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2022年9月6日(火)

密着!サービスエリア 巨大市場の舞台裏に迫る

密着!サービスエリア 巨大市場の舞台裏に迫る

高速道路の利用者に食堂や給油所を提供するサービスエリア。今、観覧車や天然温泉が併設されるなど大きな変貌を遂げています。民営化によって競争が激化し、他との差別化のため地元の特産品をそろえるなど、地域密着型のサービスエリアが急増。地域経済の活性化にもつながっています。一方で採算のとれないガソリンスタンドの廃止が相次ぎ、150キロ以上給油できない区間もあるなど課題も。サービスエリア激変の舞台裏に迫りました。

出演者

  • 石田 東生さん (筑波大学名誉教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

密着!サービスエリア 巨大市場の舞台裏

桑子 真帆キャスター:
どこか車で旅行に行くとなれば、お世話になるのが高速道路のサービスエリアやパーキングエリア。今、全国でおよそ900か所あります。

今でこそさまざまな特色がありますが、一昔前は売店があって、食堂、レトロな感じ。懐かしいという方、いらっしゃるのではないでしょうか。

このサービスエリア、2005年の道路公団の民営化以降、大きく変貌していきます。成長を支えるキーワードは「地域密着」です。

成功のカギは地域密着!?

急激に変化する、サービスエリア。それを象徴する場所があります。愛知県の「刈谷ハイウェイオアシス」。

観覧車にメリーゴーラウンド、ゴーカートに、温泉。オープンから5年目には年間830万人が訪れ、テーマパークとしてディズニーリゾート、USJに次いで全国3位になりました。

利用者
「ほとんど毎回寄ります。ゴーカートが好きです」

もともとこの地域には目立った観光名所がありませんでした。そこで刈谷市は、サービスエリアの集客力に目をつけ、90億円かけて施設の一部を整備。地域の活性化につなげようとしたのです。

利用者
「えびせんべいと、ういろうを買いました」
利用者
「桃もすごく安いので、買いました」

地域の農家が毎朝持ち込む、新鮮な野菜や果物。そして、地元名産のえびせんべい。施設全体で毎年数十億円を売り上げています。ここで働くおよそ900人は、地元住民。大きな雇用も生み出しています。

ことし4月には、こんな施設も。総工費4億円のトイレです。

女性用トイレには一つ一つ仕切られたパウダールーム。個室には、豪華なソファーまで。

刈谷ハイウェイオアシス代表 加藤英樹さん
「このトイレで、バスガイトさんを狙うんですね。バスガイドさんに『きれいなトイレだから、あそこへ行きましょうよ』と言っていただく。で、来ていただいてバスに乗ってる方々が、トイレ使ったあとに向こうで、えびせんを買うんですけど、それを持ってバスに乗ると『こんなのあったわよ』って宣伝してくれる。そうすると、また5,6人降りて買いに行ってくれる」

サービスエリアがもたらす、地域への経済効果。今、全国各地で大きな期待が寄せられています。

東北自動車道が通る、栃木県佐野市。この日、サービスエリアがリニューアルオープン。品ぞろえを一変させました。

こだわったのは「地域密着」。佐野ラーメンや、かんぴょうまんじゅうなど、地元栃木のグルメや土産物をずらりとそろえました。

利用者
「前よりお土産が充実してますね。前は全然そういうイメージはなかった」
サービスエリア管理運営会社 佐々木誠さん
「地域のショーウィンドウになるようなエリアを目指しております。今回のリニューアルオープンに伴いまして、既設の店舗の約1.2倍、いわゆる120%の売り上げを目標としております」

今のサービスエリアのトレンド「地域密着」に、地元企業も熱い期待を寄せています。売れ筋は、ここでしか手に入らない独自の商品。

今回のリニューアルに合わせ、新たに開発された甘酒のスムージー。この甘酒は、創業350年、江戸時代から続く地元の酒蔵が提供しています。社長の島田さんは、これまで販路は、ほぼ栃木県内に限られていましたが、サービスエリアを利用する全国の人に商品を知ってもらおうと意気込んでいます。

酒造メーカー社長 島田嘉紀さん
「私ども8割弱は、栃木県内の地元向けに販売しています。甘酒だったり、それを使ったスムージーというのが、より多くの人に手に取っていただいたり、最終的にはそれがお酒の購入につながったりがあると(サービスエリアへの出品は)もう願ったり。非常に心強く思っています」

かつて、サービスエリアは道路公団関連の財団法人が独占して営業していました。

2005年の民営化以降、NEXCOなど高速道路株式会社のもと、複数の民間企業がサービスエリアを運営することに。各企業は大手飲食チェーンなどに出店を募り、サービスエリアの魅力アップを図るようになったのです。

そこに目をつけたのが、各地の地元企業。サービスエリアに参入しようとしのぎを削っています。

出店を目指したけれど…

しかし、サービスエリアへの参入は容易ではありません。

この日、東北にある7つのサービスエリア合同の商談会が行われました。集まったのは、東北の食品会社40社。

食品メーカー
「しばらく動かないと思ったら、突然売れるのがホヤで。毎日コンスタントに動くのが、カキです。ホタテとイカは、忘れたころに売れる」

各社自慢の逸品を手に、サービスエリアのバイヤーに売り込みます。しかし。

サービスエリア 運営会社バイヤー
「高速じゃないと買えないとか、なんでこれがここにあるの?という理由づけですね。ステッカーでもいいから、『SA限定』とかにしてもらうと…」
食品メーカー
「やりたいはやりたいんですけど、パッケージというか、ラベルの量、その辺もありますので、余裕があるときに…申し訳ないです。やりたいのは経営陣も分かっていると思いますので」

サービスエリアに置ける商品の数は限られるため、商談成立の壁を突破できる企業はごく僅かです。

サービスエリア 運営会社バイヤー
「きょうは9社と商談ですね。(商談成立は)大体1割あればいい方かなというのが本音ですね」

岩手・釜石から社運を託された商品を手にやってきた、菅原大さん。

創業90年の菅原さんの会社。コロナ禍で経営が苦しい中、起死回生をねらって開発したのが新しい漬物でした。

地元でおばあちゃんたちが作ってきた、岩手伝統の「みのぼし南蛮」。それをカラフルにアレンジしました。地域の特産品で、若者にもきっと「うける」見た目。自信を持って持ち込んだのですが…。

サービスエリア 運営会社バイヤー
「常温では難しいですよね?」
菅原大さん
「そうですね。基本的常温にするとなると、塩分濃度を上げないといけない」
サービスエリア 運営会社バイヤー
「こういうふうな商品を、車の中に入れておきます。3時間かけて帰ります。その間に冷蔵品がどうなるかってなっちゃうと、なかなか冷蔵よりも常温のものの方が好まれる」
菅原大さん
「ご試食とかは大丈夫なんでしたっけ?」
サービスエリア 運営会社バイヤー
「きょうは…すみません」

試食すらしてもらえませんでした。

釜石に戻った菅原さん。

菅原大さん
「サービスエリアの商談会に行ってきたんです。やっぱり冷蔵だとちょっと置くのは難しいですよっていう」
漬物考案者 八幡のり子さん
「ちょっと塩分を足して漬け込むとかすれば、もつと思う。やっぱり安全なものを」
菅原大さん
「いろいろ技術は発達してきているので、試してみて」
八幡のり子さん
「そう、やっぱりね。やるだけやってみるしかないね」

菅原さんたちは、常温でも保存できるか検討を始めています。

目的は負担軽減と安全

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、交通政策を研究されている筑波大学名誉教授の石田東生(はるお)さんです。

こうしてみると、サービスエリアと各地域との結び付きが強くなっているなと感じるのですが、双方にとって、どんなメリットがあるのでしょうか。

スタジオゲスト
石田 東生さん (筑波大学名誉教授)
交通政策を研究

石田さん:
まずサービスエリア、パーキングエリアの売り上げの過半が、先ほど出ていたような売り場とか、レストランからのものなんです。

地域にとっては、自分たちが作った本当にいいものをたくさんの人に買ってもらえる。それが地域のブランドにもつながるというメリットがあります。

高速道路会社からみれば、サービスエリアの売り上げが伸びていくことは、それだけ高速道路会社の利益にもなりますし、非常にいい関係性が保たれていると思います。

桑子:
そして、地域に暮らす皆さんにとっては、どういう存在になっているのでしょうか。

石田さん:
実は、最近ではサービスエリア、パーキングエリアは、単に高速道路の利用者のためだけのものではなくなってきているんです。

ウェルカムゲートというのですが、一般道からも駐車をして、そこから徒歩で高速道路内の施設を利用できるようなところ、サービスエリアのおよそ3分の1がそういう機能を持っているんです。

そうしますと、サービスエリアのいろんなもの、野菜も含めて買いに来ることができる。生活を支えるという点からも、非常に地域の人々にも貢献しているのではないかなと思います。

桑子:
日常の中にもサービスエリアがあるというところがあるわけですね。このサービスエリアが、ここまで売り上げを伸ばしている背景には何があるのでしょうか。

石田さん:
VTRにもありましたが、民営化の大きな成果の1つだと思います。株式会社になって、自由度が増した反面、経営努力も問われるようになってきたわけです。

同時に、高速道路は借金をして造っていますから、その債務返済ということも非常に大事なわけです。債務返済を順調に進めるためには、通行料収入を上げる必要があります。そのためにも、魅力的なサービスエリアというのは非常に大きな貢献をしているのではないかなと思います。

桑子:
訪れて楽しいサービスエリアが増えている中で、商談会の映像を見るとビジネスとして成功させようという熱意のほうが先行して、本来のサービスエリアの役割が脇に置かれないかとも思うのですが。

石田さん:
サービスエリア、パーキングエリアの本来の機能というのは、運転される方の疲労軽減であったり、リフレッシュであったり、あるいはガス欠等による事故を防ぐということが本来の機能であるわけです。そこを忘れてはならないと思います。

楽しいサービスエリアでいいのですが「楽しかったね、おもしろかったね、でも疲れちゃった」ということは、少し本末転倒のような気がしますので反省点かなとも思います。

桑子:
休むときはしっかり休むという、利用者の意識づけも大切かもしれないですね。民営化によって魅力的になり、売り上げを伸ばしているサービスエリアですが、利益を追求する中でこんな事態も起きています。

消えるガソリンスタンド 空白区間の安全は?

全国の高速道路を利用する、長距離トラックのドライバーたち。あることに注意を呼びかけています。

トラックドライバー 森下茂徳さん
「ここからしばらくは(ガソリン)スタンドは全然ないですね。パーキングは何か所かあるけど(ガソリン)スタンドはないですね」

舞鶴若狭道から北陸道に抜ける、このルート。162キロもの間、ガソリンスタンドは一つもありません。

このように、150キロ以上、高速道路上にガソリンスタンドがない区間が全国各地にあります。高速道路で燃料切れを起こし、立往生をするケースは年間6,000件。中でも、150キロ以上の空白区間でのガス欠率は2倍近くになります。

森下茂徳さん
「どうしようもない場合は、下へ降りてスタンドを探してもらうとか、そういうふうになってしまいますね」

そもそもサービスエリアはドライバーの負担を減らし、安全を確保するために不可欠なものとして「50キロおき」、「食堂と給油所も設置する」と規定され、整備されてきました。車の燃料残量警告灯が、あと50キロ走れる量を目安に点灯するのも、この規定が関係しているとされています。

しかし、道路公団民営化のころから、特に交通量が少ない路線でガソリンスタンドの撤退が相次ぎました。採算が厳しいことが理由です。高速道路上でのガス欠は極めて危険であり、国もこの状況を問題視しています。

国土交通省 御器谷昭央さん
「高速道路会社におきまして、再度(ガソリンスタンドの)公募も行っておりますが、応募者がおらず、再設置に至らない場合もあります。利用者の安全面や利便性の面から、解消すべきであると考えています」

利益も安全も追及 ユニークな試みで解決!?

利益を追求しながら、最も大事な「道路の安全」をどう担保するか。今、この問題を解決できるかもしれないユニークな試みが行われています。

群馬県の高崎玉村スマートインターチェンジの手前に、こんな表示が。

「道の駅 乗り直し 料金据置」。

インターチェンジで高速道路を降り、近くの道の駅に立ち寄っても2時間以内に高速道路に戻れば、乗り直し料金がかかりません。

ドライバーが長時間運転して疲れ過ぎないよう、いったん高速道路を降りて休憩を取るという、この実験。道の駅に、思わぬ恩恵をもたらしました。

道の駅 玉村宿 駅長 筑井俊光さん
「いきなりここで(売り上げが)4億円になってますね。(実験が始まってから)1億円以上増えてますね」

実験開始後、道の駅の売り上げが年間1億円もアップしたのです。

農家 小林祐己代さん
「遠くからお客さんの来る人数が多くなったみたいで、土日はすごい変わりました。玉村の野菜を買ってもらえるのは本当にうれしいです」

この実験、年々実施箇所を増やし、現在全国29か所で行われています。

経済性と安全性の両立

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
乗り直し料金の据え置きの実証実験、どう評価されますか。

石田さん:
とてもいい取り組みだと思います。ガソリンスタンドの経営が厳しいところというのは、高速道路の交通量が少なくて、とても不利なところにあるんです。そういうところは交通量が少ないので、4車線ではなく2車線区間のところが多いんです。そういうところでガス欠を起こすと、交通安全上、非常に大きな問題ですので、起こさないようにしようと。ガソリンスタンドの経営が厳しいですから、地域のガソリンスタンドと連携をするということで乗り直し料金がかからないということになっております。

これは、高速道路上のドライバーだけではなくて、地域のガソリンスタンドにとっても、道の駅の売り上げが増加したという例が紹介されておりましたが、そういう意味から地域経済にとってもいい取り組みだと思います。

桑子:
そうですね。ただ、経済性を優先し過ぎてガソリンスタンドがなくなる事態というのは相次いでいて、高速道路上で150キロ以上ガソリンスタンドが不在という区間が、全国で8つあるということです。石田さん、経済性と道路の安全、バランスを取っていく上でどういうことが大切だと思いますか。

石田さん:
非常に難しい問題ですね。そもそも論になりますが、民営化したとはいえ、株式会社化したのですが、NEXCO3社というのは国の100%株主なんです。どうしてかというと、やはり高速道路は地域の経済に貢献する、暮らしを守る、あるいは災害時にも安全を提供するという非常に公的な使命があります。

ですから、本当に民営化をすると経済の効率性だけに陥ってしまいますので、それは必ずしもよくないだろうと思っております。民営化で得られた結論の1つは、高速道路は国民共有の財産であるということはとても重要なことであると思います。なので、利益を追求するだけではなく、本来の役割を果たすための手段としていろんな試みがされているべきだと考えるべきですね。

特に、交通量の少ない地方部の路線。そういうところはガソリンスタンドもないところです。サービスエリアの経営もなかなか難しいというところが多いと思うのですが、そういうところはおろそかにするべきではないという視点も重要だと思います。

桑子:
そこを、むしろまず守るべきなのではないかとも思いますよね。今後、サービスエリアが地域と結び付きを強めていく中で、どういうあり方が今後理想だなと感じていますか。

石田さん:
言うまでもないことですが、高速道路も一般道路も、そもそも地域のためにある、人々のためにある、国民のためにあるものですから、その財産をさらに活用していくという姿勢が大事かと思います。

サービスエリアについても、さまざまな試みがVTRでも紹介されていました。そういうことが全国至る所で起こっているかと思います。ウェルカムゲートの試みとか、刈谷ハイウェイオアシスの試みとか、地域と連携をして、あるいは地域が作っていただいて、それをユーザーにもお使いいただくということですね。

そういう試みを、今後ますますいろんな人が知恵を出し合って、情報も公開していただきながら、きっちりとした取り組みを進めていくことが本当に大事だと思っております。

桑子:
ありがとうございます。この安全性と経済性、いかに維持していくのか、これからも大きな課題となっています。ただ、多くの地域は希望を託しています。そんな中で、かつてない挑戦も始まっています。

全国初!地元100%出資 "生涯をかけ成功へ"

サービスエリアは、今なお増え続けています。

愛知県小牧市でも2年後のオープンに向け、新たなサービスエリアが建設中です。

小牧オアシス 責任者 藪亀邦恭さん
「実は建物や土地だけじゃなくて、道路も全部民間で造っていますので100億円かかります」

建設資金は100億円。高速道路会社や地方自治体ではなく、地元企業と商工会が100%出資する全国初の試みです。

中央道から接続する道路も、自分たちで建設。敷地面積は東京ドーム5個分に及びます。

スケートボードやBMX自転車の世界大会ができる、スポーツ施設を併設。地元経済の起爆剤にしようとしています。

藪亀邦恭さん
「地元から愛されて、地元が誇りに思うような施設を息長く続けていくと。ほんとに生涯かけてもいいと。成功しなければいけないと思っています」
見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

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