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2022年8月31日(水)

ジャニーズそしてBTS アイドル新潮流 舞台裏を追う

ジャニーズそしてBTS アイドル新潮流 舞台裏を追う

Z世代の8割が「推し活」にハマり巨大産業に成長したアイドル。その舞台裏とは?去年、鮮烈にデビューし今大人気の「なにわ男子」。そのプロデュースを手がける関ジャニ∞の大倉忠義さん。「消費されず長く愛される」グループには何が必要か?模索の日々を追いました。そして世界を席巻するBTS。次世代の選抜を進める韓国のプロダクションにも潜入。キーパーソンへの独占インタビューで“日本発で世界を狙う”戦略を明らかにしました。

出演者

  • 前田 裕二さん (SHOWROOM代表)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

ジャニーズそしてBTS アイドル新潮流の舞台裏

桑子 真帆キャスター:
皆さんの中で「アイドル」は、どんなイメージでしょうか。かつてはテレビの向こう側の遠い存在だった、アイドル。今、大きな転換点を迎えています。

スマホやSNSの登場で、いつでもスマホを開けば会える近い存在になり、次々と新たなアイドルが登場しています。

そんな中で今、自分だけの「推し」を見つけて応援する「推し活」がブームに。アイドル市場は右肩上がりの成長を遂げ、今やZ世代の8割にアイドルなどの推しがいるとされています。

時代の価値観を象徴するといわれる、アイドル。今、世の中は何を求め、どんなアイドルが心をつかんでいくのか。プロデュースの舞台裏に密着しました。

関ジャニ∞ 大倉忠義さんに密着

私たちが取材を始めたのは、3月下旬。関ジャニ∞の大倉忠義さんです。

半世紀以上、アイドル業界をけん引してきた「ジャニーズ」。3年前、社長だったジャニー喜多川氏が死去。大きな柱を失った中で、関西の若手たちのプロデュースを任されているのが大倉さんです。

ジャニーズでは、CDデビューする前の下積み期間の若手たちを「Jr.(ジュニア)」と呼んでいます。関西には総勢56人のジュニアがいて、4つのグループが存在しています。

その一つ、2021年に大倉さんがメンバー選びから手がけて結成した「AmBitious(アンビシャス)」です。

関ジャニ∞ 大倉忠義さん
「何からやっていきますか。どういうことをやりたいか」
AmBitious 小柴陸さん
「一応全部、はじめから最後まで決めました」
大倉忠義さん
「決めた?うれしい、ありがとう」

初めての単独コンサートが決まり、この日は演出を話し合いました。大倉さんが伝えたのは、一人ひとりが自分の得意なことを打ち出していくべきということでした。

大倉忠義さん
「2人(井上と永岡)はダンスやったほうがいいと思う。知らん人が見に来たらわかりやすい。特技ダンスですって」
大倉忠義さん
「お前は『おもしろい』をやったほうがいいよ」
小柴陸さん
「『おもしろい』やったほうがいいですか?」
大倉忠義さん
「やったほうがいい。変なことしかしてないやん。自分どんなキャラやと思ってる?」
小柴陸さん
「一発ギャグキャラ」
大倉忠義さん
「じゃあ、『おもしろい』やん」
大倉忠義さん
「中途半端な人が生まれんようにしたほうがいいと思う。全員が立つように」

大倉忠義さん インタビュー プロデューサーとしての思い

大倉さんがプロデュースに乗り出したのは、4年前。Jr.(ジュニア)のコンサートを見たときに抱いた、危機感がきっかけだったといいます。

関ジャニ∞ 大倉忠義さん
「すごくいい子たちがいっぱいいるなと思ったんですけど、そのときに(彼らには)もっとできることがいっぱいあるんじゃないのかなって感じて。いまいっぱいタレントグループがいるなかで、誰もやってなくて自分たちにできることは何だろうとか。ファンの方が求めてくださっていることって何だろうとか。ずっと考え続けなきゃいけない。すぐ消費されるようなアイドルになってしまうと思う」

自分たちの個性を磨き続けなければ、生き残れない。それは、大倉さん自身の経験から出てきたことばでした。

2022年にデビュー18年目を迎え、今やジャニーズの中核を担う「関ジャニ∞」。同世代の「嵐」が国民的アイドルと呼ばれたのに対し、お笑いやコミカルさを前面に出す姿は王道のアイドルではないと言われたこともありました。

大倉忠義さん
「僕、最初(関ジャニ∞の)メンバーではなくて、バックのJr.だったんですけど、いちばん最後に加入して(ファンに)認められてないなっていう思いもあった。そのなかで自分の個性で磨いていくところってどこなんだろうってすごく悩んでました。恥ずかしいけどセクシーなダンスを勝手に入れてみたり、わかりやすく投げキスしてみたりとか、その過程が大事なような気がして」

そんな大倉さんがプロデュースを手がけ、2021年にCDデビューを果たしたのが「なにわ男子」。ピンクの衣装や、かわいい振り付けなどがファンの心を捉え、デビュー曲は初動80万枚を売り上げました。

大倉さんが、なにわ男子をプロデュースするうえで重視したのが「かわいい」という個性です。

なにわ男子のアルバムの選曲をしている大倉忠義さん
「俺、これのサビの部分が好きやけど。分かりやすく、しかもかわいい。俺らがやると"おもしろ"になるけど、なにわが『なんでやねん』って言ったら"かわいい"かも」

なにわ男子の1人、大西流星さん。グループ結成当初、大倉さんから繰り返し言われたのは「かわいさをどう打ち出していくか」。

なにわ男子 大西流星さん
「自分って何が特技なんやろう、自分の立ち位置が分からないなっていうときに、めちゃくちゃ長文のメッセージをくれて。こういうところは流星はできていると思うし、かわいいところも、かっこいいところも両立できたら流星として一回り大きくなれると思うからって」

悩んだ末、大西さんが始めたのが得意だったメイクについての情報発信。それがジェンダーレスを求める若い世代に受け、女性だけでなく男性にも多くのファンが生まれたのです。

大西流星さん
「かわいい曲とか、はじめのほうは恥ずかしさもありましたし、グループとしても振り切れない部分もあったんですけど、意外とアイドルの中でいないな、このキャラクターみたいなのは、自分たちで色づけしていくという作業があるからこそ、無理やり着飾っている感がない」

BTSを生み出したHYBE 次は日本発で世界を狙う

一方、今、世界で活躍する新たなアイドル像を打ち出しているのが韓国の「BTS」です。

メッセージ性の強い楽曲と、完成度の高いダンスパフォーマンス。ファンは世界に4,000万いるとされ、ミュージックビデオの総再生回数は80億回を超えています。

そんなBTSを生み出した、韓国のプロダクション。次に仕掛けるのは、日本発で世界を狙う新たなグループです。

現在、BTSのプロデューサー陣によるメンバーの選抜が進められています。9月にメンバーが決定し、今後日本からデビューする予定です。

TAKIさん
「BTS先輩からとても感動をもらって、僕もこの世界に入ることを決めました」
Kさん
「世界中で頑張っているアーティストに肩を並べられるように、もっともっと努力したい」

なぜ今、日本発なのか。新グループの戦略を担うハン・ヒョンロックCEOが、取材に応じました。

HYBE JAPAN ハン・ヒョンロックCEO
「日本という市場はアメリカに次ぐ2番目の大きな市場であり、かつすでにすごい昔からアイドル産業に非常に成熟した環境を持っています。両方のJ-POPファン、K-POPファンたちが楽しんでいけるような複合的な融合させた形でのローカライズというのを基本的には考えています」

日本を拠点にしながら、どう世界を狙うのか。その武器となるのが、BTSで培った最新のテクノロジーです。先週開かれた初めてのファンイベントでは、1,300人の会場を埋めたファンに加え、オンラインの同時視聴は25万を超えました。

その配信に使われたのが、独自に開発されたアプリ。メンバーの投稿を瞬時に日本語や英語に翻訳。246の国と地域のファンが利用しています。

その利用者数は、国や地域ごとに細かく分析。このデータを基に、どの国でコンサートを開いたり広報活動をしたりするのがいいか、緻密に計画を立てているのです。

ハン・ヒョンロックCEO
「われわれは日本に寄り添ったファンとのアプローチだったり、日本という国により慣れ親しんでいるビジネス展開をしようとしつつも、2段目、3段目ではグローバルというのを見据えながらアクションを起こしている」

大倉忠義さんが語る "アイドルとは何か"

K-POPなど多様なアイドルが登場する中で、どう戦っていくのか。

この日、ジャニーズ事務所で行われた打ち合わせに大倉さんの姿はありませんでした。近年、悩まされてきた耳鳴りなどが悪化し、活動を休止していたのです。

1か月以上休んで復帰した、大倉さん。

取材班
「アイドルとプロデューサーの両立は負担?」
関ジャニ∞ 大倉忠義さん
「勝手に自分が詰め込みすぎたって感じですかね。これは年齢的なこともあるでしょうし、自分が若いときのままの感覚で何でもできるわってやってると違うかったみたいな」

大倉さんは、ことし37歳。それでもプロデューサーを続けるのは、自分たちらしいアイドル像とは何か、探し続けたいからだといいます。

大倉忠義さん
「アイドルと呼ばれる年齢も変わってきている。いつまでアイドルでいられるんだろうって不安になることもあるし、お客さんがいなくなっちゃったら成立しないお仕事でもあるから」

2021年、Twitterを始めた大倉さん。開設直後、葛藤する思いをつづっていました。


誰の為に、何の為にやってるんだろう?
自分は必要とされているのだろうか?

Twitterより

この数年間、長年一緒に活動してきたメンバーの脱退が相次ぎ、一時は解散の危機もありました。

大倉忠義さん
「ある程度までは目標とか夢とか、何も考えずがむしゃらにやっていける時期もありつつ、俺ってこのままで大丈夫なんかなとか、そういうときに悩むんじゃないですかね。アイドルって何なんだろうって」
取材班
「答えって見つかるんですか」
大倉忠義さん
「見つからないです。"人生とは"と一緒ぐらい難しいですね。全く見つからない」

関ジャニ∞のコンサートの2日後、大倉さんは、なにわ男子のリハーサルに駆けつけました。翌日、デビュー後初めてとなる大事なコンサートを控えていました。修正は何度も繰り返されました。

大倉忠義さん
「なんか、まだまだやっていうのが。内から出る輝きがもうちょっとないと、もうひとつ上には行けない。

完成形を求められるのも、そのグループの個性だし、それはそれですごくすてきだと思うけど、未熟だけど笑顔で頑張っている子とかがすごい輝いて見えて、そのときに知ってもらった人たちのちょっとでも希望になってくれていたり、明るくなってくれていたりすることでしかない」

アイドルのあり方の変遷

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、アイドルなどのライブ配信サービス「SHOWROOM」の代表の前田裕二さんです。

いま求められるアイドルとは何なのか。大倉さんも追求していましたが、前田さん自身もさまざまなアイドルとファンの交流を見てこられて、アイドルのあり方の変遷がどうなってるのか。説明をしていただきたいと思います。

スタジオゲスト
前田 裕二さん (SHOWROOM代表)
アイドルなどのライブ配信サービスを運営

前田さん:
まず1つ大きなキーワードが「遠さ」と「近さ」ということがあると思って。これは、この10年、20年ぐらいのアイドル市場の変化を見るうえで大事なポイントだと思っています。「オフライン」はリアルのライブコンサートとかですね。

桑子:
実際に会えるところですね。

前田さん:
「オンライン」は、SNSとかライブ配信とか。昔は「遠く」て、「オフライン」しかなかったはずなんです。リアルのライブ会場に行って、「遠い存在だな」と思って帰る。だんだん変化してきたのは、例えばAKBグループとかが握手会とかをやるようになった。

桑子:
近くなってきた。

前田さん:
リアルの場なんだけれども、「近く」なってきた。さらにもっとこの近さが増したのが、ライブ配信とかSNSとか、インターネットによるサービスの発達によって、もっとファンの方々は「近さ」を感じられるようになっていった。

なので、もともと「オフライン」だけにとどまっていたアイドル活動というのがいろんなところに縦横無尽に広がっていってるというのが、この10年、20年の変化で分かるかなと思います。

ただ、「近い」というところによってファンの方々は当然親しみやすさを感じて熱量を持っていくのですが、それはいいことばかりではない。当然そこで価値が薄まっていったりとか、ブランドが消費されていったりとかすることもあるので、今のアイドル市場において重要なことは、「オンライン」のネットの配信とか、SNSの発信を通じてファンとの距離は近づけるのですが、近づけるからこそパフォーマンスのクオリティーをものすごく上げるとか、神格性を高めていくことで、「オフライン」と「オンライン」を行ったり来たりして、ファンの方の熱量をさらに高めるということをやっていかなくてはならない。「オンライン」の登場によって、より難易度が上がっているんじゃないかなと感じます。

桑子:
ファンの心理、熱量と今おっしゃいましたが、番組に寄せられたメッセージにこんなものがありました。


毎日仕事や育児に悩みながら
"推し"の音楽や言葉に触れると
ぱーっと明るくなり 頑張れる
毎日の活力なんです

"みんなでプラス"より

毎日、日常の中の活力なんですね。

前田さん:
明らかに日常に溶け込んできていますよね、「推し」というこの行為が。これはおもしろくて、僕がよく最近言っているのが「推し」とは「水とごはんの心版」だと。

水とごはんがなかったら、生命、体は保てないじゃないですか。それを「心」に置き換えたとき、心の健康とか充足感を保つために本当に欠けてはならない生活必需品になってきていると僕は思っています。

「推し」がある人たちにとってみたら、本当にふだん生きる上で水を飲んだり、ごはんを食べたりするのとほぼ同義だと思っているんですよね。だから、そういう意味ではライフスタイルになっている。

ただのオタクということではなくて、「推し」ということばが発明された時点で、それはもうライフスタイル、生活の一環に溶け込んでいるということが大きな変化かなと思いました。

桑子:
自分に関わることだったら、熱量は出てきますもんね。

前田さん:
そうですね。

桑子:
今後、アイドルのあり方はどうなっていくと考えていますか?

前田さん:
2つあるんですが、1つは「オタク」から「推し」へと申し上げたのですが、「一般化」していく。「推し」というものが、誰にとってももっとオープンなもので、閉鎖的ではないものになっていく。

例えば、美容院とかに行ったら「誰を推していますか」とか、当たり前に会話に出てくるような世界になっていくのではないかなと思っています。

それによって市場規模が広がっていけば、ちゃんとアイドルの方々にももっと見返りとか増えていくわけなので。僕はアイドルが与えている感動の分、もっとアイドル市場が盛り上がっていけばいいなという気持ちがすごく強くあります。

桑子:
前田さんがそういうプラットホームを作られるのは、見返りが少ないんじゃないかという思いがあるわけでしょうか。

前田さん:
市場規模が、与えている感動に比べてちっちゃすぎるというのがあるので、やっぱり広げていきたいということがありますね。あとは、もう一つ誰かを推すということは結局、自分の人生を応援する。誰かを応援することは、自分自身にはね返ってくることだと思っています。

桑子:
自分自身を応援することになる。

前田さん:
もう一個の変化は、推している方々も、誰かを推している本人を推してくれる人。「推す」から「推される」に変わっていくということが2つ目の変化としてあればいいなと思っています。みんな発信者なので。

桑子:
今やそうですよね。

前田さん:
そういう人たちが、ちゃんと自分自身の人生も応援してくれる人たちを周りにつけて、人生を充実させていくという世界になったらいいなと考えております。

桑子:
より豊かな日常が待っていそうな感じはしますね。

前田さん:
わくわくしますよね。

桑子:
「アイドルとは何か」。答えを探し続ける大倉さんですが、今回の取材中にアイドルを続けることへの思いを語る場面がありました。

"自分たちの正解"を 大倉忠義さんの思い

8月中旬、大倉さんたち関ジャニ∞の姿は都内のスタジオにありました。

翌日には、初めて参加する野外フェスが控えていましたが、台風が接近し、中止が決まったのです。

関ジャニ∞ 大倉忠義さん
「これさ、インスタライブかなんかでもいいけど、1曲やったらいいんじゃない。がっかりしている(ファンの)方がいるところにフォローじゃないけど」

大倉さんの提案で、急きょ演奏を生配信することになりました。平日の昼間にもかかわらず、5万人以上が見守りました。

大倉忠義さん
「僕たちは日本人が持っているど真ん中のアイドル像にはいないんだろうけれど、それが間違っている、間違っていないじゃなく、そのときの自分たちが正解だと思うことをやってきて、それが自分が積み上げてきた、いま現在という感じです」
見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

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