クローズアップ現代 メニューへ移動 メインコンテンツへ移動
2021年1月5日(火)

コロナ重症者病棟
パンデミック下の年末年始

コロナ重症者病棟 パンデミック下の年末年始

“第3波”の感染拡大が続く中で迎えた年末年始。最前線の重症者病棟がある医療現場では、異例の事態が続いていた。そもそも冬は急病患者も多く、例年医療態勢はひっ迫する傾向にある。年末年始は多くの人員を配置して対応するものの、綱渡りの状態が続いていた。そして連日のように行われる“看取り”。さらに、医療スタッフたちは、1年近くプライベートを制限しながら闘い続けている。先の見えない状況に心身共に極限状態となっている。コロナ2年目をどう乗り越えるのか、現場から探る。

出演者

  • 藤谷茂樹 医師 (聖マリアンナ医科大学病院  救命救急センター長)
  • 武田真一 (キャスター)

相次ぐ看取り コロナ禍の家族の別れ

カメラが入ったのは、主に重症者の治療に当たる聖マリアンナ医科大学病院です。12月17日、1人の高齢の患者が危篤となっていました。看護師は、テレビ電話で家族とつなぎました。

家族
「聞こえますか、聞こえるかな。この間、お誕生日で〇歳だよ。〇歳になりましたからね。元気に育ちました。」

家族が最期の別れを告げます。

家族
「家族は何とかここまで来ました。たいしたもんだよ、父さんも。」

感染を防ぐため、直接会えない最期。この2時間後、息を引き取りました。

この病院で、去年(2020年)からことし(2021年)にかけ、亡くなったのは26人。受け入れた患者のおよそ1割です。

看護副師長の長屋さんは、ビニールに包んで納棺するなど、これまで立ち会ってきた死とは全く違う状況に悩み続けてきました。

看護副師長 長屋さん
「いまは全く慣れもしないですし、続くと心が追いついていかないですね。人間の命の尊さとか、どこに行っちゃってるんだろうなって。」

最期の別れを、家族に直接みとってもらうことはできないのか。長屋さんはこの日、重症者病棟を率いる藤谷茂樹医師に、ある提案をしました。

長屋さん
「(テレビ電話で)お顔を見ることができるのは、うちの病院のできる限りの家族ケアの1つと思っていたんですが、実際に触れたりとか、同じ空間での死亡宣告は行えていない。家族がPPE(防護具)を着て、実際の肌に手袋ごしでも触れられるようにするっていう方法での改定案なんですね。」

救命救急センター長 藤谷茂樹医師
「面会希望が強い家族には、こういったようなことが提供できないかと思っている。問題点も当然、出てくると。」

医師
「そうですね。一番は家族の安全をどのくらい担保するか。」

最大の懸念は、面会した家族が感染することです。
一方、医療スタッフと同じように防護服を身につけ、対策を徹底すれば面会可能ではないかという意見も出ました。

医師
「僕ら医療者がこれだけ長期間やって、かなり感染者が少ない中で、希望する患者さんには面会を実際にしてもらうという、オプションを考えた方が自然かな。」

藤谷茂樹医師
「触ったりすることができるのは、家族にとってもありがたいと思う。いろんな知恵を絞ってもらって、できる方法を探ろう。」

医療従事者の葛藤 異例のクリスマスイブ

12月24日。看護師が患者の回復を願って、一人一人にクリスマスカードを書いていきます。

看護師
「特別なクリスマスとかイベントで、家族と過ごせないのは寂しい。患者さんにとってはつらい。寂しいと思います。」

カトリックのこの病院では、例年なら聖歌隊が院内を回りキャンドルサービスを行いますが、ことしはすべて中止になりました。

この1年、看護師たちは、友人や離れて暮らす家族と会うことを自粛してきました。せめてみんなでクリスマス気分を味わおうとケーキを用意しましたが、マスクを外しての会話は禁止。いつもと違うクリスマスイブです。

この日の午後、夜勤を終えた看護副師長の長屋さんは、離れて暮らす姉に電話をしていました。

看護副師長 長屋さん
「もしもし、夜勤終わった。入院したの、どうですか?」

実は翌日姉が手術を受ける予定でした。前々から調整して休みを取り、付き添うつもりでしたが、感染者が急増したため諦めました。

長屋さん
「お姉ちゃんが落ち着いたら、実家でみんなで1回集まって、帰って退院祝いができたらいいね。」

長屋さんは病院を出るときにシャワーを浴びていますが、帰宅後もすぐにお風呂場に直行するといいます。病院からの移動中にも、感染することを恐れているからです。

長屋さん
「病院の機能が1回止まってしまう。絶対そうなってはいけないというプレッシャーは、ずっと続いていて。」

家で1人で過ごす日々。募るストレスに、一時看護師を辞めることも頭をよぎりましたが、何度も自分を奮い立たせ、この1年を乗り切ってきたといいます。

長屋さん
「我慢したし、よくなる患者さんを見て、喜んでは笑ったし、若くしてコロナで亡くなった方を見て、助けられなかった悔しさとか、最期一緒に家族が付き添えなかったことの、コロナへの憎さとか、自分が好きなことができなかったりすることへの苦しさとかも入り混じった、必死に闘った1年だなって思います。」

コロナ禍のこの1年。人生の大きな転機を迎えた看護師もいます。
第2波のさなかの8月に息子が生まれ父親となった男性。しかし、今その大切な家族に感染させないか、毎日不安を抱えながら過ごしています。

看護師
「ちょうどコロナが最初、はやり始めた時期だったんで、特にその時期、不安な気持ちになってましたね。家族にうつさないっていうのは、すごく心がけています。」

職場では誰にも言えない弱音を、妻には話していました。


「満身創痍で帰ってきて、また朝出勤で。帰ってきたらもう、ばーっと、こんなことがあったってすごく言うから、メンタルもギリギリで。こっちもこっちで、赤ちゃんのこともそうだし、心配することが多くて。」

コロナ禍のため、家族で自由に外に行くこともままなりません。さらに追い打ちをかけたのは、心ないことばだといいます。

看護師
「『汚い』と言われたりとか、『汚い、菌が来た』みたいな雰囲気で。」


「(医療用の服を)外に干してたら、ここに看護師いるんだって目立ったら周りの方が不安がるかもしれないから、外には干さない。」

看護師
「やっぱり普段の生活も、肩身せまいというか。自分の体力がうんぬんとか、疲労がうんぬんとか、思うことは多々あるんですけど、正直それは二の次で、患者さんの安全を守りたいっていう気持ち一心だけ。」

後遺症に悩む人も 異例のクリスマスイブ

不安を抱えながら、年越しを迎える人もいました。
クリスマスイブのこの日、病院を訪ねたのは、コロナ後遺症に苦しむ50代の石井さん(仮名)。4月に感染し重症化、8月に退院しました。

医師
「この周りが黒い。空気が漏れて肺が縮んで圧縮して、これで苦しかったよね。」

11月、肺に穴が開く気胸が見つかったのです。

医師
「肺としては、ダメージを受けている部分もある。どこまでよくなるのか、前と同じレベルになるかは、ちょっと。」

石井さん(仮名・50代)
「そうですか。」

大学生の娘がいる石井さん。一日でも早く回復し家族を支えたいと、リハビリに励んできました。しかし、少し動くだけで血中の酸素濃度が低下。呼吸不全に陥るレベルです。この1年で一変した石井さんの生活。いつ仕事に復帰できるか、見通しも立たないまま年を越そうとしていました。

石井さん
「1年以上かかってしまう、非常に大変な病気なんだというのを、思いました。これだけ長く離れてしまうと、復帰するモチベーションを維持するのも大変。気持ち的にも弱る。」


「コロナって、こういうことなんだなって。元気になったようにみえて実は、みたいなことがあるんだと。うまくいくって思ってしまっただけに、残念だったなと。」

恐れていたことがひたひたと…

12月28日。日を追うごとに状況は厳しさを増していました。重症者の病床17床は残りあと6つ。藤谷医師は、満床になることだけは何とか避けたいと考えていました。

救命救急センター長 藤谷茂樹医師
「フェーズが上がると、将来的に(満床に)なるかもしれない。」

重症患者を受け入れているこの病院が満床になると、ICUなどの高度な医療を受けられなくなり、行き場も失ってしまうのです。

藤谷茂樹医師
「かなり僕たちも、戦々恐々として毎日を過ごしている状況。」

また、この日は重症患者が相次いで亡くなるという、異例の事態も起きていました。高齢の男性患者の家族が、最期の別れを惜しんでいました。

家族
「苦しかったろうね。帰りたい、帰りたいって言ってたのに。お父さん。」

懸命な治療が続けられていた、若い女性も息を引き取りました。

「ご家族、なかなか受け止めきれなくて。10年後、20年後も元気に生きているだろうと、想像していたと思うので。」

さらに、救命救急センターとしての機能が、まひしかねない局面を迎えることになりました。年末、ほかの病院が人員を縮小する中、この病院には心筋梗塞など、コロナ以外の患者も多く搬送されてきました。態勢を拡充して臨んでいたものの、予想を超える救急搬送に対応できる医師が不足し始めてきたのです。

「先生、入ってくれるの?ありがとうございます。」

藤谷茂樹医師
「人手足りないんでしょ?」

「助かる。」

藤谷医師も、急きょコロナ対応から離れ、手術を行うことになりました。
命に直結する救命救急の現場では、ぎりぎりの状態が続いていました。

大みそか 恐れていた“医療崩壊”寸前に

大みそか。恐れていた事態が起きました。各地で過去最多の感染が確認されたのです。

藤谷茂樹医師
「本当に災害。災害規模に。」

「コロナ陽性でいいんですよね?陽性ですよね。」

重症者病棟は瞬く間に埋まり、病床は残りあと2つ。すべての診療科の医師たちが招集されました。

藤谷茂樹医師
「あと2名しか重症患者が取れないという状況に、今なっています。」

「5東(小児科)が、レッド(コロナ病棟)専用になる?」

藤谷茂樹医師
「混在することになる。」

藤谷医師は一般病棟のほかの科に、コロナ患者の受け入れを要請しました。ベッドが空いていた小児科の一角に、急ごしらえでコロナ病棟を設けることにしたのです。

藤谷茂樹医師
「一応、ここにダクトもつけて。」

「小児科の先生とのすりあわせが必要になるので。」

院内感染を防ぐため、密閉された個室で万全の対策を施します。

何とか病床を捻出できた藤谷医師。しかし、このあと重症患者の治療を巡って、難しい判断を迫られることになりました。
前日に搬送されてきた40代の男性。最悪の状態は抜け出しつつあるものの、予断を許さない状況です。通常なら、人工心肺装置「ECMO(エクモ)」を装着して治療を行うケースです。

「きのう、きょうで(容体が)よくなっているのはわかるんですけども、ECMOを入れてフォローすべきと、自分は考えます。」

しかし、これに対し人手が10人規模で必要となる、ECMOの装着には慎重な意見が出されました。

「夜は当直が手薄になっているので、今は急いで入れる必要はない、というのが僕の考えですね。」

藤谷茂樹医師
「今もう、リソース(人手)が枯渇している。これからどんどん人(新しい患者)が入ってくる。」

「それはわかります。」

藤谷茂樹医師
「厳しい。非常に厳しい選択。」

「厳しいですよね、これは。」

悩んだ末、藤谷医師はECMOに頼らない、別の治療方法にかけようと決断しました。

藤谷茂樹医師
「より多くの患者を受け入れることをしないといけない。正解はない。現状を理解した上で、最終的には決めないといけない。」

そして、年が明けた深夜。ついに17の病床すべてが埋まりました。コロナ患者を受け入れ始めた2月以降、初めての事態でした。

藤谷茂樹医師
「今、重症患者をもう、受けるベッドがなくなってしまった。僕たちが断ったら、この人たちは行くところがなくなる。各病院もベッド数を拡大すると、その分、人手、あと院内感染が起こるリスクがあって、なかなか病床の確保が思いのほか、進んでいない。」

「どうされるんですか、これから。」

藤谷茂樹医師
「どうしようもないな。どうしようもない。」

危機感かつてなく高く…医療従事者の訴え

かつてない医療ひっ迫の中で迎えた新しい年。大みそかに満床となった病床は、その後も空けては埋まる綱渡りの状態が続いています。

「よくなってきた。」

「最初に比べて、赤みがひいてきて。」

ECMOを装着せず別の治療法を試みた40代の重症患者。容体が回復していました。緊張を強いられたままの医療現場。最前線で医療崩壊を食い止めている医師や看護師たちは、どんな思いでいるのでしょうか。

武田
「今の危機感は、どれほどのものなのでしょうか?」

藤谷茂樹医師
「年末年始が明けて、他の病院にも依頼をして、今までコロナの患者を診ていない病院にも、応援要請をしないといけない。今までコロナ患者を診ていない病院で、コロナ患者を診始めるということは、病院がクラスターを発生させる危険性が非常に高くなってくる。これが医療崩壊の本当の始まりになるのではと、非常に危機感を抱いている。」

看護副師長 長屋さん
「明らかに年末に入る前と、状況は変わったかなと思う。」

武田
「まさにギリギリ?」

長屋さん
「ギリギリを超えるのではないかと思う。」

武田
「医療現場と社会の状況には、ギャップがあるようにも感じますが。」

看護師
「ギャップはあると思う。分かってほしいのは、自分が感染している可能性があること。自分の行動で大切な家族が感染してしまった場合、その人の人生は一変することを、よく知ってほしいと思う。」

医療崩壊を防ぐためには?

武田:スタジオには、先ほどまでICUで治療に当たっていた藤谷医師にお越しいただきました。今の医療現場の危機的な実情を直接訴えたいと、忙しい合間を縫ってお越しくださいました。きょうも救急車が、ひっきりなしにやってきているという状況だったそうですね。

ゲスト藤谷茂樹さん(聖マリアンナ医科大学病院 医師)

藤谷さん:本日も、病院を出る前までに15台の救急車が、朝からひっきりなしに来ている状況でした。その中で、1台は受け入れ先がなかなか見つからないということで、2時間3時間もかかってやっと当院にたどり着きました。コロナの疑似症と疑いがある患者さんで、なかなか受け入れ先が見つかりにくくなっている状況で。(その後)その方はコロナ感染症の診断がつきましたが、今後このようなことが起こってくるんじゃないかと思っています。

武田:きょうは国内の新規感染者、重症者、死亡、いずれもこれまでで最も多くなりました。

「医療崩壊ギリギリの状態」とおっしゃっていましたけれども、今、何が起きているのか。藤谷さんの病院で主に診ていらっしゃるのは、こちらの重症の患者さんで、今はほぼ満床。近くの中等症の患者さんを受け入れている病院も満床になりつつあるということですが、このあと状況はどうなる見込みなのでしょうか?

藤谷さん:現在までに神奈川県内の50の病院、施設がクラスターを起こしています。中等症をみる病床がひっ迫している状況で、重症をみる私たちの施設にも中等症の患者を受け入れ要請をされて、とらざるを得ない状況になってきています。重症病床が埋まってくると本来、救急の医療を私たち提供しているんですが、その医療も、一般の市民の方々に提供できなくなってくるというような事態が起こってきます。

武田:重症の患者さんも受け入れられない。それから当然コロナ以外の、ほかの患者さんの救急もやっていらっしゃるわけですよね。

藤谷さん:私たちの施設は、コロナの患者さんもですが、一般の心筋梗塞の患者さんや、頭蓋内出血、外傷の患者さん、脳内出血、そのような重症患者さんを受け入れないといけない施設なので、コロナ患者さんだけではなく、一般の重症患者さんも受け入れないといけないという使命があります。

武田:「医療崩壊ギリギリ」ということでしたけれども、もうそれは始まっているんでしょうか?

藤谷さん:もう、目前まで来ているんじゃないかと思っています。というのは、中等症の病床がもうすでにない状況で、患者さんがたらい回しになる状況になってきています。そうすると、医療の需要と供給のバランスが崩れて、本来治療ができる人たちが治療を受けられなくなる。これが医療崩壊の始まりだと思っています。
12月31日の大みそかに、8名のコロナ患者さんが一気に押し寄せてきて、僕たちの病床もいっぱいになって、「その日、これ以上重症患者さんが来たら、もう診られない」という事態にまでなってきているので、これが今後も爆発的に患者増が続くと、もう医療崩壊になるのではないかと、非常に危機感を抱いています。

武田:それを防ぐために今一番必要なこと、そして一般の人たちに訴えたいことは何でしょうか?

藤谷さん:医療崩壊を防ぐためには、2つのことが必要ではないかと思っています。1つは、「これ以上のコロナ患者さんを発生させない」ということと、「ベッドを確保して、医療の需要と供給のバランスを崩さないようにする」ということが必要じゃないかと思っています。

武田:ベッドを確保する。そのためには何が必要ですか?

藤谷さん:今までベッドを増やすお願いを行政がしてきたんですが、なかなかベッドを増やすことができていない状況にありました。その中で法制度などの見直しをして、何とかベッドを確保できるようにしていかないといけないのではないかと思っています。

武田:そして、一般の人たちに今一番訴えたいことは?

藤谷さん:「3密」ということがよく言われていると思うんですが、もうそれ以上に「飲食に伴う感染のリスクが高い」ということが言われています。私たち医療従事者はマスクを外すのに、ものすごく注意を払っています。マスクをした状態でも感染する人たちが出てきている状況で、皆さんには身近な人であっても、会食をするときは細心の注意を払っていただきたいと思っています。

武田:一人一人の力で乗り切るということですね。