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2022年6月7日(火)

急増“オミクロン後遺症”最前線からの報告

急増“オミクロン後遺症”最前線からの報告

時間差で押し寄せるコロナ後遺症の波。専門外来がある聖マリアンナ医科大学病院には、オミクロン株に感染した現役世代が急増。40代の男性は道路標識や看板などが理解できなくなり、休職に追い込まれました。オミクロン株は感染者数が格段に多いため、かつてない“後遺症の波"が来るのではと懸念も広がっています。原因も治療法も解明されない中、長期間、後遺症に苦しむ子供たちも。患者や病院のルポ、最新研究から迫る後遺症の新たな実態に迫りました。

出演者

  • 平畑 光一さん (医師)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

急増"オミクロン後遺症" 見えてきた特徴は

コロナ後遺症の専門外来がある、聖マリアンナ医科大学病院。この日に訪れたのは、40代で建設業の営業職の男性。オミクロン株が流行し始めた、ことし1月に感染。軽症でしたが、その後、文字を認識できなくなったといいます。

聖マリアンナ医科大学病院 佐々木信幸医師
「具体的には、ポスターを見たときに、どういうところが分かりにくいですか」
建設業 営業職 40代 男性
「ここ(太字部分)はわかる。ここ(太字部分)から下は見えているんですけど、字って認識できない」

コロナの感染から3か月以内に症状が出て、少なくとも2か月以上続く後遺症。

男性の症状は、認知機能の低下、「ブレインフォグ」でした。日常生活にも支障が出て、4か月以上休職を余儀なくされています。

40代 男性
「困ったのは、これ。自販機で買えなかった。炭酸が飲みたい気分だなというときに、見ていて、どこに炭酸があるのか分からなくなる」
40代 男性
「標識の下に文字がある。これが一切、わからなくて。近寄っていって、自分でこれが『通学路』と声に発すれば通学路かってわかるんですけど、ぱっと見たときには、ただの看板でしかない。そこから怖くて運転できなくなりました」

男性に一体、何が起きているのか。

脳を調べると、一部に異常が起きていることが分かりました。男性の脳の血流を表した画像です。

青や緑に色が変わっている部分が血流の低下を示しています。脳の後ろの部分、後頭葉で血流が大幅に低下していることが分かりました。

後頭葉は、目で見た情報をインプットする場所です。この場所の血流が低下していることで、男性は文字や画像を正確に認識することができなくなったと見られます。

聖マリアンナ医科大学病院 佐々木信幸医師
「例えばりんごを見たとします。これが単なる赤い丸いものくらいにしか見えていなければ、それをりんごと判断するまでにちょっと時間がかかる。本を読んでいて、よく分からない。文字ということは分かっているが、内容が入ってこない。そういった訴えをする方が非常に多い」

そして、オミクロン株の後遺症の特徴として見えてきたのが、陰性になったあとも、のどの激痛や、せきが続くと訴える人が数多くいることです

4か月近く、のどの痛みが消えないという40代の女性は、けん怠感にも悩まされています。

40代 女性
「寝られないくらい、のどが痛くて」
聖マリアンナ医科大学病院 医師
「上咽頭、鼻の奥のところに、慢性的な炎症が生じていると考えられている。その辺の炎症が、さまざまな症状に関与している可能性がある」

東京都が発表した後遺症に関する最新のデータでは、オミクロン株の後遺症は従来の株に比べ、味覚や嗅覚の障害を訴える人は減少しているものの、せきやけん怠感を訴える人が増えていることが分かりました。

鼻の奥に炎症を抱える人が多いという、オミクロン株の後遺症。この病院では、「上咽頭擦過(じょういんとうさっか)療法」と呼ばれる治療法を取り入れています。液体の薬をつけた綿棒で鼻の奥の腫れている部分を直接こすり、炎症を抑えます。

オミクロン株による後遺症を訴える人が増える中、退職を余儀なくされるケースも相次いでいます。

この日、診察に訪れた40代の事務職の女性は、高校生の娘と両親の生活を支えています。

40代 女性
「働かなきゃいけない世代なのに、働けない。収入がない。そこが、しんどい」

女性は、ことし1月に感染。軽症だったものの、その後、極度のけん怠感と関節痛が続き、家事ができなくなりました。

40代 女性
「箸が重い。ずっと持っていると、震えてくる。鉄アレイを持っているみたいな重さ」

立つこともままならなくなった女性は、3月に仕事を辞めました。

女性の収入を頼りにしていた家族。回復の見通しが立たない中、不安な日々を過ごしています。

母親
「とにかく娘には働いてもらわなきゃ。残酷だけど、しょうがない」
40代 女性
「改善に向かっていればいいけど、何も変わらない。治るどころか、なかった症状も出てくるし」

かつてない規模の感染者数となった、オミクロン株。後遺症が現れる頻度は8.7%と、デルタ株よりも少ないという報告もあります。

後遺症の出現頻度 (イギリス国家統計局)
・デルタ株 15.9%
・オミクロン株 8.7%
※デルタ・オミクロン株ともにワクチン2回接種済み

ただ、病院では後遺症の波がどれほどになるのか危機感が強まっています。

佐々木信幸医師
「今まで来た(後遺症)患者の3~4倍増えてもおかしくない。今まで経験したことのない、大きい波がくるんじゃないか」

長期化するコロナ後遺症 なぜ1年以上も

新型コロナの感染拡大から2年。後遺症が想像以上に長期化することも分かってきました。

海外の最新研究では、従来株による後遺症の患者1,000人のうち、1年以上症状が続いている人は85%に上ることが報告されています。

強いけん怠感などの後遺症に、1年以上悩まされている高校2年生のさやかさん(仮名)。感染したのは去年4月。スポーツ推薦で高校に入学し、その部活でクラスターが発生しました。

去年の秋。番組は、さやかさんを取材(2021年11月2日(火)急増 現役世代コロナ後遺症 最前線で何が)。立ち上がっただけで、脈拍が30近く上昇。50メートルを全力疾走したときと同じくらいの感覚だといいます。

それから8か月以上たった今も、同じ状況が続いています。

聖マリアンナ医科大学病院 医師
「いま、立ち上がっただけで心拍数が120ちょっとまで上がっている。30以上、心拍数が上がっている」

脈拍を下げる薬を飲み続けている、さやかさん。学校に通えるようにはなりました。しかし、活躍を期待されていた部活には復帰することができませんでした。

さやかさん(仮名)
「動けない体になってしまった。周りはできている。自分よりうまくなっていくのを、見学で見ている。それが一番つらい。自分の自信も失うし、もともとの目的も見失う。考えれば考えるほど周りに言えなくなって、自分が潰れていく」

この春、さやかさんはスポーツ推薦で入った高校をやめて、通信制の学校に転校することにしました。高校の友人らに宛てたメッセージには、こうつづっていました。


「けん怠感や頭痛といった症状が出ることを何度も繰り返すうちに、スポーツ科や部活動に在籍していることへの罪悪感を感じて、スポーツ科での目標を見つけられなくなってしまいました。スポーツ以外の道で体調と向き合いながら、いまの自分でもできることを探してみようと考えました」

高校の友人たちに宛てた さやかさんのメッセージより
さやかさん
「いろんな意味で、先輩にも同学年にも気を遣わせてしまった。体が自分の気持ちに追いついていない。苦渋の決断でした」

急増"オミクロン後遺症" 従来株より長期化か

なぜ、症状が長期にわたって続くのか。いまだにその原因が解明されていない後遺症。最新の研究から、長期化するメカニズムの一端が見えてきました。

ヒト免疫学の研究を行っている京都大学の上野英樹教授は、強いけん怠感を訴える従来株に感染した患者と、オミクロン株に感染した患者、それぞれの血液を調べました。

その結果、オミクロン株のほうが従来株よりも後遺症が長引く可能性があることが分かったといいます。

京都大学 上野英樹教授
「同じような、けん怠感の強い方だが、オミクロン株の後遺症は、従来株の後遺症とメカニズム的に違うんじゃないかと考えている」

上野教授が注目したのは、ウイルスの排除などを行っている「T細胞」です。通常、私たちの体にウイルスが侵入すると、「T細胞」がウイルスに感染した細胞を排除します。後遺症の原因として考えられているのが、「T細胞」がコロナウイルスを十分に排除できず、そのかけらが残り続けることで、さまざまな症状が引き起こされているということです。

上野教授が、従来株とオミクロン株、それぞれの後遺症患者の「T細胞」を分析すると、オミクロン株の患者の場合、従来株より半分ほど少ないことが分かりました。

オミクロン株の後遺症では「T細胞」が少ないため、ウイルスのかけらが取り除けず、従来株より後遺症が長期化する可能性があると見ています。

上野英樹教授
「ウイルスのかけらを残す。そのかけらが取り除けないということが続くんじゃないか。オミクロン株(後遺症)の遷延化、長引くことにつながるのではないかと危惧している」

4,000人以上診察の医師語る コロナ後遺症の実態

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
まだ分からないことが多い新型コロナの後遺症ですが、どんなことが分かってきているのか。

きょうのゲストは、4,000人以上の後遺症患者を診てこられた、医師の平畑光一さんです。よろしくお願いいたします。

スタジオゲスト
平畑 光一さん (医師)
4,000人以上の後遺症患者を診察

平畑さん:
よろしくお願いいたします。

桑子:
平畑さんのクリニックに通う後遺症患者の症状をまとめたものを用意しましたが、これを見るとけん怠感を訴える方が多いですね。実際にどういう方がいらっしゃるのでしょうか。

平畑さん:
歯ブラシを持つのもつらいとか、あるいは本当にひどくなってくるとトイレに行くこともできず、おむつを履いてお尻を拭いてもらっている若い人も結構いらっしゃるんです。非常に、かなり厳しい症状と思います。

桑子:
VTRで見ましたけれど、箸が持てないという女性、決して少なくないということですね。

平畑さん:
全く少なくないですね。

桑子:
自分の体の不調が後遺症かもしれないと、不安に思う方もいると思います。平畑さんが診断で実際に使っているチェックシートを用意しました

例えば、「全身けん怠のため、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である」など、7つの項目がありまして、1つでも当てはまると後遺症の可能性があるということですが、この「休息」というのは、休日に少し体を休めるイメージなのか、もっと深刻なものなのか。

平畑さん:
もっとずっと重いもので、トイレと食事以外はずっと寝ているような状況のことを言いますね。

桑子:
かなり体がだるくて、動くのが難しいという状況ですね。

平畑さん:
そうですね。そういう状況ですね。

桑子:
実際、このチェックシートをどのように使っていますか。

平畑さん:
まず、チェックシートで状態を把握し、その上で、いろいろ似たような症状が出てしまうほかの病気を全部検査で省いていって、最終的に診断をつけていくというような使い方をしています。

桑子:
平畑さんが診断する中で、こんなことも分かってきました。

まず1つ目が、「症状のレベル」です。最も症状が重かったときを10段階で評価してもらったのですが、6よりも高くなりますと通常の生活をすることが難しいということで、全体の3分の1以上にもなるということなんです。

こうした中で、休職を余儀なくされた方が1,012人。退職・解雇を余儀なくされた方も179人いるということです。

こういった後遺症がどのくらい続くのか。平畑さんが診た3,480人のうち、1年以上通院しているのが644人。2年以上が77人ということで、平畑さんが診ただけでこういった数字が出ている。全国規模でみると、もっと深刻な状況ではありますよね。

平畑さん:
そうですね。感染者数の10人に1人が後遺症になると言われていますので、全国レベルでいきますと、100万人近くの方が後遺症になっている可能性がある。

なので、本当にばく大な数の方が後遺症で苦しまれているのではないかと思います。ただ一方で、後遺症が2年以上続く方はそう多くはないということも言えるんですね。いろいろな治療がどんどん出てきていますので、そこは決して希望を失わないでいただきたいと思います。

桑子:
こうした中で、医療現場では模索が続いています。

押し寄せる"後遺症の波" 治療の最前線は

看板などの文字が認識できず、4か月以上休職を余儀なくされている営業職の男性。認知機能の低下「ブレインフォグ」を改善させる治療を受けています。

使うのは特殊な磁気を出す装置で、脳卒中などのリハビリで行われてきた「rTMS(コロナ後遺症では自由診療)」と呼ばれる治療法です。

男性の脳は、目で見た情報をインプットする後頭葉の血流が低下していることが分かっています。磁気を当てることで、血流を活性化させます。

治療前、男性は病院の案内表示も理解できないと話していました。

建設業 営業職 40代 男性
「(ポスターに書いてある)『入院患者』というのはパッと分かるが、そこから下は入ってこない。字と認識できない」

男性が治療を始めて、3回目のこの日。男性に変化が現れました。

聖マリアンナ医科大学病院 佐々木信幸医師
「どうでしょう?」
40代 男性
「そこまで変わったかなぁ。どうかなぁ。あぁ、見える」
佐々木信幸医師
「見える?」
40代 男性
「あぁ、分かるな」
40代 男性
「これも分かるな。いままではこの辺り(小さい文字)を読んでも、ここまで(最後の文)読んでいかないと分からなかったのに、いまは普通に『どなたでもお気軽にお申込みいただけます』と」
佐々木信幸医師
「見た瞬間に、これが情報として」
40代 男性
「入ってくる」
取材班
「読んで、理解もできる?」
40代 男性
「できる」

認知機能の低下は、運動機能にも深刻な影響を及ぼすことがあります。

「ブレインフォグ」で、歩行に支障が出ている女性。治療を始めた当初、車いすで移動していた女性は、これまで4回治療を受けてきました。

この日…。

佐々木信幸医師
「まず歩いてみましょうか」
佐々木信幸医師
「もうこの時点で違う。なんでこんなに違うのか。歩いていって。はい、戻ってきてください」
女性
「フラフラしない、これをやると力が入る」
佐々木信幸医師
「しゃべり方もいい感じ」
女性
「頭がすっきりする」

脳の後頭葉が刺激されたことで、目に入る情報が増え、手や足などが適切に機能するようになったのではないかと医師は考えています。

佐々木信幸医師
「rTMSで(脳を)強制的に使わせる。使わせれば、ここは使うんだなってことで、血流が戻ってくる。脳血流の状態を比べてみて、ここが原因だというところを刺激するようにしている」

ただ、この治療、手探りの状態が続いています。強いけん怠感が続く、中学2年生の男の子です。

rTMS治療中の中学2年生の男の子
「気持ち悪い」
佐々木信幸医師
「立ってみましょうか。試行錯誤にはなるけれども。すみません、なかなかうまくいかなくて」
中学2年生の男の子の母親
「(部活で)朝練があると早起きしなきゃいけない。全然平気で起きていたのに、ブレインフォグとけん怠感は全く治らない。できる限りのことは、やりたい。わらをもすがりたい思いです」

この医師がrTMS治療を行った後遺症の患者は、これまで60人。何らかの改善が見られたのは8割。しかし、そのうちの2割は、再び症状が出てしまったといいます。

佐々木信幸医師
「rTMSの効果がある人、ない人が確かにいて、どういう人に効果があるのか分からないので、いろいろ模索している最中です」

急増"オミクロン後遺症" いま何が必要か

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
この「rTMS」。効果がある人、ない人がいる中で、どれくらい期待できる治療法だとお考えですか。

平畑さん:
日本全国の中でも「rTMS」を後遺症に対してできる場所というのは非常に少なくて、数か所しかないです。

桑子:
数か所ですか。

平畑さん:
はい。まだ研究段階の治療ですので、非常に期待はしているのですが、これからというところだと思います。

桑子:
後遺症が長期化する中で、何が必要なのか。平畑さんに3つのポイントを挙げていただきました。

まず1つ目は、「後遺症を診る病院の拡充」。これはどこに問題があるとお考えですか。

平畑さん:
まず1つは、診療報酬が少ないということです。非常に簡単な病気と同じような診療報酬になっています。症状が多岐にわたっていますので、どうしても診断には多くて30分ぐらいかかってしまうことも多いんです。

桑子:
時間がかかる。

平畑さん:
そうしますと、医療機関側のメリットが少ないということになると思います。

桑子:
それで、なかなか受け入れる病院が広がっていかないと。

平畑さん:
そうですね。

桑子:
2つ目は、「患者の生活のサポートが必要なのではないか」。具体的にどんなサポートでしょうか。

平畑さん:
会社員の方であれば傷病手当が1年半出るのですが、自営業、フリーランスの方々のような国民健康保険を使われている方の場合は、傷病手当が一切ないです。そうしますと病気だけでもつらいのに、いきなり経済的に困ってしまうということが起きてしまいます。

桑子:
この体制も整えるべきではないだろうかと。3つ目は、「周囲の理解」。これも大切なことですね。

平畑さん:
そうですね。やはり同僚の方とか、友人、ご家族の方からなかなか理解されず、無理解のことばを投げかけられてしまう方もたくさんいらっしゃるので、そういうところが非常に大きな問題と思っています。

桑子:
実際に差別意識のようなものが、まだあるとお考えですか。

平畑さん:
地域によっては、まだ差別も少し残っているかと思いますし、我慢しなくてはいけないと思い込んでいる方もたくさんいらっしゃるので、そんなことはないぞと。利用できるものは利用しましょうというふうに思っています。

桑子:
今いちばん訴えたいことは、どんなことですか。

平畑さん:
社会の側が、後遺症の患者さんたちに寄り添っていただきたい。誰にとっても他人事ではありませんので、ぜひ皆さんで取り組んでいただきたいと思っています。

桑子:
寄り添う心。大切ですね。ありがとうございました。


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