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2020年9月30日(水)

“夜の街”と呼ばれて
~新宿 歌舞伎町~

“夜の街”と呼ばれて ~新宿 歌舞伎町~

全国に広がる新型コロナウイルス。政府や自治体が警戒を呼びかけたのが、いわゆる“夜の街”と呼ばれる歓楽街だ。新宿・歌舞伎町でも世間の風当たりが強まり、客足は激減。感染対策を徹底しながら営業を続けるホストクラブや飲食店でも、先の見えない苦境が続いている。一方、新宿区は街の存続をはかるため、経済と感染予防の両立を模索。街ぐるみでこの難局を乗り越えようとしている。番組では、50年の歴史をもつ老舗ホストクラブや、夜間保育園、新宿区と事業者の取り組みに密着。“夜の街”と呼ばれる場所で生きる人たちの声に耳を傾ける。

出演者

  • 武田真一 (キャスター)

“夜の街”と呼ばれて~新宿 歌舞伎町~

東京都内で感染者数が400人を超える日もあった、8月上旬。ホストたちが店の移転準備をしていました。創業およそ50年。街で最も古いホストクラブとして知られる、愛本店です。

ビルの老朽化による移転。しかし、新型コロナウイルスの影響で収益が見込めず、店の規模を縮小しました。

ホストクラブ 愛本店 運営本部 ひばりさん
「対策について一点、お伺いしたいことがございまして。」

新しい店で最も力を入れているのが、感染対策です。換気を促すサーキュレーターの設置や、抗菌のために店全体をコーティング。

ひばりさん
「『つぶれてしまえ』だったり、『いらない』とか言われることが多いんですね。何とかガイドラインに沿って感染予防をしながら、営業をしていくしかないですね。」

東京都では、緊急事態宣言が解除された直後から感染者数が再び増加。6月上旬には、ホストクラブなど、接待を伴う飲食店の関係者が感染者の4割を超えました。

新宿区では、多くのホストクラブが調査に応じ、結果として多数の感染者が確認されました。この愛本店でも、7月に感染者が出ました。その一人、内勤スタッフのはな。さんです。

ホストクラブ 愛本店 はな。さん
「すみません、ご迷惑をおかけして。本当に死んじゃうかと思った。まさか自分が、自分のまわりで一番重症の人間になると思わなかった。」

「うちのホストたちも、メンバーも絶対怖いんですよね。もちろんお客様にうつすことになったら、もっと怖いですよ。だけど、仕事をしないと生きていけないし、生活もできないし。なんかもう、あっちを取ればこっちを失う、こっちを取ればあっちを失う、ほんとに八方塞がりなんです。」

「起立。気を付け。おはようございます!」

ホストクラブ 愛本店 代表 壱さん
「自分たちの気持ち、愛本店の愛、合わせて『気愛』。この『気愛』を持って本日から挑んでいけたらなと思います。」

開店を待ち望んでいた客が、次々来店します。

バー店員
「そういう時期でも、言いづらいこととか自分の話したいこととか、なんでも受け入れてくれる。」

接客業
「みんな仕事とか不安とか抱えてると思うんですけど、そういうのを少しでも忘れたいっていうのもあるのかなあって…。」

壱さん
「ホストクラブに行くのありえないと世の中に思われたとしても、(お客には)行き場がない。居場所って言ったら壮大な感じになっちゃうのかもしれないんですけど、こういう時代だからこそ肩を寄せられる場所でありたい。」

“夜の街”という言葉がもたらした影響

“夜の街”という言葉は、歌舞伎町のあらゆる業種に深刻な影響をもたらしていました。24時間営業の生花店では、ホストクラブやキャバクラに客が集まらない影響を受け、売り上げが激減したといいます。

店長 宅野貴洋さん
「最悪なときは9割くらい(売り上げが)ない状態。ひとりしか来なかったときもあったし、お客さん。元々悪いイメージが強いせいで言われちゃったのもあるかなと思うけど、ただ名指しはよくない。歌舞伎町を封鎖しろという投稿も見たことあるし。」

こちらは、飲食の激戦区歌舞伎町で30年続く居酒屋。売り上げは4分の1に落ち込みました。夜の街がメディアで話題になる度に、予約が取り消されたといいます。

店長 北澤直樹さん
「夜の街=歌舞伎町みたいな言い方をされて、飲み屋=歌舞伎町。歌舞伎町だけで(感染者)出てるみたいな言い方を一時されたんで、もう全然そのイメージは回復されないですよね。」

この日、1組だけ入っていた予約客から電話が入りました。

北澤直樹さん
「キャンセルですね。『会食の自粛を』というのを言われたみたいで、会社から。」

若者たちの雇用にも、深刻な影響が出ていました。

歌舞伎町で3軒のバーを経営 大橋悠介さん
「新型コロナによって離れていったスタッフもいるけど、それはそれで受け入れるしかないことだから。」

歌舞伎町で3軒のバーを経営するこの会社では、売り上げが半減。アルバイトの若者10人を雇い続けることができませんでした。

大橋悠介さん
「自殺だったり犯罪だったり、そういった数が増えてると思うけど、その中の一定数に入ってしまったらどうしようという不安は毎日のように考えますね。シニアを自粛させて、若者に対しては経済活動を回させ続ける構図がないと、失業者もこれからもっと増えてしまう。」

歌舞伎町に人生を懸ける

リニューアルオープンした愛本店。売り上げは目標の半分ほどの日が続いていました。

「上半期、栄えあるナンバーワンに輝いたのは…レオン取締役!」

ホストクラブ 愛本店 渦巻レオンさん
「絶対に年間で10位に入るという気持ちを持って、みんなやってほしい。僕も絶対負ける気ないんで、やれるとこまで精いっぱい頑張っていこうと思ってます。」

渦巻レオンさん。このコロナ禍店の売り上げを支えてきました。

渦巻レオンさん
「ちゃんと体気をつけてね。ほんとフルで働いてるもんね。ホストがあり続ける限り、ヘアーセットは君臨し続ける。」

ヘアーセット担当
「でも、ホストってなくなると思う?なくなんないと思う?」

渦巻レオンさん
「でもなくなんないと思うよ、俺は。だってオアシスだもん、ホストって。」

4年前まで、地元・愛知県のバーで働いていたレオンさん。ホストになって一旗揚げたいと、歌舞伎町にやって来ました。

渦巻レオンさん
「もともとお金持ちのおうちじゃなかったんです。貧乏な家庭で。小学生ぐらいのときから片親なんで、お母さんが必死に育てていただいたっていうのもすごいあって、自分の家庭も楽に過ごさせてあげたいなと思ったので、きっかけはそこですね。歌舞伎町ドリーム。夢だなっていうのはあるんで。そういうのをつかめるのも歌舞伎町しかないかなと思います。」

ホスト歴1年8か月、ひゅーがさんも歌舞伎町に人生を懸ける一人です。

「ご飯なんですか?」

ホストクラブ 愛本店 ひゅーがさん
「晩ご飯です。」

「さびしいですね。」

ひゅーがさん
「こんなもんですよ(笑)。」

ひゅーがさんは、店のホストたちと3人で寮生活をしています。

ホストになる前は、地元の熊本で林業の仕事をしていました。歌舞伎町に出てきたのは、2年前のある出来事がきっかけでした。

ひゅーがさん
「弟、亡くなっちゃったんですよ。原因が分からないって言われて。仕事行ってる途中に連絡来て、(母親が)『弟がもうだめかもしれん』て言いだして。そしたら『やっぱだめだった』って、『寝ててそのまま』って。どんだけいいことしても、どんだけいい人でも、人は死ぬときは死ぬじゃないですか。だったら、きつい思いとかじゃないですけど、なるべく嫌なこともしたくないし、嫌な思いもしたくないし、悔いのないように生きてます。」

「それはやっぱり、ホストをするっていうことも?」

ひゅーがさん
「そうですね、やってみたいって、やっぱ思ってたからですね。田舎だし、ぼく住んでたの。なかったからですね、こういうお仕事をする場所が。」

この日、ひゅーがさんに指名が入りました。公務員をしているという女性。どうしても会いたいとやって来ました。

女性
「彼がいないと私も困るし。自粛期間中にお給料が出なくってつらそうな姿とか見てて、私も助けてもらってるからこそ、私も助けてあげたい。」

ひゅーがさん
「仕事で一番大事なのは、楽しむことだと思ってる。自分が楽しむとお客さんも楽しくなってくれるし、自分が落ち込んでるとお客さんも落ち込んじゃう。つらいこともつらいって言わないようにしてますね。ニコニコ、常にニコニコしてます。」

消えない“夜の街”のレッテル

8月下旬、新宿区役所に飲食関連の経営者などが集まり、感染予防の勉強会が開かれました。

この会合は6月から始まり、ホストクラブ、キャバクラ、風俗店など、感染対策に積極的な経営者などが参加してきました。
この日、感染者が減っているという報告がありました。

新宿保健所 所長 髙橋郁美さん
「ほんとにホストクラブさんの(感染者の)数は減ってると思います。キャバクラとかも多少出てはいるんですけど、むしろ会社員の方ですとか家族の感染、高齢者の施設での感染が多い状況で。」

飲食業関連の1か月の感染者が、7月の494人から、8月は51人に減っていました。

新宿区長 吉住健一さん
「繁華街でお仕事されてるみなさんは、やり玉にあがってしまったこともあって、かなり神経を使ってくださってると感じてます。ある意味、今、感染対策に日本一、力を入れている繁華街はうちなんじゃないか。ただ、その実態を理解してもらえない。地方の人たちはみんな、東京に出張しても新宿には行くなって言い含められて来ますし、会社勤めしてる人とか勤め人は、歌舞伎町で飲むなと徹底されてるんで。一度貼られたレッテルをはがすのは難しい。」

それぞれの“夜の街”

夜9時、パジャマ姿の子どもを連れて歩く女性に出会いました。向かったのは、24時間開いている保育園。子どもを預け、職場に向かいます。

恵子さん(仮名)
「性風俗店です。デリバリーヘルスっていう扱いになります。(売り上げは)6、7、8月とコロナ前に戻ってます。去年の夏より売り上げはいいです。みんな寂しいんじゃないんですか。」

2年前、育児に協力的でなかった夫と離婚。歌舞伎町で稼ぎ、一人で子どもを育てることを決めました。

恵子さん
「歌舞伎町は、頑張ったら結果は出せると思います。ただやらなかったら、ほんとに埋もれちゃうから。人の倍、努力しないと歌舞伎町では生き残れないと思います。歌舞伎町があるから私は生きていられるので。」

自らが働く風俗業界も、世間から批判を受けました。しかし、恵子さんは冷静に受け止めていました。

恵子さん
「誰かが悪者にならなきゃいけないんだったら『歌舞伎町が悪い』でいいんじゃないですか。いじめとかする集団心理ですよね。(新型コロナは)正解がないじゃないですか、わかってないから。正解がないから、個人の判断で動くしかない。一番難しい状況だと思うんですよ。誰も間違ってないと思うんですよ。その人のバックグラウンドによって、守らなきゃいけないものが違う。私は子どもがあるし、病気の親御さんを抱えている人もいるし、パートナーが病気であれば違うし、それぞれの正解でいいと思うんですけど、自分の意にそぐわない人を批判するのだけは良くない。誰も病気になりたくないし、死にたくない、健康でいたい。誰も悪くない。あえて言うなら、新型コロナが日本に来たのが悪い。」

夜間営業の店がひしめく、雑居ビル。個人経営のバーやエステヘアサロンなど、49の店が入居しています。

今、ほとんどのテナントが家賃などの資金繰りに苦しんでいます。ビルオーナーの桜井あき人さんは、一軒一軒、経営者のもとを訪ね、相談に乗ってきました。

飲食店を経営 橘マリーさん
「わがまま言えば、もっと従業員に給料払いたいというのはありますね。お客さまが戻ってきてくれることを願って。まだ大丈夫です。もうちょっと死ぬ気で頑張るんで。」

「私は水商売に救われた人間なので。それまではさまよって、将来のことすごい不安で。起業してから水商売で自分の居場所を見つけたので、そこに関しては筋を通して。それでしか仕事ができない人たちがいると分かってるので続けるしかない、どんなにつらくても。」

人生を懸け、歌舞伎町で生きる人たちが苦しむ姿を目の当たりにしてきた桜井さん。“夜の街”という言葉がもたらした現実をどう乗り越えようとしているのか。

ビルオーナー 桜井あき人さん
「解決策は…こちらが能動的に何か動いたところで無理だと思ってて。悲しいですけど、世の中からいったん忘れてもらう、飽きてもらう。今の“夜の街”歌舞伎町って世間に出てる、テレビに出てる歌舞伎町を飽きてもらうしかない、世の中的に。それでもたどり着く人はたどり着く。そのために我々は準備して、日夜バカみたいなことやって、従来の品がない、あいつら品がないよねっていう歌舞伎町をずっと続けていくしかない。それを受け入れる、たどり着く人をいつでも待ってる。飽きてもらった上で、それでもつらくなった人とか、飲みたいなとか、お金持ったから使いたい、自己顕示でお金使いたい、ちょっとした下心とか、人に言えないような楽しみをしたいという欲が出た時にお越しいただければ。それでも私たちは、歌舞伎町なんて二度と行きたくないという人でも、どんだけバッシングされても、いつでも受け入れます。そういう街ですから。」



(電話)祖母
“元気ね?”

ひゅーがさん
「元気ばい。検査して、俺は陰性やったけん。」

祖母
“良かったね。”

ホストのひゅーがさん。電話しているのは、コロナで会えずにいる、ふるさと熊本の祖母です。

祖母
“仕事はいま、ありよっとね?”

ひゅーがさん
「ああ、ありよるよ。」

祖母
“この頃は歌舞伎町は言わんけんたい(言われないから)。”

ひゅーがさん
「言わんばってん(言われないけど)、ちょこちょこ影響はあるよ、言われてたけんね。」
「ばっちゃん、あんまり気にしすぎてもね、本当。悩むばっかりやけ。」

祖母
“どうしようね、(新型コロナに)かかってから。”

ひゅーがさん
「しょうなかよ、かかったときはかかったときよ。」

「元気にしてたから、よかったっす。さ、きょうも仕事ですよ。」

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