クローズアップ現代

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2021年4月7日(水)
“失われた学び” コロナと“自主休校”の子どもたち

“失われた学び”
コロナと“自主休校”の子どもたち

コロナ禍の1年、学校に通えていない子どもたちがいる。本人や家族に疾患があり、感染による重症化のおそれから「自主休校」している子どもたち。今回、1度でも自主休校した児童・生徒は全国に7,000人以上いることが分かった。学校にリモートでの授業参加を求めても断られる例が多く、学びだけでなく友だちと過ごす時間も失われたまま再び春を迎えた。スマホの自撮りでその思いを伝え、なぜ取り残されてきたのかその背景に迫る。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから

出演者

  • 末冨芳さん (日本大学教授)
  • NHK記者
  • 井上 裕貴 (アナウンサー) 、 保里 小百合 (アナウンサー)

"失われた学び" コロナと「自主休校」の子どもたち

東京都内で暮らす、いぶきくん。この春から小学2年生です。生まれつき重いぜんそくがあり、発作を抑える薬が欠かせません。去年4月に入学して以来、学校には一度も通えていません。

小学2年生 いぶきくん
「きょうコロナ、感染者何人だった?」

決断を迫られたのは、都内の一斉休校が解除された去年6月。学校に行っていいのか医師に相談したところ、感染すると重症化するおそれがあり、登校を見合わせるのが望ましいと言われたといいます。

いぶきくんの母親
「ぜんそくで死ぬ確率もあると考えたときに、学習面は取り戻せても命は取り戻せない。話し合い、本人の意向もそういうことだった。親子の意向が同じだったので、お休みにした。8月には落ち着いて、9月から行けるかなというのが最初の希望だった」

しかし、その後も感染が収束しないまま1年が経過。

いぶきくん
「やっぱり重い」

いぶきくんの母親
「重い?きつくない?大きくなったんだね」

祖母が入学のお祝いに買ってくれた、ランドセル。背負って外を歩いたことは一度もありません。感染のおそれに加え、ぜんそくによるせきで友達に不安を与えてしまうと思って遊ぶこともできません。

いぶきくん
「あのさ、お友だちの前でせきしたら、友だちがいやだなって思っちゃうから行ってない、いまは。友だちと一緒に外で遊びたい。宿題もみんなで一緒にやりたい。勉強も」

いぶきくんの母親
「いぶき、宿題は?やらないの?テレビ見終わったらやる?」

今は週に1度母親が学校に行き、1週間分のプリントをもらって勉強することになっています。学校を知らないまま過ごした、この1年。

いぶきくん
「明日やりたい。明日やるの」

いぶきくんの母親
「いやいや、隠れてもしょうがないのよ。おいで、ほら教科書出そうよ」

母親はどうすれば家庭で勉強の習慣をつけられるか、悩み続けてきました。

いぶきくんの母親
「ほかの2年生と同じように、周囲との関わり、授業についていけるのか。みんな1年生の最初のほうに、徐々に授業とかに慣れていくというのをやる。ぜんそくさえなければ、そんな体に産まなければこうならなかったのにと考えることはある」

長引く「自主休校」 募る将来への不安

自主休校が長引くことで、将来への不安を抱える生徒もいます。

今月から高校1年生になった、ひろとくん(仮名)です。幼いころからぜんそくがあり、中学3年の去年1年間、学校に行けませんでした。

高校1年生 ひろとくん(仮名)
「中3が始まる前に大きいサイズ(の制服)を買っておこうと買ったんですけど、いまだに2回ぐらいしか着られていないです。僕はコロナが収まったら、いつでも学校に行こうと去年からずっと思っていたけど、なかなか収まらなくて」

ひろとくんには、将来の夢があります。医師になって、がんや難病に苦しむ人を1人でも多く助けることです。

高校受験のため、大切な年になるはずだったこの1年。学校にオンラインで授業に参加させてほしいと頼みましたが、特別扱いできないと言われたといいます。

ひろとくん
「オンラインは、1人のためにはできないと言われて。せめて黒板の写真だけでもだめかと聞いたが、だめ。僕はいつも朝7時に起きて、この日程表どおり動いています」

ひろとくんが作った、1週間のスケジュール。オンラインの塾も活用しながら、計画を立てて勉強してきました。しかし、行きたいと考えていた高校は諦めざるをえず、春からは通信制の高校に通っています。

ひろとくん
「自主休校しているやつなんてどうでもいいんだと、ほとんどあきらめがついた。僕の中で学校といえば、中学2年生までの記憶しかない。とてもショックです」

実は、妹のあおいさん(仮名)も学校に通っていません。大きな病気があるわけではありませんが、万が一ウイルスを家に持ち込み、兄に感染させてはいけないと自主休校しています。あおいさんは、兄とは違う中学校に通っています。その学校でも、オンライン授業は認められなかったといいます。

中学2年生 あおいさん(仮名)
「課題とかプリント類もちゃんと送っているが、成績に反映されていなくて、全部『欠』になってしまう」

学校から受け取った、2学期の通知表。出される課題は提出していましたが、出席扱いになりませんでした。

あおいさん
「高校に行けるか、わからない。それが一番心配」

自主休校の児童・生徒は、全国にどれほどいるのか。今回、東京23区と全国20の政令市に聞き取りを行いました。

その結果、調査を行い、数を把握しているとした自治体はおよそ6割。そこから計算すると、昨年度、感染への不安で1日以上学校を休んだ小中学生は、分かっただけで7,285人に上りました。休みが長期に及んでいる子どもも、少なくないと見られます。

オンライン授業が難しい 最大の壁とは

十分に学べない、自主休校の子どもたち。国は去年から繰り返し全国の自治体に対し、休んでいる児童・生徒にも学びの機会を保障するよう通知を出していました。

その方法として、オンラインを活用した学習を挙げています。ところが、今回自治体に行った調査では、オンライン授業をできると回答したのは2割にとどまっていることが分かりました。

オンライン授業が難しいと考える事情について、東京・江東区の教育委員会が取材に応じました。

江東区 教育委員会
「個人情報含め、十分配慮しなければいけない。何でもオッケーでやりなさいというふうには、捉えていない」

区が最大の壁として挙げたのが、個人情報。オンラインでは、授業の中でほかの子どもたちの様子も映し出されます。もし保護者がその様子を録画しネットなどで公開すれば、児童・生徒に関する情報が流出してしまう可能性を危惧しているのです。

江東区 教育委員会
「子どもの名前が授業で出たりすると、安全安心を守りながら授業を進めていくときに現状では難しい。条件として配慮がクリアできていたならばありだと思うが、国がやりなさいと言ったとしても制限・配慮の下でのやりなさいだと思っている」

この区では、オンライン授業の代わりにパソコンやスマホで学習できるアプリなどを導入。自主休校している子どもたちの学力を補っているとしています。

「失われたものは大きい」訴える子どもたち

今回自撮りに応じてくれた、子どもたち。失ったのは学びだけではないと訴えます。

愛知県の中学2年生。学校では吹奏楽部に所属。コンクールに向けて、仲間と練習に励んでいるはずでした。

家族に基礎疾患 中学2年生
「マウスピースっていう、口に当てるところだけで(練習を)やっています。自分が休んでいる間も、ほかの子たちはどんどん進んでいっちゃう。どんどん遅れていっちゃう」

関東地方の小学5年生。学校で友達と過ごす時間が大好きでした。

ぜんそく患う 小学5年生
「(友だちと)放課後とか休み時間に、一緒に踊ったりしていた。私が急に来なくなったから、友だちも心配してくれている。私も、ものすごく心残りで残念です。失われたものは大きい」

千葉県の小学3年生。先生にほめてもらえるのが、何よりの楽しみだったといいます。

ぜんそくを患う 小学3年生
「絵が得意。先生にほめられたりすることもある。本当だったら絶対やりたい楽しみなのに、コロナのせいでできなくて悔しいし、ショック」


愛知県に住む、ともみちくん。難病指定されている心臓の病気があります。大学を目指して勉強に励んできましたが、受験会場の感染対策が不十分だと感じ、受験を断念。浪人することになりました。

3月に高校を卒業 ともみちくん
「僕は歴史が大好き。歴史をさらに深く学びたいと思い、歴史を学べる大学を志望して一生懸命勉強した」

ともみちくんの母親
「元気じゃない人は論外というか、社会から忘れられている感じがしてならない」

ともみちくん
「すごい悔しい気持ちでいっぱいです」

自主休校する子どもたち 理解と実態調査の重要性

保里:多くの学校で新学期を迎えています。ご覧の2つのポイントから、自主休校の実情に迫ります。まず、自主休校の子どもたちの実態。そして、なぜオンライン授業が進まないのか。

井上:取材に当たった、戸叶記者です。戸叶さん、コロナ禍、その水面下でこういったことが起きていたことにとても驚きましたし、なぜという思いなのですが。

戸叶直宏 記者(NHK首都圏):自主休校といっても数日休んだ子もいれば、1年間全く登校できなかったという子もいます。私はこれまで、50人以上の子どもや保護者を取材しましたが、その中ではご覧のように切実な声が聞かれました。

"先生や友達の「早く学校においで」という声がつらい"、"オンライン授業を訴えても1年間なにも変わらないので、期待するのはあきらめました"。
周囲からは過剰に恐れ過ぎではと言われることもあるそうですが、医師などの意見も踏まえ、命に関わるとして学校に行きたくても休まざるをえないという子は一定数いて、決して特別なケースではないと感じました。

井上:先週お伝えした、変異ウイルス(2021年3月30日(火)放送 変異ウイルス拡大“第4波”にどう備えるか)。子どもにもかかるリスクがあるということで、クラスターのおそれもありますし、遠い出来事ではないということを強く感じました。

保里:スタジオには教育行政が専門の、末冨芳さんです。末冨さんは学ぶ機会が失われた子どもたちの現状を、どのようにご覧になりますか。

末冨芳さん(日本大学 教授)

末冨さん:自主休校の子どもたち、それから保護者の方たちがとても深刻に生命の不安を感じているわけですよね。その深刻さというものを、理解しなければならないです。ぜんそくぐらいどうってことないんじゃないかと思ってしまうと、医師から学校に行かないでください、なるべく行かないでくださいというように、診断書が出されるような深刻な状況の子どもたちを見過ごしてしまうことになります。
一方で、先ほどVTRに出ていたお子さんたちもそうですが、生命の不安というものを感じながらも学びたいという気持ちをとても強く持たれていますよね。学びたいけれど学校や教育委員会がちゃんと対応してくれない、置き去りにされる状況の中だと頑張りたい気持ちもだんだん低くなっていったり、どうしても気持ちが暗くなって悲しい思いにもなってしまうと。気持ちの問題だけではなく、進路の選択がどんどんできなくなっていき、子どもたちの未来を狭めてしまうことにもなっているのです。

保里:自主休校の子どもたちが、全国にどのくらいいるのか。全国的な調査は現在まで行われておらず、今回NHKが政令指定都市と東京23区に調査状況を聞いたところ、43の自治体のうち、4割に当たる18の自治体で調査を行っていないと回答しました。その理由は、コロナ対応で忙しい、国からの要請がない、といったものでした。

末冨さん:まずは自主休校の子どもたちの問題を、調査すべき問題だと捉えた自治体が限られていることを深刻に考える必要があると思います。特に大きな規模の都市です。政令市や23区でも、4割が実態把握ができていないというのは、それだけ置き去りにされた子どもたちが実際にいるということだと思います。例えば、「こうした疾患の場合は学校に行きづらいので、在宅でも学べる保障のしかたが必要ですよね」というふうな基準作りにつながっていくという意味でも、全国的な実態調査は大変大事だと思います。

保里:ただ、そうした中でオンライン授業が進んでこなかったわけですが、なぜできないのか。その実情を見ていきます。

なぜ進まない?オンライン授業

都内の小学校で教える教員です。学校がオンライン対応できない事情を語りました。

都内の小学校教員
「僕もオンラインを活用した方がいいと思っている派ですが、いま学校はこのよくわからないウイルスの中で、(出席している)目の前の子たちにさえどれだけできているかわからない状況。オンラインの子をどうにかしてと言われたときに、できている自分は想像できない」

この教員が受け持つ児童は、40人。日々の業務に加え、コロナ禍では一人一人の児童が発熱していないか、休み時間に子どもたちが密集していないかなどの確認で精いっぱいだといいます。

都内の小学校教員
「教員がかなりボロボロになっている事実。休校の子に対して、いいものを届けられる自信はない。もしかしたら職務放棄と思われるかもしれないが、それぐらい教員一人ひとりに余裕がない状況であるのは間違いない」

こうした中、教員の負担を減らし、オンラインへの対応を可能にした自治体があります。

大阪・寝屋川市。去年6月から市を挙げて、自主休校する子どもにオンラインで授業を受ける選択を認めています。先生の前に置かれているのは、タブレット端末。ネットを通じて、授業の様子を自主休校している子どもに見せているのです。

市ではタブレット端末の整備などを教育委員会がバックアップし、現場の負担を軽減。オンライン授業を受ける家庭が個人情報を漏らすことがないよう、保護者から取り付ける誓約書の作成も担いました。

大阪・寝屋川市 小学校教員
「ほかの子たちの存在を感じることで、自分もこの子たちと頑張らないとなって思ってもらえたらいい。子どもたちの中では、ちゃんと28人学級なら28人でいる気持ちで毎日いると思う」

寝屋川市 広瀬慶輔市長
「ライブ配信をすることで、主要な授業については学力の遅れがなく過ごしていただける。安心してくださいというメッセージを出させていただいている」

コロナと「自主休校」"多様な学び"を実現するには?

保里:ただ、こうした自治体はまだ少ないのが現状です。今回の自治体への聞き取りでオンライン授業ができているか聞いたところ、できるとした自治体は9つあった一方で、学校によってはできると答えたのは16の自治体。課題があり、できないとしたのは18の自治体に上りました。

この問題について文部科学省の担当者は、"国としてはオンライン授業の有効性について自治体に周知してきた"、"これまでは端末が十分に配備されていなかったことがある"、"ことしは1人1台の端末を配備する、GIGAスクール構想を前倒しし、ほとんどの自治体がそろうことになる"、"今後は自主休校の子どもたちのためにも活用してほしい"としています。

井上:末冨さん、確かにハード面の整備は進んできているということですが、冒頭のVTRにもあった教育委員会の説明、1つの理由が個人情報ということを挙げていました。

末冨さん:オンライン授業を家で受けている子どもや保護者が、何かの形でそれを誰でも見られるSNS、あるいはインターネットサイトに上げてしまうんじゃないかというところを心配しているんだとは思います。ただ、オンライン授業ができている自治体や学校では、恐らくですが個人情報の保護の在り方について保護者と話し合ったり、子どもにこういうルールでしようねというふうに説明したり、ちゃんと同意を作っているはずです。

井上:寝屋川市もそうですよね。

末冨さん:そのルール作りというものが丁寧にできれば、インターネットへの流出、SNSの個人情報の流出というものはないはずです。

保里:実際、寝屋川市では時間をかけて進めてきました。去年4月の一斉休校のときから、いち早く事前に収録した授業を動画で配信する試みを始めて、6月にはオンライン授業を開始。自宅で授業を受けられるようにしました。ただ、この段階ではまだ出席扱いになっていなかったのですが、ことし1月からは認められるようになりました。この間、現場の先生たちともたくさんの議論を重ねてきたからこそ、実現できたということなのです。
ただ末冨さん、ただでさえ忙しいと指摘されている教育現場の先生たちの負担が増してしまうというおそれもありますよね。

末冨さん:特に学校の先生たちというのは、昨年度は学校での感染を防ごうと本当に一生懸命、休む時間も含め頑張っておられたわけです。それに加えて昨年から、まず小学校から新しい学習指導要領の下で対話を重視したり、あるいは子どもどうしの活動を重視したりするというような、新しいタイプの学びに取り組んでいくと。だからこそ今、40人いるようなぱんぱんの学級の中で、1人のためにオンライン授業をしていくというのは確かに厳しいかなとは思います。
望ましいのは、できれば少人数学級にしていくというのが根本的な解決策ではありますが、例えばオンライン学習をサポートするスタッフであったり、あるいはオンラインというのは割と接続の問題だとかIDを使って入るところまでの最初のハードルが高いので、教育委員会から派遣されたICT支援員さんが担任の代わりに練習してもらうだとかですね。そういう形で、担任の教員にすべての責任を押しつけない。助け合ってオンライン学習ができていけるような環境というものが大事になると思います。

井上:思ったのですが、平時から、コロナの前からみんなを含めた学校教育がもし実現していたら、こういう状況でも即座に対応できたのではないかなという思いもあるのですが。

末冨さん:正直申し上げて、コロナパンデミックの前から日本の学校というのは多様な状況の子どもたちに優しかったかと言われれば、決してすべての自治体や学校がそうじゃなかったわけです。その問題の背景には、特に日本の学校というのは学校に来て、みんなで学ぶのだというところのこだわりが強いのです。とにかく学校に来て、そこにいて、それで学びが成り立っているんだという考え方を非常に強く持ってきたわけです。

井上:そういう意味では、今後どう変えていく必要があるかというところにつながるのですが、やはり選択できるということも一つ、大きな未来ですよね。

末冨さん:簡単には収まらない感染症の中で、今後もやはり生命への不安だとか、学校に行くことへの不安というものを感じる子どもたちというのは、しばらくは継続するわけです。だからこそ発想を切り替えていく必要があると。いかに私たちが新型コロナウイルスのパンデミックから学んで、行動変容をよりよい方向に起こしていけるかと。それは、学校教育についても同じように問われていると思います。

井上:すぐに状況は変わらないにしても、どういうことが大事なのでしょうか。

末冨さん:一斉休校中の調査で明らかになっているのは、授業をしたかどうかというよりは、やはりつながりですね。特に教員との心のつながりを保てたかどうかというところが、学びの意欲を保つ上で非常に大きかったということが分かっています。だからこそ、今から始めればいいんだと。できることから始めればいいんだと。決して高いハードルを目指さないというようなやり方で少しでもいいのでオンラインでの学びや、つながりというものを子どもたちと作っていただけるような学校や自治体が増えるといいなと思っています。

保里:NHKでは、コロナ禍の中で学びを守るために何が必要か。皆さんの声をもとに継続して取材していきます。

井上:下記のリンクからは今回取り上げた自主休校だけでなく、コロナと教育に関するさまざまな取材記事や、相談窓口などの情報にアクセスできます。ぜひご覧ください。