クローズアップ現代

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2020年11月17日(火)
東京五輪は開催できるか ~コロナ禍初の国際大会 舞台裏~

東京五輪は開催できるか
~コロナ禍初の国際大会 舞台裏~

今月15日にIOCのバッハ会長が来日し、いよいよ五輪開催に向け動きが本格化する。しかし、感染対策など課題は山積みだ。そうした中、コロナ禍で初めて海外から選手を招いて体操の国際大会が行われた。一人の感染者も出さずに大会を運営できるかが五輪の試金石となる。入国から行動制限まで徹底した感染対策。五輪は参加選手が1万人以上に及ぶのに対し、今回参加したのはわずか30人、それでも運営側は対策に苦しむ。大会運営の舞台裏に密着し、五輪開催に必要な条件とは何かを探る。

※放送から1週間は「見逃し配信」がご覧になれます。こちらから ⇒https://www.nhk.jp/p/gendai/ts/WV5PLY8R43/

出演者

  • 賀来満夫さん (東北医科薬科大学特任教授)
  • NHK記者
  • 武田真一 (キャスター)

カメラが撮った!国際大会の舞台裏

今回の大会は、IOC=国際オリンピック委員会から、本番への試金石になると伝えられていました。

東京五輪 組織委員会 森喜朗会長
「バッハも喜んでたよ。(大会を)やれるって、先触れになる。」

国際体操連盟 渡辺守成会長
「誰か先陣切らないといけないんで、切り込み隊長で。」

大会を企画し、運営の責任者を務める、国際体操連盟の渡辺守成会長です。

渡辺守成会長
「人生最大のプレッシャーと緊張感ですね。コロナを海外から持ってこない、選手にコロナを発症させないっていう最優先だから、そのリスクがちょっとでも高まるんだったら、全然ちゅうちょせずに中止します。」

この日は、選手団の輸送を担当する航空会社と打ち合わせ。選手は、一般客との接触を避けながらスムーズに入国できなければなりません。

航空会社 担当者
「空港につきましては、可能な限りの隔離動線を(用意)させていただいております。」

空港会社や検疫と協力し、入国検査の新たなスペースを用意。一般客は通れない、オリンピック専用の特別なルートも活用します。

渡辺守成会長
「思った以上にいいよね。すごくやっていただいて、ありがたい。感謝します。」

航空会社 担当者
「まだお客さん少ないからこれできますけどもね。来年のオリパラのときのシミュレーションっていうのが、本当にここまではできないはずなので、お客様が多いはずなので。」

大会には、日本を含む4か国が参加。選手30人が出場します。選手団を通称「バブル」、泡の中のように外部から隔離された状態にします。入国後、14日間の隔離は免除されますが、行動は空港、ホテル競技会場だけに限られます。

開催にあたり、渡辺会長みずから、ロシアなど海外の選手団を訪問。選手に負担がかかることを説明し、それでも大会に参加したいか問いかけました。

渡辺守成会長
「『プレジデント、そんな質問意味がないんじゃないのか』と言われたわけです。オリンピックができるためだったら何でもすると。だから大会をやるんだったら喜んでいくと。自分がオリンピックの扉を開けるんだったら、やりたいんだという気持ちがものすごくひしひしと感じてきて、そのときに、これはやるしかないな、やってあげたいと思いましたね。」

徹底した感染対策は、選手たちにどんな影響をもたらすのか。
チャーター機で日本に向かうロシア選手団です。ロシア国内のPCR検査で感染していないことが確認されたため、マスクをつけていない選手もいます。

撮影に協力してくれた、ニキータ・ナゴルニー選手。去年(2019年)の世界選手権・個人総合で金メダルを獲得した、ロシア体操界のエースです。モスクワを出発して、10時間。選手団専用のスペースで入国に必要な検査を受けます。

ニキータ・ナゴルニー選手
「この黒い線のところまで、容器の中につばを吐きます。順番に後ろの仕切りのところへ行って、提出します。」

PCR検査より早く結果が出る、抗原検査。しかし、人によって唾液を出すのは一苦労です。年配のメンバーは、10分近くかかっても…。

渡辺守成会長
「つば出すのね、結構きついんだよ。やったことないとわかんないだろうけど。ちょっと水あれば。」

担当者
「到着のゾーンで売店はない。持ち込めないんです。」

渡辺守成会長
「水は何かないの。」

担当者
「外に出るまでは…。」

検査開始から、1時間半。選手団には疲労の色が表れていました。

渡辺守成会長
「結果どうだったの?」

担当者
「結果、全員陰性が出ましたので。」

渡辺守成会長
「よかった。」

中国の選手団も到着。日中間の便数が制限されているため、通常の旅客便に同乗せざるを得ませんでした。選手団は防護服を着用。移動中、空港や機内などで感染しウイルスを持ち込まないためです。大連の空港から3時間余り。食事に一切手をつけず、トイレにも立たないまま着陸を待ったといいます。

空港を出てホテルに入っても、選手団には厳しい行動制限が待ち構えています。

ニキータ・ナゴルニー選手
「やれやれ、やっとだよ。本当に待ちに待ったって感じ。これが部屋です。」

選手は全員、外出禁止。ジムやプールなど、ホテル内の施設も利用できません。

ニキータ・ナゴルニー選手
「皆さん見てください、なんてキレイなんだろう。生まれて初めて東京に来たのに、一歩も外出できないなんてクレイジーだよ。」

食事の会場は選手団ごとに区切られ、向かい合って会話を楽しむこともできません。

ニキータ・ナゴルニー選手
「(仕切りの向こうに)アメリカ、中国、日本の選手がいるはずだけど…。」

大皿をみんなで分け合うビュッフェ形式ではなく、料理は個別の皿で提供されます。

ニキータ・ナゴルニー選手
「サラダ、肉、魚、これは衣をつけた野菜とごはん、コーヒー。」

練習不足などで、ベスト体重から4キロオーバーしていたナゴルニー選手。ジムが使えず部屋でシャドーボクシング。さらに…。

ニキータ・ナゴルニー選手
「バスルームをサウナのようにして、もう少し減量します。あす、チョウのように軽やかに舞うためにね。」

厳しい制約の中、本番までに何とか減量を間に合わせました。

ニキータ・ナゴルニー選手
「オリンピックを開催するなら、選手の環境をもっと改善してほしいです。サウナやプールなどを加えてほしい。サウナはわたしにとって、体型を戻すのにもっとも簡単な方法ですから。」

過酷!“毎日PCR” 偽陽性の課題も

今回、選手たちはPCR検査を毎日受けることになりました。朝食の合間、検査会場に呼び出された選手たち。鼻の奥まで綿棒を差し込まれ、粘膜の一部を採取されます。

中国選手団の通訳
「(検査を)もうちょっと、やわらかくやっていただきたいです。」

中国の選手たちは、来日前からPCR検査を受け続けてきました。

中国選手団の通訳
「鼻に炎症が起きている。だからみんな嫌がっている。毎日これやったら、たぶん選手は耐えられない。」

日本選手団は、ホテルに入る2週間前から隔離生活を送ってきました。しかし、内村航平選手に思わぬ事態が待っていました。

国際体操連盟 渡辺守成会長
「残念な報告をすることになりました。内村選手がですね、陽性が出たということでございます。もし日本チーム全体に広がっている可能性があるのであれば、日本チームの参加はやめてもらうということになろうかと思います。」

急きょ、大阪など2つの研究所でも再検査が行われることになりました。検体が運び込まれた大阪市立大学の研究所では、2種類の検査方法を用いて、結果を二重にチェックします。
東京で結果を待っていた渡辺会長。

渡辺守成会長
「わかりました、ありがとうございます。よかったね。内村君、いまのところ『陰性』でした。『偽陽性』だった可能性がある。オリンピックの時、こういうのが当然出てくるので、それをどうするのかいいテストケースだと思う。ほっとしました。」

しかしこの事態で、日本チームは再検査の結果が出るまでの2日間、練習を停止せざるを得ませんでした。

内村航平選手
「もう正直、最初『陽性』と言われたときは、絶対うそだと思いましたね。僕が陽性と出てしまうと、これだけいろんな人に迷惑というか、影響があるんだって知れたし、でもその1%か2%の可能性を引いたのは僕なので、そこはすごく申し訳ないなっていう気持ちが皆さんにありましたね。」

大阪市立大学大学院 医学研究科 城戸康年准教授
「あまり症状のない人に、頻回にPCR検査をするというのは、侵襲もありますので、あまり好ましいことではない。言葉で『陽性』というのは簡単ですが、陽性となってしまった人のその後を考えると、これは非常に重大な問題です。その人の行動というか、運命を変える可能性がある。」

選手たちの思いは

迎えた大会当日。

観客
「鉄棒の着地とか、いろいろな競技を目にしたいです。」
「マスクを二重にしてきょう来たんです、2枚にして。やっぱり(人が)結構ばーっと集まるので心配です。選手は私たち以上にもっと心配でしょうね。」

会場の入り口では、検温や手の消毒が義務づけられました。観客は2,000人に絞られ、前後左右に間隔を空けて座ります。大会スタッフのエリアも厳格に区分けされ、選手との接触を制限。滑り止めも共用は避け、一人一人に用意されました。

開会式では、内村選手とロシアのナゴルニー選手が大会への決意を語りました。

内村航平選手
「きょうは皆さんに、声を出して応援はできないかもしれないですけれど、立ち上がって歓声をあげたいくらいの演技ができればいいなと思っていますので、応援よろしくお願いします。」

ニキータ・ナゴルニー選手
「来年のオリンピックは、どの選手にとっても人生でいちばん大切です。安全に開催できることを、この大会で世界に示したい。」

厳しい制約の中でも、最高のパフォーマンスを発揮しなければならない選手たち。しかし、調整不足の影響か、失敗も目に付きました。
ホテルの自室に籠もって減量に臨んだ、ナゴルニー選手。去年の世界選手権・個人総合で優勝した安定感を発揮します。6種目すべて、足先まで乱れのない正確な技を見せます。
偽陽性の診断に翻弄された内村選手は、特別な思いで演技に臨みました。

内村航平選手
「迷惑をかけた形になるので、他の選手が持っている使命感とかよりも、人一倍、百倍ぐらいですかね。ここでいいパフォーマンスを出せないと、そもそもオリンピックにもつながらない。演技でみんなを引っ張っていく。」

挑むのは、東京オリンピックのために磨いてきた大技、H難度の「ブレットシュナイダー」。去年の世界選手権、金メダルの記録を上回る高得点でした。

感染者を1人も出さず幕を閉じた今回の大会。内村選手は、公の場で初めて、東京オリンピックへの思いを訴えました。

内村航平選手
「日本の国民の皆さんが、オリンピックができないんじゃないかという思いが80%以上超えているっていうのが、非常に残念だというか、しょうがないのかとも思うんですけれど、できないじゃなくて、どうやったらできるかを皆さんで考えて、どうにかできるように、そういう方向に考えを変えてほしいなと僕は思います。」

ナゴルニー選手は、より規模が大きいオリンピックを実現するためにはさらなる議論が必要だと語ります。

ニキータ・ナゴルニー選手
「今回の大会(隔離期間)は4日間でしたが、もしオリンピックで1か月PCR検査をしたら、鼻がおかしくなってしまう。でも必要なことがあれば何でもやります。オリンピックは何よりも大切だから。」

見えた可能性と課題

武田:今回の大会を通じて、オリンピック開催への課題が数多く浮かび上がってきました。プロ野球やJリーグの感染対策に当たっている賀来さんは、開催に向けて2つの条件があるといいます。「世界の感染状況が安定していること」「日本の医療がひっ迫していないこと」。今、再び感染が拡大していますけれども、この2つはやはり必須なんですね。

ゲスト賀来満夫さん(東北医科薬科大学 特任教授)

賀来さん:今、非常に厳しい状況にあると思うんですね。世界の各地でロックダウンがまた行われています。まずは世界の感染状況が安定することが必要です。もう一つは、日本でも今また感染が急拡大してきていますね。日本の医療態勢がひっ迫せず、オリンピック選手を迎えられる、そういった状況を作っておかないと、準備そのものにも影響が出るんだと思います。

武田:一般の人への医療にも、影響が出ないようにしなければいけないということですよね。
今回の大会に対して、東京オリンピックはどんな規模になるのかといいますと、まず競技数と人数は、今回は体操の1競技で選手は30人でした。東京オリンピックはといいますと、33の競技でおよそ1万人の選手がやってきます。そしてPCR検査は、今大会はすべての選手に対して毎日行われました。一方、東京オリンピックは、やはり検討が必要ですよね。

賀来さん:まず、1万人を超える方の検体検査をどうするのか。マンパワーもいりますね。それから、毎日検査をするのか。潜伏期間が5日ですから、より効率的な検査のやり方がないのか。そういったことをしっかり考えていく必要があると思います。

武田:間隔を空けてやるかどうかですね。

賀来さん:ですから、オリンピック専用の検査センターなども作っていく必要があるんじゃないかと思います。

武田:今回、内村選手が大会の医師団によって「偽陽性」と判断されましたが、オリンピックでもこの偽陽性が出てくるのではないか。また、実際に陽性者が出たときにどう対応していくのか、いろんな課題がまだありますね。

賀来さん:偽陽性が出る可能性はあると思うんですね。ですから、より確実な確定診断、その方法を考えていかないといけない。もし陽性者が出たら、これは非常に大きな問題です。プロ野球、Jリーグでも陽性者が出たときの濃厚接触者をどう判断するのか。次の試合ができるのかできないのか、そういった非常に厳しい判断が求められますので、そこもしっかりとした準備をしていかないといけないと思います。

武田:濃厚接触を追跡するというのは、やはり国際大会になると難しいですか?

賀来さん:言葉も違いますからね。ですから、より濃厚接触であるという(判断をする)、AIや機械を使った自動的なものもあるといいと思うんですけれども、非常に難しいと思います。

武田:今回の大会を取材した、オリンピック担当の国武さん。PCR検査や、あるいは周囲と隔離をする「バブル環境」。これは非常に選手にとっては負担になると思うんですけれども、そうした中で十分に力を発揮できるのか、これも課題だと思ったんですが、どうでしょうか?

国武希美記者(スポーツニュース部 五輪担当):今大会では、ホテルの中であってもジムなどが使えずに、調整に苦しんだ選手というのは非常にたくさんいました。選手にとっては極めて厳しい条件だったのかなとは思います。
ただ、こうしたバブルを作って感染対策に当たるというのは、海外でもあるんです。例えば、アメリカのNBAでは、大型リゾート施設をバブルにして、練習場だけでなく、遊具施設も取り込んで、選手をリラックスできる仕組みというのも作ったんです。参考にできる事例だとは思います。ただ、オリンピックは1競技ではなくて33競技の総合大会ですから、その選手村には、さまざまな競技場でプレーをした選手たちが一堂に集まるわけです。バブルをどのように運用していくのかは、まだ多くの課題が残っていると思います。

武田:そしてもうひとつ気になるのが、観客をどうするのかということです。今回、上限を2,000人、国内の観客のみ受け入れました。一方、東京オリンピックはといいますと、来日したバッハ会長と日本側との一連の会談で、観客を受け入れる方針が確認されました。これは海外からの受け入れも含めて、どんな検討状況なんでしょうか。

国武記者:バッハ会長はきのう(16日)の記者会見で、「妥当な数の観客を入れることは可能だと考えるが、安全が最優先だ」と強調しました。海外からの観客を想定して繰り返し強調したのが、ワクチンの開発への期待感です。ただ、このワクチンが現時点で大会までに間に合うかという保証はできません。そして、今月(11月)行われた政府や組織委員会の会議では、外国人観客につい原則14日間の待機を免除する方向で、観客の上限はプロ野球での感染対策の検証を踏まえて決めるとしています。その上で、決めるタイミングは来年(2021年)の春までとなっています。ワクチンを含めて、具体的な対策が来年の春までに示せるのかというのがポイントになると思います。

武田:プロ野球の結果も参考にということでしたけれども、賀来さん、プロ野球やJリーグでは観客を入れて試合が行われていますね。どんな考え方が大切なんでしょうか。

賀来さん:まず、アスリートが優先です。アスリートの安全を確保した上で観客を入れると。ただ、観客を入れる場合は、やはりルール作りが必要です。体調管理、あるいは応援のしかた、そういったことを外国の方にも十分理解してもらう。そういうルール作りをしっかりと行っていかなければいけないと思います。

武田:外国の方も含めて、いかに共有するかと。

賀来さん:言葉の問題もありますし、いろんな文化や感染予防に関する考え方は違うんですけども、それを越えてしっかりとみんなで守っていくことが必要だと思います。

武田:さまざまな懸念もある中で、IOCが開催に向けて動いているのはなぜなんでしょうか?

国武記者:バッハ会長は、「この大会を暗いトンネルの先にある光にしたい」と繰り返し話しています。感染症に苦しむこの世界の中にあっても、スポーツというのが人々の希望になり得るという考えからなんです。
一方で、大会を中止した場合に、4年に一度のオリンピックを失うことになる選手だけではなくて、IOCや大会を開催する日本側にとっても、損失は極めて大きいのではないかという危機感もあると思います。そしてこのタイミングでバッハ会長が来日したのは、菅総理大臣などの日本側のキーマンに会って、開催を必ず実現するんだという意思を確認するためだったと思います。

武田:一方で、反対する声も多く聞かれるわけですね。このコロナ禍の中でのオリンピックのあり方、賀来さんはどんなことが問われているとお考えでしょうか?

賀来さん:私は非常に厳しい状況だとは思うんですけど、日本と世界の国、あるいは国民、アスリートが一体となって連帯・協力して対話していくということは、まさにオリンピックの精神そのものなんですよね。いかにウィズコロナの時代にあって、連携・協力して皆が一丸となってオリンピックを開催していけるのか、そのプロセス、その過程が非常に重要で大きな課題なんですけれども、同時にチャレンジではないかというふうに思います。

武田:私たちが、いかに海外の国や観客や選手みんなで連携・連帯して立ち向かっていけるのか、それがまさに問われる?

賀来さん:感染症対策そのものではないかと思います。