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2020年11月11日(水)

日本で暮らし続けたい
~ルポ“在留資格”のない子どもたち~

日本で暮らし続けたい ~ルポ“在留資格”のない子どもたち~

日本で生まれ育ちながら在留資格がなく、強制送還の対象となっている外国人の子どもたちがいる。全国におよそ300人。難民申請が認められないまま親が長期収容され、別離を経験した子ども。在留資格がないまま日本で働くうちに子どもが生まれ、帰れなくなった家族など。子どもとその家族の声に耳を傾け、日本社会が今、向き合うべき課題を考える。

出演者

  • 鈴木江理子さん (国士舘大学教授)
  • 石井光太さん (ノンフィクション作家)
  • 武田真一 (キャスター)

“在留資格”のない子どもたち

在留資格がなく、仮放免の状態にある子どもたちは、全国におよそ300人いるといわれています。しかし、詳しい実情は分かっていません。

私たちは、弁護士や支援団体などの協力を得て、将来についてどう思っているのか、子どもたちに聞きました。

16歳
“働くこともできないから、将来が不安でしかたない。”

12歳
“20歳になったら自分もつかまってしまうと思って、こわい。”

声を寄せてくれた1人、クルド人のムスタファさん(仮名・16)。日本で育ち、ことし高校1年生になりました。将来の夢はゲームの開発者。しかし、仮放免であるかぎり、その夢をかなえることはできません。

ムスタファさん
「僕と同じ年の男の子がいるとするじゃないですか、日本人の。何が違うって聞かれたら、見た目だけなんですよ。それ以外、全部一緒。普通にいろんなことができるように認めてほしい。」

在留資格のない外国人を巡る問題

武田:さまざまな事情で国外退去に応じられない人々がおかれている、厳しい状況。法にのっとって処分されるべきだということは前提としても、何か手を差し伸べられないものかと思います。こうした外国人の取材も多く手がけている石井さんは、どう受け止められましたか?

ゲスト石井光太さん(作家)

石井さん:日本における外国人の問題というのは、「不可視化」というところが問題だと思うんですね。見えにくいということです。それには、例えば難民を受け入れている数が少ない、日本に来る理由や支援者がばらばらだとか、あるいは本人たちがオーバーステイ(超過滞在)と言わない、そういったことが挙げられます。外国人本人たちも、自分たちが見られていない、知られていないということは分かっていて、入管でハンガーストライキをして、待遇改善とかをアピールするということをしているんですね。それだけ日本の中で見えにくい状況になっているのが、この問題だと思っています。

武田:入管から国外退去処分を受けた人たちの、実は9割以上が、実際には自主的に帰国するか国費で送還されています。残りの1割に満たない人が、何らかの事情があって帰国を拒む人たちで、入管の施設に収容されたり仮放免の状態でいます。その数およそ2,800人、未成年者はおよそ300人です。

仮放免という形で施設から出されても、在留資格がない立場のため仕事をすることが許されないなど、生活上のさまざまな制限を受けているんです。在留資格のない外国人を巡る問題について詳しい鈴木さん。残りの1割の人は、なぜ帰らない、または帰れないんでしょうか?

ゲスト鈴木江理子さん (国士舘大学 教授)

鈴木さん:まず「帰らない」ではなくて、「帰れない」んです。ではどのような帰れない事情があるかというと、大きく2つ。1つは母国の事情。難民申請している。まさにさきほどの家族のようなケースですね。もう1つは国内事情。日本人と結婚するとか、日本で子どもが産まれるなど、生活基盤が日本でできたがために帰れない人たちです。

とりわけ、母国の事情での難民申請者に関して言うと、日本は2019年で認定率が0.4%。国際的に見て極めて低いです。迫害を恐れ、着のみ着のまま日本にやってきて助けを求めた人に対して、その立証責任をすべて本人に求める。非常にハードルが高い。だからなかなか認定されず、結果的に数回にわたって申請しなければいけない。それが長期収容、長期の仮放免をもたらしてしまっています。

武田:その長期化という問題なんですけれども、出入国在留管理庁に聞きました。

(出入国在留管理庁 回答)
「現行制度上は収容も仮放免も、期間が長期化することはそもそも想定されていない。退去強制令書が発布されたら速やかに送還することになっている。送還が出来ない場合は、そのときまで入管施設に収容する。」

武田:ただ一方で見てきたように、現実には長期に滞在する外国人がいます。特に日本で生まれ育った子どもたちについては、何とか支えてあげられないものかと思うんですけれども、こうした現実をどう捉えたらいいのでしょうか。

鈴木さん:まず1つは、先ほど石井さんがおっしゃったように、無関心である、不可視であるということが一番大きいと思うんですよね。多くの人たちにとっては、自分たちと無関係な存在である。したがって「不法」というイメージだけが先行し、講義なんかで学生たちと話しても、当然のように「不法はよくない」と言うんです。けれども、ビデオ等で彼ら彼女らの様子を実際知ることができるようになると、顔の見える存在となって、自分たちと同じように家族があって、スポーツを楽しんだり、将来の夢を抱く、そういった身近な存在になることによって、このままじゃいけないという関心が高まっていくんだと思います。

武田:顔の見える存在。状況が分かるような存在として、まずは捉えないといけないということですね。切実な事情を抱える外国人の中には、労働者として入国して、日本社会の中で長く暮らしている人たちもいます。

“家族全員で在留資格を”

埼玉県で生まれ育った、ガーナ人のミラクルさん(17)。高校2年生です。支援を受ける教会の一角で、両親と暮らしています。この10年、家族全員、仮放免の立場で過ごしてきました。

ミラクルさん
「普通の人間なのに違う扱いをされて、すごい心が痛くなる。」

ミラクルさんの両親が来日したのは、90年代初め。観光ビザで入国し、埼玉のゴム工場で時給670円で働き始めました。
日本はバブル景気以降、深刻な人手不足に陥っていました。労働力として日本の産業を下支えしていたのは、在留資格を失ったオーバーステイの外国人。1993年には30万人近くに上っていました。
当時、オーバーステイの外国人を雇っていたという、家具製造会社です。

家具製造会社 経営者
「汚いとか、しんどいとかあるから、なかなか日本人が入ってこなくなった。人手不足だから“こういう子がおるよ”“ちょうどよかった、おいでおいで”って。」

ミラクルさんの両親がオーバーステイとなって10年がたった、2003年。44歳となった母親に、待望の赤ちゃんが生まれたのです。それがミラクルさんでした。しかし、2010年。入管から摘発を受け、父親は収容されます。母国ガーナとのつながりはもはやなく、日本で生まれ育った娘は日本語しか話せない。帰ることはできませんでした。

母 キシワさん
「ビザないで一緒に暮らす。ルールは、ビザないはダメ。本当に申し訳ないです。」

ミラクルさんの母親は、子ども食堂でボランティアをするなど、地域の活動に積極的に参加してきました。

今、一家が希望を託しているのが「在留特別許可」です。犯罪歴の有無や日本社会への定着度などを考慮して、法務大臣の裁量で決まります。長年つきあいのある近所の男性が嘆願書を集め、日本に残れるよう法務大臣に要望してきました。

輿水雅之さん
「私の親が病気のときに、一晩中、ふた月かな、病院に通ってくれて。夜中も我々仕事あるんで、みてるからいいよってことで。ずっとみててくれて、最期おふくろをみとったのはキシワさん。電話くれてね、一緒に泣いてくれて。オーバーステイの人とはいえ、いい人もいるし、中にはという人もいるんだけど、そういういい人に関しては何かできないかと。」

高齢出産で生まれたミラクルさん。助産師になる夢に向かって、勉強を続けています。しかし去年(2019年)、入管からあることを告げられたといいます。高校卒業後、ミラクルさんには在留資格を認めるものの、両親は帰国させられる可能性が高いというのです。

ミラクルさん
「今は家族3人で日本に暮らすことしか考えてないし、在留資格があげられないとか言われても。」

「ミラクルさんだけ在留資格があるというのは?」

ミラクルさん
「ダメ。家族全員で在留資格をもらわなきゃ意味がない。ずっとここまで(家族で)やってきた。」

在留特別許可 制度の現状は?

武田:不法に滞在して働くということは、認められるべきではありません。一方で、そうした外国人を日本社会が労働力として必要としてきた側面があったこと。そして、そうした人たちが地域に定着して、社会に貢献している現実もあるということを、石井さん、どう捉えればいいと思いますか?

石井さん:本当に90年代半ばまで、そういった外国人を主に3Kと呼ばれている大変な職場で使われてきたわけですよね。しかしバブルが崩壊してその人たちが失業してしまった。そうなったときに、彼らは生きるために犯罪を犯してしまったり、あるいは悪い日本人に利用されてしまったりしたわけです。そういったことがあったからこそ、オーバーステイの人たち=悪という図式になってしまったわけですよね。だけどその一方で、ミラクルさんのお母さんのように、必死になって地元に根づいて、正しいことをやって子育てをしてきた人たちもたくさんいるわけです。そういった人たちを、不法滞在=悪という物差しだけで考えていいのかという議論はあると思うんですね。僕は、そこはきちんと考えなければならない論点かなと思っています。

武田:法は法ですけれども、議論はしてもいいんじゃないかと。

石井さん:未来の議論ということですよね。

武田:事実上、こうして根を張っている家族が日本に滞在するためには、在留特別許可というものがあります。これが認められるために何が必要なのか。出入国在留管理庁にたずねたところ、このように回答がありました。

(出入国在留管理庁 回答)
「定着性について考慮はするが、それだけで判断するものではない。犯罪歴など消極的な要素と、人道上の配慮など、積極的な要素を総合的に判断する。」

武田:在留特別許可が認められるケース、現状はどうなんでしょう?どう評価されていますか?

鈴木さん:まず最初に明らかにしておかなければいけないこととして、在留特別許可というのは入管法に規定されたものであって、超法規的なものではないです。その上で、どんな人かといったときに、法律上は法務大臣の裁量となっていてブラックボックスだったんですね。それではいけないよということで、許可・不許可事例がホームページで公表されたり、今のような積極要素・消極要素がガイドラインで示されるようになってきました。したがって、明確化はしているんですが、やはり裁量の部分は残っていまして、例えば10年前だったら認められたであろうという事例が、不許可になってしまうというようなことがあります。そういった部分は直していかなければいけないと思いますね。

議論はじまる法改正 その行方は?

武田:こうした中で、入管法を改正して、長期収容の問題や入管制度のあり方を見直そうという動きが、法務省の中で今始まっています。専門家の提言をもとに行われている議論のポイントです。
まず、収容せずに、入管庁が認めた団体などの管理のもとで社会生活を認めるという制度を作る。それから、在留特別許可の申請からの手続きなどを法律で明記する。そして、許可の要件を明示するなどの適正化を行う。そして、送還を拒否した人や、仮放免中に逃亡した人に対する刑事罰を導入する。さらに、現在難民認定の手続き中は送還が停止されているということになっているんですが、それを何度も申請する人を例外的に送還できるようにする。こういったポイントで議論がされています。鈴木さん、収容せずに暮らせるという道が広がるようにも見えるんですけれども、一方でルールを厳しくしようという動きもありますね。これはどうご覧になっていますか?

鈴木さん:まず、これは専門部会からの提言であって、どのような形で入管法に反映されるかが分からないので、詳しいことがまだ不透明な部分はあるんですけれども、少なくとも(3)と(4)に関しては、帰れない事情を考慮するというよりも、まず排除ということがありきになっています。とりわけ(4)については、ただでさえ低い難民認定率の中で、難民申請者を送還可能にするということは、非常に大きな問題をはらんでいると思います。(1)と(2)に関しては、どのような制度設計になるかによって評価が分かれると思うんですけれども、どのように作るかといったときに、人権の問題、そして人間として尊厳を持って生きられる、それが基本でなければいけないと思うんです。

武田:こうした議論の行方は、きょう見てきた子どもたちの未来も大きく左右すると思うんですけれども、外国人と共生する社会のあり方、どう考えればいいんでしょう?

鈴木さん:まず、帰れない事情にしっかりと耳を傾けるということ。それは本人たちだけではなくて、地域の人たちも同じような声をあげていくべきだと思います。そしてまた、帰れないというのは本人たちだけの責任ではなく、労働力を必要としてきた日本社会、それに対してしっかりと答えてこなかった外国人政策の過去があると思います。そういったことを踏まえて、今一度彼ら彼女らとどう向き合っていくか。排除ではなく、ともに生きるために、子どもたちが夢を抱けるように、そして親も一緒に暮らせるように。そして家族がなかったとしても、日本社会とつながりを持った人がこの社会で生きていけるように。そうしていくことがまず重要だと思います。

石井さん:子どもと話をしていて、「報われないことが一番つらい」という言い方をするんですよね。ミラクルさんの場合ですと、一生懸命、助産師を目指して頑張っている。にもかかわらず、お父さんお母さんと別れさせられてしまう。そんな社会のあり方がいいのかという問題があると思うんです。日本はきちんと、これから共生社会、多様性社会ということを目指すのであれば、オーバーステイ=悪という物差しだけではなくて、彼らが一生懸命歩んできたところを見つめて、そしてその上で判断して、在留許可を出す前にどうするのがいいのかということを考えるべきだと思っているし、今後の法改正においても、そういった多様な物差しが必要になってくると思っています。

武田:一人一人が報われると思えるような社会につながるようにということですね。

※その後の取材に基づき、記事の一部を削除しました(2024年4日3日追記)

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