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2022年10月18日(火)

“老いるマンション” 老朽化と高齢化にどう備えるか 解決策は

“老いるマンション” 老朽化と高齢化にどう備えるか 解決策は

いま日本のマンション全体の2割近くが築40年以上。そうした“老いるマンション”が、外壁の崩落や配管からの漏水などの「建物の老朽化」と、孤独死や認知症に伴うトラブルなどの「住民の高齢化」で苦しんでいます。建物の修繕費がかさむ一方で、年金暮らしの住民が増えてお金が追いつかず、管理不全に陥るケースも。この”2つの老い“に追い込まれないために今できる対策とは何か?立ち上がった自治体や住民を取材しました。

出演者

  • 久保 依子さん (マンションみらい価値研究所 所長)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

"老いるマンション" 老朽化と高齢化に直面

桑子 真帆キャスター:
「"老いるマンション"といっても、うちはまだ大丈夫」、そう思っていませんか。今、まさに備え始める必要がある問題なのです。

国の調査のうち、築40年以上のマンションを見ますと全国のマンションの20%近くを占め、この先10年で倍増すると見られています。そうしたマンションが直面しているのが「老朽化」と「高齢化」という2つの老いです。

老朽化マンション "直したくても 直せない"

熊本市中心部にある築50年、48戸の分譲マンション。このマンションの6階に住む古川憲生さん(76)は、天井や壁の劣化、漏水、いまマンションのあちこちが老朽化で壊れ始めているといいます。

古川憲生さん
「上から落ちてくる。破片がいっぱい落ちている」

劣化した非常階段を支えるのは・・・

古川憲生さん
「この状態は、私が応急的にひもで補強している」

こうした劣化部分の補修や耐震化には、6,000万円以上かかります。

古川憲生さん
「うちの(マンションの)財政が1,500万ぐらいしかないもんですから、到底無理なんですよ」

通常、分譲マンションには部屋の所有者全員からなる管理組合があり、マンションの運営方針を決めます。古川さんは今、その理事長を任されています。階段や外壁などを修繕する場合、管理組合がみんなで月々出し合う積立金から支払います。

このマンションの積立金は、一部屋、月3,000円。これでは全く足りませんが、値上げできない事情があります。

古川憲生さん
「今、年金暮らしの高齢者がほとんどで、収入が少ないので。(所有者の)平均が76歳。もう今後は恐らく管理費も修繕積立金も、値上げするのは不可能」

なぜ、こんなことになったのか。その原因は、マンションが建てられた1970年代初めの状況にありました。当時は高度経済成長で、一般向けのマンション販売が本格化したばかり。将来を見据えた修繕の計画や管理という考え方は広がっておらず、管理組合自体がないマンションも数多くありました。

このマンションができた当時から住む、石原美重子さん(94)。

石原美重子さん
「ここに住めるのよっていって、思い切って買った。本当に夢のお城でした。最初は(修繕)積立金というのはなかった。管理のことなんか知らないもん」

築30年を過ぎるころから、住民の多くが年金暮らしに突入。お金に余裕がなくなる一方で、老朽化で修繕の費用はどんどんかさんでいきました。しかし、住民同士のつきあいは薄く、マンションの今後を踏み込んで話し合うことはできていません。

住民
「できれば建て替えお願いしたいんだけど、お金が相当いる。その間、引っ越さないといけない。ちょっと分からない。考えつかない」

今、年金暮らしの住民は生活で手いっぱい。進む一方の老朽化と高齢化を前に、なすすべがありません。

古川憲生さん
「年金暮らしですので仮に100万、200万で売ったって、(次の住居の)頭金にもならないし、お年も召されているから新たなマンションに移ることも不可能ですので。もうちょっと、現状維持でいかないとしかたがない」

ゴミ部屋 孤独死… 高齢化で生じるトラブル

建物の老朽化に加えて、住民の高齢化が引き起こす問題もあります。認知症の住民が増え、マンション内に人知れずゴミだらけの部屋が発生するケースも出ています。

ここで暮らしていたのは、認知症の80代の女性。親族が数年ぶりに部屋を訪ね、事態が発覚しました。ゴミだらけの部屋は衛生環境の悪化だけでなく、ぼやの発生リスクが上がるなど、マンション全体に関わる深刻な問題です。

京都府立医科大学大学院 成本迅教授
「いわゆるゴミ屋敷みたいな問題、(ゴミを)出す曜日が最近は複雑になってますよね。認知機能が低下すると、どの曜日にどういうゴミを出したらいいかっていうのが分からなくなったりとかして、結果的に家に溜めてしまう」

また、マンションは外から中が見えにくいことも特徴です。オートロックなどで高齢者を見守る福祉の支援が届きにくく、人知れず事態が深刻化しやすいといいます。

管理組合の元理事長
「玄関のドアから中をのぞいたら、虫がいっぱい出てくると。これはちょっと様子がおかしいぞということで、急きょ、消防署と警察へ連絡して」

このマンションでは、2021年に80代の男性の孤独死が発生しました。事態が発覚するまでの3か月間、同じ階の住民も全く異変に気付きませんでした。

管理組合の元理事長
「独居老人だし世間とのつながりが無いから、玄関閉めたら(関係が)終わり。人とのつながりが無いということが、やっぱり一番ネックでしょうね」

老朽化と高齢化 マンションの課題

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
老朽化と高齢化、マンションに迫る2つの老いに、どう備えていけばいいのか。きょうのゲストは、この問題について長年研究されている久保依子さんです。

まず老朽化ですが、ここまでになるまで、なんとかできなかったのかというふうにも感じるのですが、どうしてこういう事態になっているのでしょうか。

スタジオゲスト
久保 依子さん (マンションみらい価値研究所 所長)
マンション管理の専門家

久保さん:
今まで日本ではマンションが老朽化するということが、あまり皆さんの認識の中にありませんでした。反対に「住宅すごろく」というような言葉があるのですが、賃貸アパートから始まり、賃貸マンション、それから分譲マンション、最後は戸建てで上がりと。みんなが戸建てに住むことに憧れるという時代がずっと長く続いていました。

分譲マンションは通過点でしたので、そこが老朽化する、それから高齢者の問題に悩むということが、考えられてこなかったんです。そこが今、問題を深刻化しているいちばんの要因だと思っております。

桑子:
今はマンションがついの住みかになったわけで、一気に問題に直面しているということですよね。マンションにも寿命があるんだということが分かると、じゃあ、今自分が住んでいるところがそれほど古くなくても、今後同じような問題に直面するということは思っておいたほうがいいですね。

久保さん:
そうですね、もちろんです。修繕計画があるから大丈夫と思っていらっしゃる方が多いのですが、修繕計画があってもその通りにいくということはほとんどなくて、多くが修繕計画を見直して、どんどん変えていかなければならなくなっています。

ですので「修繕計画があるから大丈夫、うちのマンションは新しいから大丈夫」ではなくて、自分事として「マンションには終わりが来るんだ」ということを皆さんで考えていただきたいと思います。

桑子:
「今、大丈夫」と思っていても、実は2つの老いが始まっているというケースもあります。今回はチェックリストを久保さんに作っていただきました。

題して「あなたは大丈夫? "2つの老い"予備軍チェック」ということで、この中の半分以上当てはまる人は要注意ということです。「マンション内に立ち話ができる知人は2名以下」は要注意ということですね。どういうことでしょうか。

久保さん:
マンションの中で、自分だけが生活していると思っていらっしゃる方が多いのです。この2名というのは両隣という意味で、せめて同じフロアにいる両隣の方とはお話ができるようにしましょうと。あいさつでしたら大抵の方はすると思うのですが、立ち話、踏み込んでお話ができるということがポイントになっています。

桑子:
立ち話がポイント。「管理会社がやっているから大丈夫」と思っている方が多いと思うのですが、これも要注意でしょうか。

久保さん:
はい。管理会社は、あくまでもマンションのサポート役として業務をしています。ですから、マンションのいろんな決まり事を決めるのは「管理組合」であるわけです。なので、管理会社はサポートしてくれていても、安全だということではありません。

また、管理会社も営利企業ですから、ある段階で収益が合わないということになれば撤退していくこともあり得るわけです。ですから、気が付くと誰からもサポートが受けられない、そんなことになっているかもしれないということになります。

桑子:
決める最終主体は、自分たちであるということですね。他にも「総会に出たことがない」とか「郵便受けや玄関ドア前に表札がない住戸が多い」というのも要注意だそうです。

こうして見てきたマンションの老いの問題ですが、いま地域も巻き込み始めています。

こちらは、滋賀県野洲市にある老朽マンションです。10年ほど放置された結果、アスベストの問題や崩壊の危険性があるということで市が取り壊すことになりました。市が負担している金額は、およそ7,900万円に上っています。

久保さん、民間の建物の取り壊しに税金を使わざるをえなくなってしまっているということで、どうしてこういうことになっているのでしょうか。

久保さん:
日本では、マンションは個人の所有物。つまり所有権が非常に強いと考えられてきていました。なので、ここには行政は今まで立ち入らない。それから、自分たちの中でなんとかしなければいけないのですが、限界を迎えたマンションに対しては誰も手出しができない。そういったことで、このように限界を超えてしまったマンションが出てきたんだと思っています。

桑子:
今後も増えていくと考えていいですね。

久保さん:
はい。

桑子:
もはやマンションの中だけではない問題となっている、2つの老い。これを外から支えようという試みが今、各地で始まっています。

老朽マンション救え "おせっかい支援"

京都市では、行政が進める「おせっかい型の支援」が成果を上げています。実行部隊は、マンション管理士、一級建築士、さらには弁護士など、専門家が集まるNPOです。行っているのは、老朽化し、管理が不十分な“要支援マンション”を見つけ出し、立て直すサポートです。

おせっかいした物件の一つ、築48年になるマンション。以前は、住民はバラバラで、管理組合も修繕のための積立金もありませんでした。そこにNPOが飛び込みで訪問。最初に行ったのは、建物の現状を直視してもらうことでした。

NPO マンション管理士 谷恒夫さん
「建築士が説明して、クローズアップの写真をお示しして、これは本当に危ないんですよとお伝えすると、こういうことになっているのかと再認識される」
部屋の所有者 吉田博子さん(「吉」は土吉(つちよし))
「不安とかは少しはある。ただ、目をつぶっているところもある。どうしていいかも分からない」

次に、少ないお金でできる修繕を提案していきました。

谷恒夫さん
「予算がないんで仕上げは出来ず、補修だけで終わっている。だからちょっと不細工」

小さな修繕を重ねる中で、部屋の所有者たちは建物の管理に目を向けるようになっていきました。修繕金の積み立ても始め、最初の訪問から2年後には管理組合を設立。

自然に話し合う空気が生まれ、足腰が弱くなった住民のために、相談して手すりもつけました。

吉田博子さん
「理事会や総会が、嫌なものではなくなってきている。気軽に相談してみようとか、そういうふうになってくると、もっと進みますよね。何でも前向きに進んでいけるという安心感をすごく持ちました」

こうした一歩踏み込んだサポートで、市内に47あった要支援マンションの数を9年かけて半数近くにまで減らしました。

NPOマンションサポートネット事務局長 堀井文子さん
「築30年過ぎたぐらいから、設備の老朽化が目立ち出す。お金もすごくかかるようになりますし、その辺から急いで、この先どうするのって話を詰めないといけない」

多くの老朽マンションを軌道に乗せる中、NPOはさらにその先の支援を始めています。

解体までも視野に入れたマンションの"終活"です。この日に訪ねたのは、管理組合の立ち上げからサポートしてきたマンション。

管理組合 理事長 楢﨑勝則さん(「楢」は異字体)
「築48年、なかなか古いと思います。結構メンテナンスをしっかりしているんで、そんなに劣化していないです。でも一応目安として、築60年で解体」

高齢化が進む中で、修繕し続けるのは金銭的な負担が大きすぎる。NPOのアドバイスを踏まえ、解体を決めました。そのために費用も積み立てる必要があります。最低限の修繕を行いながら、解体までの計画をNPOと作っています。

楢﨑勝則さん
「終わりを見ないということは、それは逃げているっていうか現実的じゃない。問題を先送りにしていくと、あとの人が大変。あと12年後に解体しますよっていう話をしておくと、みんな覚悟が、あと12年なんだっていう覚悟ができるし、そのためにはどうしたらいいのかということが考えられる」

"老いるマンション" つながりで解決へ

マンション同士が横につながることで、2つの老いに立ち向かおうという取り組みも始まっています。

大阪・豊中市の社会福祉協議会が開いている、マンションサミット交流会です。参加しているのはマンションの管理組合の理事長など、およそ70人。これまでそれぞれに悩んできた課題について、互いに知恵を出し合うことで解決策を探していきます。

修繕工事について、信頼できる業者や妥当な金額などの情報を共有。また、高齢者の体調の変化を住民のつながりで察知する工夫など、他のマンションのアイデアが聞ける貴重な場となっています。

管理組合の理事長
「こういう機会をできるだけたくさん作っていただきたいんです。われわれとしては、相談するところがない。一人で抱え込んでしまうんですね」

交流会をきっかけに、福祉の相談窓口との連携も生まれています。この日、社会福祉協議会の職員が、交流会に参加したマンションに向かっていました。

物があふれる認知症の高齢者の部屋。マンション内では解決できないと、住民が相談を持ちかけたのです。これまではオートロックの問題もあり、福祉の支援がこの男性に届いていませんでした。

豊中市社会福祉協議会 事務局長 勝部麗子さん
「ちょっと今日、お片付けするのでね、手伝わせてね」
90代の男性
「ありがとう」

マンションの問題を、地域のつながりで解決していく。その一歩が踏み出されました。

勝部麗子さん
「自分たちで解決しがたい場合に、どうしようどうしようというふうに中で悩むんではなくて、外とどうつなぐか。自分たちでやれる範囲と、専門職に頼む範囲っていうのを、うまく使い分けて対応していただけると、大きな問題になる前に予防的に解決していくことができるということになると思います」

マンションの終活 向き合い方は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
外からのサポートの環境がどんどん整ったらいいなと思うのですが、すぐには難しいケースもあります。そういった場合どうしたらいいのでしょうか。

久保さん:
最初に簡単にできることとしては、まずお隣のマンションとつながってみてはどうでしょうかというところです。小学校の学区が一緒だったり、お子さんの学校が一緒だったりすると、ママ友で知ってる人同士がいたりしますので、そういったところを糸口にして人間関係をつくっていく。そういったところから始められると思います。

桑子:
つながりをまずつくるということですね。VTRの中でマンションの"終活"という新しい動きもご紹介しました。

今後老朽化するマンションが増える中で、国は9月にマンションに関わる法改正の方針を明らかにしました。それによりますと、「建て替えや解体、売却を管理組合で決めやすくする」というものです。具体的には建て替えの決議に必要な人数を現在の5分の4から引き下げる、解体や売却については全員の合意が必要だったのを緩和するなど、こういったことが検討されています。

久保さん、マンションの終活とはどう向き合っていったらいいでしょうか。

久保さん:
今まで終活というのは、長いことマンションの業界でもタブー視をされていました。やはりなかなか答えが見つからないということと、新築マンションをどんどん売っていく、そういったフェーズであったことから終活の問題というのは考えられてこなかったと思います。

ただ、これからはもう終活を考える時代になってきていますので、終活に関しても人の人生を決めるような大きな決め事ですから、お互いに人とのつながりを作っていく、そういったところから始めていくことが必要だと思っています。

桑子:
マンションの中のつながり、それから外とのつながりも必要になってきますよね。今、コロナ禍でなかなか人との関係をつくりづらいですが、こういったテーマに関してはとても大事だと思います。そういった意味で、話し合いをうまく進めるために何か具体的な方法はありますか。

久保さん:
よく皆さんが誤解されがちなのは、「話し合いをしましょう」というと「お友達になりましょう」と誤解をされる方がいます。

桑子:
少しハードルが高く感じますね。

久保さん:
「お友達になろう」ではなくて、「自分の意見を言いやすい、言えるような場を作っていこう」、それが始まりだと思っています。それが「つながり」ということで、決して友達関係、いいコミュニティを作ろうということでは決してないというところを誤解のないようにしていただきたいと思っています。

桑子:
マンションが抱える1つの問題があったら、それは話し合えるいいテーマが見つかったと考えることもできますよね。

久保さん:
はい。

桑子:
ありがとうございます。マンションだからこそ必要なつながりがあります。最後にご覧いただくのは、2つの老いで悩んでいた熊本のマンションです。一歩踏み出したようです。

老朽マンション 築50年で初めて…

10月初め、ふだん交流がない住民たちが集まっていました。住民から、みんなで草取りをしようと提案があったのです。

提案した住民
「初めて会った。なかなかお会いすることもないし、お話することもない」

お互いを知り、共に将来を考えるための最初の一歩です。

提案した住民
「たまには忘年会でも、おにぎりをここ広場で(一緒に食べても)いいじゃないですか」
管理組合 理事長 古川憲生さん
「行動に移すところまでは今までやっていなかった。ある程度、気心も知れてくると本音も言えるし、今後どうするかということも真剣に議論に参加してもらえるんじゃないかな」
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