“もったいない魚”未利用魚で食卓を豊かに!安くてうまい簡単レシピも!

カナガシラ、コバンザメ、アイゴ…。加工しにくい、たくさん捕れない、腐りやすいなどの理由でこれまであまり食卓に上らなかった“未利用魚”。海の温暖化や乱獲で漁獲量が低迷し魚の値段が上がる今、注目を集めています。未利用魚の詰め合わせを家庭に届ける産直アプリや切り身のパックで届ける定額サービスも登場、新鮮な未利用魚が食卓に広がり始めています。簡単レシピも紹介しながら日本の魚食文化の豊かさを再発見しました。
出演者
- 上田 勝彦さん (㈱ウエカツ水産)
- 桑子 真帆 (キャスター)
※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
"もったいない魚" 未利用魚が食卓を救う
桑子 真帆キャスター:
こちら、「未利用魚」や「低利用魚」と呼ばれるお魚たちです。ハマダツや、キツネダイ、ホウライヒメジに、アイゴなど、あまりスーパーでは見かけないですよね。

もともとは普通に食べられていたり、今でも地方によってはよく食べられている魚なのですが、なぜ、こうした魚が「未利用魚」と呼ばれているのかといいますと…。
①数やサイズがそろわない
②加工・調理が大変
③食べる地域や季節が限定的
④鮮度が落ちやすい
こういったさまざまな理由から、一般的な流通網に乗りづらく、利用されなくなっているからなんです。この「未利用魚」がなぜ今、注目されているのか。そこには意外な理由がありました。
食卓にのぼる未利用魚 巣ごもり需要で人気
この日、都内に暮らす築地さん一家に冷蔵便が届きました。
中に入っていたのは、スーパーなどでは見かけない魚たちの詰め合わせ。カナガシラ、ケムシカジカ、ソウハチガレイなど、珍しい名前の魚たちが2キロ届きました。

「この量で2,000円は、すごく衝撃的。破格の値段。この量あったら、1か月以上もつので、だいぶお得感はある気がします」
築地さんは、この魚を産地直送品のWebサービスを使って購入しました。
「アプリで調べて届いた魚で、スーパーとか介さずに直接漁師さんから届く」
こうしたサービスは、スマートフォンで手軽に漁師や農家から直接買えるため、コロナ禍の巣ごもり需要で人気が爆発しました。
築地さんが使ったサービスの利用者は年々増え続け、現在65万人に達しています。築地さんがこのサービスを利用したきっかけは、新型コロナの影響で外出がしづらくなったこと。今では、食育も兼ねた家族のイベントになりました。

子供たちも味を気に入っているため、この先も注文を続けていきたいと考えています。
「前はもっと露骨に『骨嫌だ~』って感じだったんですけど、途中の苦労が分かったきたのか、何も文句を言わずに食べてます。(コロナ禍で)この2年間、させてあげたいと思う経験が出来ないことが多かったので、家の中にいても出来るようなこと、少しでも楽しいことっていうところでは、お魚が届くとみんなで楽しめていいですね」
不漁に悩む漁師 未利用魚が窮地を救う
「未利用魚」の宅配ビジネスは、漁師にとっても大きなメリットがあるといいます。秋田県の漁師・千葉北斗さんは、産直のWebサービスを使って築地さん一家に「未利用魚」を販売しました。

未利用魚の販売を始めたのには、千葉さんの強い危機感がありました。市場での売り上げが、10年前のおよそ3分の1に激減。廃業を考えるほど追い込まれていたのです。
「(値がつくのは)ノドグロぐらいしかいないですね。カレイも全然いないし、魚が減ってきている感じはする。50%減ぐらいにはなっていると思う」
日本の漁業は今、全国的に大きなピンチに陥っています。漁獲量は、ここ30年で3分の1にまで減少。漁師の数も年々減り続けています。

にもかかわらず、市場に出しても採算が取れないという理由で、数多くの魚が捨てられています。国連食糧農業機関によると、廃棄され、食卓に上がらない魚は漁獲量の3割以上に及ぶと推計されています。
そこで千葉さんが目をつけたのが、「未利用魚」です。少しでも売り上げの足しにしたいと、これまで捨てていた魚の中から食べられるものを選び、自分たちで箱詰め。Webサービスで、直接お客さんに届けることにしました。1年前から販売を開始し、多いときで80万円を売り上げる月もあるといいます。
「価値のなかったものに価値がついて、救世主です。0円のものに対して、千円でも何百円でも価値がつくんで、それはもう全部プラスです」
なぜ未利用魚が注目? かんたん調理法も
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
きょうのゲストは、上田勝彦さんです。上田さんは元水産庁職員で、日本の漁業の現状に詳しいだけではなく、魚料理の専門家として料理教室も開いていらっしゃるということです。

上田 勝彦さん(元水産庁職員)
日本の漁業の現状に詳しい 魚料理の専門家
上田さん:
まあ専門家でもないんですけど。
桑子:
いやいや、きょうは期待していろいろ伺いたいのですが、VTRを見ると「未利用魚」を売る側も、買う側も多くのメリットがあるなと思ったんです。まさにこれ、コロナ禍においては救世主となり得るものですか。
上田さん:
救世主となるかどうかは、コロナが明けてからのこれからにかかっているのですが、ただ、少なくともコロナ禍で見えてきたことは、それまで一般家庭で魚を丸々さばくなんて、よっぽど好きじゃないとしないと思っていたわけです。ところが、自宅待機で時間ができれば楽しくやっているじゃないですか。
桑子:
そうなんです。「食育」につながると。
上田さん:
家族で喜んでおいしく食べているでしょう?時間のゆとりの問題だったのではないかというのが出てくるわけです。こういった流れが定着して、できるだけゆとりを作って、いろんな魚を食べてみようと家族でそういう流れになっていくと、まさに救世主になっていくのではないでしょうか。
桑子:
そうですね。この「未利用魚」が食卓の救世主になるのではないかと呼ばれる理由の1つに、「魚の価格の高騰」というのがあります。

家庭で消費される上位5種類の魚の価格ですが、さけ、まぐろ、ぶりなど、私たちがよく食べる魚がここ10年でなんと100円前後値上がりしているということです。上田さん、なぜこんなに値上がりしているのでしょうか。
上田さん:
さけ、まぐろ、ぶり、えび、いかとあるでしょう。これは、日本国民が消費してる量の順位なんですよ。みんな、これが好きで買っていると。しかし、こういった魚たちというのはかなり輸入に頼っているところが多く、例えば戦争・紛争があると、世界で資材も高くなる、輸入量もなくなる。また、少なくなってくれば世界で奪い合うようになってくる。結果として、こういうふうに高くならざるを得ないんです。
桑子:
日本は、こうした中で買い負けているというようなことも起きている。
上田さん:
世界市場では、買い負けも起きているんです。
桑子:
そうした中で、日本には本来たくさん魚が捕れるはずですが、もったいないなと感じます。
上田さん:
日本全国で、真水から海水から大体3,000種前後の魚がいると言われていますが、その中で一般流通している魚が大体およそ300種類ぐらい。えび、カニ、いか、タコ、海藻、貝類を入れると500種類ぐらい。大体そういうのを食べているわけなんですが、もともと日本という国はシラスからクジラまで満遍なく食べてきたんです。けれども、リストにあったように、食べやすいもの、舌に優しいものを求めるような傾向、偏った消費になってきていると。そのことが今になってものすごく響いてきているという、裏目に出ているというんでしょうか。
桑子:
消費の形が、固定化されてきてしまっているということがあるわけですね。
上田さん:
海もどんどん変わっていっていますし、魚もどんどん変わっていっています。それについていけていない現状があるわけです。
桑子:
この「未利用魚」が活用されない理由の1つに、骨が多くてさばきづらいというのがあるそうです。実は、さばかなくても立派な一皿にできるということで、上田さんに手間が少ない料理というのを紹介してもらおうと思います。ご紹介するのは、カナガシラという魚。これも「未利用魚」ですね。

上田さん:
ホウボウという高級魚がいるんですが、それの仲間ですね。
桑子:
どういう魚なんですか。
上田さん:
未利用といいますけど、これはもともと西から中部にかけてはよく食べられている魚です。北のほうにはあまりいないけど、どんどん北のほうに進出してきている。珍しい魚が捕れたといっているわけですが、この魚は白身でうまみが強くて、身がほろりと来て、「だし力」が強い。
桑子:
「だし力」と言うんですね。
上田さん:
「だし力」。だしの力が強いんです。
桑子:
実際にどんな料理ができるかというと、まず塩焼き。これのポイントは。

上田さん:
うろこさえ取っておけば、新鮮だったら内臓は取らなくてもいいです。
桑子:
丸のままいけますか。
上田さん:
腸ぐらいは取っておいたほうがいい。食べたあとに、おわんに「あら」を入れてお湯を注げばスープにもなる。すばらしい「だし」が出る。
桑子:
そして、煮つけ。

上田さん:
これももちろん、塩焼きを丸のまま煮つけでもいいわけです。これも、うろこさえ取っておけば、内臓、腸だけ出せばそのまま煮つけていい。
桑子:
さらにブイヤベースがあります。

上田さん:
この類いの魚の真骨頂で、いかつい頭から、すばらしい「だし」がじわじわと出てくる。
桑子:
いろんなえびとか、ほかの「だし」も相まって。
上田さん:
これはもう、ぴたっと来る料理でしょう。
桑子:
この「未利用魚」がさばきにくいということに加えて、もう一つ弱点といわれているのが「鮮度が落ちやすい」ということです。この弱点を克服するビジネスも生まれています。
"鮮度が落ちやすい" 弱点克服のサービス

「これがキコリダイという魚の煮きりしょうゆ漬けなんですけど、流水で解凍して、そのままご飯に乗っけるだけで、ちょっとした漬け丼ですね」
こちらは、魚を下ごしらえして味付けしたフードパック。使用する魚の7割が「未利用魚」です。月々定額で届けるサブスクでの販売が好評で、昨年4月の販売以来、4万食を売り上げています。真空パックで冷凍することで、鮮度が落ちやすいという「未利用魚」の弱点を克服しようとしています。
なぜ、こうしたサービスが実現できたのか。それは、魚の仕入れから処理までの時間を、ぎりぎりまで短縮しているからです。
漁師や仲買人から「未利用魚」が捕れたと連絡を受けると、できるだけ早く魚を集めます。この日は、水揚げの僅か4時間後に加工を始めることができました。

「最初はまず、アイゴからいきましょうか。やっぱりアイゴがいちばん足はやいんで、この中では」
このアイゴという魚は、背びれのとげに毒があります。さらに。

「この緑色の玉が"におい玉"と言うんですけど、これが割れちゃうと本当に臭い」
内臓の匂いが身に移る前に取り除くことで、マダイに匹敵する白身魚になるといいます。
「できる限り早く。1分1秒でも早く処理していくということは、かなり気をつけてやっています」
扱う魚は50種類以上。できるだけ多くの「未利用魚」を商品化したいと考えています。

「日本人が魚を食べる量って、年々減少傾向にあるんですけども、人は魚を嫌いになっているということではなくて、魚を料理することから離れていっているだけなんじゃないか。未利用魚を有効活用していくビジネスは、誰も損をしない。漁師にとっても、魚を食べるわれわれにとっても、本当の意味で持続可能な水産業を実現していく」
未利用魚の弱点克服 次のステップは
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
自分でさばいたりしない身とすると、フードパックにしてもらえると、とてもありがたい、手軽だなと思ったのですが、どうでした?
上田さん:
よく分からない魚をそのまま並べても、絶対売れないんですね。食べたこともない、見たこともない、聞いたこともない、そういうものを分かりやすい料理、分かりやすい味、そしてサブスクで提供するというのは1つの形としてはありだと思う。
ただ、それで終わるのではなくて、その次のステップとして、自分でチャレンジして、「本当はこの魚どういうことなんだろう」と。出来合いの味とは全然違う奥深さがありますから、そこに向かって発展していったらいいきっかけになると思います。
桑子:
魚そのものの魅力につながる、知ることにつながることにはなると思いますが、実は「未利用魚」という魚そのものが、ごく自然に食卓に上っている地域があるんです。
未利用魚が売り切れに もともとは"身近な魚"
福岡にある道の駅。週末には、開店前に100人以上の大行列ができます。
その日の朝に、捕れたばかりの地元の魚を漁師が出品。いかやタイといったメジャーな魚介と一緒に「未利用魚」も販売されています。

鮮度の落ちやすいアイゴも、地元だからこそ刺身で食べられる新鮮さで販売。この日も売り切れになるほどの人気でした。
「これ(アイゴ)大好き。皮は硬いけど、お刺身でも煮つけでもおいしい」
そして、100円で魚をおろして内臓を処理してくれるサービスもあります。

さばくのが難しく、敬遠されがちな魚も気軽に買えるようになっています。
手軽においしく食べられる調理法
<スタジオトーク>
桑子 真帆キャスター:
なぜ、「未利用魚」もほかの魚と同じように皆さんに親しまれているのでしょうか。
上田さん:
北九州から西側というのは、もともといろんな魚を食べるの文化があった。
桑子:
地域的に?
上田さん:
それに加えて、漁師さんが道の駅に持ち込むんですけど、競って売れ残ったら持って帰らないといけない。だから、よりきれいな形で手に取ってもらえるようにしてるでしょう。さらに、道の駅でおろしてもらえる。家でごみが出ない、これもありがたい。全部がそろって、あの繁盛ぶり。
桑子:
なるほど。下処理してくれるとありがたいなと、ハードルが下がる感じはしますよね。
上田さん:
そうですよね。ごみが出るのがいちばん大変なことなんですが、あのように地元の人が地元の魚をちゃんと食べてくれるという形は、いちばん健全なんです。ひいては、日本の魚を日本人がちゃんと食べてくれるというのが。一つのモデルみたいなものですね。
桑子:
この「未利用魚」を含めて、あまり慣れ親しんでいない魚でも手軽においしく食べられる調理法というのを、上田さんにご紹介していただきます。
上田さん:
ちょっとやってみます。
桑子:
名前が「湯煮」。湯で煮ると書いた「湯煮」です。
上田さん:
これはもともと、網走地方の郷土料理なんですよ。
お約束は3つだけ。
お約束その1、薄塩をしておきます。魚には包丁を骨に到達するぐらい入れておきます。

ちょっとしばらく置いたら、お湯を沸騰させます。お湯が沸騰したところにお酒をおちょこ1杯ぐらい入れておく。そうすると、塩で引き出された臭みが、お酒によって臭みが中和される。沸騰してきましたら、魚を入れます。
桑子:
先ほどご紹介した、カナガシラですね。
上田さん:
入れると、スープは濁るんです。濁って「あく」が浮いてきます。「あく」はすくったほうがいい。そして、包丁を入れたところから骨が見えます。骨がちょっと見えて、身がほろっと崩れるようになったら出来上がる。

桑子:
火加減はどのぐらいですか。
上田さん:
火加減は、ぐらぐらさせない。
お約束その2は、酒を入れる。
お約束その3は、ぐらぐら煮ない。沸騰したところに入れたら、あとは泡がふつふつとするぐらいに調節。
桑子:
そして、骨が見えてきたのが既にあるということで。
上田さん:
包丁を入れたところに箸をいれると、ぽこっと身が取れる。全然骨っぽいとかがない。骨があるところも、きれいにちゃんととれますよ。

桑子:
本当ですね。
上田さん:
食べやすい。
桑子:
ここまでが「湯煮」というものですが、どういう調理法ができますか。
上田さん:
ゆでてしまったあとは、好きな野菜をこの残り湯でゆでてしぼって合わせて、そして、今回は例えばポン酢をちょっとかける。熱いうちにかけてください。冷める途中で味がしみていくので。

桑子:
熱いうちにかけるのが大事なわけですね?
上田さん:
大事。ほかにどんなソースをかけてもいいわけ。油はゴマ油だろうがオリーブ油だろうが、こしょうだろうが塩だろうが。和洋中、全部いける。僕が教える料理の中では最短、最強。この調理法のいいところは、どんな魚でも短時間でできて、しかも切り身はできるし、干物でもゆでることができるというバリエーションの中で、最短距離で魚の個性を味わえる料理。失敗がない。
桑子:
よけいな味付けはされていないわけですね。
上田さん:
そうそう。あとは好きな味でどうぞ。
桑子:
「未利用魚」について見てきましたが、「未利用魚」の活用を見ることによって、どういうことが見えてくるとお考えですか。
上田さん:
コロナと、それからロシアの紛争、この2つの事件を経て見えてきたことというのは、決して魚料理から離れているわけじゃない。時間のゆとりさえあったら楽しむことができるというのと、もう一つは、偏った魚に執着していると結局輸入するはめになり、それが手に入らないようになると慌てることになる。
それよりも、北から南まで300種といろんな魚に恵まれている奇跡の島国・日本で、私たちがちゃんと自分たちの力でごはんを食べていくためには、いろんな魚たちを満遍なく味わい、楽しみ、ちゃんとしたお金を出して買うというところに希望を感じますね。
桑子:
ひいては、日本の漁業を守るということにもつながると。
上田さん:
日本の漁業も守るし、日本の食生活を守る。
桑子:
ありがとうございました。最後にご覧いただくのは、魚とどう関わっていくのか。かつて、どこにでもあった町の魚屋さんに学んだ取り組みです。始まっているところが東京にあります。
魚の味に料理法 じかに伝えてファン獲得
東京都内に8店舗を構える鮮魚店です。流通には乗りにくい魚も数多く取りそろえています。

「これがコバンザメ。けっこう脂も乗っていて、味はカンパチとかに近い」
大切にしているのは、客とのコミュニケーション。かつての魚屋さんのように、魚の味や料理方法を細かく伝えて販売。そうすることで、珍しい魚にも興味を持ってもらいたいと考えています。
「きょうはマンボウの腸も入ってます」
「マンボウの腸!?どうやって食べるのがおいしいの?」
「牛のミノみたいなんですけど、湯引いて酢みそとか」
「おいしそう」
店に置いてある魚が縁となって、うれしい出来事がありました。

「お魚好きのお子さんがいて、そのまま買って『とてもおいしかったです』と、これを持ってきてくれて」
未利用魚の熱烈なファンが1人増えました。
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