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2021年2月17日(水)

“攻めの検査”はどうあるべきか
自治体のPCR検査戦略

“攻めの検査”はどうあるべきか 自治体のPCR検査戦略

新型コロナの感染拡大を防ぐため、あらためて注目される「PCR検査」。発症した人だけでなく、症状のない“無症状”の人も含め、幅広く検査を行うことで、感染の拡大を防ごうという取り組みが始まっている。去年10月からPCR検査を希望する高齢者施設の職員や出入り業者などを対象に、症状の有無にかかわらず検査を始めた世田谷区。宿泊業者を中心に広く検査を実施する観光地・栃木県那須塩原市。そして2月中旬から一部地域の住民を対象に実施を計画する広島。各自治体の最新の取り組みを取材し、変異ウイルスの感染も拡大してきたなかで、どういう戦略をとるべきなのか、専門家とともに掘り下げる。

出演者

  • 髙山義浩さん (沖縄県立中部病院 感染症内科副部長)
  • 宮田裕章さん (慶應義塾大学 医学部教授)
  • 武田真一 (キャスター)

ルポ・自治体のPCR検査戦略

92万人が暮らす東京・世田谷区。無症状の感染者を見つけるため、去年(2020年)10月から区独自のPCR検査を実施しています。

世田谷区が動き始めたのは、1回目の緊急事態宣言が明けた直後の5月末。保坂展人区長は、次の第2波を懸念してある人物のもとを訪ねていました。全国の研究者と共に新型コロナウイルスの対策プロジェクトを立ち上げていた、東京大学の児玉龍彦名誉教授です。

世田谷区 保坂展人区長
「第1波は一応少しおさまってきて、ただこの様子だと、いつ何どきまた同じことになりかねない。仕事とか経済、さまざまなところでもうギリギリまで来ている状態ですよね。」

東京大学 先端科学技術研究センター 児玉龍彦名誉教授
「もっと先手で社会システムとして防ぐ、何か問題ありそうなところを集中的にPCR検査をやっていくとか。老人の施設、デイケア、デイホーム。」

児玉さんがまず提案したのは、介護施設などに絞って重点的にPCR検査を実施する案でした。高齢者が多い介護施設では、ひとたび感染が広がると多くの命が危険にさらされかねません。そこで施設の職員などにPCR検査を行うことで、無症状の人を探し出し感染拡大を未然に防ごうというのです。

児玉龍彦名誉教授
「このウイルスの一番難しいのは、発症する人でも発症前からウイルスをまいていますし、そういう人がいると、わっと感染が広まってしまう。そういう人を見つけて隔離して感染を防がないと、感染の広がりが防げない。」

7月下旬。経済の回復を目指して、各地でGoToトラベルがスタート。国内での人の移動が活発になりました。

しかし、すぐに第2波が到来。8月に入ると、世田谷区の新規感染者はそれまでで最多の1日65人に上り、東京都全体の4分の1を占めました。

(去年8月 世田谷区長会見)
保坂展人区長
「区内の高齢者施設や子ども施設などでも、集団感染が確認されるなど年代を問わず感染が広がっており、大変危機感を持っているところです。」

保坂区長は、準備を進めてきた無症状の人へのPCR検査実施に向け、動き出しました。10月から介護施設で働く人などを対象に、2万3,000件のPCR検査を行うことになったのです。

まずは、『定期検査』。希望する区内の施設を、順番に調べていきます。

陽性者が発見された施設などに対しては、3か月間、月に1度『随時検査』を行っていきます。

そして保健所の業務ひっ迫を軽減するため、このPCR検査は民間業者に委託することにしました。

検査を始めてひと月後、成果が表れました。

(去年11月 世田谷区長会見)
保坂展人区長
「世田谷区内の特別養護老人ホームを対象とした定期検査において、無症状ではございますけれども陽性が判明をいたしました。」

陽性者が見つかった特別養護老人ホームでは、職員13人、利用者2人に陽性反応が出ました。いずれも無症状でした。すぐに15人を自宅待機にするなどして、隔離。それ以上、感染の広がりは確認されませんでした。

特別養護老人ホーム 博水の郷 田中美佐施設長
「私ども『症状がないから大丈夫』という変な自信がありましたので、それではいけないということを教えていただいた。重症者が、発症者がいなかったことに感謝しつつ、本当に見つけていただいてよかったとつくづく思って、今は本当に感謝しております。」

感染防止のため、PCR検査の拡大を考えていた世田谷区。アドバイザーの東京大学・児玉さんと共に、新たな検査法の導入も検討していました。

東京大学 先端科学技術研究センター 田中十志也特任教授
「3月末までに、合計6,000例くらいのプール方式での検査を実証研究したいと考えています。」

検討していたのは、プール方式。一度に処理できるPCR検査の数を、大幅に増やすことができる方法です。

従来の方法では、一人一人の検体を個別にPCR検査していました。

最新の装置を使ったプール方式では、複数の検体を機械で混ぜ、1つにして検査します。陰性だった場合は、そこで検査終了。陽性が出た場合は個別にPCR検査を行い、誰が陽性なのかを調べます。複数の検体を一度に調べることができるため、感染が大きく広がっていない段階ではスピードはおよそ2倍。費用も半額ほどで行えるといいます。

1月、プール方式を本格的に導入しようとしていたところ、第3波が到来。2度目の緊急事態宣言が出されました。積極的にPCR検査を行ってきた世田谷区でも、感染が拡大。ついに、1日300人を超える事態になりました。

新宿や渋谷などの繁華街に近い、世田谷区。区内だけで対策を行っても、感染を抑えるのは難しいと保坂区長は考えています。

保坂展人区長
「『世田谷区民がどこで感染したんですか』という調査をすると6割が不明ですが、わかっている中での例えば飲食店などでは区内というのは本当に少ない。やはり都心部で、あるいは会社でとか、そういったケースが多かったので。区同士が連携していく、これも大事だと思います。」

自治体による、対象を絞ったPCR検査。
その効果と課題をスタジオで議論します。

“攻めの検査”とは? 自治体のPCR検査戦略

武田:先週、東京都は都内の高齢者施設で働くすべての職員に対し、来月末(3月末)までに集中的なPCR検査を実施すると発表しました。また国も、栃木県をはじめ緊急事態宣言が明けた都府県の繁華街などで、無症状者に対して無料でPCR検査を行う方針を示しています。
宮田さん、きょう(2月17日)からワクチンの先行接種が始まりましたが、ここに来て国や自治体がPCR検査に力を入れている。これはどうご覧になりますか。

ゲスト宮田裕章さん (慶應義塾大学 教授)

宮田さん:世界中のデータを見ても、ワクチンの効果というのは大いに期待できます。ただ、短期的にこのワクチン接種だけで感染拡大を抑え込めるかというと、かなり難しいです。先行で昨年末から接種を始めたイギリスでも、ことし(2021年)いっぱいかかって見通しが立てられるかどうか。こういった状況ですので当面は感染予防だったり、あるいは検疫によってウイルスの侵入を防ぐ。つまり検査を活用して、対策を行っていくということが不可欠です。

武田:ほかの対策も組み合わせなきゃいけない。その1つがPCR検査ということなんですね。そしてもう一方、感染症がご専門の医師で厚生労働省の参与としてアドバイザーも務めてらっしゃる、髙山さん。ワクチン接種が行われる中でのPCR検査のあり方、どう捉えてらっしゃいますか。

ゲスト髙山義浩さん (沖縄県立中部病院 感染症内科)

髙山さん:これからワクチン接種が始まりますので、そのスケジュールを守っていくためにも地域の流行を抑え込んでいく必要があります。また、地域で流行が続いている状態でワクチン接種を進めると、ワクチンが効きにくい耐性のウイルスが生き残りやすいという懸念もあります。ですから、今まで以上に感染を抑え込んでいくことが必要な状況です。集団に対してPCR検査を行っていく動きが出てきていますが、抑え込んでいくための手段として貴重なものだと思っています。

武田:PCR検査をどう活用していくかということですが、宮田さん、高齢者の施設などに絞って行うという世田谷区の取り組み、どうご覧になりましたか。

宮田さん:高齢者施設は、ひとたびクラスターが発生してしまうと重症化しやすい方が非常に多く、世界中でも多くの人が高齢者施設で亡くなっています。なので高齢者施設に的を絞るというのは、とても適切だと思います。ただ一方で世田谷のように往来が多く、東京都あるいは首都圏という枠組みの中で考えていかないといけないときは、そういったものも含めてどういう戦略で検査を行っていくかも考えなくてはいけません。

武田:髙山さんはどうご覧になりましたか。

髙山さん:宮田先生のおっしゃるとおり高齢者施設というのは集団感染が起こりやすいところなので、とりわけ対策は徹底すべき場所です。その意味で、世田谷区はうまく狙いを定めているなと思います。ただ、世田谷区が10月から検査を始めたということですが、まだ施設全体を一巡できていないということですので、この頻度では感染を封じ込めていくのは難しいのではないかと思います。もしPCR検査を用いて封じ込めまで狙っていくのであれば、1週間に1度は検査を行っていきたいところですね。

武田:1週間に1度は必要?

髙山さん:グラフをご覧いただきたいのですが、PCR検査が新型コロナに感染した人をどれくらいの頻度で見つけることができるか、ということを表したものです。時間と共に感度というのは変わっていくのですが、最も感度が高いときでも8割ぐらいしかないのです。つまり、2割は見逃す可能性があるということです。これが検査の限界です。ですから、検査結果が陰性であっても、感染対策をおろそかにすることはできません。そして、もう一つ注目していただきたいのですが、赤色の部分ですね。赤色が濃いほど、周囲に移しやすい期間ということになるのです。

髙山さん:ご覧のとおり、濃いところが発症前にありますよね。この期間が特に感染力が強いというのが、新型コロナの特徴です。もし症状があるのであれば受診してくださいとおすすめすることで気づくことができるのですが、この無症状の方々というのは自分が感染していることに気づかないまま周囲に広げていきます。ここをターゲットに見つけていきたいのであれば、月に1回程度では効果が上がりません。やはり、1週間に1度は検査をしておきたいところです。

武田:1週間に1度というのは、なかなか難しいのではないかと思いますが。

宮田さん:例えば神奈川県では、まず2週間に1度という頻度で高齢者施設に対するPCR検査を行ったりしています。(※)
(※ 神奈川県での取り組みは今月から始まる予定です)

武田:どうなんでしょうか、髙山さん。

髙山さん:検査体制に限りがあって難しいということであれば、漫然と月に1回やるというよりは、より対象集団を絞り込んだほうがいいかもしれません。世田谷区の取り組みのようにまとめて検査ができるプール方式であるとか、あるいは人手を省ける自動化システムというものを開発していくとか。そうしたことを検討すべきだと思います。

武田:自治体による、無症状者へのPCR検査。その動きが各地に広がる一方で、現場ではさまざまな課題も出てきているようです。

PCR検査戦略 見えてきた課題は?

栃木県の温泉町・那須塩原市。去年10月から旅館組合などに加盟する75の旅館の従業員を対象に、PCR検査を実施しています。感染対策が万全であることをアピールし、町のにぎわいを取り戻そうというのです。検査費用の一部は、宿泊客が支払う入湯税を最大200円引き上げることで確保しました。

当初、市は月に600人が検査を受けることを想定。ところが、検査件数が思うように伸びていません。

「これ提出ね。」

「恵山荘さん、こちら検体2人分ですね。」

検査開始から4か月たったにもかかわらず、のべ205人にとどまっています。

那須高原市 商工観光課 石川敦史係長
「一番最前線にいられる宿泊事業者の方が定期的に検査を受けていただくことが、安心な観光のPRにつながると考えてスタートしたわけですね。当初の見込みからすると、まだまだ数は少ないのが実情ではあります。」

なぜ検査は広がらないのか。市内のある旅館を訪ねました。

記者
「きょうはお着物ではないんですね?」

旅館のおかみ 君島理恵さん
「緊急事態宣言が出ていて、お客様が大変少ないので。」

旅館のおかみ、君島理恵さんです。検査は月に1度あり、君島さんはこれまで4回の検査を受けてすべて陰性でした。

君島理恵さん
「結果が出るまでは、1%でも(陽性の)確率がありますよね。どうしても不安になります。」

従業員は、君島さんを含め12人。そのうち検査を受けたのは、2人です。全員の検査に踏み切れないのは、陽性者が出た場合、市が旅館名を公表するため。旅館経営に影響が出かねないといいます。

君島理恵さん
「そこ(旅館名の公表)は、かなり不安に思います。公表だけは外していただければと、切に願っています。」

この日、君島さんは検査を受けることについて、従業員に意見を聞いてみました。

従業員
「やはり、陽性になったときの不安はあります。」

従業員
「私も同じで、正直不安はあります。でも検査をして大丈夫だという自信にもつながってきますので、ここは検査を受けたいなと正直思います。」

君島理恵さん
「みんなで受けようかという気持ちもあったんですけど、やはり嫌だっていう方(従業員)もいますし、強制はできませんので。難しいね。」

今のところ、那須塩原市の旅館関係者に陽性は出ていません。しかし、もし陽性が出た場合には、風評被害によって地域全体に影響が出ると懸念する声もあります。

塩原温泉旅館協同組合 田中三郎理事長
「塩原温泉全体の宿泊者が少なくなって、この近隣の温泉場に行ってしまうとか、他県の温泉場に行ってしまうとか、長い目で見ればそういうのが危惧されるのが一番の問題ですね。」

さらに、数十万人を対象とした大規模なPCR検査を計画しながら、実施を保留した自治体もあります。一時、感染が急拡大した広島県。先月(1月)中旬に打ち出したのが…。

広島県 湯崎英彦知事
「中区、東区、南区、西区のすべての住民と就業者を対象として、集中的にPCR検査を実施することで感染者を早期に発見して、感染拡大を未然に防ごうと。」

広島市中心部にある4つの区の住民と、働く人たち73万人を対象とした国内最大のPCR検査の計画。10億円の予算を計上しました。県は、およそ4割の人が検査を受けると見込み、そのうち最大3,900人の無症状の感染者を発見できると試算。

営業の自粛などによる経済的なダメージを、抑えるねらいもありました。

今月(2月)中旬の実施に向け、準備は急ピッチで進められました。1日8,000件の検査が必要になることから、県外の検査会社にも協力を依頼しました。

広島県の担当者
「伝票と容器が、セットになっていないといけない。ひとつの検査会社では、この数ははけないので。協力してもらおうと思う。」

しかしこの数十万人規模の検査について、専門家からは異論が相次ぎました。

県の専門員会議のメンバーの1人、広島大学の坂口教授です。

広島大学大学院(ウイルス学) 坂口剛正教授
「ひとことで言うと、コストパフォーマンスが悪い。」

都市封鎖ができない日本では、一度きりの大規模検査を実施しても効果は限られるといいます。さらに巨額の予算を投入して検査を実施しても、確認できる陽性者の数は県の試算の半分にも満たないと指摘します。

広島大学大学院(ウイルス学) 坂口剛正教授
「コスト(10億円)がかかるわけですね。それに対して得られるものが何かと考えたときに、今ちょうど感染者も減りつつある時期に、あまり効果が得られないのではないか。PCR検査は、対象者をうまく絞ると強力な方法だと思います。ですけどリスクがない人に、一斉にやるものではないかなと。」

県議会でも、効果を疑問視する声が上がりました。

「多額の予算と人員を投入するに、見合った効果があるのか。」

「大規模に実施することで、無用な混乱を招くのではないか。」

懐疑的な見方が強まる中、検査実施が迫った今月10日。

湯崎英彦知事
「集中検査自体は一旦保留をして、試行的に部分的に行う。」

県は、大規模な検査をすぐには実施しないと方針を転換。新規感染者数が大きく減ったことを理由に挙げました。その代わり、規模を数十分の一に縮小した試みの検査を実施。感染が再拡大した際に、大規模検査をスムーズに行うためだとしています。

湯崎英彦知事
「いわゆる変異株の問題だとか、人の流れが再度活発になってくると、再び感染拡大がありうる。そのときに集中実施が、ひとつの大きな武器になる。」

課題が浮き彫りになった、大規模検査。スタジオで掘り下げます。

PCR検査をどう活用するか

武田:広島県は、大規模なPCR検査の実施は見直したわけですが、宮田さんはこの判断をどうご覧になりますか。

宮田さん:有限な資源をどこに割りふるかということを考えたときに、適切な判断だったと思います。重要なのは、検査だけを拡大しても感染は必ずしも抑えられないということです。
つまりどういったタイミング、感染拡大なのか収束なのか。あるいは誰を、どういったエリアを、そしてどういう頻度で検査を行うのか。こういった戦略と組み合わせて検査を行うことで、初めて有効であると。
例えば今のフェーズで考えると、感染が収束してくるところで経路を抑え込んでいく。特に変異株のような感染拡大すると全体のリスクになるようなところに、無症候者も含めて検査を行っていく。こういった戦略であれば、1つ有効に機能する可能性があるのかなと考えています。

武田:戦略、特にタイミングが大事だということですが、髙山さん、PCR検査をうまく活用して感染を抑える。どういう方法があるんでしょうか。

髙山さん:宮田先生がおっしゃるように、PCR検査だけで封じ込めていくことはできません。やはり感染対策とか、あるいは活動自粛などと組み合わせていくことが必要です。
例えば、どんなに大規模にPCR検査をやっても希望者のみですし、発見される感染者というのは一部に過ぎません。例えば大きな流行が起きている中で陽性者だけを隔離していっても、ほかにもいるわけですからおさまらないのです。
ですから今回の緊急事態宣言のように、まずは全体で活動を自粛いただいて流行を収めていくということが必要です。そして、流行がおさまってきたときこそ流行の残り火を疑われるところ、疫学調査で分かっていると思いますので、そこにターゲットを絞って検査をすることでより早期に封じ込めていくことができます。すでに広島県では、こうした取り組みを始めているというふうに聞いています。
そして流行が収束している間も、例えば沖縄県では歓楽街など、ゲートウェイが疑われるところをターゲットにして集団検査を繰り返し実施してきました。そうしたことで、流行の端緒を捉えることもできます。

武田:一方で、旅館で働く人たちのように検査結果によって、何か不利益を被るんじゃないかという不安を持つ人もいると思います。そういう人たちにどう協力を求めていけばいいのか。この点についてはどうでしょうか。

髙山さん:日本は民主国家ですから、検査を強制することはできません。感染症というのは住民に対して対策を強制したりとか、あるいは罰則を設けたりすると大体において潜伏しながら広がってしまうのです。これは昔からの教訓です。差別とか罰則、あるいは経済的な不利益、こうしたものが待っていると知っていながら住民は検査を受けてくれるでしょうか。
例えば那須塩原では事業者名を公表するのをやめるとか、あるいは休業補償を見直すとか、検査を受ける人たちを守る取り組みも集団検査にはセットであるべきだと思います。
また、集合制限がかかると事業が継続できなくなるリスクもあります。世田谷区では施設相互にサポートしあって、もし陽性者が出てもそこは支援していこうという体制がとられてると聞いています。
感染者を確認すればよいということだけではなく、その影響と結果を踏まえて、きめ細やかな対策が求められていると思います。

武田:そして今気になっているのが、変異ウイルスの感染の広がりです。きのう(2月16日)時点の感染者数、累積で151人になります。関東甲信越を中心に近畿、そして鹿児島県でも感染が確認されています。

宮田さん、こうした新たなリスクも出ている中で、PCR検査をどう活用して、どう感染を防いでいけばいいのでしょうか。

宮田さん:変異ウイルスが登場するまでは、欧米の多くの国や日本はある一定レベルの感染を許容するという戦略をとっていたのです。このとき日本では、高齢者や重症化しやすい人たちを中心に検査を行ってきたという状況だったのです。
ただこの一定レベルを許容するような状況だと、例えば変異ウイルスはイギリス株では1.7倍の感染力を持っているので、イギリスは一気に制御不能になってしまったのです。イギリスの変異株がいわゆる伝播(ぱ)した、これはスペインでも同じような現象が起こっていて、フェーズが今変わったというふうに言われています。
つまり何が必要かというと、もう少し低いレベルで感染を抑えるといった対策が必要になるのです。先ほど髙山先生がおっしゃったように、もう少し感染の割合を下げて経路を塞いでいく。まさにこの攻めの検査というものを有効に活用しながら、この状況をコントロールしていく。こういった対策が、まさにこれから求められていくようになってきているのかなと考えています。