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2022年8月2日(火)
急拡大する“第7波” 「決断」迫られる観光地

急拡大する“第7波” 「決断」迫られる観光地

この夏、旅行か自粛か、迷う人も多いのでは…。取材班は旅館や観光バス会社に密着。不安定さを増す客足に、これまでのように人件費を抑えて“守り"を続けるのか、人手を増やして“攻め"に出るのか、“ギアチェンジ"の難しさに直面していました。こうしたなか、バス会社の社長は思わぬ策に打って出ました。旅館では支配人が二足のわらじ作戦を決断。第7波で再び翻弄されている観光業。打開策はあるのか。密着ルポとパネル解説で迫りました。

出演者

  • 小林 慶一郎さん (慶應義塾大学経済学部 教授)
  • 岩崎 芳太郎さん (日本ホテル協会 理事)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

観光客は戻ってきたが… 大混乱!いったい何が?

感染拡大が進み始めていた、7月6日。沖縄では観光客が急増していました。

観光客
「空港から混んでいます」
観光客
「全盛期ほどではないにしろ、人は戻っていると感じます」
観光客
「1年半ぐらい(旅行に)行ってなかったです」

このレンタカー会社では2か月ほど前から予約が殺到し、連日満車の状態が続いていました。

OTSレンタカー 大城伸二課長
「需要が一気に回復したのが、ひとつあるのかなと。もともと保有台数がだいぶ減ってまして、その台数の中でやると、お客様の数も限定される」

かつて2,000台以上の車を保有していましたが、コロナ禍で3分の2以上を手放しました。そのため、去年の4倍を超える客に追いつけない状況になっていました。

時を同じくして、福岡に本社を置く観光バス会社でも客足が戻り始めていました。春先から予約が入り始め、秋以降も埋まっていました。

取材班
「10月の後半から(仕事が)びっしり入っていますね。休みないぐらい」
家康コーポレーション 海江田司社長
「すごいでしょ」
取材班
「こんなの取材してから見たことないです」
海江田司社長
「取らぬ狸の皮算用にならないように」

実はこのバス会社は2年前、コロナ禍に身を切る思いで従業員の半分以上を解雇。不振が続く観光の代わりにサーモカメラの販売や、コロナの陽性患者の搬送の仕事をこなすことで会社を守ってきました。

海江田司社長
「やっぱり、この(コロナ患者の)搬送ができたことですよ。これが一番大きいね。これがなければ、もうなかったと思う、この会社は」

この日、社長の海江田さんはこれまでふんばってきた従業員をねぎらいたいと、2年ぶりに全営業所で飲み会を開きました。

従業員
「コロナでなんとか生き延びてますよね。ぼちぼち普通に戻ってほしいですね」

需要の回復を受けて会社では6月から従業員をすべてフルタイムに戻し、雇用調整助成金に頼らない経営にシフトしました。さらに、海江田さんの机の上には二種免許試験の問題集が。社長みずから運転手として稼働しようというのです。

取材班
「勉強なんて何年ぶりですか」
取材班
「何言ってるの。人生は勉強ですよ」

しかし、攻めに出た矢先の7月14日。第7波で感染が急拡大。各地で前の週の2倍を超える増加となりました。

海江田司社長
「今、回復傾向にあるわけだから順調に右肩上がりにいくか、そこでまた止められて自粛とか旅行はやっぱり止めようとかいって、また停滞の方向にいくか」

行動制限が行われない一方で、旅行代金が割り引きされる政府の支援策は延期されることに。それによって予約のキャンセルが入る一方で新規の予約もあり、需要の予測が難しくなっていました。

海江田司社長
「何で数字(感染者数)がひとり歩きして、政府もマスコミもあおって、あおられて。コロナで痛手を被っている人たちが、また痛手を被るという構図というか。われわれ弱小の中小企業は彼ら(政府)の一言でまた右往左往する。今度もそうですよね」

感染拡大も行動制限なし 特別シフトで急場しのぐ

感染拡大の中でも行動制限は行わないという新たな政府の方針に、各地で混乱が起きていました。

岡山県湯郷(ゆのごう)温泉にある旅館。感染拡大後、初めて迎えた7月の三連休。この日の宿泊客は、定員の8割ほど。聞くと、せっかくの予約を断ったというのです。理由は、深刻な人手不足。コロナ禍で従業員やパートを減らしていたのです。

永山久徳社長
「従業員、スタッフの数もだいたい2割から3割ぐらい減って。先立つ現場のスタッフが、それだけ集まらないということと、無理してお客様を入れることによってサービスであったり、安心、安全の部分が損なわれてはいけないということで苦渋の決断をさせていただいています」

フロント担当の荒井誠さんは、人手不足解消のため、特別なシフトに入ることに。

夕方6時前、突然はっぴ姿になり、フロントから飛び出します。

取材班
「どちらに行かれるんですか?」
荒井誠課長
「これから4階の食事どころに行きます」

夕食のいちばん忙しいときに、配膳などを手伝います。

荒井誠課長
「2番席に、赤だしだけ持って行ってもらってもいいですか」

フロントの業務とは違い、部屋に出はいりするため靴を脱ぐ回数も増えます。

取材班
「革靴だと大変じゃないですか」
荒井誠課長
「そうなんです、分かっていただけます?」

夜7時。

廣瀬治支配人
「あ、塩が出てないんか、塩が」
荒井誠課長
「持ってきます」

忙しさがピークの中、次に現れたのは支配人。片づけや洗い物などの手伝いをしていました。

取材班
「支配人がこんなことも」
廣瀬治支配人
「やります、もちろんです。忙しいときはやります。手が空いた者がやればというなかで、やっております」

夜8時。荒井さんは、配膳業務が落ち着いてきたところで食堂を離れます。

取材班
「次は何の仕事を?」
荒井誠課長
「次は、またフロントに戻ります」

しばらくの間、従業員は一人二役三役で回すことに。そこには簡単に人手を増やせない理由がありました。

永山久徳社長
「例えば土曜日だけ、休前日だけのためにパート、アルバイトを採用するといっても、田舎で週1日だけの雇用となっても、いくら求人しても集まらない。常勤のパート、アルバイトさんや正社員を入れようと思っても、それに追いつくだけの売り上げが立てられないというのが現状」

さらに、政府の支援策が延期されたことで旅館の予約にも影響が出ていました。お盆期間は、ほぼ満室。しかし、その後は客足が鈍り、空室が目立つようになっていたのです。

永山久徳社長
「ここで観光需要が復活しないと、2年前のコロナ禍で誰も動けなかったときよりも、むしろ今のほうが厳しい状況に陥っているのではないか」

社会保険料で倒産? 社長に迫られる決断

観光業界では需要が安定しない問題に加え、資金面でも課題が生まれていました。

あの福岡に本社を置く観光バス会社では。

取材班
「それは何ですか」
家康コーポレーション 海江田司社長
「資金繰り表。社会保険料の支払い」
取材班
「赤くなっているのは」
海江田司社長
「これだけ金が足りませんよってこと。このままいけば、7月で財布は空っぽになりますよと。すなわち、このままいけば倒産です」

8月以降の需要が不安定になる中、社長の海江田さんが頭を悩ませていたのは従業員の社会保険料でした。コロナ禍で2年の支払い猶予がされていましたが、8月から支払わなければなりません。月700万の出費。会社は赤字に転落します。

海江田司社長
「社会保険料も払わないといけないのは分かるけど、それよりも先にお金を使わないといけないことがあるわけよ」

意を決し向かったのは、社会保険事務所。再び支払いの延期を願い入れました。9月まで延期が許され、何とか踏みとどまることができました。

観光業界の"借金" コロナ前の3倍以上

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
資金繰りに苦しむ観光業の現場が、いかに多いかというのが分かるデータがあります。中小企業がどれだけ借金などの負債を抱えているのか、業種別に示したものです。

コロナ前と現在とで比べたときに、例えば「医療・福祉業」では、コロナ前は会社の資産の1.3倍の負債を抱えていましたが、ことしは0.9倍と減っています。そのほかの業種を見ても、コロナ前と現在とでそれほど変わりはありません。しかし「宿泊業」になりますと、4.8倍から14.7倍へと3倍以上に膨れ上がっているんです。

きょうのゲストは、マクロ経済が専門で政府のコロナ対策分科会のメンバーでもある小林慶一郎さん。そして、日本ホテル協会、日本バス協会の理事である岩崎芳太郎さんです。

まず小林さんに伺いますが、多くの業種は横ばいなのに、なぜ「宿泊業」だけ負債がコロナ前と比べて膨れ上がっているのでしょうか。

スタジオゲスト
小林 慶一郎さん (慶應義塾大学経済学部 教授)
政府のコロナ対策分科会のメンバー

小林さん:
コロナで大変な「医療」についても現場は大変ですが、医療機関に対しては膨大な補助金が「病床確保料」のような形で出ているわけです。ほかの業種で「飲食業」も、営業時間の短縮に応じて「協力金」という形で補助金が出ていると。

それに対して「宿泊業」のほうは補助金がなく、コロナの影響で困っている分については補助金の代わりに借金の形、要するに「ゼロゼロ融資」と言われるコロナ関連の融資によって、この2年半の間なんとか資金繰りをつないできたという状況です。ところが、2023年から返済が始まりますので、そうなってくると倒産の危機というような状況に追い込まれる事業者がたくさん出てくる。そういう危険がある状況だと思います。

桑子:
こういった状況に対して、岩崎さんはこのようにおっしゃっています。

「他の業界には補助金で資金が入っているが、観光業界は経済対策としてしか政府の支援がない」

これについて、詳しくお願いします。

スタジオゲスト
岩崎 芳太郎さん (日本ホテル協会・日本バス協会理事/岩崎グループ社長)
幅広く地方の観光業に従事

岩崎さん:
「行動制限」と「移動抑制」と2つに分ければ、いわゆる県境を越えるな、帰省を自粛してくれという「移動抑制」のほうの「観光業」ですよね。ここには補助金の類いが入っておりません。その代わり、いわゆる「GoToトラベル」のような経済対策が用意されていたのですが、現実には新型コロナウイルスを短期で封じ込めることができず、結局3年近く「移動抑制」が続いたので、かなり大きな損金を観光業界は被ったということだと思います。

桑子:
この観光業の苦境がこれからも続くとどうなるのか。先ほどVTRにも出ていました旅館の永山社長は、

宿泊施設 社長 永山久徳さん
「例えば旅館と取り引きをしているクリーニング店や食材加工業者など、関連する業者も厳しくなり、地方経済が苦しくなる」

というふうにおっしゃっています。小林さん、宿泊業を中心に観光業は債務が膨れ上がっているわけですが、今後どんな政策が必要だと考えていますか。

小林さん:
本来は幅広く補助金を出して救済すべきところを、借金をさせることによって補助金の代わりにしてきたわけですから、これから必要になってくるのは膨れ上がってしまった借金を減免するという「借金の減免」が必要だと思います。

借金の負担が減ることによって、前向きな投資ができて業界全体が活発になる。これは、バブルの崩壊以降、1990年代の日本でわれわれが経験してきたことです。借金が過剰なまま据え置かれてしまうと、その業界全体が、経済全体が停滞する。それをまた観光業で繰り返すのかというのが今、問われています。

ですから、政府としては債務の減免をする。そのかわり、今度は金融機関が損を被ることになるので、金融機関に対する公的資金の注入を行う。こういう大きな政策の枠組みを作っていく必要があると思います。

観光地の深刻な問題 人手不足どう解消?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
この厳しい状況をどう乗り越えていくのか。この第7波で需要が不安定になる中で、どれだけの人手を確保するべきか悩ましい問題を抱えていました。これを解消する方法として、国ではこういったものを推奨しています。

在籍型出向、いわゆる「雇用シェア」というものですが、本来労働者というのは雇用関係を一つの会社と結んでいますが、在籍していた会社が別の会社と出向契約を結ぶことによって、そのときの経済状況に応じて労働者がどちらの会社とも雇用関係を結べるというものです。

これによって例えば大手航空会社は、コロナ禍で運航便を減らしている時期に客室乗務員がサービス業だったり自治体の観光業へ出向したりするなどの取り組みが進んでいます。

この取り組みに国は補助金を出していまして、これまでに1万3,000人の雇用が守られたということです。岩崎さん、このシステムを観光業に当てはめることは現実的にどうでしょうか。

岩崎さん:
観光業というのは、もともとどちらかというと人気のない業種でして人手不足でありました。その中で今回のパンデミックで労働力不足プラス人材不足がより強まっているので、逆に雇用を守る政策というのはあまり観光業にとっては意味がない。

桑子:
では、何(どんな策)が意味がありますか?

岩崎さん:
先ほど小林先生も言っていただいたように、観光事業者のサステナビリティ(持続可能性)をどう確保するかという政策。それは、国が「観光」というものを国に必要な産業だと思っているのか、若干疑義を思うような状況がありまして。

先進国には観光大臣がいますから、観光大臣を設置して国として観光というのは必要な産業なんですよという形で戦略的かつ長期的な産業政策を打っていただきたい。その中で人材も確保できるし、各事業者の生産性、付加価値性も高まるのではないかと思います。

"第7波"の旅行 どう行動すべきか?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
観光する側はどうしたらいいのか。この夏、旅行したいという方もいらっしゃると思います。どんな旅行がいいのかということで、例えば今こういったものが人気を集めています。

大手旅行会社が提供している「定番を避ける旅」ということなんですね。これは混雑する観光地、時期をずらすことで密を避けて、これまで目立たなかった観光地へ行くツアーです。

ほかにも「マイクロツーリズム」といって、自宅から1~2時間の近場で過ごすことで魅力を再発見する旅行で、他人との接触機会が増える公共交通機関は使わずに自家用車などで移動する旅行も注目を集めています。

そして、医療現場から旅の注意点も聞いています。聖路加国際病院・感染管理室マネージャーの坂本史衣さんによると、旅行はかなり慎重にということでした。

医療現場から旅の注意点 旅行はかなり慎重に!
・旅先で感染したら自分が困る
・重症化リスクのある人に感染させる

地域医療がすでにひっ迫している中で、もし自分が旅先でコロナに感染したら自分が困るということです。また、自分がすでに感染していることを知らずに旅行に行ったら重症化リスクのある人も感染させてしまうリスクがあるということです。

どうしても行く場合は、

1.ワクチン接種・マスクを着用
2.家族や同居者などに限定し行動

話すときは「ワクチンを接種してマスクをつける」。そして、ふだんから接触している家族や同居者など、「メンバーを限定して行動する」などの対策を取ったほうがいいとおっしゃっていました。

最後に小林さんに伺いますが、これまで観光業はブレーキを踏んだりアクセルをかけたりと、政策によってかなり一喜一憂してきました。今後、どんな政策が必要だと考えていますか。

小林さん:
ちょっと話が大きくなるかもしれませんが、感染症対策のモードを切り替えるということが最大の経済対策だと思っています。

実は2日に、18時から分科会の尾身茂会長をはじめとする専門家の有志のグループが記者会見をして、新しい提言を出しました。これは社会を軟着陸させるための提言ということで、コロナ感染症を日常の社会で常に存在するような通常の病気として位置づけようという提言です。そういう中で保険医療のシステムも変えていくと。

ですから、例えば全数把握をすることも徐々にやめていこう。そして、濃厚接触者の特定や管理、これも徐々にやめていこうという方向。そして、浮いた労力をしっかりと重症者の治療に集中しようという医療体制を作っていくということ。

そしてわれわれ、旅行をするような個人のレベルでは、もちろん感染対策はしっかり一人一人やらなければいけません。ただし、医療に対して負荷をかけないということが大事だということで、コロナの疑いを感じたら、まず自宅にいよう。そして、重症化リスクがある人、あるいは病状が悪化したら病院に行くことにしようと。そして、また職場や学校もお医者さんからの診断書などを求めない。


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