気がします』と言うんです。『反応はないです、特には』。その時点で亡くなっていたかもしれない。それでも救急車を呼ばないんです。呼んだのはそれから8分後です。点滴をしない。救急車も呼ばない。命を大切にしない。それがはっきりわかるんです」

裁判で遺族側の意見書を書いた医師は。

あびこ診療所 所長 今川篤子医師
「尿検査の結果を見て驚きました。尿のケトン体が3+。これは正常の50倍くらい。もう自分の体の中で糖が利用できないほど飢餓に陥っていることを表しています。医療従事者としては、吐いて食べられない方に点滴をするのは当たり前のことです。救命できた可能性はあったのではないかと考えます」

ウィシュマさんの遺品の中に、直筆のメモが残されていました。妹たちは、入管施設に設けられた投書箱に投かんされた手紙だと明かしました。


おう吐が続ているため、食べることができません。血を吐きました。

私は12日以上治療がなく、とても苦しいです。治療を受けさせてくださいますようお願いします。

私が死ぬ前に早く会いに来てください

ウィシュマさんによる直筆メモを一部抜粋
ウイシュマさんの妹 ポールニマさん
「読みながら怒りがこみ上げてきて、最後まで読めなかったです。」

手紙は、入管内部をチェックする役割を担う視察委員会に宛てたものでした。しかし、手紙が開けられたのは亡くなった2日後。投かんされてから1か月以上たっていました。

現役医師らが明かす 入管と医療の実態

入管施設の医療の実態とは。今回、入管で勤務する現役の医師が初めて取材に応じました。医師は、病気の見落としが起きかねない難しさがあるといいます。

入管の現役医師
「本物(の病気)もあれば、本人が大げさに言ってるってケースも。それをどう見極めるか。完全に正しくできるかといわれると、ひょっとしたら間違えるかもしれない怖さはあります」

取材を進めると、医療につながるまでに時間のかかるケースは続いていることが分かってきました。

ウィシュマさんが亡くなってから9か月後。収容施設から出た直後に救急搬送された男性から話を聞くことができました。

男性は、入管施設の中で2週間以上にわたっておう吐を繰り返していました。体調不良を訴えましたが、外部の病院で診察を受けるまでに時間がかかったといいます。

救急車で運ばれた男性
「自分の体になにが起きるか分からないわけなので、不安が募るだけなんです。死を覚悟で1日1日を過ごしていたというのは事実です」

入管でいま何が? ブラックボックスの実態

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
不調を訴えてもすぐに医療につながらない。なぜ、こういうことが起きているのか。

きょうのゲストは、ウィシュマさんが亡くなったときに入管の視察委員会の委員長を務めてた坂元茂樹さんです。

ウィシュマさんの訴えが1か月以上たって、亡くなったあとに坂元さんのもとに届いたということになりますが、当事者の1人としてどういうふうに受け止めていますか。

スタジオゲスト
坂元 茂樹さん (人権教育啓発推進センター理事長)
元入国者収容所等視察委員会 委員長

坂元さん:
当時、視察委員会の委員長としては、亡くなった2日後に彼女の投書がわれわれの手元に届いたという現実に大変なショックを受けました。もっと早く彼女の手紙がわれわれの手元に届けられていたらと思いました。

ウィシュマさんは名古屋入管という、国の施設で十分な緊急医療が受けられないままに亡くなってしまいました。こうしたことは二度と繰り返されてはなりません。収容されている人の命と健康を守る責任は国にあります。

桑子:
今、日本の入管の仕組みがどうなっているのか見ていきたいと思います。

オーバーステイや1年以上の実刑を受けるなどした外国人は、入管庁から「国外退去命令」を受けます。多くは祖国に送還されるのですが、一部帰らない選択をする人たちがいます。そういった方々が「入管施設」に収容されます。

日本にとどまりたいという理由はさまざまありまして、「長年日本に暮らし、祖国に戻る場所がない」、「日本に子どもや配偶者がいる」、「難民申請中で祖国に帰ると迫害のおそれがある」などといったものです。

この入管施設の中で命が失われるという事態が起きているわけですが、ウィシュマさんが亡くなったことを受けて入管は医療体制が不十分だったとして、改善策をもって改革を進めています。

入管の改善策(出入国在留管理庁)
◆常勤医などの確保
◆外部の医療機関との連携強化
◆救急対応マニュアルの整備と研修
◆新規入所者に対する健康診断実施
など

常勤医などの確保、外部の医療機関との連携を強化するなどがありますが、坂元さんは内部の医療体制について調査をして、改善の提言もされたそうですが、現状これは改善されていると思われますか。

坂元さん:
ウィシュマさんが亡くなった後、入管の医療体制の強化に関する有識者会議に参加をしました。そこで提起された医療体制の課題は大きく分けて2つあります。

1つは、常勤医師の確保の問題です。入管の医師は、常勤医の場合に兼業が禁止されています。常勤医の兼業を可能とする法整備などを法務大臣に提言をいたしました。

もう1つは外部医療機関との連携の問題ですが、外部病院に診療を求めても病院が受け入れを拒否するケースがあります。

なぜかというと、被収容者の診療には逃亡を防ぐために3名の入管職員が付きそいます。一般の患者さんはそういう光景を見ると驚くわけで、診察室に他の患者さんの目に触れない形の動線があればともかく、そうでない病院は診察を断る傾向があると。

桑子:
まだまだこの強化も不十分だと。

坂元さん:
不十分だということになりますね。

桑子:
体調不良や精神的に追い詰められるケースというのが報告されているわけですが、その背景にあるのが、中には何年も施設に閉じ込められてしまう「長期収容」の問題です。近年、施設内の新型コロナの感染拡大を防ぐために「仮放免」という制度で一時的に収容を解かれる人が増え、実態を語り始めています。

語り始めた"収容者"たち 長期収容の実態

仮放免者の支援を行うNPOです。収容施設を出ても働けず、収入もない外国人からの医療相談に追われています。

支援件数は年間100件を超え、新型コロナの感染拡大前より倍増。援助した医療費の1,200万円余りは寄付などで賄っています。

この日、NPOの事務局長は支援している外国人のもとを訪れました。住む場所のない仮放免者のためのシェルターです。

アジア出身の40代と50代の男性です。2人とも祖国で暮らす貧しい家族を支えるために20年以上前に来日。家族への仕送りを続けるために工場や建設現場で働く中、ビザが切れ、入管に収容されました。収容は3年間の長期に及びました。

収容されたのは4人で生活する10畳程の部屋。1日のほとんどを施錠されたこの部屋で過ごしました。収容者は、職員から身柄を意味する"ガラ"と呼ばれていたといいます。

アジア出身 40代男性
「私たちのことを"身柄"って言うんですよ。"ガラ放っておけ"って。殺人した犯罪者みたいに"ガラ"って言うのにびっくりしたんです。ひとつの部屋(別室)に連れていかれる。『帰れ帰れ』、『何で帰らないの』。テーブル叩いてバーンって。『我慢できない(国に)帰ります』と言うまで入管が圧力かけるんですよ」

収容中は、いつ強制送還されるか分からない恐怖におびえ続けていました。

アジア出身 40代男性
「一人一人が連れていかれるんですよ。チャーター便に入れられて、強制送還になった」
アジア出身 50代男性
「結構声が聞こえます。『おーい』とか『やめて』、そういう声が聞こえる」
アジア出身 40代男性
「あれが今までで一番怖かった。説明できないストレスなんです」

「長期収容」で人生が変わった…

長期間の収容で人生が変わってしまったという人もいます。

トルコ出身で、少数民族クルド人のデニスさんです。迫害の危険を感じて観光ビザで来日。難民申請を繰り返してきましたが認められませんでした。

デニスさん
「これは難民申請をやってる。(全部で)4回」
取材班
「全部不許可ですか?」
デニスさん
「そう」

コロナ禍で仮放免となり、今は日本人の妻と共に暮らしています。

デニスさん
「奥さんの力で私は頑張って生きれる。私は日本好き。嫌いなことはなくて、入管は別」

精神科の処方薬が手放せないデニスさん。合計5年に及んだ長期収容の中で心の重荷になっている出来事があります。

<東日本入国管理センター 2019年1月>

入管職員
「説明するから行くよ」
デニスさん
「なんで(向こうで)説明する。ここでして」

この映像は、デニスさんが収容中に大声で騒いだとして、職員から制圧を受けた時のものです。

入管職員
「一回うつ伏せに制圧するから」

デニスさんは、裁判を通してこの映像を公開させ、国の責任を問うています。一方、国側はデニスさんが暴れ続けたとして制圧の行為は「規則に基づいた正当なもの」としています。

デニスさんは、この時の記憶がもとでPTSD=心的外傷後ストレス障害と診断されました。

デニスさんの妻
「(仮放免になって)1年の間に3回くらい自殺未遂というか、警察と病院から電話がかかってきて迎えに行きます。私が仕事から帰るとまず、ここがトイレになるんですけど、中で切ってないかだとか、必ずこうやってのぞいちゃいます」

今も3週間に1度の通院が欠かせません。

精神科医
「トラウマを治す治療っていうのも、なかなか時間がかかる」
デニスさん
「本当に薬を飲まないで寝たい。薬飲まないで生きたい」
精神科医
「最終的にはお薬なしで生活できるのが理想だよね」
デニスさん
「普通になりたい。普通になれるですか?」

元幹部が明かす"入管の役割"とは

かつて、入管の幹部まで務めあげた男性が匿名を条件に取材に応じました。男性が語ったのは、あくまで国外退去を求めるのが入管の役割だということです。

入管 元幹部
「ざっくばらんに言えば、くさい飯食ってるんだったら国に帰って働け。そして年数稼いでまた出直してこいっていうのが入管の人たちの考え方。そういう場所に入れといて説得して観念させて、それで確実に帰すんですよ。そういうための施設なんだ」

元幹部は、長期収容の問題を解決するには入管だけでは難しいといいます。

入管 元幹部
「(在留を)認められないものについては、どういう扱いをすべきかみたいな何かの道筋を見いだしていかなければ、長期収容がどんどんどんどんたまってしまう。社会問題化している部分というのも放置するわけには本当にいきませんのでね。入管、何やってるんですかって言われて終わりですよね。そこは何か知恵を出し合って解決する方法をつくる時期にきているのではないかと思いますね」

入管めぐる問題 解決には何が?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
デニスさんは仮放免中に酔った際のトラブルで実刑判決を受けていますが、デニスさんの弁護士は外国人であるがゆえの厳しい処置だと考えています。今は刑期も終えて、入管施設の長期収容の問題を訴えています。

この長期収容がなぜ起きてしまうのか。

長期収容の背景
◆期限の定めがない
◆祖国に帰れない理由がある

その背景に坂元さんが挙げるのが、こちらの2点です。まず「期限の定めがない」ことですね。

坂元さん:
EU加盟国の場合には、2008年のEU指令で収容期限に6か月という上限が設けられています。その間、抑留の必要性について定期的な司法審査が行われています。

しかし、日本の入管では収容が期限の定めなく行われており、しかもそれが裁判官の令状なしに入管庁という行政機関の判断だけで行われていることに問題があると思います。

桑子:
そして、「祖国に帰れない理由がある」というのも背景にあるのではないかということですね。

坂元さん:
難民認定を求めても、日本は難民の立証基準として高い基準を採用しているので、基準を緩和している外国と比べて難民の認定率が極めて低い水準にあります。

そのため、外国であれば難民として認定される人も日本では不認定の結果、収容されている可能性があります。

また、不法就労を行ったとして収容されている人もいます。生活基盤が日本にあって、非正規の労働者として日本経済を実質的に支えてきた人には「在留特別許可」など正規に滞在する道を開く必要があります。

桑子:
今後、長期収容の問題改善に向けてどういったことが必要になってくると考えていますか。

坂元さん:
日本社会はすでに外国人に多く支えられている現状があります。彼らは単なる労働者ではなく、生活者でもあります。日本は、外国人を管理の対象ではなく共に生きる対象ととらえ、彼らに真摯に向き合う社会に変わっていく必要があります。

桑子:
ありがとうございます。ひと言で在留資格がないといっても、その事情はさまざまです。自分にそんな中で何ができるのか。そういった個々の事情とどう向き合うことができるのか。今、一人一人と向き合おうという動きが広がっています。

"同じ人間"として 動き出した若者たち

新宿で難民や仮放免者を支援する団体です。大学生や高校生たちの参加が増えています。

大学2年生
「ウィシュマさんの死亡事件と入管問題を知って、自分も何かしなきゃいけない」

収容されている人と、定期的に面会をしています。

面会をした学生
「面会室に入ってきてすぐに『さっき吐いちゃって』って…」

医療の対応などで、入管に改善を求めています。

大学4年生
「外国籍という人がどんどん増えてきている中で本当に身近な問題で、そこは変えられると思いますし、変えていきたい」
見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

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