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2022年5月16日(月)
いつもの薬がない!?ジェネリック急拡大の影でなにが

いつもの薬がない!?ジェネリック急拡大の影でなにが

「医師から処方されていた薬がない」。アレルギー、胃炎、高血圧をはじめ、心不全、狭心症、てんかんなど、入手しづらい薬は約2500品目。私たちの健康を守る「薬」に、今なにが起きているのか?背景にあるのが、ジェネリック、後発医薬品メーカーで製造上の問題や不正が相次いで発覚したことです。取材班に、現場で働く関係者が明かした“内実”とは。そして不足の解消はいつ?知られざる薬不足の実態に、独自取材で迫りました。

出演者

  • 坂巻 弘之さん (神奈川県立保健福祉大学大学院教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

いつもの薬がない!? ジェネリック急拡大で何が

桑子 真帆キャスター:
NHKでは、薬不足について継続して取材をしてきました。寄せられた声は600を超えています。ある患者からは「代替薬が体に合わず、ひどい体調不良。2週間、寝たきりでつらいです」。

そして、医師からです。「現場の努力でどうにかなる話ではない。まったく入荷されない状況で地獄です」。

さらに、薬剤師の方は「メジャーな薬がほとんど入ってこない。毎日患者さんに謝罪している」など、切実な声が届いています。

不足している薬の多くは、「ジェネリック医薬品」です。薬というのはある企業が新しい薬「先発医薬品」を開発して、一定程度時間がたつと、特許が切れます。すると、さまざまな企業が同じ成分の薬を製造できるようになります。これが「ジェネリック医薬品」で、先発医薬品に対して「後発医薬品」とも言われます。

「ジェネリック医薬品」の特徴は、主成分は同じなのですがゼロから開発しなくていいので価格が安いです。現在処方されている薬のおよそ8割に上っています。

この「ジェネリック医薬品」が今、不足しているということです。一体何が起きているのでしょうか。

薬不足の実態とは

大阪にある内科のクリニックでは、去年の夏からジェネリック医薬品の2割が注文しても入手できなくなっています。

不足しているのは、睡眠薬やリューマチ、糖尿病の薬など。患者には、別のメーカーが作る同じ効能の薬を処方することで対応しています。ところが、急に薬が変わったあとに体調の変化を訴える患者が出ているのです。

医薬品は、例えば胃薬一つとっても、さまざまなメーカーが製造しています。ただ、成分は同じでも製造工程で使う添加物など、微妙な違いがあります。

そのため、あるメーカーの薬を飲んでいた人が別のメーカーの薬に変えると、体質的に合わないケースもあるのです。

逆流性食道炎を患うこの女性は、5年間、同じ薬を飲み続けてきました。しかし1か月前に薬が変わったところ、効果が十分に感じられなくなったといいます。

逆流性食道炎を患う女性
「前の錠剤は?」
医師
「前のは、まだ手に入らない」
逆流性食道炎を患う女性
「のどに詰まるような感覚になって、何だったらちょっと残るときもある」
医師
「つかえる感じの症状が出ることはある。(薬の)効果がひょっとしたら弱まっているのかな」
北原医院 井上美佐院長
「患者さんのほうから『この薬の効きが悪いよ』と言われると、でもいまは無いからしかたないからごめんねと、謝りながら薬を処方しないといけない。非常に患者さんに迷惑をかけていることは心苦しい」

なぜ、前代未聞の薬不足が起きているのか。

発端は2020年12月。ジェネリックメーカーの小林化工が製造していた水虫などの治療薬に、睡眠導入剤が混入していたことでした。意識を失うなど、健康被害が出たのは240人以上。中には運転中に事故を起こすなど、深刻なケースもありました。

県や第三者委員会が調査に乗り出すと、製造や試験の工程で国が承認していない手順を取っていたことが次々と発覚。こうした不正を、当時の社長は15年以上前から認識していたといいます。

さらにその後も、大手の日医工をはじめ、合計9つのメーカーで不正が発覚し、業務停止命令を受けます。現在も、国の基準に従った体制を整えるのに時間がかかるメーカーでは出荷が再開できておらず、薬不足が長期化しているのです。

薬不足で深刻な影響が

薬不足が長引く中で、深刻な事態に陥る人も。

58歳の鈴木さん(仮名)は、幼いころに脳性まひを患い、左半身にまひが残りました。その後、てんかんを発症。その症状であるけいれんなどの発作を抑えるため、長年ジェネリックの薬を服用してきました。

しかし去年、急にその薬が入手できなくなり、同じ成分を使ったほかのメーカーの薬も不足する状況に。そこで、当時のかかりつけ医の方針で、成分の異なる新たな薬に切り替えることになったのです。

てんかん患者 鈴木さん(仮名)
「飲んだときに前の薬と全然違う、何かおかしい。発作に本当に効くのかな、どんどんひどくなるし、眠れない」

薬を変えて1か月後。鈴木さんに異変が。

鈴木さん
「立ち上がろうと思っても、四つんばいで歩けない」

これまではすぐに治まっていた発作が、この日は断続的に30分間続き、意識を失ったのです。病院に救急搬送され、発作が長く続く「てんかん重積」と診断、重症でした。

このとき治療に当たった医師は、長年服用してきた薬を急に変えたことが症状が悪化した原因の一つだと見ています。

吉田病院 脳神経外科 吉田泰久院長
「急に薬を変えると、その薬が(患者に)よく効く薬だといいが、あまり効かないようだと状況が変わるので、非常にてんかん発作を起こしやすくなる。(重積状態が)長く続くと脳そのものが損傷され、発作が治まっても元に戻らないことも起こりうる」

現在は、さらに別の薬に変えたことで症状は抑えられている鈴木さん。ただ、これまでと同じ生活を送ることが難しくなったといいます。

鈴木さん
「以前まではしょっちゅう外へ出歩いたりしていたが、薬が変わっただけで自分自身が怖くなって、歩こうと思っても不安で、発作になるなと」
母親
「退院してきても、ちょっと発作すると怖い。あの1つの経験で、一生涯(不安と)つきあっていかないといけないのかという思いがずっとある」

薬不足なぜ?いつ解消?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
患者ご本人も、その周りの方も不安が募るばかりという深刻な実態をご覧いただきました。薬が変わって異変を感じたときは、すぐにかかりつけの医師や薬剤師に相談をしてください。

この問題、今後どうなっていくのか。きょうのゲストは、医療経済や医薬品政策が専門の神奈川県立保健福祉大学教授、坂巻弘之さんです

薬不足の発端であるメーカーの不正が発覚したのは、2020年のことです。そこからなぜ、ここまで影響が長引いてしまっているのでしょうか。

スタジオゲスト
坂巻 弘之さん (神奈川県立保健福祉大学 教授)
専門は医療経済や医薬品政策

坂巻さん:
まず、問題をきっかけに行政が査察を行い、そして大きな問題があって行政処分につながりました。

一方で、行政処分につながらなくても企業が自主点検によって製造工程に問題があるということが発覚して、結果的にそういった会社からも出荷停止になるという形で拡大しました。

さらにもう一つ問題がありまして、その会社は問題ないのですが、問題を起こした会社と同じ成分の薬を作っていて、その会社に注文が殺到する。ところが注文をさばききれなくて、結果的に問題は起こしていないのだけれども出荷停止に陥ると。こういった形でどんどん出荷停止が拡大してきたのが今の特徴だと考えています。

桑子:
不足している状況はいつぐらいまで続くのでしょうか。

坂巻さん:
不足の解消には2年くらいかかるのではないかと言われています。

まず1つは、ジェネリックの特徴の「少量多品種」ということがあって、メーカーは年間の緻密な製造計画を作っています。ところが、何か問題があって、ある製品を増産しようと思ってもすぐに対応できない、こういった問題があります。

もう一つは、やはりジェネリック医薬品全体の製造キャパシティーが十分でないということもあると思います。ですから、大手を中心に増産しようというふうに体制を整えていますけど、やはりそこでの人材確保の問題などもあって、すぐには対応できないと予測されています。

桑子:
実際に製造するために工場を増やしたりするにしても、時間がかかるということですよね。

坂巻さん:
そのとおりです。今申し上げたように人材の問題もありますし、ちゃんと稼動できるかどうかの確認、そういったところにも時間がかかります。

桑子:
影響が長期化して、命の危険まで及ぼしかねない事態にまでなっているわけですが、現場では何が起きているのか。関係者が内実を明かしました。

薬不足の背景に何が 独自取材"不正の実態"

匿名を条件に取材に応じたのは、行政処分を受けたジェネリックメーカーの現役社員。不明が起きた工場とは、別の工場の品質管理部門で働いています。

男性が明かしたのは、利益を優先し、品質を軽視するかのような会社の矛盾した方針でした。

ジェネリックメーカー現役社員
「出荷が第一、最優先になっていて、『結果を出せ』っていうことで」

男性の職場では数年前、新たな設備を導入し、薬の試験の回数が大幅に増加。その一方で、試験を担う品質管理部門の人員が削減されたというのです。

ジェネリックメーカー現役社員
「工場長が『これから人が減るから』と、『お前らでなんとかしてくれ』と、そういうことを言われたことはありまして。もともと30人近い人数でやっていたものが、24名とか25名とかその辺で。仕事が倍以上に増えた中でやっていかなくちゃいけなかったんですけれど」

限られた人員で業務を回そうと、残業や休日出勤が相次ぎ、退職する人が続出したといいます。

ジェネリックメーカー現役社員
「業務はとにかく山のようにあるけれど、人はいない。業務が集中して回しきれなくなって、メンタルをやられたり、体調を崩したり、業務がパンパンでパンクして、自分自身が壊れてしまうっていう」

さらに、行政処分を受けていない別のジェネリックメーカーでも、ひそかに不正が行われていたという証言も。

会社の品質管理部門で出荷前の薬の試験を担当していた女性は、スケジュールに遅れが出ないことが強く求められる中、日常的にずさんな試験が行われていたといいます。

品質基準を満たしているか確認する薬の試験の結果は、用紙に貼り付け、担当者が割サインを記入しなければなりません。

しかし、基準を満たさないデータが出た場合でも基準を満たすデータが出るように試験をやり直し、結果を貼り替えるよう指示されたといいます。

ジェネリック元従業員
「(薬の)成分値が高かったらその薬は出しちゃいけないのに、また試験をやり直したりして都合のいいデータにして、それでなかったことにして出すとか、そういうこともありました」

こうした不正は横行し、管理職も黙認していたといいます。問題視した女性は職場の改善案を作り、会社に提出しました。ところが…。

ジェネリック元従業員
「こんなものは求めてないと突き返されました。完全なものを患者様に届けるっていうことが大切なのに、ミスを隠して都合のいいものを出すということが最優先になっている。患者様が悪い薬を飲んでしまって、副作用に苦しむっていうことがあったら本当にあってはいけないことなので」

なぜ不正は起きたのか? ジェネリック急拡大で何が

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
不正に疑問を感じながらも、不正をせざるを得ないという実態があったわけですが、もちろんこれはすべてのメーカーが不正をしているわけではなく、分かっているのは一部ではあります。

ただ、どうしてこうした不正が起きてしまうのか。背景としてこんなことがあるのではと、坂巻さんが指摘されるものを図式化してみました。

背景の1つに「市場拡大」があるためではないかということですが、これはどういうことなのでしょうか。

坂巻さん:
ジェネリック医薬品の使用促進は国が主導してきたわけですが、その結果としてこの15年間、ジェネリック医薬品の市場が急拡大してきました。

この市場拡大に合わせて、仮にその品質に問題があったとしても出荷停止できない、そういった文化が生まれてきてしまったのではないかということが1つあります。

もう一つは、やはり市場拡大に合わせて生産体制も強化していかなければいけないわけですが、そこに人材育成が追いついてなかった。こういったこともやはり品質を重視しない企業文化につながってきたと推測することができます。

桑子:
そして、不正の背景のもう一つが「薬価の引き下げ」ということで、薬の価格は国が決めるもので、ジェネリックになるとどれくらい価格を引き下げるのかというのも国が決めています。

2004年度は先発薬の7割がジェネリックの価格だったのですが、2016年度以降は先発薬の5割にまで引き下げられています。

なぜ、こうしたことになっているのでしょうか。

坂巻さん:
薬価は国が決めるものですが、今ご存じのとおり高齢化に伴って医療費が非常に大きく増えています。薬価が下がることによって、薬剤費が下がることによって、医療費のコントロールにつながると。これがいちばん大きな目的になります。

薬価はこの図にありますように、最初にジェネリックが出るときは先発の5割なのですが、実際には市場で購入される値段に合わせて、毎年値段が引き下げられるということになります。

桑子:
もっともっと下がっていっているのが実態なわけですね。

坂巻さん:
そのとおりです。ですから値段が下がることによってジェネリックメーカーとしてはなかなか品質であったり、人材育成にコストがかけられないといったことも実態としてあるんだろうと思います。

桑子:
価格が下がることで、全体としてはどれぐらいの医療費の抑制にはつながっているのでしょうか。

坂巻さん:
直近の厚労省の推計では、1兆9,200億円と言われています。

桑子:
かなり私たちの負担軽減にはなっているわけで、今のお話しによるとこの市場拡大も薬価の引き下げも、大もとには医療費の抑制という狙いがあるということです。

医療費が下がるのは私たちにとってはうれしいことではあるのですが、実際に結果として不正が起きてしまうとなると、薬価の引き下げを見直す必要があるということになるのでしょうか。

坂巻さん:
そうですね。薬価が下がるということは患者さんの窓口負担も下がります。窓口負担以外の部分も、私たち国民の税金や保険料で賄われています。ですから、品質を維持するためには薬価の引き下げに関しては見直しが望ましいわけですが、そうなりますとわれわれが負担する保険料や税金も上がってしまうというジレンマがありますので、なかなか難しい問題だと言えると思います。

桑子:
今、ここを議論するときには来ているのではないかということですね。

坂巻さん:
そのとおりだと私は思います。

桑子:
薬不足の問題、国はどう捉えて、今後どう対処していこうとしているのか。厚生労働大臣に聞きました。

後藤 厚生労働相
「メーカーに対する法令順守体制整備の義務づけ、行政による製造管理体制の監督強化を行う。課題の解決に向けて、しっかりと対応していきたい」

桑子:
今のお話しにもありましたが、実際に厚生労働省はこういった対策に乗り出しています。これまでメーカーへの立ち入り検査というのは事前の通告が多かったのですが、無通告、つまり抜き打ちの立ち入り検査を強化していくということです。

さらに、製造・販売の責任者を総括する立場の権限を強化するなど、法令順守を徹底するよう求めているということですが、こういった対策で果たして十分なのかということですね。

坂巻さん:
そうですね。まず立ち入り検査の話ですが、実際に立ち入り検査に関しては都道府県が実施することになっています。

桑子:
都道府県が実施するんですね。

坂巻さん:
都道府県によって製薬会社の数にもばらつきがありますし、忙しいところでは忙しい。結果的に都道府県の側でも人材が足らないということもあります。それから、数年でローテーションで代わってしまうということもございます。そうなると、都道府県の中でノウハウが蓄積されないという問題もありますので、私の意見ですが、こういった立ち入り検査、査察の組織に関しても見直しをする。場合によっては都道府県を越えた新しい組織を作るということも必要かなと考えています。

桑子:
もっと大きな組織が必要なのかもしれないですね。

坂巻さん:
あと、もう一つは情報共有の仕組みというものが十分ではないかなと。ですから、ものによってはすでに安定供給に戻っているものもあるのですが、そういったものが情報共有できていないために医療現場で必要以上の在庫を抱えてしまうということも起きたりします。

桑子:
薬局によっては、ここは足りないけれどもここは余っているという事態があるわけですね。

坂巻さん:
そういった偏在を解消するための1つの手段として、情報共有の仕組みが必要だと思います。それから最後に、これは一番重要と考えていますが、市場拡大に関わる品質の問題だったり薬価制度をどうするか、こういったものが厚労省だけではないですけど、場合によっては縦割りの弊害が出ている部分があるのではないかと思います。

桑子:
縦割りになっているんですね。

坂巻さん:
ですから、この医薬品の安定確保に関して全体的な見方をして、そして司令塔のようなものが必要になるのではないかと私は考えています。

桑子:
確実に薬を届けるために、もっと国が主導して取り組むところもあるということですね。私たちの命を守る安全な薬を届けるために、どうしたらいいのか。企業でも、新たな取り組みが始まっているんです。

"命を守る薬" 必要なこととは

長引く薬不足の根幹には何があるのか。

およそ300品目のジェネリック医薬品を製造するメーカー。今工場では、社員を増やし、増産体制を敷いています。

ことしから新入社員向けに新たに研修を導入。現場で学んできた、これまでの育成方針を見直しました。繰り返し伝えているのは「薬は患者の命に直結する」という意識です。

研修担当
「もし、その医薬品に問題があったら、その飲んだ患者さんに被害があります。自分の大切な人に飲ませてもいいという気持ちで作っていくことが非常に大切なので」
日本ケミファグループ 堀江調さん
「作業を覚えても、薬を作る心意気が分からないまま作っていても意味がないので、命を預かるものを作っている、大切な仕事に就いているということを分かってもらいたくて」

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