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2022年9月5日(月)

“宗教2世"旧統一教会・信者の子どもたち 知られざる現実

“宗教2世"旧統一教会・信者の子どもたち 知られざる現実

安倍元首相銃撃事件の後、旧統一教会の信者の子どもたちが相次いで声を上げています。「貧困や孤立」「恋愛・結婚の自由がない」など、なぜ親が信じる宗教に自分の人生が壊されなければならいのか、というものです。2世らの悲痛な声を旧統一教会はどう受け止めているのか?こうした問題と向き合い、法制備を進めたフランスの取り組みも現地で取材。“宗教2世”の知られざる現実、被害を繰り返さないために何が必要か考えました。

出演者

  • 江川 紹子さん (ジャーナリスト)
  • 清永 聡 (NHK解説委員)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

旧統一教会 "宗教2世"の現実

桑子 真帆キャスター:
「事件は決して許されるものではないが、自分も同じような境遇にあった」。
「苦しみを誰にも話せなかった」。

そう口々に語るのは、世界平和統一家庭連合、旧統一教会の信者の子ども、いわゆる"宗教2世"たちです。取材班は、事件が起きる前から"宗教2世"の取材を続け、これまでに70人を超える人たちから話を聞いてきました。

多くの人が明かしたのは、高額献金の実態や踏みにじられた人生についてでした。人によっては苦しい経験を想起させるような証言も含まれています。

"宗教2世"が語る 教会の実態

小川さゆりさん(仮名)、26歳。旧統一教会の信者である両親のもとに生まれ、5年前まで信仰を続けていた2世です。

小川さんが高校生のとき、教会の行事で「教義」について発表している映像です。

教会のスピーチ大会時の小川さゆりさん(仮名)
「神がすべてを創造して、植物も動物も人間も、そして戒めの、み言葉も与えて」
両親が信者の2世 小川さゆりさん(仮名)
「原理講義といわれるものがあって」

幼いころから繰り返し唱えさせられていたのは「原理講論」です。説いたのは、教会の創始者、文鮮明(ムン・ソンミョン)氏。罪を犯し、堕落した人間は本来の姿に復帰する必要があるとしています。教会のハンドブックには、信者の心得として収入の10分の1を献金することが求められています。

熱心に信仰していた、小川さん一家。実際の生活は困窮しました。

小川さゆりさん
「床屋にも行かせてもらえなかったですし、服もおさがりだし。見た目も本当に貧しくて、結構見下されてきた」

信仰に疑問を抱いたのは、18歳のころ。将来のためにアルバイトでためていたお金を母親が引き出し、無断で献金していたというのです。

小川さゆりさん
「この家、おかしいなって。この教団自体もおかしいなって。自分のやりたいこととか、将来的なこと、自立すらさせてもらえない。そういうことが嫌になって、家を出ました。結構つらい思い出だなって思っています」

高額な献金 信者から集める理由とは

高額な献金の強要や不安をあおって高価な物品を売りつける「霊感商法」が問題となった、旧統一教会。

2009年、教会は「コンプライアンス宣言」を発表。社会的、法的に問題となる行為をしないよう努めてきたとしています。しかし、今もなお教会が高額な献金を集め、生活が追い詰められていると訴える2世が後を絶ちません。

20代の元信者、アヤカさん(仮名)。ことしの6月、アヤカさんの母親に届いたメッセージは、多くの信者を抱える、教会の婦人部長から送られたものでした。


183勝利家庭は9家庭です
10番目の勝利家庭になって下さる事をお祈り申し上げます

婦人部長から母親に届いたメッセージより

「183」は、「183万円」の献金。「勝利」は、「献金額達成」を意味します。10番目の達成者になることが求められていました。

両親の収入は月20万円ほど。生活に余裕はありません。

両親が信者の2世 アヤカさん(仮名)
「お金がない話をしているにもかかわらず、お金を献金しましょうっていう話をしてくる」

両親が持っていた、献金に関する書類。

「母の母の父の父の養祖父」。「母の母方の妻25歳を毒殺した夫26歳」。あらゆる先祖などがかつて犯した罪を償うためだとして、献金が求められていました。

アヤカさんの母親は、124万円を振り込んでいました。それに対して婦人部長は。


よく 捻出 出来ましたね
頑張りましたね

婦人部長から母親に届いたメッセージより
アヤカさん(仮名)
「捻出してるって分かっているなら、経済力がない人に献金を迫っている自覚はあるんじゃないのかなって。何がしたくて、こんなにお金を集めているのか。やめてほしいな、ただそれだけに尽きるんですけど」

なぜ、高額の献金が信者から集められているのか。メッセージには、その目的とされる韓国のある施設の名前が書かれていました。

メッセージに記されていた「天苑宮(てんえんぐう)」。韓国で建設が進められている新たな教会の施設です。日本からの献金が建設費に充てられているといいます。

今回、韓国の教会本部に長年関わってきた、現職の関係者が初めて取材に応じました。行き過ぎた教会のあり方に疑問を抱き、告白することにしたといいます。

韓国の教会関係者
「天苑宮、その計画というものは、世界文化遺産にするという野心的な計画を持っています。日本からの献金は、統一教会の世界布教の基盤になってきました。いまだに(多額の)献金をする信徒がいるのは、日本くらいです」

日本から多額の献金を韓国に集める教会。背景にあるのが教会の教えだといいます。

韓国の教会関係者
「文鮮明総裁は次のように話していました。経済富国である日本は、植民地時代に韓国人に対し、罪を犯した。それを清算するために、日本が韓国を(金銭的に)支援する必要があると説いた」

高額の献金で苦しんでいる2世がいることを、どう考えているのか。関係者は、組織の拡大を図る中で、教会の実態が掲げた理念とかけ離れたものになってしまったと語りました。

韓国の教会関係者
「教会が信徒よりも対外的な行事やモノ中心の生活を志向してきたため、日本人が苦しんでいるのを私はよく見てきました。今回のことをきっかけに教会は膿(うみ)を出し切り、再生しなければならない」

人権が侵される "宗教2世"の訴え

さらに、生活困窮だけでなく「人権が侵されている」と訴える2世も少なくありません。

母親が熱心な信者だという30代の女性。

取材班
「何があったか聞かせていただけますか」
母親が信者の2世 30代女性
「中学あがる頃に子宮筋腫が見つかって、病気が治るところだって母が連れて行ったんですよ」

若くして病気が見つかり、気持ちがふさぎ込んでいた女性。母親と訪れた教会の施設で告げられたことばが、心に深い傷を残すことになったと語りました。

30代女性
「はっきりと覚えてます。女の霊たちが子宮を握って離さない。子孫を残させないぞという恨みで、ぎゅーっと握っている。もう一生懸命、ごめんなさい、ごめんなさいって言いながら。でも、そんなことしたって治らないですよね。悪質ですね」

教会の教えによって、自分の人生を歩むことができなかった。抱えてきた苦しみを打ち明ける2世もいます。

8年前に教会を脱会した40代の女性。両親から「神の子」と言われ、育てられてきました。

両親が信者の2世 40代女性
「両親が合同結婚式を経て、そして生まれてくるっていう2世は、原罪のない神の子だという考えなので。神の子は罪を犯さない。絶対に正しくなければならないんだ」

あるとき、冷蔵庫にあったプリンを母親に言わずに食べたときのことでした。

40代女性
「原罪のない神の子なのに、盗みをするのかって。サタン的なことをやったと。母が怒りに怒って、ベルトとかで私をめった打ちにする。とてもショックでしたね」

最もつらかったのが、自由に人を好きになれなかったことです。

40代女性
「これはアボジマッチングと言われているんですけど、信者同士を文鮮明氏が相手を決めているところです」

27歳のとき、初めて会った2世と結婚した女性。合同結婚式にも参加しました。しかし、日常的に夫に暴力を振るわれ、離婚することになりました。

40代女性
「やっぱり嫌でしたね。全然知らない人ですし。生きていくために、なんとか信仰しなければならないという気持ちだったと思います。逃げていいって言ってくれる人もいませんし、自分自身もなかなか思えませんでした」

"宗教2世"の苦しみ 1世の思い

"宗教2世"の苦しみを、親の1世はどう考えているのか。

2人の子どもを持つ1世の信者が、今回の銃撃事件を受けて取材に応じました。

1世信者
「もう絶対信仰、絶対愛、絶対服従という三原則で。子どもたちも教会に通うことであったり、恋愛が禁止であったり、そういったころは固く守るように言い続けてきました」

高額献金もいとわず、一家は自己破産。その後、息子は家を出ていきました。

7月に起きた、安倍元総理大臣の銃撃事件。事件後、男性のもとに息子からメッセージが送られてきました。


2世による安倍元総理殺害という大きな出来事があったので、話をとことん聞いてもらいたかったわけです


まるで「私が安倍元総理を殺してしまったような」感覚に陥りました。そんな苦痛、悩みは社会へ相談できません


なんでこんな家庭に生まれたのか

息子からのメッセージより一部抜粋

息子から届いた心の叫び。男性は今、自分の信仰とは何だったのか考え続けています。

1世信者
「教会に依存していたんじゃないですかね。献金にしてもしかりですけど。精神的にも救われているみたいな。受け身の人生だったんじゃないかと思いますね。選んだのは1世ですから。信仰を選んだのはね。でも選ぶこともないまま生まれてきたのは2世ですから。『あなた方が選べばいいんだよ』と言うことって必要なんじゃないかと思いますね」
取材班
「それはできなかった?」
1世信者
「できなかったですね。それはやっぱり信じているものがあったからなんでしょうね」

"宗教2世"の苦悩 旧統一教会の回答は

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、旧統一教会など、新宗教の取材を続けてきた江川紹子さんと、清永解説委員です。

まず江川さん、自分の意思で信仰している人もいる一方で、自分の意思を奪われて苦しむ"宗教2世"も多くいる。この皆さんの苦しみ、苦悩の本質というのはどこにあると考えていますか。

スタジオゲスト
江川 紹子さん(ジャーナリスト)
旧統一教会などの新宗教の問題を取材

江川さん:
この"宗教2世"の苦悩というのは、構造的なものだと思うのです。

私たちは2世というと、2世本人、あるいは、せいぜい親ぐらいしか見えてこないわけですが、その裏には大きな「教団」という力があり、そこからの圧力みたいなもの、あるいは親を通して教団の特定の価値観を押しつけられていく。

そうして、例えば教育を受ける権利とか、さまざまな人権が損なわれていたり、あるいは自分の人生の自由な選択を奪われたり。つまり、子どもは親を通じて精神的、経済的、あるいは肉体的に虐待を受けているに等しいと言えると思います。

それに加えて、統一教会の場合には、親が「教義」に基づいた合同結婚式で結ばれていたりするので「教義」を否定するということは、親の結婚、そしてひいては自分の出自、存在すら否定することになりかねない。

あるいは、小さいときからずっとその価値観で育ってきているので、それから離れたときに、どんな価値観をよりどころにして自分は考えて生きていったらいいのかと、そのよりどころがなくなってしまう。寄るべなさとか、あるいは親に対する情愛とかいろんなことがあるので、そういう中で例えば「離脱する」ということになると、精神のバランスを崩したり、自殺未遂というようなことになったりするというぐらい、やはり深い苦しみがあるということを知っておきたいなと思います。

桑子:
こうした問題について、旧統一教会から書面で回答が寄せられました。一部ご紹介します。

まず、今なお「高額な献金を組織的に求めている実態について」は、


2世(子ども)たちが物心共に負担を強いられる場合があったことを痛感しております。


過去10年の間に、当法人に関わる深刻なトラブルが発生したという事実は把握しておりません。


信徒が収入に比して過大な献金をささげることで、生活上の負担が生じることが起こらないよう指導しております

旧統一教会からの回答より一部抜粋

という答えでした。そして「2世の信仰・恋愛・結婚などの自由が制約され、人権が侵害されているのではないか」という問いに対しては、


「信教の自由」はすべての日本国民に認められた権利であり、当法人2世においても完全に保障されています。


2世本人の意思を尊重し、その自由が最大限に守られるよう配慮しております

旧統一教会からの回答より一部抜粋

という回答でした。江川さん、この回答についてどんな印象を持ちましたか。

江川さん:
「2世も信教の自由が守られている」ということが書いてありますが、それができてないから今、問題になっているわけです。

しかも、何かと「信教の自由」ということをおっしゃるわけですが、「信教の自由」というのは、ほかのさまざまな権利よりも優越するような絶対的な権利とは違いますよね。
やはり、それがあるから子どもたちのさまざまな権利、例えば教育を受ける権利、婚姻の自由、健康で文化的な生活を送るような権利、そういったものがないがしろにされていいということにはならないわけです。

それに加えて「信教の自由」には「信じない自由」だってあるわけですね。それが守られてないという実態を考えると、やはり「信教の自由」と言われたときに、ひるんで思考停止な状態になってはいけない。一つ一つの事実で、きちっと見ていかなければいけないと思います。

桑子:
これからどうしていくべきかというところで、清永さん、まず何から取り組むべきでしょうか。

スタジオゲスト
清永 聡
NHK解説委員

清永:
実は、困窮している"宗教2世"に対しては、生活保護だったり、あるいは住まいの提供だったり、かなりの部分は今ある制度でカバーできると思うんです。

桑子:
新しいものを作らなくてもいいと?

清永:
ええ。生活を支えるということは、既存の制度でも結構できると思います。ところが取材をすると、行政の窓口で、行政は宗教には関われないんだと言われたり、あるいは家族のことはまず家族で話し合ってねと言われたりするようなケースがあるのだそうです。

このほど、国が関係省庁連絡会議を発足させましたが、まだ"宗教2世"への具体的な支援策は打ち出されていません。サポートを急ぐべきだと思います。海外では、カルトに対する規制を強めているという国も、今出ているわけです。

桑子:
その海外の動きも取材しています。ご覧ください。

"宗教2世"をどう救うのか フランスでは

厳格な政教分離を憲法で定めてきた、フランス。宗教団体への対策を求める声が上がり始めたのは、1970年代。このころから、新興宗教が関わるトラブルが相次ぎました。

1995年。国は危険なカルト団体を指定し、公表に踏み切ります。ところが、すぐに撤回を迫られました。

セクト的逸脱行為関係省庁警戒対策本部 クリスチャン・グラベルさん
「危険な団体を指定する際、もし判断に間違いがあれば深刻な事態となるからです」

さらなる議論の末に宗教団体そのものではなく、行き過ぎた行為を規制することにしました。「精神を不安定にさせること」や「身体に危害を加えること」、「子どもを強制的に入信させること」など、10項目を明文化したのです。

この基準をもとに、支援団体と国が連携し、去年は4,000件に上る相談に対応しました。

"宗教2世"の男性は、支援を受けて宗教団体を脱会することができました。10の基準のうち「法外な金銭要求」や、「子どもの強制的な入信」などが当てはまっていたのです。

ニコラ・ジャケットさん
「支援がなければ、脱会はできませんでした。自分が行き過ぎた教義のなかで育てられていたことを、初めて認識することができたのです」
セクト被害者と家族を守る会 パスカル・デュバルさん
「私たちの目的は人々に自由を取り戻し、尊厳を守ることです。問題は信仰そのものではなく、信者が受ける被害なのです」

旧統一教会 "宗教2世"どう救うのか

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
フランスではこうした指標を設けて違法な宗教行為を明確にしたわけなのですが、清永さん、日本でもこういったことは可能なのでしょうか。

清永:
日本の場合、かつて不当に宗教を弾圧したという歴史もあって、恐らく法律にするには議論が必要になる。

ただ、こういう指標はとても大事だと思います。行政などがこういう指標に基づいて対応していくというのは、日本も十分参考になるのではないかと思います。

桑子:
江川さん、今まさに苦しむ"宗教2世"の人がいるこの現状を変えるために、どうしていったらいいと思いますか。

江川さん:
先ほど清永さんが、いろんな制度があるとおっしゃいました。大事なのは、今支援を必要としている人に、その人に合う適切な支援というものをつないでいくことだと思います。ですから、そのつなぎ役というものがとても大事で、そこのところを考えていかなくてはいけないと思います。

それから、2世はもちろんのこと、1世も含めて、信者の人たちは教団との関係でいうと「被害者」になるわけです。そういうことを考えれば、やはり社会はそういう人たちを排除していくのではなくて、できるだけ相談しやすい人間関係を築いていく。あるいは、適切な支援体制を準備していくということが大事だと思います。

あるいは、学校でカルト問題についての教育をして、先ほどのような基準をみんなで共有していく。そういうことが大事になってくると思います。

先ほど、2世の人たちの声を聞きました。勇気を振り絞って声を出してくれたわけですから、社会がこれを機に変わって、声を上げてよかったと思えるようにしたいなと。しなくてはいけないなと思います。

桑子:
ありがとうございます。私たちも、これからも取材を継続していきます。

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