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2021年9月29日(水)

“孤立という病”
コロナ禍の健康被害

“孤立という病” コロナ禍の健康被害

コロナ禍の外出自粛による「孤立」が健康被害を引き起こしている。ボランティアやサークルなど活動頻度が減った人は、身体機能低下やうつのリスクが高まることが最新の調査で明らかになった。こうした“医療だけでは健康になれない”ケースの対策として注目を集めるのが「社会的処方」。病気の背景にある孤立を解消するため、薬を処方するように“社会とのつながり”を処方する、という取り組みだ。孤立が引き起こす病を防ぐ方法を考える。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • 新田 國夫さん (医師 日本在宅ケアアライアンス理事長)
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

"孤立という病" 自粛生活で健康に影響が…

94歳、1人暮らしの女性です。この1年、人との交流がなく、孤立状態に。認知機能が低下していました。

看護師
「訪問看護師さんとヘルパーさんが入るようになりましたけど、いま出入りしてるでしょ?水曜日と金曜日。それで少し助かることありますか?」

女性
「ちょっとわからなかった。誰が来たの?」

看護師
「看護師さんとね」

女性
「いま?」

看護師
「今じゃなくて」

今、コロナ禍で孤立した人が、気付かないうちに体の機能まで低下させるケースが各地で相次いでいます。

保健師
「こないだ来たときよりも、足引きずっている気がするけど」

男性
「水がたまっちゃって」

80代のこちらの男性。以前は、喫茶店や健康マージャンによく出かけていました。しかし去年、すべて閉鎖してしまったため、家に籠もりがちに。

保健師
「サロンは?水曜日の」

男性
「行ってない」

保健師
「1日で出かけない日もありますか?」

男性
「ありますよ。本当は風呂によう行ってたんだ。でもいま風呂はコロナで厳しいでしょう」

保健師
「コロナになる前は、お友達と車に乗ってスーパー銭湯行っとったね」

男性
「そうそう(友達が)代休をとって」

運動不足が重なり、もともと患っていた腎不全による足のむくみが悪化。以前よりも、歩くことが困難になっていました。

保健師
「足が痛くて自転車乗れなくなったり、階段が上り下りできなくなると、かなり生活に支障をきたすので、それだけは気をつけないかんから、体操は続けないかんね」

男性
「まあそうなりゃ、おしまいだわな」

保健師
「そうならんように気をつけないかんね」

保健師 西田かおりさん
「本当に(外に)出づらくなって、何もしたくない、ご飯も食べたくないという連鎖で健康被害というか、食欲が落ちると意欲も低下して、筋力も低下して負の連鎖みたいな。やっぱりコロナ禍になって、機能が落ちる人も中にはいる」

コロナ禍の孤立が健康被害を引き起こす実態が、最新の調査によって明らかになりました。

全国の高齢者2万3,000人余りを対象にした調査です。外出やボランティア、サークルなどの活動頻度が減った人は、要支援・要介護状態になるリスクが最大で2倍。身体機能が衰える、いわゆるフレイルリスク、そして、うつのリスクが最大1.5倍。いずれも健康に悪影響を及ぼすことが分かりました。

千葉大学予防医学センター 日本老年学的評価研究機構 代表理事 近藤克則教授
「明らかにこれは、統計学的に誤差とは思えないほどに、うつとか要介護認定を受ける危険性とか、そういうものが高くなってしまっている。人々との交流が減ることによって、身体活動が減る、心が沈んでしまう。いろんな経路を経て、最後は死亡率まで高める」

愛知県豊明市の地域包括支援センターです。去年4月以降、健康不安を訴える相談が相次いでいます。

豊明市中部地域包括支援センター 眞野潤さん
「コロナ禍で体力が落ちちゃったんですね?」

相談者
「そうです」

眞野潤さん
「なんで体力が落ちたと思われるんですか?」

相談者
「(家族が)出歩いちゃいかんということで」

相談件数は去年に比べ、2割以上増加。そのほとんどが、地域活動に積極的に参加していた人たちからでした。

眞野潤さん
「ご家族が1か月ぶりに訪問して『あれ?立てなくなってきている』とか、『買い物に行けなくなってきている』とか、そういうことに気づいてそれからのご相談が多い。行き場がある間はこちらも対処できていたわけですけど、遊びの場、集いの場、そういった所が減ってきていて、私たちのほうで立て直しようがないというのはあります」

コロナ禍の「孤立」の実態

保里:「孤立」が、健康に悪い影響を与えてしまう。これは高齢者に限った話ではありません。イギリスの論文によりますと、孤立というのは1日にタバコを15本吸うのと同じくらい健康にとってリスクがあるという研究結果も出ている。驚きですね。

井上:人に会えないとか、なかなか出かけられないという状況が健康に直結するというのは、何となく分かる気がします。

保里:誰もが身近にあることですよね。30年以上にわたって地域医療に取り組んでこられた、医師の新田國夫さんに伺っていきます。よろしくお願いします。コロナ禍の孤立、どんな実態になっていますか。

新田 國夫さん (日本在宅ケアアライアンス 理事長)

新田さん:例えば30代で1人暮らしの方でコロナ感染で自宅療養をされた方がいまして、その方はコロナ感染そのものはそれほど重度ではなかったのですが、1人で暮らしていたために夜間になってパニックになって救急車を思わず呼んでしまうと。孤立した生活をすることで、精神的な不安を抱えているというようなことは若い人でもありますよね。

保里:そして、高齢の方についてはどうでしょう。

新田さん:日本の社会は85歳以上が増える高齢社会ですが、その中で今まで活動的だった高齢者がたくさんいて、その方たちが外出を差し控える。その結果、身体的な能力が低下したり、食欲がなくなったり、あるいは会話も減りますよね。そういうことで、やはり全体的に落ち込んでいく。身体能力が落ちると同時に、精神的な要因にも影響を与えるということを起こします。

井上:今、新田先生もおっしゃったように、最新の調査によりますと外出だったり、サークル、ボランティアなど、活動頻度が減った人は要支援・要介護、身体機能の低下、うつなどのリスクが高まるということが分かりました。

これまで、長い間孤立している人の健康状態が悪化するということは知られていたことだと思うのですが、この僅かな期間でも健康に悪影響を及ぼすということが分かりました。新田さん、実際現場で見ていて、どんなことに直面していますか。

新田さん:分かりやすい例で言うと、要介護で今までなんとか歩けた方が、4日間車いす状態でいると本当に歩けなくなってしまう。例えば大腿の筋肉がほとんど寝たきりの状態だと、やはり2日間で1%減少するというようなデータもありますので。特に身体能力の低下は強いですね。

井上:VTRにもありましたが、出かけることがなかなかできなくなってくると気持ちのほうにも反映されていくといいますか、どんな影響が。

新田さん:やはりわれわれの体というのは身体的な影響と、そして精神的影響がリンクするんです。そのことだけではなくて、それが食欲の低下、そしてお口の機能も低下して、やはり社会的機能そのものが低下するということが日常に起こってくる世界が、今の世界だと思います。

井上:こうした中、今注目されているのが孤立した人と地域社会とをつなげる取り組みです。薬や医療だけには頼らないのがポイントです。

コロナ禍の孤立対策 "つながり"で健康を回復

去年息子を亡くし、1人暮らしのこの女性。人との交流がなくなり、認知機能の低下や、うつ傾向が見られるようになりました。

見守り看護師 佐藤清江さん
「いちばん困ったことはなんだった?」

女性
「体がうまくいかないから」

佐藤清江さん
「お風呂は自分で入れているの?」

女性
「お風呂はね、息子が亡くなってから、あんまり入りたくなくなっちゃった。だからこうやってタオルで」

女性
「もうちょっとね、お友達が元気でいてくれたらね」

話を聞いているのは、「見守り看護師」です。この女性には人との会話が必要だと判断したかかりつけ医が、看護師を派遣。週に一度、身の回りの相談に乗っています。

女性
「歩けるうちはね」

佐藤清江さん
「絶対歩いていたいんですもんね。寝たきりになりたくないからね」

女性
「それはいちばん嫌ですね」

佐藤清江さん
「大変でも歩いて行きたい、ね?」

このように人とのつながりを取り戻し、健康を回復させる試みを「社会的処方」といいます。

社会的処方では、心や体の不調を訴える人の背後にある、孤立や生活不安などの問題に目を向けます。

病に対して薬を処方するだけではなく、サークルやボランティアなど、社会とのつながりを作ることで体調の維持・改善を図ります。

2000年代から本格的に取り組みが始まったイギリスでは、社会的処方によって入院・外来が21%減り、医療費抑制につながったとするデータも報告されています。

見守り看護師を派遣した、医師の千場純さんです。診察のときは病気だけではなく、患者の生活状況に目を向けるように心がけています。

医師 千場純さん
「娯楽、パチンコとかなんか趣味のものとか?」

患者
「ないです。やってないです。そういうのは」

千場純さん
「前はなんかやってましたっけ?」

患者
「カラオケとか好きなんですけどね、今はできないからね」

孤立傾向が見られると判断した患者に対しては、音楽会や体操教室を紹介してきました。また、交流拠点を作ろうと、みずから「認知症カフェ」を運営。これまで多くの患者を、地域のコミュニティーにつなげてきました。

千場純さん
「おそらく今ここに来ている中高年、高齢者の方は、ふだん持っているつながりすら希薄になっていく。診療所って、月1回とか来ている時に(異変に気がつくことが)診療所の役割のひとつになると思う。"気づく"というチャンスがあるかな」

しかし、コロナ禍で「つなぎ先」の地域活動がほとんどストップしてしまいました。そこで千場さんは、さまざまな職業の人たちを集めて患者を見守るチームを作りました。メンバーは看護師やホームヘルパーなど医療・介護に関わる人のほか、配食サービスの事業者などにも加わってもらいました。

孤立状態にある患者のケースを共有し、どう見守ればいいかを話し合っています。

千場純さん
「Mさんです。認知症の進行と、コロナのまん延が合わさって、ひきこもり、うつ状態が強くなって、食事を食べなくなった。やせてきた」

精神保健福祉士
「(この方は)人が来るのは嫌じゃない。人はもともと好きな方で。納得したらサービスを受けてくれる」

配食サービス事業者
「栄養状態で認知症の波があると思う。良くなったり、悪くなったりする。『食べました?』とか、『傷んじゃうからちゃんと食べてください』みたいな(声かけを)をしていきます」

医師の呼びかけで集まったこのチームから、少しずつ「つながりの輪」が広がっています。

配食サービスの事業者は、弁当を届けるときにちょっとした声かけを行うように。

配食サービス事業者 池田愛さん
「きょう、雨がすごかったです」

女性
「ちょっと長いようなお米でね、前と違うなと思いました」

池田愛さん
「わかりました?コシヒカリにかえたので。あした金曜日なんで、またゴミを」

女性
「いいですか?申し訳ございませんけど。いつもすみませんです。ちょっとお待ち下さい」

会話のついでに、困りごとの手助けもするようになりました。

池田愛さん
「ちょっとしたこと。こういうゴミ出しとか、何かやってということは何でも言ってくださいって感じで」

千場純さん
「本当は大事なのは薬じゃなくて、そういう"つながり"。自分(医師)だけではできないので、得意な人とか、その人たちにちょっとお願いしたりとか意外にいろんなことができるなと」

"住民のつながり"で孤立を防ぐ

医師や専門家だけでなく、住民を巻き込んで社会的処方に取り組む地域があります。その仕掛け人が、福井県高浜町の医師、井階友貴さんです。みずから「まちづくり系医師」と名乗り、積極的に診療所の外に出て活動を行っています。

12年前、住民主体の医療作りを掲げて、「地域医療サポーターの会」を設立。さまざまなイベントを後押ししてきました。

医師 井階友貴さん
「病気は良くなってきているけど、でもやっぱり困っている。生活に何か不安を感じていたり、支障があって幸せそうじゃないみたいな。町全体を見て、町にどんな方がいて、どういうものが社会的に不足しているか、問題があるか。より良くなれる所を見ていく。そういう視点で(町に出る)」

今月、井階さんは新たなイベントを企画しました。一か所に集まらずに、人とつながることができる「オンライン体操会」です。インターネットになじみがない高齢者の参加を促すために、有志が集まって作戦を考えます。

医師・井階友貴さん
「ただ単に参加してくださいねというだけでいけるかなというのは、ちょっと不安なんですけど」

世界最高齢プログラマー 若宮正子さん
「デジタルデビュー前の(高齢者の)方に、オンラインで訴えることは無理ですけど、若い人、息子さんと娘さんとか、お嫁さんとかそういう方に訴えて一緒に出ていただく」

公民館長
「めちゃくちゃ子どもに弱いんですよ、おじいちゃん、おばあちゃん。子どもに(オンラインへの)入り方を教えてあげて、一緒に入ってきてもらえば絶対盛り上がります」

イベントに子どもや孫の世代を引き入れるために、保育園に協力を仰ぎました。

保育園 園長
「つないでみてください」

保護者
「オンラインでいいんだよね」

保育園 園長
「みんなで踊ろうってことですし」

保育士も、町のキャラクターに変装してアピール。

保育士
「よかったら参加してね。赤ふん坊やと一緒に踊ろう」

さらに町のIT教室では、高齢者の参加率を上げる試みも。

参加者
「ズームだけ出しておいたらいいんやな」

講師
「そうですね、ズームは開けておいてください」

オンライン配信のやり方を学んだ参加者たちが、今度は先生になって近所の高齢者に教えて回るアイデアです。

参加者
「(知り合いに)『わからないことがあったら、電話してくださいよ』、『教えますよ』、そんなんして教えてあげたりはしとります」

オンライン体操会、当日。各家庭では、娘や息子世代がセッティングを手伝っていました。

「はい、開いて、手を前に…」

体操会の参加者は、53人。そのうち高齢者以外が7割と、幅広い世代が参加してくれました。

井階友貴さん
「いろんな方が関わっていただけたということが大きいですね。参加してほしい人(高齢者)に参加してもらえただけじゃなくて、どういう風に(みんなで)用意できたかがすごく大事だと思っているので、つながりをない所から作るよりは、強固なつながりになるように、ちょっとした刺激や、きっかけを出していく。それが医療という立場だからできることもあると思っている」

健康に生きるには"つながり"を

井上:ご覧いただいたような取り組み、国も注目しています。ことし2月、孤独・孤立対策担当大臣を設置。骨太の方針では、いわゆる社会的処方の活用によって、コロナ禍の心身の健康問題に対応するとしています。対象は高齢者に限りません。ことしから全国7か所でモデル事業が実施される予定です。

保里:新田さん、本当に孤立というのが我慢できるものではなくて、病につながってしまう。それを、社会的処方を通じて防いでいかないといけないということが伝わってきたのですが、なぜ、医師が孤立対策に取り組むようになったのでしょうか。

新田さん:まず、非常に原理的な話で、体調不良を抱えた方が受診されますよね。そうした方たちが病気だけをみて解決できないことが多くなりました。

保里:限界を感じたと?

新田さん:そうですね。そうすると、その方が抱えている生活不安というのはさまざまな原因がありますね。例えば家族の関係の問題とか、介護の問題とか。あるいは場合によっては、経済的な問題とかそういったことに対して何らかの関わりを持たないと、本当の意味で解決できないだろうと。もう一方では薬だけを処方していては何もできないと。むしろ食生活を考えたほうがその人の健康改善につながるとか、そのように時代が要求されましたね。

井上:問題の根元はそこじゃないということですね。

新田さん:はい。

井上:もっと深いんですね。

保里:そうした中で、何らかの関わり方、つながりが必要になってくるということなのですが、ただコロナ禍というのはつながりを断たれて、私たちは意識的につながりを断ってきた社会状況だったわけですよね。そうした中で難しいことがあると思うのですが、その辺りはどのようにご覧になりますか。

新田さん:コロナ禍でつながりとか、今まで活動してきたことが制限されました。その中で私が活動している国立市ではそうした人たち、市民に手紙を送ったんですね。さまざまなことを出しているのですが、結果として市民の人たちが「1人で孤独だから、その中で手紙がうれしかった」とか、場合によっては「不安な毎日を暮らしているのだけれど、それで助けになった」とか。

そういったことが市民生活の中で地道に行われたと思います。

保里:その手紙の内容もそうですが、届いたことで実際に気持ちの変化があったと、リアクションがあったということですね。

新田さん:そのとおりですね。

井上:薬だけではない社会的処方というのは、進めていく上でこれからどんなことが大切になってきますか。

新田さん:1つは、社会的処方ということばそのものが非常に難しい。処方というと、医療的な問題を処方するというイメージが強いので。まず気付き、SOSを発している人たちの問題に気付かないといけないですね。気付いたものを解決するために、地域で行われているさまざまな人たちと活動につなげる。そして、解決策を考えるというようなことが求められるわけですね。私たち医師を含めて、やはり地域活動、どんなことが行われているのかということも知らなければいけないと。

井上:一方的なものにはならないほうがいいということですね。

新田さん:そうですね。一方的ではなくて、その人に何が必要か、求めているのか。本人がやはり主体なので、どうしても私たちは支援するというか、そういうイメージをしてしまうのですが。

井上:少し一方通行の感じがありますよね。

新田さん:そうではないと。もう一歩、その人の立場に立った考え方をするために医療的な要素ではなくて、ほかの要素を考えると。そういうふうに思います。

井上:取材した方の声でも薬ではなくて「つながり」、という声もありましたが、新田さんはお医者さんからみてどうですか。

新田さん:とてもすばらしい取り組みだなと思っていまして、ただ、そういった取り組みを誰もができるわけではなくて。やはりわれわれ医療者の意識改革ですね。あるいは、地域でそういう活動をされてる人たちも、住民も意識改革をして、一緒に暮らすまちづくり、それをしなければいけないなと思います。

保里:コロナ禍でのつながりについて大事なこと、どんなことを感じていますか。

新田さん:人間にとってやはりいちばん重要なのは、私自身はやはり食べて、そして何気ない生活だったんです。食べて、つながって。つながるというのは、いわゆる皆さんと会食したりとかそういったことがとっても重要だと思ってたわけです。私たちの世界が、個を大切にしてきた。実はそうではない。何気ない普通の生活が、大変重要だと。そのために、私たちはもう1回つながりを作るという(ことが必要)。

井上:手紙、書いてみます。


※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから