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2020年10月6日(火)

混とん アメリカ大統領選挙の行方

混とん アメリカ大統領選挙の行方

アメリカ大統領選挙が1か月後に迫る中、再選を目指すトランプ大統領が新型コロナウイルスに感染。世界に衝撃が走っている。これまで感染防止対策より経済の再開を優先する立場を明確にし、民主党のバイデン候補への追い上げを図ってきたトランプ大統領。自身の感染は今後の選挙戦にどう影響するのか。番組ではトランプ陣営に助言を行うキーマンや支持者を取材。混とんとする大統領選挙の行方を見つめる。

出演者

  • 中山俊宏さん (慶應義塾大学・総合政策学部 教授)
  • 武田真一 (キャスター)

トランプ氏感染 キーマンが明かした今後の戦略

退院の半日ほど前から、立て続けにツイッターを投稿したトランプ大統領。株価の上昇や、みずからが実現した大規模な減税。病院からでも経済を重視する姿勢をアピールしました。

取材:岡野杏有子(国際部)

その方針を助言していた人物が、今回、NHKの取材に答えました。共和党に強い影響力を持つとされる、ノーキスト氏です。歴代の政権の政策決定にも影響を与えてきました。

保守系ロビー団体代表 グローバー・ノーキスト氏
「レーガン大統領のために、マサチューセッツ州で勝利を勝ち取ったこともある。」

大統領の感染が分かったあとも、再選への戦略についてアドバイスを続けていました。

グローバー・ノーキスト氏
「メディアは経済ではなく、新型ウイルスのことばかり報道している。バイデン氏とたたかう際には、とにかく経済に集中し、実績だけを強調するよう助言した。」

今、ノーキスト氏が最も危惧しているのは、大統領自身が感染したことによって、選挙の争点が新型ウイルスの対策に絞られていくことです。アメリカでは死者が21万人を超え、世界最悪の感染状況が続いています。
民主党のバイデン候補は、感染防止対策を重視。集会もオンラインで開いてきました。これまで支持率では常にトランプ大統領をリード。現在、8ポイント以上差をつけています。

きょう(6日)行った演説でも、「大統領には国民を感染から守ろうという姿勢が見られない」と強く批判しました。

民主党 バイデン前副大統領
「大統領は選挙のためのツイートで忙しいようだ。科学者の声を聞き、マスクの着用を重視するようにと言いたい。」

トランプ大統領が経済を優先すれば勝利は揺るぎないと、これまで自信を示してきたノーキスト氏。どうすれば今の逆境を乗り越えられるのか、焦りをにじませていました。

「再選される自信は?」

グローバー・ノーキスト氏
「可能性は半々だ。大統領は遅れをとっている。ぐずぐずしてはいられない。」

こうした中でノーキスト氏が重視しているのが、共和党支持者の生の声です。独自に構築した保守系のネットワークを通じて、毎週報告を受けています。

モンタナ州の政治団体
“雇用が増えている地域と、取り残されている地域の間で格差が広がっている。”

ミシガン州選出の下院議員
“州政府には規制を緩和し、仕事に戻れるようにしてほしい。”

「経済活動を再開させてほしい」という切実な声。

グローバー・ノーキスト氏
「報告ありがとう。重要な選挙戦だ。」

世論調査でも、感染の拡大が長期化する中、共和党支持者の間では経済を最も重視するという声が高まっているのです。

ノーキスト氏は、トランプ大統領が勝利するには支持者に確実に投票してもらい、さらなる票の取り込みが欠かせないといいます。

グローバー・ノーキスト氏
「経済の話題は、より多くの有権者に響く。有権者の4割は大統領のたたかう姿が好きで、彼らには軽く挨拶をしておくだけで十分だ。しかし10~12%の上積みが必要だ。経済を理由に支持する無党派層もいる。大統領にはまだ隠れた票を掘り起こし、自分に投票させるチャンスがある。」

トランプ大統領の方針に強く賛同している人が、激戦州・ミシガン州にいます。
理髪店を営むカール・マンキさんは、ある出来事をきっかけに、トランプ支持者の象徴的存在として知られるようになりました。

「お会いできて光栄です。」

理髪店 店主 カール・マンキさん
「わざわざありがとう。」

「どれくらいかけて来たのですか?」

「9時間です。どうしても僕のヒーローに会いたかったからね。」

感染が広がり始めた3月、ミシガン州では民主党知事の命令によって経済活動は厳しく制限され、ほとんどの店が営業できなくなりました。そうした中、知事の命令に背き、いち早く店を再開したのがマンキさんでした。

カール・マンキさん
「私は6週間、まったく収入がなかった。商売を始めて59年になるが、こんなことは初めてだ。仕事に戻らなければならない。信じられないほどの応援をありがとう。」

マンキさんは警察の捜査を受けましたが、法廷闘争の末、営業再開の正式な許可を勝ち取りました。

カール・マンキさん
「たいへんな夏でしたね。」

今、マンキさんの店には、その訴えに共感する人たちが集まるようになっています。マンキさんは、大統領が個人の経済活動の自由を守ってくれることが何より重要だと考えています。

カール・マンキさん
「政府が個人の商売に介入しないという姿勢が好きだ。“自由のためなら命をかける”、それがこの国の価値観だ。“私たちアメリカ人のアイデンティティーを取り戻そう”、大統領の言っていることの本質はそれなんだ。」

ノーキスト氏は、今後トランプ大統領のメッセージをどう広く市民に届けていけるかが、再選の鍵を握っているとみています。

グローバー・ノーキスト氏
「副大統領があちこち遊説に回ることになる。大統領は密を避け、1人でステージに立ち、スクリーンに登場すればいい。医師から安全のお墨付きをもらったら、大統領はすぐに選挙戦に復帰するだろう。」

トランプ氏は今? 現地最新情報

武田:ワシントンの油井支局長に聞きます。トランプ大統領の体調に関心が集まっていますが、退院から一夜明けて、新しい情報は入っていますか?

油井秀樹支局長(ワシントン支局):トランプ大統領は、退院から一夜明けて、朝からツイートを続けています。民主党のバイデン候補を批判するなどして、みずからの回復ぶりをアピールしています。ただ、一時は深刻とも言える状況だっただけに、医師団は完全に危機を脱したわけではないと慎重な見方も示していて、引き続き24時間態勢で警戒にあたっているんです。

実は側近の間でも、完全に回復するまでは入院しておくべきだったという意見が強かったんです。みずから感染し、その後、回復したオブライエン大統領補佐官も、1週間後に症状が再び悪化する可能性があるとして、早期退院には否定的な考えを示していたんです。しかし、大統領はこうした声を押し切って退院した形で、メディアは大統領が新型コロナウイルスを軽視していると批判的に伝えています。

武田:入院から僅か4日目で退院して、ホワイトハウスに戻る姿を見せたわけですけれども、これはどういう狙いがあるんでしょうか?

油井支局長:新型コロナウイルスに決して負けないという姿勢を、身をもって示したかったんだろうと思います。選挙まで1か月を切り、いつにも増して、みずからのイメージを重視し、強い指導者像をアピールする狙いだと思います。トランプ大統領はこれまでも、民主党のバイデン氏が新型コロナウイルスに過剰におびえていると批判し、バイデン氏が大統領になれば都市が封鎖され、経済は崩壊すると訴えてきました。
その一方で、支持率でバイデン氏にリードされていることから、早期の退院は焦りの裏返しとも言えると思います。共和・民主の分断が深まる中で、大半の有権者はすでに意中の候補者を決めているとされていますが、投票先を決めていないごく一部の有権者が勝敗を決する可能性もあります。トランプ大統領としては、強い経済や楽観的な未来を訴えることで、支持を広げたいところなんです。ただ、健康状態に不安を抱えたままでの選挙活動は、いわば捨て身の戦法ともいえ、大統領にとっては大きなかけとも言えます。

世論は?選挙戦略は?

武田:アメリカ政治が専門の中山さん。まずこの時期でのトランプ大統領の感染これはどういうふうに受け止められましたか?

ゲスト中山俊宏さん(慶應義塾大学 教授)

中山さん:ことし(2020年)は驚かないだろうなと思ってたんですけれども、大統領選挙の前の10月に何か起こることを「オクトーバーサプライズ」といいますけども、やはりそうした形で、大統領の新型コロナ感染が来たのかという。ただ、まだ何か起きそうな感じもありますけれどもね。

武田:トランプ大統領の感染が、アメリカではどう見られているのかということですけれども、最新の世論調査では、大統領が感染のリスクを「真剣に受け止めていなかった」と答えた人が72%。大統領のこれまでの新型ウイルスへの対応を「評価しない」と答えた人が64%で、「評価する」と答えた人を大きく上回っています。世論調査ではこんな結果が出ているわけですけれども、これはやはり今後のトランプ大統領の選挙戦略に影響しますよね。

中山さん:当然すると思いますね。トランプ大統領は国民から見て、コロナウイルス対策ということでは、やはり十分ではなかったという。共和党と民主党で受けとめ方は違うんですけれども、当然のことながら民主党のほうがコロナに関する危機感が高いんですが、当然トランプ大統領にしてみると、自分が有利に持っていける経済のほうに、選挙の軸を移したかった。ですから、コロナ選挙じゃなくて経済を巡る選挙にするんだと。
それからもう一つは、アメリカでの人種を巡る騒動が問題になっていますけれども、人種問題についてもトランプ大統領の評価は決して高くないので、人種問題が引き起こした混乱に対して、自分は法と秩序を重視するんだという。この「法と秩序」と「経済」というので戦おうとしていたんですけれども、自身が感染してしまったことによって、その構図が大きく崩れて、どうしても「コロナ選挙」になってしまっている。ノーキスト氏が勝利の可能性は半々だというふうに言ってましたけれども、もっと厳しく見ていると思いますね。

武田:ただ、それでもなお経済を優先するという方針が揺るがないわけですね。これはどうなんでしょうか。功を奏するでしょうか。

中山さん:強みがほかに今のところないという。もちろん接戦州でみれば、かなりまだ接戦状態が続いていますけれども、それでも少しずつ開いてきているという状況があり、トランプ大統領としては、とにかく自分が有利なほうに持っていきたい。自身が新型コロナウイルスに感染したことによって、大統領が得意なキャンペーン、イベントができなくなると思うんですね。あそこでとにかくエネルギーを蓄えて選挙戦に持っていくというのが、彼が描いていた構図だと思うんですけど、それができなくなっているということが相当響いていると思いますね。

武田:一方の民主党側なんですけれども、大統領の感染を受けてどう出てくるでしょう?

中山さん:民主党としては、とにかくトランプ政権の無責任さというのを前面に押し出すんだと思いますね。トランプ大統領だけならまだしも、トランプ政権の相当、中枢部分が感染しているわけですから、これまで「新型コロナウイルスというのは大したことない」というメッセージを事実上伝えていたので、そこの部分をついてやはり無責任だと。「多くのアメリカ人が感じている痛みが分かっていない」という構図に持ち込もうとするのではないでしょうか。

武田:今後の日程を見ていきたいと思うんですけれども。まず、今月(10月)の15日に2回目の討論会が開かれます。アメリカの複数のメディアは、トランプ陣営の話として、トランプ大統領は参加する意向を示しているというふうに伝えています。そして22日に3回目の討論会、来月(11月)3日に投票日を迎えるというスケジュールになっているわけです。今バイデン氏がリードしていますけれども、選挙戦はこのままバイデン氏のリードが続くのか、鍵となるのは何でしょうか?

中山さん:トランプ陣営が大きく票を伸ばしていくということは難しいと思うんですよね。4年間トランプ大統領を見てきて、アメリカを真っ二つに割っている状況もあり、自分を支持する基盤を固めるという戦い方を、基本的にトランプ大統領はすると思うんですね。民主党のほうは、そのトランプ大統領を再選させてはいけないということで、一つにまとまっている感じがあるんですけれども、バイデン候補に対する熱気みたいなものは無いですね。ただ、不安みたいなものはあって、それはやっぱりバイデン大統領の高齢であるとか、何か失言があるんじゃないかとか。そういうのをバイデン候補が繰り返していくと、バイデン支持が崩れていく可能性がある。ですから、バイデン候補のほうが失敗せずに、無難に選挙までどうにか持ち込めれば、有利に戦えるというような構図なのではないでしょうか。

武田:一方でトランプ大統領の体調も、もちろんこれは大きな鍵ですよね。

中山さん:そうですね。これは2つパターンがあって、悪化せずに回復したということを示せれば、自分が言ってきたように民主党は少し騒ぎ過ぎだと、新型コロナウイルスというのはどうにかなるんだということで、逆に支持を固めていくことができるでしょうし。もし仮に重症化するようなことがあれば、これはもう選挙の構図そのものが変わっていって、ペンス副大統領で共和党を戦わざるを得ないという状況になるかもしれないですよね。

武田:混迷を深める大統領選挙、さらに、投票が終わっても長期間にわたって勝者が決まらないという、アメリカ史上前例のない事態も危惧されています。

混迷は投票日以降も?前代未聞の混乱も…

なぜ異例の事態が危惧されるのか。それは、郵便投票を巡り、混乱が予想されているからです。

男性
「これが投票用紙だ。ここに大統領候補の名前がある。」

投票所に行かなくても投票できる、郵便投票。大統領の新型ウイルス感染で一段と関心が集まり、今回、投票総数の3分の1に上るとも言われています。

すでに一部の州では始まっており、3月に感染したというこの男性も、早々と郵便で投票しました。

男性
「これで完了です。今後、感染が広がれば、皆きっと郵便投票をすると思います。」

この郵便投票を巡って、両候補は激しく対立してきました。

アメリカ トランプ大統領
「(郵便投票は)不正選挙だ。何万もの投票用紙が操作されているなら受け入れられない。」

民主党 バイデン前副大統領
「郵便投票が不正の原因になる証拠は全くない。皆さんにとって一番いい方法で投票してください。」

民主党は、この郵便投票の拡大を訴えてきました。民主党支持者には、投票率が低いマイノリティーや若者が多いため、郵便投票で投票率が上がれば有利になるという見方もあります。

「郵便投票をする予定ですか?」

「はい。」

「すばらしい。できるだけ早く投かんしたほうがいいですよ。」

ペンシルベニア州ノーサンプトン郡 民主党支部長 マシュー・マンジーさん
「民主党支持者が安全に投票できるようにしたいです。あらゆる方法で呼びかけていくつもりです。」

郵便投票を巡る対立の渦中にあるのが、大統領が任命した郵政公社のトップ、ディジョイ氏。郵便投票を妨害しているのではないかと批判されています。大統領の大口献金者として知られ、6月に就任しました。赤字削減を理由に、郵便物の仕分け機やポストを次々に撤去し、職員の残業時間も削減。その後、こうした見直しが原因と見られる配達の遅れが頻発。一部で混乱も起きています。
郵便投票の制度が骨抜きにされる。民主党の支持者は各地で抗議の声を上げています。

「投票用紙が期日までに配達されず、多くの票が集計されないのではないかと心配です。民主主義にとっても、この国にとっても、非常に悪いことです。」

郵便投票を巡って深まる対立。郵便投票は集計に時間がかかり、投票が終わっても、長期間、勝者が決まらない可能性もあります。

アマースト大学 ローレンス・ダグラス教授
「郵便投票の集計をめぐる争いを解決するために、最後は最高裁判所が介入せざるを得なくなるかもしれません。」

トランプ大統領は、そんな展開を見据えているのではないかともいわれる行動に出ました。先月(9月)下旬、新たな最高裁の判事に保守派のバレット氏を指名。投票日までに、議会の承認を取り付けたい考えを示したのです。最高裁判事は9人。バレット氏が議会で承認されれば、保守派が6人、リベラル派が3人と、保守派が圧倒的多数となります。トランプ大統領が郵便投票の結果を待たずに勝利を宣言したり、状況次第で法廷闘争に持ち込んだりする可能性もあると、専門家は指摘します。

ローレンス・ダグラス教授
「トランプ大統領が11月3日時点で自分がリードしていたということを根拠に、『再選が決まった』と主張するのではないかと多くの専門家たちが懸念しています。後日、郵便投票の開票が進むと、大統領は『ほら見ろ私が言ったとおりだ。民主党によって不正操作されている』と言うでしょう。もし結果が僅差だった場合、投票日から1月20日の就任式までのあいだ、アメリカは歴史に残る不安定な時期になるでしょう。」

現地の受け止めは?

武田:大きな混乱が予想される選挙となっていますけれども、これからどうなっていくのか。そちらの受け止めはどんな空気感ですか?

油井支局長:トランプ大統領の下のアメリカでは、何が起きてもおかしくないと考えている人が多いです。郵便投票の増加に伴い、勝者が直ちには判明しない可能性が高いと見られているほか、勝敗が明確に決まらず、もはや法廷闘争に持ち込まれるのは避けられないと懸念する人も増えているんです。現に、共和党、民主党ともに優秀な弁護士を全米から集めていまして、法廷闘争の準備を進めているとも言われています。
すでに各地では郵便投票のルールを巡って、両陣営が“前哨戦”とも言える裁判も起こしているんです。投票日当日に特別な態勢をとって大きく報道する大手メディアも、あらゆる事態を想定して準備を進めていると話しています。まさに前代未聞の異例ずくめの選挙に向けて、各方面で戦々恐々とした空気がみなぎっている状況なんです。

異例の選挙 行方は?

武田:中山さん、大統領が選挙の結果を受け入れないというようなことが、現実にあり得るんでしょうか?

中山さん:2016年も、実はそう言っていたんですよね。その時は自分が勝ったので、こういうことにはならなかったんですけど。2016年のことがあったので、ことしも「大統領、あなたは選挙の結果を受けとめれるんですか」と何度か公の場で聞かれてるんですけれども、明言は避けています。それどころか、郵便投票というのは不正の温床だと。必ずしもそうした証拠は無いんですけれども、でも、とにかくそういうことを仕込んでおいて、選挙後、「不正だ」と言えるように準備をしているという印象を持たざるを得ないですよね。ですから、そういう不安というのは今非常に大きいと思いますよ。

武田:大統領を選ぶという民主主義の根幹に、疑義が生じるというような状況にもなりかねないと。

中山さん:そうですね。アメリカの11月3日が選挙日、「エレクションデー」ということで定められているんですけども、ことしは郵便投票が多いため時間がかかってしまうので、恐らくその日には結果が出ないだろうと。ですから、場合によっては「エレクション“ウイーク=週”」ですね。もうちょっと混乱すると「エレクション“マンス=月”」になるということを覚悟しなければいけないだろうと。長期化すればするほど、大統領が「やはり俺が言ったとおり、これは不正が行われている」といった形で、結果に疑義を呈するんだろうと思うんですよね。
仮に年を越えて、1月20日まで誰が大統領かというのがはっきり分からないような状況、もしくは混乱が続いているような状況ですと、この大統領を選ぶという非常に重要な選挙のプロセス、それからアメリカという民主主義という制度に対する、ある種、正当性の感覚というのが大きく揺らいでいくんじゃないかということが懸念されますね。

武田:あまりにも異例の選挙になりそうなんですけれども、最終的にどちらが勝利するにしても、将来に大きな禍根が残るような予感もするんですが、いかがですか?

中山さん:いずれが勝っても、分断というのは残るような気がするんですね。トランプ大統領が勝ちますと、2016年よりも多分インパクトが大きいと思うんですよ。2016年から4年たって、4年間のトランプ政権を体験してもなお、トランプ政権をもう一度選ぶということになると、やっぱりアメリカ人の自画像と、それから世界がアメリカを見る目というのが決定的に変わると思うんですね。
それから仮にバイデン政権が誕生したとしても、民主党の中にも亀裂がありますし、それからトランプをサポートした人たちも、なかなか受け入れられないということで分断が非常に深まって、ある種アメリカがちょっと、機能停止というと強すぎるかもしれないですけど、相当強く混乱すると。
今、世界中である種、「民主主義」と「デモクラシー」と「権威主義」のせめぎ合いみたいなものが行われていて、やはりアメリカというのはいろいろ問題はありますけども、常に民主主義の最後のとりでみたいな役割を果たしてきたんだと思います。ところが、その選挙一つまともにできないという。ある意味、この前のディベートも相当混乱して、こんなことを大統領どうしのディベートでやるのかという印象を植えつけましたけど、それをはるかに超えて、選挙一つまともにできないのかということになりますと、今、世界で権威主義と民主主義のせめぎ合いが起きていく中、民主主義って将来大丈夫なんだろうかという不安がかなり高まっていく、そんな状況が発生するということも考えられると思うんですね。

武田:アメリカ一国の政治の問題だけではなくて、これはまさに歴史の大きな転換点になる可能性があると。

中山さん:恐らくそういう混乱をさらに増幅させるために、諸外国の介入なんてものもありますから。今回の選挙を、アメリカはしっかり乗り切ってほしいという観点で見ていきたいと思いますね。

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