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2022年1月18日(火)

緊急報告・トンガ大噴火
現地で何が

緊急報告・トンガ大噴火 現地で何が

南太平洋・トンガで発生した大規模な海底火山の噴火。「1000年に1度」ともされる大規模噴火の全容は未だ見えない。現地トンガはいまどうなっているのか?“観測史上例がない”とされる津波のメカニズムの謎とは?そして最大20キロ近くに達したとみられる噴煙によって、今後、気象に影響は?現地の最新情報、映像、そして専門家の徹底検証によって何が起きているのかを緊急報告する。

出演者

  • 佐竹健治さん (東京大学地震研究所 所長)
  • 藤井敏嗣さん (山梨県富士山科学研究所 所長)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

緊急報告 トンガ大噴火 現地で何が

井上:南太平洋のトンガ付近で発生した、大規模な噴火。3日たった今も通信が困難で、被害の全容はつかめていません。

保里:噴火が起きたのはトンガの首都から北におよそ65キロ離れた海底火山、フンガ・トンガ フンガ・ハアパイ。噴煙の大きさは直径300キロ以上に上り、北海道に匹敵するほどの大きさです。

こちらは、トンガの首都がある島の噴火前と噴火後の衛星写真です。


一面が火山灰に覆われていることが分かります。

井上:今、現地はどうなっているのか。断片的な情報から次第に状況が見えてきました。

現地で何が?見えてきた状況

細川高頌記者
「コールすら鳴らないので、たぶん電話回線が完全にだめになっている」

青年海外協力隊の一員としてトンガで暮らした経験のある、細川記者。噴火直後からトンガにいる知り合いに連絡をしていますが、インターネットも電話もつながらない状況が続いています。

当時働いていた職場の上司が、噴火した当日の午後1時26分に海が濁るような様子を投稿したあと連絡が途絶えました。

細川高頌記者
「かなり焦っていることが、この動画から分かると思います。トンガは海抜が低い(場所が多い)ので、低い津波でも影響がでることが心配」

現地は今どうなっているのか。数少ない手がかりが、人工衛星などの画像です。緑豊かだった島。

噴火後、届いた画像では火山灰に覆われています。

火山学が専門の藤井敏嗣さん。

山梨県富士山科学研究所 藤井敏嗣所長
「道路に噴火後も車がちゃんと識別できる。10センチいくかどうか」

予想よりも火山灰の量は少ないものの、広い範囲に降っていて影響は大きいといいます。

藤井敏嗣所長
「全域に、北の島から本島に至るまで火山灰が降っている。農業で作物には非常に大きな打撃を与えますね。葉物は数ミリの火山灰でもすぐに枯れてしまう」

さらに藤井さんが注目したのが、空港の滑走路です。噴火前の画像と比べると路面の様子が大きく変わっています。津波で流されたがれきが滑走路にたまり、使用できない状態ではないかといいます。

藤井敏嗣所長
「生活に最も困るのは空港への影響でしょうね。滑走路が使えない状況なので、復興させないと救援物資を届けるのは船以外には出来なくなってしまう。それは早急にやるべきでしょうね」

さらにトンガと外国とをつなぐ生命線となる、海底ケーブルも大きな影響を受けています。海底ケーブルの保守管理会社が、先ほど取材に応じました。トンガにつながる海底ケーブル。噴火の1時間後には2か所で損傷が確認され、電話もインターネットも遮断されているといいます。

今後再び噴火するおそれもある中、復旧には時間がかかると見ています。

トンガ・ケーブル サミュエラ・フォヌア代表
「最大の懸念は、復旧活動を行う船やスタッフの安全です。火山が活動している状況で、リスクをとることは出来ません。通信の復旧には3週間かかる可能性があります」

2016年までトンガの水道整備に携わっていた、中村幸生さん。最も心配なのは、住民たちの飲料水だと危機感を募らせています。

元JICAシニアボランティア 中村幸生さん
「特に心配なのは、レインタンク。生活用水にしていて、飲料水はこれがメイン」

海に囲まれ大きな河川がないトンガでは多くの家で雨水をタンクにため、飲料水として使っています。しかし、島全体が火山灰で覆われたことで、タンクの水が汚染された可能性が高いといいます。

中村幸生さん
「(水は)使えないんじゃないでしょうか。住民たちが主に飲料水にしているレインタンクの水、粉じんの影響で雨水がどれだけ汚染されてくるか。火山灰には少なからず硫黄分が含まれているので、飲料水に関しては絶望的」

また、一部の地域にある水道も機能していないのではないかと懸念しています。

中村幸生さん
「地下水をくみ上げるポンプも電気でやっている。電気設備等のインフラがどれだけ影響されているか、皆目見当がつかない。おそらく生活用水は全然足らない状態。水を持って行くにも限度がある、人口10万人いるので」

唯一の連絡手段、衛星電話で現地とやりとりを続けてきた、JICA=国際協力機構。

JICAトンガ支所 高島宏明支所長(話)
「まず電力のほうは、火山灰の影響で断続的に停電。銀行のATMは停止中という状態。車はそれなりに通っている。道路も少しずつ灰が少なくなっている。ただ、お店は完全には開いてない」

JICA東南アジア第六・大洋州課 堧水尾(たみお)真也課長
「空港のいまの状況がわかればお聞きしたい」

高島宏明支所長(話)
「昨日から100人体制で火山灰を取り払う作業を始めている。きょうは付近の住民を集めてその作業を続けると聞いています」

断片的につながる通話から、被害の詳細が少しずつ明らかになってきました。いまだ連絡がつかない離島も多く、全容の把握が急がれています。

堧水尾真也課長
「現地の被害状況の把握に時間がかかっている。通常の場合と比べて非常に難しい。日本ができる部分を検討して実施していく」

現地の最新状況は

保里:トンガ政府は先ほど、これまでに3人が死亡し、多数の負傷者が出ていると発表しました。

井上:火山防災が専門の藤井敏嗣さんにお聞きしていきます。藤井さん、100年に一度とも言われている今回の噴火ですが、まずは規模。これはどれぐらいのものだったのでしょうか。

山梨県富士山科学研究所 所長 藤井敏嗣さん

藤井さん:火山噴火の規模を表すのに「火山爆発指数(VEI)」というものがあるんです。0から8までの9段階に分かれています。今回のトンガの噴火のものは上空に上がった噴煙の大きさから見ると直径で500キロぐらいあるんですが、これは非常に大きな規模、5から6に相当するようなものですね。

フィリピンのピナツボ噴火というのが1991年にありましたが、それと匹敵するか、やや小さいかなという感じです。

ただ、実際にはよく調べてみると海底からの噴火だったので、もっと水の関与が大きかったような気がします。見かけは非常に大きいんですが、噴出物の量はそれほど大きくはないかもしれないというのが最近のイメージですね。今、写真に写っているように、火山灰が降り積もっていますが非常に細粒の火山灰しかないんです。

火口から60キロぐらいしか離れてない場所で軽石などがほとんど見つからないということがありますので、これまでわれわれが知っているようなプリニー式噴火(多量の火山灰・軽石を高層まで噴出する噴火)とはちょっと様子が違うかなという気がしています。

保里:そして、こちらの画像もご覧ください。噴出物がどこまで上がったのか専門家が解析したものです。

この赤色で示されている噴出物、今回高さ30キロの地点まで上がったという専門家の解析があるわけですが、藤井さん、こうした大規模な噴火になりますと影響が広範囲、そして長期間に及ぶわけですが、今回の影響についてはどう見ていますか。

藤井さん:これだけ高く上がったということは、成層圏の中に火山から寒冷化をもたらすような二酸化硫黄というのが注入されたことが予想されるんですね。ただ、グラフから推定している二酸化硫黄の量はピナツボよりもはるかに少ない10分の1から100分の1ぐらいだと言われています。そうすると、それほど寒冷化にはつながらないかもしれない。それから、少し温度が下がることがあっても南半球に限定的になるだろうと思われます。それとは別に、心配なのは火山灰ですね。細粒の火山灰は、1週間程度は地球の周り、上空を舞うんですね。ですからそれがあると、飛行機が飛べなくなる。大気の中にある二酸化硫黄の成分も雨が降ると酸性雨として落ちてきて、作物や何かに影響を及ぼすということも考えられますね。

井上:日本も火山に囲まれているわけですが、こうした噴火のリスクは日本にもあるのでしょうか。

藤井さん:十分考えられますよね。この程度のことが起こっても、ちっとも不思議はない。ただ、最近大きな噴火がなかったものですから、大きな噴火が起こらないというのが当たり前だと思っているかもしれません。けれども、実際にはこの程度のものは数十年に一回ぐらいは起こっても不思議ではないんですね。ですから、それに対する備えはふだんからやっておく必要があると思いますね。

井上:藤井さん、ありがとうございました。さて、今回の大規模噴火では津波が世界各地で観測されました。トンガから遠く離れているこの日本でも、高い津波が観測されたのはなぜなのか。そのメカニズムが少しずつ明らかになっています。

"謎の津波" 要因は?

去年12月以降、トンガでは海底火山の噴火が繰り返されていました。そして、今月15日。最大規模の噴火が発生。島の姿が一変しました。

この大規模噴火は、これまで経験したことのない謎の津波をもたらしました。トンガから7,800キロ離れた日本。気象庁は、最初に津波が捉えられるのは夜10時半と予測していました。ところが、実際には夜8時。大幅に早く到達しました。さらに、日本やアメリカ本土で記録した津波はトンガで記録された0.8メートルよりも高く、1メートルを超えました。

前例のない現象。当初、被害の心配はないとした気象庁も一転、津波警報や注意報を発表する事態になりました。

<15日 深夜>

気象庁
「ただちに高台や、避難ビルなど安全な場所へ避難してください。通常の津波とは異なります。現在、理由は分かっていません」

一体、何が起きていたのか。まず専門家たちが注目したのは、噴火による「衝撃波」でした。

高知工科大学の山本真行教授のグループは、津波の発生をいち早く捉えるために全国25か所に設置した高性能センサーで観測していました。

夜8時過ぎに衝撃波。

続いて上空の大気を伝わってきた波まで捉えられています。これほどの変化を日本全国で記録したのは初めてのことでした。

火山噴火の衝撃波が、世界各地の気圧を変化させていました。

なぜ遠く離れた日本に、より高い津波が押し寄せたのか。鹿児島大学の柿沼太郎准教授は、衝撃波にある条件が加わったと考えています。

実は、気圧の変化によって局地的に津波のような現象が発生することは知られていました。「気象津波」と呼ばれていて、今回もそれと似たメカニズムで津波が発生したと見ています。

鹿児島大学 柿沼太郎准教授
「噴火が起きまして、気圧の波が太平洋を伝ぱしていきました。非常に広域な範囲で津波が発生する、そういった現象だったと思います」

さらに柿沼さんは、衝撃波に加え、海底の地形が関わっていると指摘します。

日本の南に広がる海溝など、水深の深い場所。水深が深い場所では、波が早く進みます。実はこれが、津波を高くします。

衝撃波によって、水面が押しつけられます。このとき衝撃波と波が同じ速さで進むと、ずっと水面が押されたままで進みます。

それが浅い所に来ると波の速さが遅くなり、衝撃波の圧力がなくなります。すると、水面に津波のような盛り上がりが生まれ、大きな波が生み出されます。

衝撃波と深い海。さまざまな条件が重なり、トンガ付近よりも高い津波が日本に押し寄せたと考えられるのです。

柿沼太郎准教授
「こういうことが起きうることを教訓としておくことが大切。この現象をきちんと分析しておく必要がある」

未明の避難 混乱も

「津波警報が発表されたため、避難指示を発令しました。高い津波がきます」

本州で最大1メートル10センチの津波を観測した、岩手県久慈市です。午前3時ごろ、市はおよそ1,400世帯、3,400人余りに対し避難指示を発表。住民が避難を進める中で、真冬の避難の難しさが徐々に明らかになっていきました。

94歳の母と妻と、3人で暮らす一沢福一さん、64歳です。

住んでいるのは、海から700メートルほどの場所。11年前の東日本大震災のときは、自宅のすぐそばまで津波が押し寄せました。

一沢福一さん
「東日本大震災のこともあるし、一回逃げたほうがいいんじゃないかと。あと近くに娘がいるので、電話がきて、津波がくるよ、じゃあ逃げるかという話になって。総合的に判断して、一応逃げるかと。高齢者もいるし、逃げて何もないほうが安心。あのとき逃げればよかったなと思わないほうがいいかなと。後悔しないほうがいいなと思って」

避難したときの気温は、0.9度。親子3人が車で向かったのは、800メートル離れた高台でした。

避難場所に指定されている、総合運動場です。中で体を休められるような建物はなく、車から出ることができなかったといいます。

一沢福一さん
「一応施設の中には更衣室等あるみたいですけど、暖をとれるようなそういう設備はないということで、だから皆さん、そのまま車で待機。エンジンをかけて一応暖をとった状態」

避難を呼びかけた自治体も、とまどいを感じていました。東日本大震災のとき、車が渋滞して逃げ遅れた人がいたことから、久慈市では徒歩での避難を呼びかけてきました。しかし、今回避難した574人の住民の多くは寒さのため、徒歩ではなく車での避難を選択していました。

久慈市 消防防災課 田中淳茂課長
「基本的には徒歩で高台のほうに逃げてもらうと。やはり皆さん就寝されている時間帯だし、冬場でもあるので、徒歩で逃げるのがなかなか難しい状況だったのかなと思う」

車での避難が増えた、もう一つの理由がありました。新型コロナウイルスの感染対策です。各地の避難所では窓や扉を開けてこまめに換気をする必要があり、寒さをしのぐために車内にとどまる人も少なくなかったのです。

田中淳茂課長
「避難所の対応に関しても必要な資機材等、ストーブだったり毛布も必要だと思うので、引き続き備蓄のほうも進めたいと思う。地震津波だけではなく、いろいろな災害もあるので、そういったものを内部で検討検証をしながら、いろいろな想定をしながら業務等も進めていきたい」

一沢さんが自宅に戻ったのは、朝8時ごろ。94歳の母と妻と、3人で車の中で夜を明かしました。今回の教訓を生かし、冬の災害への備えを地域の人たちとともに見直していきたいと考えています。

一沢福一さん
「防災グッズをやっぱり確認しておかないと、全然足りないというか、やっぱり冬場と夏場では持っていくものが違う。カイロとか必要だし、温かい飲み物とかそういうのも必要になる。その辺の対処をしておければと思う」

"謎の津波"要因は

保里:津波の発生メカニズムが専門の、佐竹健治さんに伺っていきます。今回、深夜の警報で避難も非常に困難だった様子が伝わってきましたが、どう見ましたか。

東京大学地震研究所 所長 佐竹健治さん

佐竹さん:冬の深夜というのは、避難するのにいちばん困難なときですね。実際われわれが将来の津波の被害想定をするときにも、冬の深夜というのはまず逃げ出すまでに時間がかかる。逃げるスピードも遅くなる。それから避難しても体がぬれていると低体温症で冷えてしまうということで、いちばん被害が大きくなるパターンなんです。

井上:避難の迷いがあったと思うんですが、どう見ますか。

佐竹さん:特に今回は実際に地震の揺れを感じているわけではないので、現実味がなかなかなかったというか、そういうこともあったのかなと思いますね。

井上:そして今回の津波ですが、気象庁の予測よりも3時間ほど早く到達したということで、これは佐竹さんも驚かれたということなんですが、どういうことが要因としてそうなったのでしょうか。

佐竹さん:実際、今回起きたことの記録を見てみたいと思うんですが、先ほどVTRにもあった岩手県の久慈での記録です。縦軸は海の高さですね。

海の水位というのは潮汐で大きくなったり低くなったり、満潮、干潮がありますので、その潮汐成分を除いたもの、潮汐からの「偏差」といってます。ですから、津波がなければずっと0のはずなんです、潮汐と同じだったら。
横軸が時間です。火山の噴火が起きたのは日本時間の午後1時ごろですから、津波は大体真夜中、久慈の場合には0時ぐらいに来るというふうに想定されていたわけなんですが、実際には21時ごろから海の水位が変化し始めて、これがだんだん大きくなっていって、それで津波が来ると思われていた0時ごろには1メートル近いところに来た。奄美大島ではこの時点で1メートルを超えたので津波警報になったんですが、久慈の場合は0時ごろは超えなかったんですが、2時半ぐらいになって1メートルを超えました。津波注意報というのは1メートルまでなので、1メートルを超えてしまったので津波警報に切りかえたということが実際に起きたわけです。

井上:遠く離れた日本でより高い津波が観測されたことについては、どういう要因があったんですか。

佐竹さん:その原因は、津波が発生した原因はそもそもこの津波が想定されるよりも早く来たということは先ほどのVTRにもありましたが、気圧火山の噴火によって発生した大気圧の空気の中を通る波、これがトンガから日本までずっと太平洋を横断してくる間にその津波をどんどん大きくして、それがどんどんどんどん押し寄せてきたということじゃないかと思っていますね。

保里:さらなる解析が必要になってくるかと思うんですが、今回の噴火、そして津波によって突きつけられたことをこれからどう生かしていかなければいけないと考えますか。

佐竹さん:日本付近ではなくて、こういう遠いところで起きた「遠地津波」というんですが、これは地震の場合は地震の波を解析するとどんな地震が起きてどんな津波が起きたというのがすぐに解析できます。特に今回の津波のように太平洋を超えてくるのに何時間もかかりますから、その間に地震の解析をする時間は十分にあるんですね。それによってどんな津波が来るか予測もできるんです。ただ、今回のように火山とかそれから地すべりで起きたというのは実際測ることができないので、予測が非常に困難です。ただ、1つの方法としては東日本大震災のあとに日本の沖合には海底に津波計というのが設置されています。今回もそこで津波が記録されていますので、そういうものを解析することによって、今後の予測に役に立てるんじゃないかなと思います。

保里:ありがとうございました。


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