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2021年9月22日(水)

さらば!高校ドロップアウト
~”負の連鎖”を断ち切るために~

さらば!高校ドロップアウト ~”負の連鎖”を断ち切るために~

毎年全国で4万人を超える高校中退者。その防止に懸命に取り組む都立高校がある。自傷行為を繰り返し、人との関係を築けない生徒や家庭に居場所をなくし、意欲を失う生徒たち。校長は教師たちと個々の生徒の背景や事情に合わせて、従来の規定にとらわれない中退防止の方法を模索する。目指すは「さらば!社会からのドロップアウト」。中退が将来、不安定な非正規雇用や無職につながる一因にもなるなど、若者の人生に影を落としかねないからだ。中退防止最前線からの報告。 ※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • 石井光太さん (作家)
  • 磯村元信さん (八王子拓真高校・校長)
  • 保里 小百合 (アナウンサー)

さらば!高校ドロップアウト 中退者4万人 ある校長の改革

東京都立八王子拓真(たくしん)高校。4月、新入生を283人迎えました。

午前・午後・夜間と3部制の定時制普通科。都内で唯一、不登校の経験がある生徒でも入学できる「チャレンジ枠」を設けています。

ぼうず校長こと、磯村元信さんです。前任の高校で中退者を半分に減らした実績を買われ、2年前、この高校に着任しました。

磯村元信さん
「学校というのは、わからないこと、困ったことを先生と一緒に乗り越えていく、そんな場だと思っています。ぜひ、皆さんの可能性の芽をどんどん伸ばすように」

磯村元信さん
「おはようー」

磯村校長は毎朝、校舎の入り口で生徒を迎えます。毎月、自筆のメッセージを張りだしています。

磯村元信さん
「きれいにする」

掃除をしながら、校内を歩き回るのも日課。

全校生徒は、およそ900人。中学までに不登校の経験がある生徒も、少なくありません。去年60人以上いた中退者を、今年度は40人に抑えることを目標にしていますが、毎月4人ほどが学校をやめていきます。そんな生徒を一人でも減らそうと、悩みを聞くための「相談室」を設けています。

2年生 丸山さん(仮名)
「退学したい」

この日、相談室に来た2年生の丸山さん(仮名)です。1年のころは、授業をほとんど欠席。2年になっても、クラスになじめずにいます。実は丸山さんは、小学5年のころから不登校でした。精神的に不安定になり、自傷行為を繰り返したこともあります。

丸山さん
「みんな楽しそうに見える。自分が孤独に思える」

「孤独に?」

丸山さん
「思えてくる」

生徒を社会からこぼれ落とさない

高校中退は、生徒のその後の人生に影を落としかねないことが見えてきました。中退者を追跡した東京都の調査によると、進学も就労もしていないニートなどの無職が6%。およそ4割以上が、フリーターなどの不安定な非正規の仕事に就いていることが分かりました。

磯村校長は、生徒が社会からこぼれ落ちないために、高校にとどまって生きる力を身につけてほしいと考えています。

磯村元信さん
「高校が最後の社会の接点、その場所。結局、高校でドロップアウトした子たちが引きこもってると、社会にもつながらない。そういう子を作らずに、きちっと働ける納税者になっていけるよう、しっかり支えていけば、社会のセーフティネットにもなる」

中退を防ぐため校長が掲げたのは、生徒一人ひとりに配慮した指導です。出席日数やテストの点数など、それまで一律に決められていたルールを改め、オンラインの補習や課題の提出でも単位を認めるようにしました。

また教師たちには、家庭の事情に配慮した対応を求めています。

磯村元信さん
「なかなか勉強が苦手な生徒が来る学校とか、あるいは発達障害とか、家庭的に非常に厳しい環境にいる生徒とか、そういう子たちが通う学校がどうなっていかなきゃいけないのか、ちょっと考えてもらいたい」

そうした中で現場の先生から出たアイデアで始めたのが、「フードドライブ」。

子ども食堂と連携した、食料支援です。この高校では、生徒のおよそ1割が生活保護世帯。経済的に苦しい家庭が少なくありません。家庭の事情がかいま見えることもあります。

保健相談部 主任 早乙女進一さん
「お母さん、お父さんはいる?」

生徒
「お父さん、いないです」

生徒が打ち明けた悩みや課題は、教職員全員で共有します。教師が生徒の問題を一人で抱えず、複数の力で生徒をサポートしようとしているのです。

早乙女進一さん
「特に教員って重要案件が起こると、情報をクローズにして内々で固めてこうなりがち。生徒からすると、たくさんの先生たちがいるのに特定の先生としか話せない。すごく孤独なんです。それっていいことないなと。総スクラムで手当たり次第でいったほうが、いいんじゃないかな」

「中退したい」と語る胸の内…

たびたび中退したいと口にしていた、丸山さん。6月下旬、これまで以上に不安定になっていました。

「元気してた?少しやせた?」

丸山さん
「うん。5キロ、6キロやせた」

「えーやばいよ、ごはん食べてる?」

丸山さん
「食べてない」

学校を休みがちだった、丸山さん。入学以来初めて、定期試験を全科目、受けることにしました。

丸山さん
「怖くなってきた。いろいろ聞いていたら」

ディレクター
「怖い?」

丸山さん
「怖い」

この日、開かれた進路指導の学年集会。丸山さんは突然、会場を出ていってしまいました。そんな丸山さんを心配する、担任の篠﨑先生です。丸山さんは、父親との関係に悩みを抱えていました。

丸山さん
「親に学校行けって言われて、学校行けしか言われてない」

丸山さんは10歳のときに母親を病気で亡くし、以来、父と姉とで暮らしています。責任感が強い丸山さんは、小学生のころから母親の代わりに家事をして家族を支えてきました。しかし、母親を失った喪失感は消えないままでした。

丸山さん
「今もしんどい、正直。なんでママいないんだろう。たまに夜とか泣いちゃう」

父親の眞孝(まさたか)さんです。妻を亡くしたあと、仕事と家庭の両立に忙しく、娘と向き合う時間を持てなかったといいます。

父・眞孝さん
「途方に暮れますよね、子どもを育てるって。自立させなきゃ、一人前にさせなきゃという気持ちがたぶん強くて、そういう思いが子どもながらに伝わって、プレッシャーかけちゃったのもあるのかな」

娘の将来を気遣い、つい厳しく接してしまう眞孝さん。そんな父との間に壁を感じた丸山さんは、学校生活や日頃の悩みを話せず、胸に閉じ込めていました。

丸山さん
「怖かった、すごい。仕事で疲れてるんだって言ってるし。つらいなあと思っていたけど、心配かけちゃいけないのが一番大きかった。しんどくさせちゃいけないと思って、何も出来なかった」

教師の中には、不登校を経験した人もいます。3年生のクラスを担任する、西村先生です。クラスに気になる生徒がいました。

西村由夏さん
「もしもし、西村です。今起きた?きょう来られないのか」

西村由夏さん
「寝てました。こういう時もありますね」

3年生の塩見さん(仮名)です。出席と欠席を繰り返しています。

ディレクター
「きょう学校どうしたの?」

3年生 塩見さん(仮名)
「普通に休むっす」

ディレクター
「どうして?」

塩見さん
「普通に学校の雰囲気が苦手なんで」

母子家庭で育った、塩見さん。高校を中退し社会に出た母親は、息子には高校を卒業してほしいと願っています。

母親
「事務職でも(条件が)高校卒業以上と書いてある。アルバイトでしか雇ってもらえなくて。とにかく、自分と同じ道を歩んでほしくない」

小学5年のころから不登校になった、塩見さん。以来、人と関わることが怖いと思うようになったといいます。

塩見さん
「何をするにしても、卑屈に考えちゃって。正直、自分が自分のこと一番嫌いで、特技もないし、親に迷惑もかけているし。もう何もしたくなくなったり、ずっと家に引きこもっちゃったり。八王子拓真でも適応出来なかったと思うと、社会でやっていけるのかな。どうしようもないんじゃないかな」

生徒を中退させない指導とルール

塩見さんは、授業の半分を欠席しています。このままでは、卒業に必要な単位を取れません。

西村由夏さん
「学校に来るべきだ、来なければならない、今すぐ来ようというメッセージでうまくいくのかな。今頑張ってみようと言えるタイミングを、見計らっている感じです」

塩見さんのような欠席が続く生徒への対応が、話し合われました。

西村由夏さん
「時間かかるなという感じです。かかる子にはすごい時間かかって、ようやく学校教育の入り口に立つとか。いられる年限も決まっているから、どうしたものかなというのが今の悩み」

磯村元信さん
「通えないような子はあきらかに、課題を出して単位認定していく。いろいろな配慮が本来はないと、おかしいんじゃないのか。担任が少し生徒を応援するのに、助けになるようなものがあれば、どんどんやっていっていいんじゃないのかな」

放課後になって姿を現した、塩見さん。西村先生は声をかけました。

塩見さん
「まあ微妙ですね」

西村由夏さん
「自分でどこを微妙だと思ってる?」

塩見さん
「寝坊してる時とか」

西村由夏さん
「先生も似たような感じだった。おれも中学生のころ、よく分かる」

学校を休みがちな生徒には、オンライン授業や課題の提出で、単位を認定していくことになりました。

西村由夏さん
「人それぞれ、持っている時計が違うんでね。人間って不思議なもので、時間的な成長って必ずあるんです。頑張ろうって思えるような時期がくるといいですよね」

丸山さん
「授業出たくない、嫌だ」

父親との関係に悩んでいる、丸山さんです。期末テストが近づき、学校には来たものの教室には入れず、相談室にいる時間が続いていました。

担任の篠﨑先生は、丸山さんにどう向き合ったらいいのか、頭を悩ませていました。

篠﨑正男さん
「周りが怖いというか、不安とかがすごい行動に全部出ちゃってたんで」

磯村元信さん
「わーってなるのは、『こっち見てよ』というようなメッセージだから」

どうしたら、不安を拭えるのか。篠﨑先生は丸山さんの父親に手紙を書き、学校での様子を知らせることにしました。

"現在は、かなりストレスがたまっている状態であるように思います。ご家庭でもお話をしていただけたらと思います"

篠﨑正男さん
「ご家族との連携は大切なんじゃないのかなと。自分の口から、家族に言いたいことを言えないときがある。本当はこう思っているんだよね、みたいなものを学校で話をしてくれるときがあるので」

篠﨑先生からの手紙は、20通を超えました。娘が教室や集会から抜け出したり、授業を受けられずにいることがつづられていました。

父・眞孝さん
「俺が信じていないから、そういうことをするのかなって思ったんですよね」

眞孝さんは、娘に寄り添おうと努めていました。近づく、1学期の期末テスト。担任の篠﨑先生は丸山さんに放課後、個別の指導を続けました。

試験が始まりました。丸山さんは高校入学以来初めて、全科目のテストに臨みました。答案の返却日。国語や英語は苦戦しましたが、数学は努力した成果が出ました。

ディレクター
「数学、すごい頑張ったね」

丸山さん
「頑張った」

1学期を終え、通知表を持ち帰った丸山さん。

父・眞孝さん
「お、すげえじゃん。頑張った」

丸山さん
「でしょ」

父・眞孝さん
「ママに成績とれたよって置いときなよ」

ディレクター
「成績ご覧になって」

父・眞孝さん
「うれしいですよ。良かった。今まで(5段階評価の)数字がつかなかった。テストも受けられないし、授業も出られないという状況だったので、何年かぶりにこういう通知表見て、うれしいですよ。学校に本当、感謝です」

丸山さん
「期待を裏切っているかもしれないけど、今も。でも、自分なりに裏切らないように、頑張ろうと思って」

奮闘する校長 踏みとどまる生徒

夏休みが終わり、まもなく2学期。磯村校長は、生徒を迎えるための言葉をしたためます。

磯村元信さん
「とにかく来たら『よく来たね』で。なかなか学校に足が向かない子もね、『いつも待ってるよ』」

磯村元信さん
「はい、こんにちは」

高校からのドロップアウトを1人でも減らそうと奮闘する、磯村校長。この9月までに、24人が学校をやめました。

中退したいと、たびたび口にしていた丸山さん。始業式に出席し、新学期をスター卜しました。

ディレクター
「きょうから2学期だね」

丸山さん
「そう、2学期。うん、頑張る」

生徒を社会からこぼれ落とさない

保里:生徒たちが高校で学び続けられるように奔走する、校長の磯村元信さんです。磯村さん、出席日数といった学校の規定を変えてまで生徒に個別な対応をしていく、排除ではなく配慮をするというこの大胆な改革にはどんな思いで打って出られたのでしょうか。

磯村元信さん (八王子拓真高校・校長)

磯村さん:今は高校教育というのが「進学」を大前提にしています。やはり厳しいですね、単位認定とか卒業認定ができなくて、やめていく生徒がいます。生徒に合うようなルールにしていくということが、すごく大事かなと思います。合理的な配慮をしていくということなんですが、そもそも学校のルールというのはそれぞれの学校が裁量で作るものなんです。なので、そういう配慮ができるような仕組みにしていかないといけないとに考えています。

保里:高校は義務教育ではありませんが、それでも磯村さんは「さらば!ドロップアウト」を掲げています。どんな問題意識からなのでしょうか。

磯村さん:今、多様な社会になり、多様な生徒がいて、やはりそういう生徒たちが学校からドロップアウトすると、そのあとひきこもりになってしまったりとか、社会で生きていくために非常に厳しい環境になっていくと。やはり高校生であることが、社会のセーフティーネットになっていると。ここが非常に今、これからますます大事になってくるのではないかなと考えています。

保里:そして、スタジオには教育と格差について取材を続けている、作家の石井光太さんです。関連記事には、石井さんが語る高校中退の現場について発信しています。

高校を中退した生徒たちが社会に出たときにどんな壁がありうるのか、石井さんはこれまでどんな現実を目の当たりにしてきたのでしょうか。

石井光太さん (作家)

石井さん:高校中退で、ともすると自己責任、おまえが勉強しなかったからだろうと言われてしまうんです。でも、そうやって切り捨てられた子どもたちは生きる力がまだまだなくて、自暴自棄になっていて、社会に対して希望も抱けない、学歴もない、そういった中でとにかく稼ごうと思って夜の街に働きに行ってしまう。そうすると10代で妊娠してしまったり、あるいは本当に嫌になって、オレオレ詐欺の受け子をやってしまう。逆に言うと、そういうのが嫌だなという人はひきこもってしまう。今言ったように子どもだけの問題ではなくて、社会全体の問題になってくるんです。そう考えてみると、われわれは自己責任といって彼らを切り捨てるのではなくて、いかに彼らを支援していくかという目線が必要なのではないかなと思っています。僕、先生とすごく親近感を抱くんですけど。先生に聞きたいんですが、学校だけではなかなか難しい部分はどうやって社会と連携していらっしゃるんでしょうか。

磯村さん:そうですね。"ぼうず同盟"で頑張りたいと思います。
やはりこれからは、地域の人の力を借りていくということが必要かなと思います。担任が1人で抱えるというのはなかなか困難で、学校だけでも抱えきれないと。例えば、さきほど子ども食堂の例が出ていましたが、ああいう形で食料支援をしてくれることによって、子どもたちの家庭的な背景とかを取りに来たときに話が聞けるというようなところもあります。ですので、これからしっかりと社会と連携しながら作っていく必要があるのかなと考えています。

保里:私たち社会の大人が、これから社会に出ていく世代を置き去りにしないために何が必要だと石井さんは考えますか。

石井さん:やはり10代の子どもに対して社会がやらなきゃいけないというのは、彼らが社会に出たあとに生きていく力を授けることだと思うんです。今までというのは学校だけがそれをやっていて、しかも一律に勉強させればいいという、それが生きる力だったんですよ。でも、やはりそこからこぼれ落ちてしまう人たちがたくさんいるわけですよ。例えば障害を持っている子であったり、不登校の子であったり、家庭虐待の子だったり、そういった子どもにはそういった子どもなりに社会で生きる力というのを個別で与えなければいけない。ただ、学校だけでやるのはなかなか難しいんですよ。そうすると、どこをやらなければいけないかというと、やはり社会全体でそれをやっていかないといけない。家族もそうだし、地域もそうだし、あるいは親族もそう、そういった人たちがみんなでやっていくことが必要だと思うんです。僕は、それがよりよい未来を作っていくことだと思う。それはやっぱり信じて、僕たちが必死になって立ち向かっていかなければいけないと思うし、本当にこの世の中は生きるに値するものだと思うんです。その希望を僕たちがきちんと子どもたちに渡して、そして子どもたちと一緒に僕も頑張っていこうというようなところで奮闘していきたいなと思っています。

保里:磯村さんだけに任せきりにせず、私たち一人ひとりができることがあるということですね。

石井さん:そうですね。全員の問題だと思います。

保里:ドロップアウトをさせない社会を作っていく。改めて考えていきたいと思います。ありがとうございました。


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