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2022年9月28日(水)

ロシアが“友好国”を拡大? 知られざる国際戦略の実態

ロシアが“友好国”を拡大? 知られざる国際戦略の実態

プーチン大統領が、予備役の部分的動員を発表するなど強硬姿勢を崩さないロシア。経済制裁などで包囲網を築く欧米に対し、今も“ロシア寄り”の姿勢をとる国は少なくありません。3月の国連総会ではアフリカ54か国中26か国が非難決議を支持せず衝撃が広がりました。一体なぜなのか?今回、その背景をアフリカで独自取材。イスラム過激派に対抗する上でロシアからの支援頼みとなっている現実など、浮かび上がってきた“深層"とは―。

出演者

  • 畔蒜 泰助さん (笹川平和財団 主任研究員)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

ロシア"強行"に非難 その裏で"友好国"拡大?

桑子 真帆キャスター:
ウクライナの東部や南部の支配地域では、「住民投票」だとする活動が強行され、プーチン政権は今後、一方的な併合に向けた手続きを始めるものと見られています。

これに対し、日本時間の28日に開かれた国連安全保障理事会の緊急会合では、ウクライナや欧米各国からロシアへの非難が相次ぎました。

しかし、世界は反ロシアで一枚岩になっているとは言い切れない現状もあります。その象徴的な場所がアフリカです。

3月に行われた、国連総会でのロシア非難決議の結果です。アフリカだけで見ると反対、棄権、欠席が合わせて26か国と、およそ半分が非難決議に同調せず、ロシアに配慮するかのような動きを見せたのです。

一体、アフリカで何が起きているのでしょうか。

ロシア"包囲網"の裏で 知られざる国際戦略

非難決議を棄権した国の一つ、西アフリカのマリ。今"ロシアとの関係を深めるべきだ"という声が高まっています。

弁護士のドリッサ・メメンタさんは、3年ほど前からSNSでロシアを支持する言動を発信しています。メメンタさんが強調したのは、かつてマリを植民地支配し、その後も強い影響力を持ったフランスへの不信感でした。

弁護士 ドリッサ・メメンタさん
「フランスと共に歩んできましたが、武器も情報も何ひとつ得られませんでした。私の発信は多くの人の注目を集め、活発に議論されています」

1960年まで、40年にわたってマリを植民地支配してきたフランス。独立後も政治や経済、文化の面で深い関わりを持ってきました。

そのフランスへの不信感が決定的に強まったきっかけは、10年ほど前。イスラム過激派による治安の悪化です。

マリ政府の求めに応じ、フランスは軍を派遣。しかし過激派を排除できず、40万人が家を追われました。

マリでの信頼を失ったフランス。一方、そのマリに急接近したのがロシアです。2014年にクリミアを一方的に併合して以降、欧米との関係が悪化。その裏で、アフリカとの関係強化を探ってきたのです。

2019年には、アフリカのすべての国の代表を招いた国際会議を初めて開催。経済や軍事の面で協力を約束しました。

2019年 ロシア・アフリカ経済フォーラムにて プーチン大統領
「アフリカ諸国のテロや過激派との戦いを、全面的に支援する」

マリでは2020年、2021年と、軍がクーデターを起こし、政権を掌握。ロシアは、マリの軍事政権にヘリコプターなどの兵器を送り、軍事協力を進めました。

ドリッサ・メメンタさん
「ロシアと協力して、数か月でヘリコプターやレーダーを手に入れました。ロシアは私たちに敬意を払い、指図してきませんでした。これこそがウィンウィンのパートナーシップです」

"闇の傭兵(ようへい)"投入か?

ロシアのマリ進出で大きな役割を担ったと見られているのが、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」です。ウクライナやシリアなどの紛争地で活動してきたとされていますが、ロシアの大統領府は、その存在すら認めていません。

ただ、9月26日、プーチン大統領とも近い関係にあるとされる実業家のプリゴジン氏が、ワグネルの創設者であることを初めて認めました。マリ当局は、ワグネルを雇っていないとしています。しかし、フランス陸軍の幹部はワグネルの暗躍の一端をつかんだと証言します。

その証拠の一つとなったのが、この映像。

2022年4月に、フランス軍がマリ北部の砂漠地帯で秘密裏に撮影したものです。フランス軍は画像解析を含むさまざまな情報から、ワグネルの隊員が含まれていると断定しました。

フランス陸軍 パスカル・イアニ准将
「あらゆる証拠がワグネルの関与を示唆しています。この地域で、ロシアの軍事行動が始まっています。マリの政権は、権力を維持するためにワグネルを利用しているのでしょう」

ワグネルとは一体、どのような集団なのか。かつて、傭兵(ようへい)として活動していたという人物と連絡がつき、向かいました。

内戦下のシリアに派遣されていたという、マラット・ガビドゥリン氏。所在を明かさないことを条件に、取材に応じました。高額の報酬が得られることから、紛争地での戦闘に参加したといいます。

ワグネル元隊員 マラット・ガビドゥリン氏
「(ワグネルは)実質、ロシア政府が作った、傭兵(ようへい)部隊です。軍とは違って、兵役に就いているわけではないので、法律や軍の規定には縛られません。派遣された場所で戦うだけの"便利な道具"なのです」

軍の規律に縛られないワグネルは、目的達成のためには手段を選ばないとし、そのため強権的な政権に歓迎されるといいます。

マラット・ガビドゥリン氏
「ワグネルは犠牲をいとわず、前進してたたきつぶし、すべてを踏みつぶすのです。アフリカのリーダーは、軍事クーデターで権力の座についた人たちが少なくありません。困難な問題でも手段を選ばず解決するワグネルのやり方に共感しているのです」

そのワグネルの活動により、マリでは市民が巻き添えになったとの指摘も出ています。

3月に、マリ軍が過激派の戦闘員200人余りを殺害したと発表した中部の村。ワグネル所属の傭兵(ようへい)が加わった作戦で、数百人の市民が殺害された疑いがあるのです。

その一部始終を目撃したという男性。フランス語を話さない白人の兵士たちに拘束された際の惨劇を証言しました。

住民の殺害を目撃した男性
「とてもつらいです。夢も希望もなくなりました。この村を愛していましたから。私たちは、ことばも通じない相手に5日にわたって拘束されました。彼らは立ち上がろうとする住民を棒で殴りつけ、逃亡を試みた住民の頭を銃で撃ち抜いたのです」

マリのクーデター前の政権で長く大統領のアドバイザーを務めてきたボカリ・サガラさんは、ロシアの軍事力に依存を深めていく現状を懸念しています。

マリ前大統領アドバイザー ボカリ・サガラ氏
「人々はいま『解決策はロシアにしかない。ワグネルがイスラム過激派を消滅させる』と信じきっていますが、私はそうは思いません。仕事もなく、ほかに希望もない若者たちが過激派になってしまうのが現実ですから」

国際社会も、ワグネルなど、傭兵(ようへい)がもたらす危険について警戒感を強めています。国連の傭兵(ようへい)に関する作業部会で座長を務める専門家は、アフリカでワグネルによる人権侵害が拡大しかねないと指摘します。

国連 傭兵(ようへい)の利用に関する作業部会 座長 ソルハ・マクラウドさん
「彼らの動機は金銭面の利益なので、戦闘を長引かせることに関心があります。一般市民を無差別に標的にした疑惑もあります。これは戦争犯罪に該当する可能性もあるのです」

"友好国"の拡大は?

ロシアを支持する国は、今後広がるのか。

アフリカで、マリのほかにワグネルの関与が指摘される国は少なくとも6か国。34か国が、ロシアと軍事面で協力しています。

そして今、その動向が注目されているのが、マリの隣国、ブルキナファソです。2022年1月、イスラム過激派に対処できない政府への不満が拡大し、クーデターで軍が政権を掌握しました。前政権に協力していた旧宗主国フランスへの反発も強まり、今後どの国と協力すべきか国民の意見は割れています。

「ロシアと一緒になら、やっていける。ロシアなら(過激派を)排除できる。いまのフランスのようになることはない」
「フランスはどうでもいい。私が求めているのはアメリカだ」
「国がまとまっていれば、他国の助けは必要ない」

結論が出ない問題に、人々は揺れています。

今、熱を帯びているのが、ロシア寄りの情報発信です。国内の親ロシア団体が最も力を入れているのが、SNSを使ったロシアへの支持の呼びかけです。

親ロシア団体 広報 バーテレミー・ザオンゴさん
「プーチン大統領が最もパワフルだと書きました。彼は政治的に最も強力な男です」

この半年で、およそ1万人の支持者を獲得。ロシアからの支援はなく、寄付を元に活動していると主張しています。

バーテレミー・ザオンゴさん
「古い世代は(テレビやラジオなど)旧体制のプロパガンダの仕組みに操られてきました。現代はソーシャルメディアがあり、世界中で何が起きているのか知ることができます。アフリカの人々の目を開かせることができるのです」

ロシア寄りの情報発信は、どのように受け止められているのか。

3年前に過激派に追われ、北部の村から逃れてきたシビリ・バモゴさん。

シビリ・バモゴさん
「環境はよくないけど、何とかここで暮らしています。逃げるときに、すべてを置いてきました」

すべてを失い、その日暮らしの毎日。親しくしていたおじは、過激派に殺害されました。

シビリ・バモゴさん
「テロリストは彼らを地面に寝かせ、至近距離から胸を撃ったそうです。ことばを失いました」

そうした中、心を動かされる動画に出会います。

「フランスはイスラム過激派に武器を与えていて非難されている。プーチン大統領は助けが必要な人たちに、声をあげるよう呼びかけている」

フランスへの不信感をあおり、ロシアこそが味方であるとする内容でした。

シビリ・バモゴさん
「私が望んでいるのは(過激派から)私たちを本気で助けてくれる国です。ロシアが私たちを救ってくれることを願っています」

一方、ファクトチェックを行う地元の団体は、こうした発信にはデマが多く含まれていると警戒感を強めています。ブルキナファソの識字率は4割。写真や動画を活用したデマ情報が浸透しやすいと指摘します。

ファクトチェック団体職員
「この種の内容はネットに投稿され、さかんに拡散されています。実際の出来事をねじ曲げて、事実でないことを信じさせようとしているのです」

1か月前に拡散されたこちらの投稿。

フランス兵が、過激派と共にマリで民間人を襲ったとする内容でした。しかし、使われていた写真を詳しく調べると、5年前にフランス軍が公開した広報写真だということが分かったのです。

ファクトチェック団体職員
「これらの写真とマリでの攻撃は関連がありません」

さらに、フランス兵が過激派に武器を供給している現場だとされた、この動画。

全く関係のない自然保護区でのNGOの活動の様子だと判明しました。

ファクトチェック団体職員
「この種の投稿の目的は、フランスに関するうそをつき、彼らに対する憎悪を呼び起こすことです。ロシアの外交の目的に沿うように使われているのです」

今後、ブルキナファソはロシアとの関係を深めていくのか。軍事政権で外交を担うトップが直接取材に応じました。

取材班
「ロシアとの関係強化を求める声が増えていますが、そうした声にどう応えますか?」
ブルキナファソ暫定政府 オリビア・ルアンバ外相
「ブルキナファソは、すべての国と友好関係にあるので、優遇する国はありません。関係は、どの国も良好です。ロシアを西側諸国と比べたがる人もいますが、私たちを助けようともしない人たちに、とやかく言われたくはありません。この苦境から抜け出すためには、トゲのある枝でもつかむしかないのです」

知られざる国際戦略

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、ロシアの外交・安全保障に詳しい畔蒜泰助(あびるたいすけ)さんです。

こうして見ると、アフリカの国々にとっては長く続く混乱をなんとか解消したい。そうした中でロシアが急接近しているようにも見えるわけですが、ロシアの戦略はどういうものなのでしょうか。

スタジオゲスト
畔蒜 泰助さん (笹川平和財団 主任研究員)
ロシアの外交・安全保障に詳しい

畔蒜さん:
まず確認しておきたいのは、やはり冷戦時代、当時ソ連はアフリカの政権、あるときは反政府勢力に対して積極的に支援をしていた。そういう意味で、ソ連時代から非常に深いつながりのある関係だったということです。

桑子:
ソ連時代から関係の素地があったわけですね。

畔蒜さん:
そういうことですね。

桑子:

年表を用意しましたが、その後、大きな転機となったのが2014年のクリミア併合ですね。

畔蒜さん:
ソ連邦崩壊後、アフリカとの関係は実は途絶えたわけですが、クリミアの併合でロシアが西側諸国との関係を大きく悪化させる。そこからロシアとしては外交関係、経済関係の多角化を図る。ここがスタートという形になるわけです。

桑子:
その後、2019年のロシア・アフリカ経済フォーラムというものが開かれます。

畔蒜さん:
そうですね。実はこの前年ですね。

桑子:
2018年。

畔蒜さん:
2018年の6月。私は当時、実はモスクワに駐在していたのですが、ある下院議長が主催する議員外交の会議に出たんです。周りを見渡してみると、アフリカからの参加者が非常に多い。何でなんだろうと当時思ったのですが、2019年の経済フォーラムが開かれて「ああ、なるほど」と思ったわけです。

実は、2018年の1月あたりにワグネルの活動も始まっていたと言われていますので、そうだとすると2018年ぐらいから外交の多角化のプロセスがアフリカに入っていったということだと思います。

桑子:
その狙いはやはり、国際的な孤立を回避しようということなわけですね。

畔蒜さん:
そういうことですね。

桑子:
なぜアフリカなのかということで、畔蒜さんが挙げているキーワードが「グローバルサウス」というものです。

グローバルサウス
主に南半球に偏在
多くが非民主主義国や
経済開発が進んでいない国々

なぜロシアはここに近づいたのか、理由2つ挙げていただきました。

①アメリカの存在感↓
②欧米諸国への不信感↑

畔蒜さん:
まずその前に確認したいのは、先ほどのVTRにもあったように、アフリカが非常に貧困・格差に苦しんでいて、なおかつそれが原因でテロが起こっている。非常に不安定な状況にあると。

そこにアメリカが徐々に世界的に影響力、存在感を落としていくと。その1つのきっかけは、オバマ大統領が2013年に「アメリカは世界の警察官ではない」という発言があり、さらにトランプ大統領が登場し「自国第一主義」ということで、それまで関与していた対テロのコミットメントを徐々に引いていく。その最新の形が、バイデン大統領のアフガニスタンからの撤退だったわけです。

もう一つは、冷戦後、アメリカが世界ナンバー1の国になってグローバル化を進めたわけですが、欧米諸国主導のグローバル化が「グローバルサウス」と呼ばれる国々の経済発展に必ずしもつながっていないのではないかということで、「グローバルサウス」の国々の欧米諸国に対する不信感がやっぱり根強くある。そこにロシアがうまく入り込んでいっているということだと思います。

桑子:
そうした中でウクライナ侵攻があって、今は一方的な併合の動きを見せたり、予備役の動員を発表したりとロシアの焦りも見える中で、外交上は今後、どう動いていきますか。

畔蒜さん:
やはりロシアにとって今後重要になってくるのは、やはり中国との関係だと思うんです。先日も習近平国家主席とプーチン大統領が会談をしていますが、中国もまさにこの「グローバルサウス」でますます経済的に存在感を発揮して示しているという中で、ロシアとの関係、連携というのが今後重要になってくるということだと思います。

もう一つ、今はこのウクライナ問題を巡って欧米の「西」とロシアや中国の「東」、この対立にどうしても目が行ってしまうのですが、実はふたを開けてみると、その後ろには「北」と「南」のもう一つの対立構造があるということを忘れてはいけないということだと思います。

桑子:
今後国際秩序がうごめいていく。私たちはロシアと向き合っていく上でも「グローバルサウス」の国々の事情、そこにロシアがどう関わろうとしているのか。この水面下の動きも含めて見ていかないといけません。

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